◆真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~
04:仕上げを御覧じろ
関羽、鳳統、呂布、そして華雄。四人は当面、一刀の世話になることを決めた。
彼はそれを歓迎し、力になれることがあれば出来る限り協力する、と、約束を交わす。
そうなると、彼女たちの処遇もどうにかしなければならない。
いろいろと思い悩むことを抱えていたとしても、その身を遊ばせておくわけにはいかない。
悩んではいても、腹は減る。
そして、働かざる者、食うべからず。
というわけで。彼女たちは、一刀と共に酒家で揃って働くことになった。
働き口もそうだが、彼女たちを何処で寝起きさせるのか、という問題がある。
一刀は当面、今自分の寝起きしているところを彼女らに提供し、自分は酒家の中で寝起きしようと考えていた。
自分を拾った恩人でもあり、酒家の主人でもある商人の旦那。彼のところへ、その旨を相談に行ったのだが。
「そんなら、ひと部屋用意してやろう」
という太っ腹なひと言。四人で寝泊りするのに充分な平屋をひとつ、新しく用意してくれた。
恐縮する一刀だったが、商人の旦那はそんな彼を笑い飛ばし。
「代わりに、俺たちが遠出する時にまた護衛と食事を頼む」
お前がいるだけで、食事も身の安全も格段に良くなるからな。あの部屋を使っている間は、こき使わせてもらうことにする。と。
それぐらいでいいのなら喜んで、と、一刀はその好意と温情に心から感謝した。
こうした経緯もあり、現在、彼女たちは宛がわれた平屋から酒家へと通勤する形になっている。
その待遇を見た一刀が、ふと自分の現状と照らし合わせてしまい、少しばかり気落ちしたのはまぁ別の話。
とはいえ。
そんな好待遇を後から納得させられてしまうほど、彼女たちは大いに働いた。
愛紗は給仕係を請け負っている。
武官として鍛え上げられているからだろう、彼女は立つ姿も歩く姿も非常に様になる。
店の中をあちらへこちらへと動き回り、注文を聞き料理を運ぶ。そのひとつひとつが非常に格好良い、とは、一刀の評。
彼が「笑顔を忘れるな」と口を酸っぱくしていっても、どうにも引きつった笑みになりがちなのが悩みの種。
もうひとついえば、一度にこなすことが多くなってくると、気が急くために走り出す。
そのたびに「走るな!」と、彼女が注意されてしまうのは、まぁご愛嬌というべきか。
その分、愛紗が時折浮かべる渾身の笑顔は、見た客を男女問わずリピーターにさせる力を秘めていた。恐るべし関雲長。
ちなみに給仕に立つ面々は、それぞれに異なる給仕服(ウエイトレスなユニフォーム)を身に着けている。
集客を狙ってというのはもちろんだが、ひとえに一刀の趣味からなるものだったりする。
しかしこれが導入してみると大反響。その姿をひと目見ようと、客足が増える増える。
賑わう店内とあわただしく働く彼女たちを見て、一刀は満足げな商人の旦那とがっしり腕を組む。
煩悩とは偉大であるなぁ、と、しみじみ思ったのだった。
さて、愛紗の給仕服(ウエイトレスなユニフォーム)姿なのだが。
濃紺を基調としたロングスカート。
白いブラウスに、濃紺のベストを身に着け、首元には黒のリボンタイ。
腰から下正面を覆う白いエプロンが、服の濃淡にメリハリをつけている。
そして足元は、黒い靴とストッキング。
全体的にシックな装いになっている。
そんな服装を、一刀は、愛紗を仕立て屋に強引に連れ出しオーダーメイド。
出来上がりを見て満足し、彼女が身体を捻った際に膨らみ流れたスカート、そして美しい黒髪との組み合わせを見て更に満足を深めた。
素晴らしい、と思わずサムズアップである。
ちなみにサイズを計ったりなんなりといった作業は、仕立て屋のお姉さんがやっている。問題ない。
雛里も給仕係だ。軍師ということで計算なんかもいけるだろう、という安易な発想から会計の一部も任されている。
とはいえ、店内での給仕係が主な仕事になるのだが。これまた愛紗とはまた違った意味で、非常に絵になる。
愛くるしい、というのがしっくりくるだろうか。
小さい身体があちらこちらにヒョコヒョコ動き回るさまは、見ていて非常に和む。
はじめこそ、注文聞きひとつするにも涙目状態だった彼女。
もともと人見知りをする性格なのだが、そんな彼女に、一刀はひとつ意識改革を行った。
曰く。
軍師にとって、自分の言葉を他人に正確に伝えることは必須。
また他人の言葉をしっかりと聞き取らないことには、軍師は策を立てることなど出来ないだろう。
雛里は軍師として、兵に意志を伝え言葉を聞き取ることは出来る。
ならば、客に注文を聞き厨房に伝達する程度のことが出来ないわけがない。
