No.150878

真・恋姫†無双‐天遣伝‐(6)

さてと、人を討つ。
その行為が、こうも・・・?

そんな感じです。
文才無くてすいません。

2010-06-15 21:10:06 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:12478   閲覧ユーザー数:8895

 

・Caution!!・

 

この作品は、真・恋姫†無双の二次創作小説です。

 

オリジナルキャラにオリジナル設定が大量に出てくる上、ネタやパロディも多分に含む予定です。

 

また、投稿者本人が余り恋姫をやりこんでいない事もあり、原作崩壊や、キャラ崩壊を引き起こしている可能性があります。

 

ですので、そういった事が許容できない方々は、大変申し訳ございませんが、ブラウザのバックボタンを押して戻って下さい。

 

それでは、初めます。

 

 

 

 

真・恋姫†無双

-天遣伝-

第五話「覚醒」

 

 

 

西涼軍が戦線に参入し、戦場は混沌の度合いを極めた。

斬られ、衝かれ、撃たれ、穿たれて、屍は着々と増えて行く。

 

その中で、北郷一刀は戦場の中枢へと踏み込んでいた。

 

他の西涼の将達と離れ離れになり、しかし未だに暁を鞘から抜き放ちもせず、唯捜していた。

賊にとって将たる存在を。

 

西涼の武将達は、董卓軍の陣に攻め込んでいた賊の集団を見、一目で理解していた。

賊が組織立った行動を起こしている事に。

賊達がこの地獄に恐怖を抱いていない理由は解らないが、とにかくこの群れを統率している者を斃せば、瓦解する。

一刀に限らず、この戦場で戦う将達はそう確信していた。

 

 

「(どこだ・・・どこにいる!?)」

 

 

白澤を走らせながら、一刀は必死に将を捜す。

 

 

 

―――そんな一刀を眺めながら、近くの高台の上で一冊の本を広げる男がいた。

しかも、その本は淡い光を放っている。

だが、その光は今にも消えそうになっている。

手を本に置き、一つ二つ呟いたかと思えば、虚ろな顔をした雑兵達が一刀を囲んだ。

 

 

「ちっ、やっぱり俺程度じゃ使いこなせないか。

もっと人を惹き付けられる人間じゃないと」

 

 

男は苛立たし気に舌打ちを漏らしていた。

 

 

 

一刀が気付いた時、周りを長大な槍を構える雑兵に囲まれていた。

 

一刀はほんの一瞬だけ躊躇するが、すぐに暁を鞘から抜く。

そして、白澤を走らせ、兵達に向かっていく。

 

槍が突き出される。

一刀はその槍を迷わず斬り払い、振り上げてから、敵兵の脳天目掛けて一息に振り抜いた。

 

暁の刃が頭蓋を両断し、正中線を真っ直ぐ降り、股下まで両断した。

血を断面から噴き出して倒れていく敵兵を見て、一刀の全身を言い様の無い不快感が包むが、何故かこの世界に来て初めて五胡兵達を傷付けた時よりも、罪悪感が少なかった。

 

そんな自身の異常に少し、本当に少しだけ戸惑うが、震えていない右手でしっかと暁を握り締めて白澤から飛び降り、他の敵兵へと走り出した。

 

暁の柄を両手で掴み、大上段から強力な震脚と共に振り下ろす。

槍を横に構えて防御の体勢を取っていた敵兵を槍毎両断。

そのまま横に連続で跳び、そこにいた敵兵を逆胴で薙ぎ払う。

更に咽を衝き、首を斬り落とし、縦に横に両断し、一刀は己の内の感情を吐き出す。

 

 

―――死ね、死んでしまえ、罪も無い人を殺した咎をお前達は死んで償え。

あそこに住んでいた人達だって、死ぬほど生きていたかった筈だと言うのに。

代わりにお前達みたいな人でなしが生き続けるなんて、許さない―――!!

