No.145292

恋姫無双 ~天帝の花~ 9話

夜星さん

お待たせいたしました。
今回はとても長くなりましたが、黄巾の乱は終了です。
ぐだぐだですが、読んでくださると幸いです。

2010-05-24 19:20:38 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:3537   閲覧ユーザー数:2755

 

 黒天を切り裂き白き流星と共に現れる天の御使い。

 その者は、太平乱れる世を平穏へと誘う道しるべである。

 管輅―星詠みの占い師の言葉である。

 その言葉の下に、どれほどの者が歓喜し希望を抱いたであろう。

 平穏―争いもなく穏やかに生活をすること。

 それが、天の下で生きる民の願いであった。

 

 世は大乱の兆しあり。

 その言葉の通り、朝廷は権力を失い黄布党となる賊の出没。

 諸侯も腐り、それぞれの欲望のために民を苦しめ、もはや世は乱れていた。

 だから民は願った。

 戯言もいえる、天の御使いの存在に。

 そして、願いは叶い、極東の地に現れたのである。

 白光を纏わせ太平を照らすであろう、衣服を身に包み、現王である孫策の下に。

 

 

 街はいつも以上に賑やかだった。

 人々は、それぞれに口を揃えていう。

 あの坊主が帰ってきたみたいだぜ、坊ちゃんが?!

 と、心の底から喜ぶような声色だった。

 その坊主とは、現在、前王の孫堅との謁見の間にいた。

 

「久しいわね、栄花。元気そうでなによりよ」

「はっ、母上もご体調のほうもお変わりなく安心しました」

 孫堅―桜色の透き通るような繊細の髪は、腰当たりまで伸び、背は栄花と同様ぐらいの長身をしていて、

街を歩けば、誰もが目を惹かれる人物だ。

 それほどまでに、彼女は美しかった。

「ふふ、積もる話もあるでしょうけど後にしましょう」

 すっ、と文官達に目配せをし退室させ、この場には呉における主要人物だけが残された。

 

「全くあなたの母様をこんなに、放っておくなんてどうかしているんじゃないの?」

「母上、もう少し我慢してください」

 文官達が目の前からいなくなった瞬間に、子供のような甘ったるい声が響いた。

 その声が違和感ないのだから全く不思議な事である。

「えぇ~、めんどう」

 単純で分かりやすい解答だった。

「それで、この十年間はどうだった?」

「そう漠然にきかれましても・・・・・・色々と得られましたよ」

 栄花も普段のような、温和な声色に戻った。

「もっと具体的に」

「心が奮えました」

 その言葉の意味は、二人にしかわからないことであろう。

「ふ~ん、心がねぇ~」

 少しの間、考えるような素振りをし

「まぁ、いいわ。今夜の酒のつまみとして聞きましょう」

 思考を放棄した。

「今夜を楽しみにしています」

「そんなことをいってもいいのかな~? 食べちゃうぞ?」

「喜んで」

「えっ?! これってもしかして・・・・・・どうしようぉ~雪蓮。我が子を誘惑してしまったわ」

 まるで恋する乙女・・・・・・のようなものだった。

「母様、いい加減にしてください。みんながついていけてないわ」

 雪蓮と冥琳は、溜息を吐き、呆れている様子だった。

 その二人を除く者は、あんぐりと呆然としていた。

 流星だけは、目を瞑り栄花の傍にいた。

「あら?! 私ったら――」

 恥ずかしそうに顔を隠すが、意味がなかった。

「母様ばっかり、栄花兄と話しするのは不公平じゃない? とりあえず栄花兄の事を知っているのは母様と

私と冥琳だけなんだから紹介したいのだけれど」

「そうね、栄花。彼女達に、挨拶をしなさい」

 とても一代で江東を支配した、人物には見れなかった。

 

 簡単にお互い名を名乗り、軽く挨拶をし栄花はある男の姿に注目をした。

「おや? こちらの御仁は?」

「栄花兄も聞いた事はあるんじゃないの? 天の御使いの噂を」

 この時初めて、白光を纏う男と闇光を纏う男が視線を交わした。

「初めまして北郷一刀といいます」

 とても笑顔が良く似合う男だと思った。

 その笑顔によく似ている彼女の姿が頭に思い浮かんだ。

 劉備―公孫讃の下で少しの間だったが、共に戦った戦友の一人だ。

 争いごとが嫌いな女の子。

 皆が幸せに仲良く暮らす、という夢を抱く女の子。

 その事に誰もが一度は希望を抱き絶望し崩れ去る。

 そんな夢見がちな女の子。

「天の御使い殿、真名を栄花といいます」

 でも彼は、決してその夢について馬鹿にはしなかった。

 むしろ好感さえ持てた。

 だって、そうだろう、互いが尊重しあい争いごとがなく笑顔な世界。

 一点の穢れもなく清く美しく狂った夢想を誰にも止める事はできない。

 もし止める事ができるとするなら、同じ狂人だけだ。

 だから、彼は思う。

 きっと同じ笑顔を持つ天の御使いも多少の違いはあるかもしれないが、劉備と同類の夢を持つものだと。

 だけど、彼は穢したりはしない。

 彼もまた狂人なのだから―――

 