つまり、状況は違っていてもやっていることは大して変わらん、ということを示唆してみたのだ。
なにか思うところがあったのか、それからの雛里はそれほど物怖じせずに、給仕や注文受けをすることが出来ている。
時折忙しさのあまりパニックに陥ったりすると、「ご主人しゃま~~~」などと涙声で厨房に駆け寄ることもあったりする。
いわゆるご主人様と一刀が混合してしまったり、雛里のその台詞を聞いた一部の客の目が怖くなったりすることも、まぁご愛嬌ということで。
そんな駆け寄る姿も非常に愛らしいので問題なし、と、一刀は判断した。
雛里の給仕服(ウエイトレスなユニフォーム)姿は、以下の通り。
明るい青のスカート、白いブラウス。青いリボンタイ。
白地に同じ青の格子を施したエプロンは、腰から胸の下までを覆い、肩紐が背中に回り交差した形で身体を引き締める。
必然、胸の上下左右を青色に囲まれ強調したような形となるが。
だが例え胸がなくとも、そこに生まれるなだらかなラインは目にして美しいものだ。一刀は大いに満足した。
平たくいえば。
彼は雛里に給仕を手伝って貰うと考えた際に、"神戸屋○ッチン"のイメージが降りてきたのだ。
そこから派生して、愛紗たちにも服を新調しよう、という流れになった次第。
もちろん彼女も、仕立て屋に連行され、店のお姉さんにアレコレ計られたりしている。
終始「あわわあわわ」と取り乱していたのは想像に難くない。
恋もまた給仕係。をして貰おうと彼は考えていたのだが。
彼女が初めて酒家の手伝いに立った日、店の中で喧嘩が始まった。
止めようと一刀が動くより前に、恋がその喧嘩の間に立ち、男ふたりを問答無用で組み伏してしまった。
とんでもない、圧倒的な速さと力。さすがは天下無双の飛将軍と呼ばれるだけある。一刀は素直に驚嘆した。
そんな当の本人、恋は、取り押さえた輩を横目に、床に飛び散ってしまった料理を料理を集める。
「喧嘩、よくない。ご飯がおいしくなくなる」
そうつぶやいて、料理を集めた皿を彼らの前に置いた。
いたたまれなくなった男ふたりは、代金を置いてそのまま逃げ帰る。
残された恋の元に一刀は駆け寄り、ひとしきり彼女の頭を撫でた後、店内のお客に謝罪をしたのだが。
店内は拍手に包まれた。
その後は、店内のあちこちに恋は引き入れられ、あれこれとご馳走をされていた。
恋、大人気。
大立ち回りを見て気に入って、更に彼女の食べっぷりにほんのり癒されるというダブルコンボを喰らった客たちは、大いに気分を良くして帰っていった。
それからというもの、恋は店に来たお客さんに対しマスコットのような立ち位置を得ることに。
常連客からの誘いがあればテーブルを巡りご馳走され、時に厨房の中を覗き込み一刀の仕事振りを観察し、料理を運んでみたかと思うとその席でなにやらご馳走になっていたりする。
また時には店の前に立つ木の陰で昼寝をしてみたり、その周囲にいつの間にか犬猫など動物たちが集まってきたり、それがまた評判になって新しいお客が集まってきたりと。まさにフリーダム。
恋の存在は、知らない間に広告塔のようなものになっていた。あとは用心棒みたいなもの。
彼女にも給仕服を着せてみたかった一刀だったが、今の状態なら別に良いか、とも考えていた。
どんな服を着せれば似合うか、というイメージがうまく浮かばなかったというものあるのだが。
一刀にとって、店に対する一番の戦力と認識したのは、華雄である。
彼女は、彼と一緒に厨房に立っている。その腕前は感嘆に値するものだった。
いや、戦力などという簡単なものではない。師匠といってしまってもいいだろう。
かつて華雄は諸地方を放浪していた時期があり、必要に駆られ料理の腕前を上げざるを得ない状況だったという。
「だからといって、質素で野性的な食事ばかりだったわけではないぞ」
もちろん、野宿などした場合は自分から狩りに出向き、食料を調達して調理し、食べていた。
その一方で、町や村などに世話になった場合は、調理場を拝借しそれなりの料理を作り上げ、借りた家の面々にも振舞ったりしていたらしい。その評判は概ね良好だったという。
ちなみにもといた世界で、彼女は放浪の末に三国同盟を知り、呂布(恋)を頼って蜀の面々と合流したらしい。苦労人なんだね。
そのせいか、"北郷一刀"とは主従の関係ではあっても、それ以上の感情は特になかったらしい。
この世界の北郷一刀と会っても冷静でいられたのは、そんな理由もあったのだろう。
それはさておき。
華雄は、様々な地方の、様々な食材の調理方法に長けている。
そのオールマイティさに惹かれた一刀は、料理に関する会話を彼女と重ねた。
これまで一刀は、いわゆる"天の世界"の料理をこの世界で再現し、酒家に出す品目に数多く付け加えていた。