 

 

力の限り暁を振るい、次々と賊を斬り倒していく一刀。

その様は、完全に怒りに支配されていた。

 

 

 

―――そうして100人も倒した頃だろうか。

一刀は、血の海の中一人立ち尽くした。

血に濡れたその姿は、まるで寄る者全てを殺し尽くす修羅。

恐れを抱かずにはいられまい。

だが、そこにいるのは、何らかの方法で死の恐怖が欠如している死兵達だ。

怯む様子も無く、一刀を串刺しにせんと向かって来る。

 

対する一刀は、既に疲労がかなり溜まっていた。

既に暁を掴む右手はだらりと下がっており、眼は虚ろ。

脳の中枢すらも薄らと靄がかかっている。

解っているのは、周りを敵に囲まれていると言う状況のみ。

 

だがそんな状況でも、一刀は半ば以上反射的に襲い掛かってきた敵をすれ違いざまに斬り捨てた。

それを、高台から眺めていた男は驚愕した。

 

 

「(ちょっと待て、今、『何時斬った』!?)」

 

 

まるで見えなかった、否理解出来なかった。

男の目にも、今の賊の攻撃は中った筈だ。

そして、一刀は今頃血に染まって大地に倒れている筈だった。

 

間違い無く一刀は息も荒く、疲労困憊と言っていい状態だ。

だが、どうだろう。

次から次へと襲い来る敵兵は、ばったばったと斬り倒されていっている。

傍から見ると、一刀に近付いた瞬間に血を噴き出して、勝手に倒れて逝っているようにしか見えない。

無駄が一切無いのだ。

最低でも『人を斬殺する』という一点に置いて。

片手で振るっているにも関わらず、暁は骨さえも易々と断ち切り。

棒立ちにしか見えない立ち姿は、実際には適度に脱力していて、一瞬でその動きの全てを停止から全速力へと加速させる事を可能としていた。

 

男は、知らず知らずの内に恐怖で身体を震わせ、そして見惚れた。

人を斬る為だけに立っているあの姿。

それの何と美しい事か。

棒立ちの筈の立ち姿、それこそが構えであり、姿勢なのだ。

無拍子、無呼吸、無殺気。

斬られた側は、斬られたと言う事実を認識すらしていまい。

当然だ、全くの意識の外から飛んで来る斬撃は、討たれた側からしてみれば「存在しない」のと同義だ。

それに斬られた所で、事実として認識するまでに絶命すれば、それすらも解らない。

 

もっと見たい。

ゾクゾクと背筋が震えるのを感じ、男はもっと賊を一刀の元へと向かわせる。

そして、その一方で巨体の馬に跨り一直線に一刀を目指す碧と翠を足止めするように、賊を配置した。

 

その所為だろうか。

男は、本から光が消えてしまったのを、数瞬の間見逃してしまったのだ。

 

戦場が、一変した。

 

 

 

 

 

 

「・・・・?」

 

 

己の君主たる董卓の天幕を死守し、恐らく個人では誰よりも多くの敵兵を薙倒していた恋は首を傾げた。

 

さっきまでの、やり辛い雰囲気がかき消えたからだ。

途端に湧き起こるスタンピード。

無限にいるかのように錯覚していた賊が騒ぎ出している。

 

自分の周りにいる奴等も、さっきまでの死を恐れない兵だとは思えない程うろたえ、我先にと逃げ出し始めた。

 

逃げていく賊を包囲殲滅し、取り逃がした連中を追撃する。

少しずつ敵の数は減っていっているが、やはり恋は首を傾げた。

余りにも不自然過ぎる。

押し殺していた訳では無く、たった今死の恐怖を感じたとしか思えないのだ。

 

しかし、軍全体に指示を出していた賈駆の「追撃」の命に従い、己も駆ける。

 

飛将軍の武が余す事無く揮われ、その嵐の様な連撃は次々と敵兵を屠っていく。

降伏する賊は捨て置き、捕縛は後からついて来る真理達に任せ、自身は只管に敵を殺し尽くす。

 

その途中、恋はおかしな者を目にした。

 

血の海の真ん中で佇む男が一人。

その周りには折り重なって斬り殺され、倒れた賊が見えた。

しかし、その男は動こうとしない。

ただ呆然と突っ立っているだけだ。

 

恋は本能的に追撃を止め、其方を注視する。

そして、男が焦点の合っていない目で恋を見た。

 