 

 

 陽は沈み夜空に星星が見えた頃、栄花は約束通り孫堅―陽蓮の部屋へと足を運んだ。

「約束通りね、適当なところにでも座っていていいわよ」

 辺りを見回しても、寝台に鏡に長机があり、丸椅子が二つ隅の方に置かれている。

 女性の部屋にしては、少々寂しいところがあった。

 立ち話をするわけではないので、とりあえず、長机を挟むように椅子を置く。

「悪いわね、準備させちゃって」

 茶碗からは鼻腔を擽るような甘い匂いがした。

「これを飲まないと、一日が終わらないのよね~」

 口の中に含み、ご満悦の様子だった。

「わたしも、いただきます」

 なるほど。

 体の芯から温かくなり、一日の疲れが忘れそうなぐらい心休む味だった。

 

 それから他愛もない世間話をした。

 栄花が江東を去ってから、今日までの道のりの出来事をおもしろ可笑しく。

 その話のほとんどが、祭や雪蓮やら冥琳との三人に対する愚痴だったが、栄花は楽しく聞いていた。

 陽蓮も栄花の話に耳を傾けていた。

 西涼の地で騎乗の練習に明け暮れた日々、旅の途中で出会った仲間達。

 なぜだが、星流については細かく聞かれたが省略するとしよう。

 そして―曹操、姉上に出会ったことを。

「それで、お姉様に出会って思い出したの?」

「いえ、その時は何も思い出していません。ただ、知識として知っていただけです」

 そう何も思い出してはいなかった。

 ただ単に、体がいつも以上に軽かっただけだ。

 可笑しくてたまらなかった。

「・・・・・・それじゃぁ、一体いつ?」

 彼からなにかを感じ取ったのか、声色は少し落ちていた。

「あなたの娘、孫権に出会ったことで」

「・・・・・・・・・」

 そこには、母上と呼んでくれる我が子はいなかった。

 

 

「そう。それだと、栄花には名を返さなきゃね」

 月は空たかく、いつか見た平原の空に似ていた。

 大きな月の光は、部屋を幻想へと導く。

「・・・・・・・・・」

 栄花は席を立ち、窓から見える夜空を見上げた。

 どこまでも暗く深く、吸い込まれそうな大きさだった。

「あなたは、もう私の人形なんかじゃない。それなら、仕方ないわよね」

「・・・・・・・・・」

 彼は何も答えない。

 それは、肯定の意味だから。

 だから、彼女も誓いを果たさなければならない。

「江東が虎、孫文台の名の下に、曹涼、その名の封印を解きます」

「確かに承りました」

 重く深く言を繰り返す、二度と逃がさないために。

 彼女は誓いを果たした。

 もし、彼が自分の下から離れるならばどんな道に進もうとも縛る事はやめようと。

 それが、相容れぬ道だとしても。 

 北郷一刀が、初めての策を練る一ヶ月も前の夜だった。

 

 場所は執務室。

 北郷一刀の身の危険が迫っていた。

「あのぉ~栄花さん」

「ん? 読み終わったのか」

「いや、なんだか気が重いっていうか、なんというか」

 一刀達は、勉学に励んでいた。

 もちろん、達ということで男と男の一対一における混沌とした空間ではない。

「北郷様どうなされましたか? お気分のほうが悪いのでしょうか」

「いえ、星流さん。そういうわけでは、ないんですけど・・・・・・」

 答え難いのか、最後のほうはよく聞き取れなかった。

「だったら、早く書を読みなさい。あなたのおかげで、私は待たせらているのだから」

「ごめんなさい、孫権さん」

「・・・・・・・・・」

 男性が二人で女性が三人、混沌というには程遠かった。

 しかし、面子によって、それは大きく変わる。

 大まかに説明するとこんな感じだ。

 先生なのが、栄花でその隣にいるのが星流。

 生徒なのが、一刀と蓮華であり彼女の後ろには思春が待機している。

 まさに、断崖絶壁だった。

 唯一の救い主である、栄花も今回は機嫌が悪いのか言葉が痛かった。

 とりあえず、この場から開放されるためにもさっさと書を読もうと心に誓った。

 