しかし、それにも限界はある。彼自身が持っている知識もそうだが、なによりこの世界で可能な料理法というものに幅がなかった。
そこに、華雄が現れる。
一刀が持つ"天の世界"の料理のイメージ。そしてそれを形にする足がかりとなり得る、華雄の技術。
彼は興奮した。興奮するなという方が無理だ。
一刀は自分の持つ知識を総動員し、作ることが可能かを華雄に問う。
その熱意に応えるように、自分の知る料理の技術を指南する華雄。
そんな精進の日々が、一刀に足りなかった技術の幅を厚くしていき、同様に、華雄は持ち得なかった知識を吸収することによって腕を振るう幅を拡げていった。
毎日のように行われる、実技を交えたディスカッション。さながら腕と言葉と食材が飛び交う戦場のごとく。
もともと持つ才というものもあるのだろうが、幸い試食係には事欠かないこともあり、ふたりの料理の実力は短期間のうちにメキメキ上がっていった。
今日も今日とて、一刀と華雄の料理講座。
出す皿出す皿に、一刀と華雄は自分なりの工夫と課題を乗せていく。それらひとつひとつを、彼女らは平らげていく。
満足げにひたすら食べ続ける恋。
出される料理の多彩さに目を回す雛里。
そして、厨房という名の戦場に立つ一刀に目を見張る愛紗。
そう、まさに戦場だと、愛紗の目には映った。
彼女が戦場だと思い至った理由は、彼の求めるものが自分のものと重なるのではないかと思い至ったからだ。
料理という場で、怒号が飛び交うのを初めて見たというのもある。
それだけ、料理というものに本気なのだ、ともいえるだろう。
食べてくれた人が優しい気持ちになって欲しい。彼は料理を作りながらそう願っている。
見知らぬ誰かを笑顔にする。
そう考えると、自分が武を振るった理由となんら変わらないのではないか。そう思えたのだ。
かつていた世界の“北郷一刀”と、今此処にいる北郷一刀とでは、生き方がまったく違う。
しかし、こちらの一刀も、彼なりに本気で生きているということはよく理解出来た。
そして恋がいった通り、自分の主でなかったとしても、一刀は一刀なのだろうとも。
愛紗は、彼が作る料理を通じて、彼と自分たちの間にあった垣根のようなものが、少しずつ低くなっていることも感じていた。
ちなみに、一刀に真名を許したのは恋だけである。
彼もそれなりの期間をこの世界で過ごしている。真名というものの重要性は理解していた。
恋はすっかり懐いてくれたとはいえ、これは例外ではないのかと彼は思う。
いくら世話になっているからといって、そう簡単にあずけるものではないということは分かっている。
華雄はもともと真名を持たないらしいが、厨房でのやり取りから察するに、悪くは思われていないという感触を一刀は感じていた。
一方で愛紗と雛里は、うまく言葉にできないわだかまりが胸の内にあった。
「いえ、北郷さんを信用していないとか、そういうわけではないのですが……」
雛里などは、見ている側が恐縮してしまうほどに、申し訳なさそうな顔をする。
そんな彼女を見て、気にするな、と、一刀は頭を撫でてやったり。
なんとなくそうしたかった、というだけだったが。
彼女は嬉しそうな、そしてどこか複雑な気持ちを抱えたような、微妙に色の違う笑みを交互に浮かべた。
とはいっても、パニックを起こすと「ご主人様」などと口にしてしまうのだ。
彼女を初めとして、皆から本気で嫌われているわけではないと考えることにする。
打ち解けるられるまで、気長に待とう。
そう思い、今日も包丁を振るう一刀だった。
・あとがき
シリアスチックなノリに、気持ちを戻すのが大変でした。(シリアス?)
槇村です。御機嫌如何。
あれ? 趙雲も公孫瓚も出てこなかったな。
いや、出す気は満々だったのですが。そこまで行く前に切り良くなっちゃったのでぶった切った。まて次号。
もうひとつ、『愛雛恋華伝』のスピンアウト作品(スピンアウト?)を勢いだけで投稿してしまいました。
『ラヴひなコイバナ伝』ご覧いただけたでしょうか。よろしければそちらも読んでみていただけると嬉しいです。
『愛雛恋華伝』は一応、反董卓連合くらいまではアウトラインが出来ているので。
間が開き過ぎない程度に書き進めようとは思っております。
毎日更新とかは出来ませんが、よろしければお付き合いください。
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槇村です。御機嫌如何。
これは『真・恋姫無双』の二次創作小説(SS)です。
『萌将伝』に関連する4人をフィーチャーした話を思いついたので書いてみた。
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