目と目が逢った瞬間、恋は総毛立った。

あれは危険だと、自身の感覚全てが告げている。

恋は全力を出す為の構えを取った。

 

だが、恋が襲い掛かる前に、男の目の焦点が合う。

それと同時に、恋は首を傾げざるを得なかった。

 

先程感じた「強さ」が完全に霧散している。

 

男の右手から、数多の敵を斬ったにも拘らず、白刃の煌めきを保ったままの刀が滑り落ちる。

そしてそれとほぼ同時に、男自身も膝から崩れ落ちた。

 

恋は男に近付いて行く。

普通ならば、絶対にしない行為だろう。

しかし、恋は天下無双の飛将軍。

何かあったとしても、対応出来るという自負があった。

 

近寄って見て気付く。

数多の掠り傷を負ってはいるが、致命傷、もしくはそれに準ずる傷は一切負っていない。

恋は倒れている男の顔を覗き込む。

その顔は端正なもので、男の心根が生来優しく綺麗なものだという事を、恋は野性の勘で理解した。

 

 

「(・・・綺麗)」

 

 

純粋な恋をして、そう思わせた。

だが、今のこの男は気配がどこか変、そうとも感じた。

 

突如殺気を感じ、飛び退く。

そして、己の武器である方天画戟を構える。

 

そこにいたのは、麗しい巨体を持つ白馬。

恋が良く見れば、涙を流しているのが解った。

男と恋の間を塞ぐ様に立つその姿に、恋は悟った。

この白馬は、そこに倒れている男が本当に好きなのだと。

恋と自身の力の差を理解しているにも拘らず、そうするだけの想いをこの男に抱いているのだと。

 

それを感じた恋は、方天画戟をその場に突き刺し、丸腰になって男の方へ向かう。

白馬は息荒く恋を威嚇するが。

 

 

「・・・大丈夫」

 

『ブルル・・・・・・! ”スッ”』

 

 

唯一言だけ。

ほんのそれだけだったが、白馬は恋に道を譲った。

互いに理解したのだ、この男に何かする等有り得ない、と。

 

一騎当千万夫不当の飛将軍呂布と、『天の御遣い』北郷一刀の出会いは、こうしてなされたのであった。

 

 

 

 

 

 

追って来る。

闇が。

死が。

 

 

――何故殺した?

 

「あいつ等は、何の罪も無い人達を殺した!」

 

 

一刀は、真暗闇の中で、未知の何かに向けて叫んだ。

 

 

――あの賊の者達にも言い分はあったんじゃないのか?

そして、あの村の者達は本当に罪無き人々だったのか?

 

「そ、それは・・・」

 

――そして、お前は自分の善にそぐわぬ総てを殺す、見ろ。

 

 

暗闇が一変する。

そこは、一刀が初めて人を斬ったあの戦場だった。

一刀は血溜まりの中に立っていた。

 

 

「ここは・・・」

 

――お前は正しい事をしたと、胸を張って言えるか?

 

「・・・そうだ、俺の大切な人達に害を及ぼす奴等を斬ったんだ」

 

――言い訳だな。

 

「そうかもしれない、けど俺は!

この世界で出来た大切な人達を護りたい!!

その為なら、俺の手なんか幾らでも汚してやる!!」

 

――ならば、お前の周りに倒れている者達を見て見るがいい。

 

 

言われ、一刀は周りを見渡す。

そこに倒れていたのは・・・

 

碧、翠、葵、朔夜、休、鉄、蒲公英・・・一刀が、この世界で共に生きていこうと誓った面々。

それが皆、血に濡れて大地に倒れ伏している。

 

 

「あ・・・あああああああああ」

 

――お前は彼女達を護れてなどいない。

  貴様の手を汚した血は、賊では無く、彼女達の血だ。

 

「う、嘘だ・・・・・・」

 

――嘘ではない、これが現実、そして真実となるのだ。

 

「嘘だそんな事――――――――――――!!!!!!」

 

 

絶叫。

心からの悲鳴。

頭を抱え、大地に突っ伏し、滂沱の涙を流す。

 