「ふぅ~、やっと終わったぁ~」

 手元には数多くの書が並べていて、陽は高く昇っていた。

「なぜ、席を立つ、一刀。まだ、終わってはいないぞ」

「ちょっと、栄花さん。もぅ、お昼ですよ、さすがにこれ以上は・・・・・・」

「一昨日の夜、一刀の部屋に明命が訪れ次の朝まで発見はされなかった。前の晩は、夜遅くに隠の部屋に

入るところを目撃し、蝋燭が二本、終わる頃の時間に一刀の姿を確認し、明朝――」

「わっわっわっ、なんで栄花さんがそんなことを?!」

「北郷様、お城にいる侍女達の間では、とても有名になっています。なんでも―」

「わかりました。ちゃんと勉強しますから、許してください」

 蓮華や思春からは、冷たい視線が一刀に注がれていた。

「雪蓮から聞いてはいましたけど、これ程のものとは・・・・・・与えられた責務を果たす事は良いことですが、

もう少し節度を持ってください」

「返す言葉もありません」

「そうしないと、彼女達に嫌われてしまいますよ?」

「ふんっ」

「・・・・・・・・・」

 当然だ、とばかりの反応だった。

 一刀は泣いていた。

「さて、一刀も反省“は”しているようですので、次の課題で最後にしましょう」

 一刀はみるまでもなく、精神的にとてもやられていた。

 蓮華も集中力が切れてきているのか、溜息を吐いた。

 栄花は読みかけの書を机の上に置き

「なに、簡単な話しです。王とは何ですか?」

 その言葉は彼女達に向けての言葉なのか、それとも自分自身への言葉なのか――

 身体が焼けそうなほど、暑い日差しの日は続いていた。

 

 

 栄花―姉様や冥琳だけではなく、母様や祭にも気に入られている男。

 さらに民からは、坊主やら坊ちゃん等と可愛がられ幼少の頃から愛されていた男。

 そして、私の兄上。

 冗談じゃない、と思った。

 突然そんなことをいわれても、納得できるわけがない。

 でも、あのときの母様は昔に戻ったみたいで嬉しかった。

 姉様に王の座を譲ってから、しばらく経ってから塞ぎ気味だったから正直心配だった。

 だけど何事もなかったように母様に笑顔が戻ったからよかった。

 それに、あの男の影響を受けてか分からないけど思春も少し柔らかくなった気がする。

 隣の男に目を向ける。

 

 北郷一刀―天の御使いにして私の夫となる男。

 この男に関しては、本当にどうしようもないと思った。

 だけど、最近の彼の生活を見るに考えを改めなくては、と少し感じた。

 傍からみれば、ただの女たらしだけど、それは彼が皆に優しく誘いを断る事ができないからだ。

 それに優しいだけではなく、こうやって勉学を共にし武術の訓練をし骨がある男だと思っている。

 本当にどうしようもない男。

 栄・・・・・・いや、兄上が来てからは、そう長い日に武は追い越されるに違いない。

 まぁ、ただ兄上が北郷の戦い方に興味を持って暇さえあれば稽古に励んでいるのだから仕方がない事だけ

ど。

 そういえば、北郷もこんなことを呟いていたな。

 兄貴ってあんな感じなのかな、と。

 だから、懐くのもよく分かる。

 私には母様もいるし姉様もいる、どちらも民に愛され尊敬する王の姿を持っている。

 兄上、母様のように心が深く仁徳があり姉様のような王の風格があり冥琳と論する事もでき祭と同等の武

を持つ果てしない家族の一人。

 もし北郷が私と同じように彼を兄として認めたら同じ思いになるに違いない。

 “あのように立派な者になりたい”、と

 

「それでは、今日の講義はこれで終了にしましょう」

 書を閉じ講義の終わりを告げる。

 一刀と蓮華は、共に部屋から出て行き、思春は部屋に残っていた。

「おや? どうしましたか」

「貴様は、なぜあのような質問をした」

 王に対しての質問だった。

「いまの蓮華は、雪蓮のようになろうと努力していることはお分かりでしょう」

「それの何が悪いのだ」

「悪くはありませんが、あまりにも“王”という観念に囚われすぎてます」

「・・・・・・・・・」

 思春は、何も答えることはできない。

 痛いほどに彼女にはその事が理解できたからだ。

 

「一刀は、人を思いやる事ができる人間のようですからね」

 彼達が出ていった扉の方を見つめながら呟く。

「しかし、それでは――」

 もし万が一の事が起きた時に判断が鈍ってしまうのでは、と思った。

「それは、あなたがよく分かっている事でしょう?」

 いたずらな微笑みで彼は尋ねる。

「・・・・・・・・・」

 

 王――人間の身でありながらも人を裁き従える偽善者。

 その言葉が頭に思い浮かぶ。

 それは、人間であることを止め王という人々の象徴になることだ。

 当然の話しだ。

 人が人を罰することは決して許される行為ではない。

 だが、彼らたちは創った。

 王という人間の身でありながらも我々を導いてくれう存在を、象徴を。

 しかし、所詮は人の身でありながらも大きすぎる力の前では、いつかは崩れてしまう。

 だから、そうならないように、我々が支えるのだ。

 王の願いを民の願いを。

 