一刀は心が壊れていくのを感じていた。

しかし、それを拒むだけの気力さえも、最早残ってはいなかった。

世界に罅が入っていく。

ガラガラと全てが崩れ落ちていき、今度は全てが真っ白い虚無に塗り潰される。

 

もう楽になってしまおうと、彼女達を討ってしまった自分にはこの世で生きていく資格を無くしてしまったと、絶望して目を閉じてしまおうとした時だった。

一刀は、自分の手が誰かに掴まれているかのように温かいと気付いた。

 

 

「あ・・・」

 

 

一刀は思い出していた。

この温かさは覚えている。

 

 

『おし、そんじゃ一刀、ようこそ涼州へ。

あたし等は、『天の御遣い』を歓迎するよ』

 

 

あの時だ、あの初めて碧と握手した時の温もり。

その温もりが、自分を引っ張っている。

この虚無から引き摺り出そうとしてくれているように感じた。

 

涙が、零れた。

まだだ、まだ死ねない。

彼女達は生きている!!

ならば俺は戻らなきゃいけない!!

 

自分から、温もりを握り締める。

光が、溢れた。

 

 

 

 

 

 

天水城の一室、そこに碧と一刀はいた。

一刀が戦場で倒れ、董卓の厚意で天水に運び込まれてから既に3日が経っていた。

その間、碧は片時も一刀の傍を離れようとはしなかった。

 

本来、軍団長でもある碧がこんな事をするのは許される筈がない。

しかし翠が碧の為に、一時的に軍団の総指揮を買って出たのだ。

 

何故ならば、翠は知ってしまったからだ。

碧が誰よりも、自分以上に一刀の事を大切に想い、その身を案じていた事を。

それを、西涼の大将である為に、理性で必死に抑え付けていただけだった事を知った。

だから、身を引いた。

とても敵わないと、思い知ってしまったが故に。

 

碧は一刀の異常を何一つ見逃すまいと、全身全霊を掛けて注意深く診ていた。

医者は、一刀の身体に異常は無いと言っていたが、碧には信じられなかった。

理由は無い。

敢えて言うのならば、女の勘だった。

ここで何もしないのであれば、一刀を失うかもしれないという予感があった。

 

そして今、その危惧は現実になろうとしている。

一刀はただ眠っているようにしか見えないのに、顔色が段々と蒼白になっていっていた。

かつて愛した男が永遠の眠りに就いた時を思い出し、思わず手を取った碧は驚愕した。

 

恐ろしく冷たいのだ。

いや、まだ間に合う。

そう信じ、必死に手を握る。

 

祈るのはただ、死ぬな、の一念のみ。

握った手に温もりが戻って来る。

顔色も戻っていく。

そして。

 

 

「・・・おはよう、碧さん」

 

「ッ! 遅いよ、何時まで寝てんだい、このお寝坊小僧が!!

もう、あれから3日も経ってるってのにさ!!」

 

 

目を開けて弱々しい笑顔を浮かべる一刀から目を逸らしつつ、声を荒げた。

だが、その林檎の様に染まった頬と、目尻に光る水滴は横顔からでも十分見えていた。

 

 

“ガタンッ! ドタドタッ!!”

 

 

その様な音がして、二人がそっちを見てみれば。

 

 

「お兄様―――!!!」

 

「兄貴―――!!!」

 

「あ、二人共自重しなさい!?」

 

 

叫びながら、一刀にダイブして来る蒲公英と鉄。

それを止めながらも、自身ソワソワしている葵。

 

 

「グフッ! つい今まで寝てた人間にこの仕打ち・・・もしかして怒ってる?」

 

「えー、そんな事無いよ、ね~?」

 

「なぁ?」

 

「プッ、アッハッハッハッハッハ!!」

 

 

その光景を見ながら、大声で笑い始める碧。

困った様にオロオロする葵。

一刀の心は、未だ人を斬った事で傷付いていたが、今癒されているのを感じていた。

 

 

「(きっとこれからも、殺人には慣れないだろう。

けど、皆がいてくれれば進んで行ける。

だから、俺はこの人達との今を護っていこう)

碧さん、俺を連れ戻してくれてありがとうございました」

 

「お、おう、気にすんな」

 

 

またしても顔を赤くして、頬を人差し指で掻きながら、返答する。

一刀はその様を、とても愛おしいと感じた。

 

因みに。

 

 

「!? 何だ? あたしだけ除け者にされてる感じが・・・」

 

「馬超将軍? どうかしましたか?」

 

「あ、いや、何でもない!」

 

 

翠は、碧の代わりに総指揮を取っていた所為で、一人出遅れたのであった。

いと憐れ。

 

 

 

 

 

 

一刀が目を覚ました。

その事実一つで、西涼軍の面々はホッと胸を撫で下ろしていた。

これで西涼に帰還出来ると、皆揃って喜んだ。

 

寝床から起きた一刀は、着替え終わって廊下を歩いている途中で、天水に留まらせて貰っている現状を聞いた。

そして、今は西涼への帰還の意を告げる為に、董卓の元へ向かっている途中。

 

一刀は、董卓のいる玉座の間に入る瞬間、身を固くした。

仕方の無い事だろう。

何せ、これから会うのは、後世で稀代の暴君として名を馳せた、あの董卓なのだから。

 

ギィと音を立てて、玉座の間に繋がる戸が開け放たれ、董卓の姿を見るべく玉座を見て、そのまま硬直した。

 

 

「初めまして、天の御遣い様。

私は董卓、字は仲穎と申します。

どうか、お見知り置きを」

 

 

玉座に座っていた可憐で儚げな美少女が、一刀に董卓の名を名乗り一礼をすれば、当然である。

 

 

「ちょっと月!? こんな胡散臭い男にいきなり名乗るなんて! 先に名乗らせるべきでしょう!?」

 

「でも、詠ちゃん。

御遣い様ならこっちから名乗らないと失礼だよ・・・」

 

「月~~~~~」

 

 

少女が突然董卓を名乗ったかと思えば、少女の傍らに控えていた三つ編み眼鏡の女の子といきなり話を始める。

一刀は、当初の衝撃から立て続けに起こる数々の衝撃的な超展開に、脳がKOされかかっていた。

かろうじて意識を保っていられたのは、「ここは、自分の知っている歴史とは関係ない」と自身に脳内で強く言い聞かせているからに他ならなかった。

 

 

「御遣い様・・・?」

 

「ハッ!?」

 

 

不安げに首を傾げる董卓に、一刀の脳が先程とは全く異なる衝撃でKOされかかる。

突如脇から膨れ上がった殺気を感じ、引き締め直したのだが。

 

 

「あの、私、何か粗相をしてしまったでしょうか・・・?」

 

「あ、ああいや、君が余りにも綺麗だったから、見惚れてしまって・・・」

 

 

咄嗟に出てきた言い訳を言って、一刀は同時に「しまった!!」と内心叫んだ。

董卓を見れば、「へぅ・・・」と可愛い呟きを漏らして顔を真っ赤にしてしまっており、さっきの眼鏡の女の子はギリギリと歯軋りを立てて一刀を睨んでいる。

 

そして、それ以上に大きな問題は。

振り返りながら此方を見る碧の目が、まるで笑っていない事だった。

背筋が凍りそうな錯覚を覚える一刀は、今心臓麻痺で死ぬかもしれないとさえ思えた。

 

周りは助け船を出さない。

鉄と蒲公英はとばっちりを恐れて、一刀達の方を見ようともしない。

葵は何を誤解したのか、顔を赤くして背けている。

董卓配下の武将達も。

呂布はただ首を傾げ。

張遼はニヤニヤ笑いを崩さず。

姜維は何処かへ心が旅立っており。

高順は普通に慌てていた。

 

 

「何という混沌」

 

 

一刀がボソリと呟いたのと、碧の鉄拳が一刀の顔面にめり込んだのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

「うう、まだヒリヒリする」

 

「大丈夫?」

 

「ありがとう葵、今はその心遣いが何より嬉しい。

・・・・・・泣いていい?」

 

「が、我慢して下さい。

後、頭を撫でるのは・・・」

 

「あ、すまん」

 

「あ・・・」

 

 

名残惜しそうな葵の様子に気付かず、手を引く一刀。

 

夕刻になって、一刀は碧に殴られた場所の治療を葵にして貰っていた。

幸い鼻の骨は折れていなかったらしく、治療もそれ程難しい物では無い様だ。

 

あの後、意識を断たれたものの直に戻ってきた一刀は、董卓を始めとする董卓軍の面々の殆どの真名を預かっていた。

例外は華雄位だろうか。

 

周りでは、明日には帰ってしまう西涼軍の人達を送り出す意味を持つ宴が開かれていた。

 

一刀達が其方を見れば、本当に楽しそうに飲み、騒いでいる皆。

その様子を見ていると、心が穏やかに凪いでいくのが解る。

この光景の為ならば、命を懸ける理由には十分であると、一刀は思った。

 

そこで、葵が一刀の手を取る。

其方を見ると、涙を流す葵と目が合った。

 

 

「一刀、聞いて欲しい事があります」

 

 

真剣に、それでいて有無を言わせない強い意志を籠めて。

一刀も、息を呑んで一度だけ首肯した。

 

 

「私達は一刀が倒れたと聞いて、居ても立ってもいられませんでした。

貴方は既に、私達にとって『天の御遣い』で有る無しに関わらず、傍にいて欲しい存在になっています」

 

「・・・」

 

 

静かに。

周りの喧騒が嘘の様に、此処だけ静謐な空間と化していた。

 

 

「だから、もう無理はしないで下さい。

貴方が人を討ちたくないと言うならば、代わりに私が討ちましょう。

私達は、貴方が、いなくなってしまう事が、何よりも・・・怖いんです」

 

「・・・葵・・・・・・」

 

 

最後の方は、ヒックヒックと嗚咽を漏らしながら語る葵。

一刀は漸く、自分がどれ程皆から想われていたのかを知った。

 

堪らなくなり、一刀は葵を抱き寄せた。

腕の中の葵がワタワタと慌てるが、気にせず抱き締める。

一刀のそれ(抱擁)は主に感謝の念から来るものであった。

が、一方の葵は、頭の中で連鎖爆発を繰り返し続ける多幸感で気を失うのを必死に押し留めている状態であったりする。

そのまま、一刀はポツリポツリと語る。

 

 

「ありがとう、そう言ってくれる事は素直に嬉しい。

けど、それじゃ駄目なんだ。

俺は護られるだけじゃ、駄目だって思ったんだ。

この世界に来て、最初は戸惑ったし、人を傷付けてしまった事も怖かった。

だけど皆に会えて、他の何でも無い俺を仲間と認めて受け入れてくれた人達に恩返しをしようと思って。

今日また、俺は皆に助けられた。

この恩も返せない様じゃ、俺はきっと俺自身を許せない。

だから、俺を皆の役に立たせて欲しいんだ」

 

「ずるいです、こんな事されながら言われたら、駄目だ、って言えないじゃないですか」

 

「・・・ごめん」

 

「いいえ、良いんです。

それに、これで翠や碧様よりも一歩先に出られたかも、ですし」

 

「?」

 

 

そう言って、一刀の腕の中から摺り抜ける葵。

その表情は、とても晴れやかで優しいもの。

一刀は思わず見惚れた。

 

想われていた事を知った一刀。

しかし、その『想い』の種類を理解してはいなかった。

女心には何処までも疎い一刀であった。

 

 

 

 

第五話:了

 

 

 

 

 

 

後書きの様なもの

 

またしても、超・展・開&gdgd展開Death。

 

くそう、文才の無い自分が恨めしい。

誰か! オラにほんのちょっとの文章構成力を分けてくれ!!

 

・・・と、バカを言った処でレス返しです。

 

 

2828様:Yesです、鉄のMレヴェルは大陸でも最上位に属しております。

    後、真理と白蓮は互いに似た匂いを感じる事でしょう。

 

水上桜花様:さて、どうでしょう?

 

mighty様:そう言って貰えると、作者冥利に尽きます!!

 

 

では、今回はこの位で。

そろそろ、黄巾の乱が始まる・・・一番書きたい場所はまだまだ先です・・・・・・

ではまた。 

 

 


 
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