 

 思春という者は、死を望み影で生きることを望み人を止めようとした人間だ。

 考えれば形こそ違うが、人間であるということを捨てる事に関しては同じという事が分かる。

 死の間際の一瞬の、生きたいという望み。

 とても人間らしい感情だ。

 だから、彼女には分かる。

 王といっても、元を正せば人間であるならば、最後はヒトとしての感情が浮き彫りになる。

 そうして、彼女はさらに思いを決意する。

 王というモノに縛られすぎないように、孫権―蓮華という人としての生涯も送って欲しいと。

 

 やがて彼女は答えを得ることが、できたのか部屋から出て行ってしまった。

 そうして残されたのは、栄花と流星の二人である。

「北郷一刀をどう思われますか」

 お茶を入れながら栄花に尋ねる。

「そのような不要なことに我の意見が必要なのか」

 栄花の先ほどの態度に違いに普通の者なら驚愕するに違いない。

 しかし、流星はそんな事をしない。

 彼を知る一人の女として。

 彼は記憶を取り戻した。

 いや、本質的には何も思い出せていない。

 あるとしても、あの地獄のような荒野の光景だけだ。

 だから、この場合、記憶というよりも意識というほうが適切なのではないだろうか。

 曹を持つ名の一人の男として。

 

 栄花と流星は幼少の頃からの付き合いがある仲だ。

 曹家では、主人と従者は常に一心同体でなければならない、という掟があり子供の頃から年が近し者と時

を過ごし主人の考えを把握できるようにするためだ。

 曹操という彼女が夏侯という二人の姉妹を従えるように、曹涼も誰かしらを従えなければならなかった。

 しかし、彼に仕える者は誰一人としていなかった。

 それは、当然のことであった。

 曹操は人を愛し、曹涼はモノを愛した。

 常に曹操の周りには、誰かしらの人物が近くにいるが、曹涼の周りには、何かしらのモノ(武器)があっ

た。

 曹操は人と話しをする事を好み、曹涼はモノ(風景)を眺めるのを好んだ。

 そして、幾年が過ぎ曹涼と管輅は出会った。

 星降る夜の月の下で。

 

 

「一刀は、素晴らしい人間だ」

 相手の心の機微を察する人は稀であるからだろう。

 しかし、口元を歪めながら話す彼の顔は、歪だった。

 突然の言葉に流星は、思考を止め

「・・・・・・・・・」

 彼女は何も答えない。

「流星、我はこの世が嫌いだ。人があまりにも死に逝く世の中が」

「・・・・・・・・・」

 彼女は何も答えることはできない。

 事実なのだから。

 そして、彼を知っているから。

「世を憂う者として、人としての理を捨てるのは当然ではないのか」

「・・・・・・・・・」

 彼女は何も答えない。

 それは、肯定を意味する。

「賊、畜生、外道、悪鬼、狂人――」

 その言葉の連鎖は、人から既に外れている名の言葉。

「そして、王だ」

 窓辺から振り返り、陽光に煌く黒髪を持つ彼の姿は、光に反しているようだった。

 ただ、美しく眩しかった。

 

「一刀は、人間だ。眩しいぐらいに」

「はい」

「だが、一刀は天の称号を得ている。王では、天に勝つ事ができないのは当然の事だ」

 言葉が終わると同時に室内の空気が凍りついたように体温が下がる。

 もはや、そこの空間は死の世界だ。

 一分一秒と徐々に体は動かなくなり時期に体は停止するであろう。

「なら、我が君はどのようなお考えがあるつもりですか?」

 彼女は二度と栄花という名を口にする事はないだろう。

 彼が、人を捨てるならば人である名は、不要だ。

 そして、彼女は彼の願いを聞き入れるために人を捨てる。

 わたしは、あなたのモノになると。

「人々の願いが叶えられ昇華されるところが、天というならば」

 彼は言った。

 この身は一度滅びている、と。

 なら、正道を歩む事は決してできない行為である。

 彼は知ってしまったから。

「我は怨念と共に淵に眠る彼ら達の天となろう」

 志半ばで倒れてしまった者達の声を死者の声を。

 元よりこの身は一度、滅びた身。

 ならば愛するモノ(彼ら)達の願いを果たそうではないか。

「全ては我が君の御心のままに」

 主の願いは、私の願いである。

 

 冀州―張角率いる黄巾党が留まる本拠地。

 現在、朝廷の命の下に各諸侯が連合として集結する。

「うわぁ~、こうやってみると爽快だなぁ」

「ん? 何をしている一刀。冥琳が捜していたぞ、今回の策士がいなくてどうする」

 忘れてた、と言いながら天幕の方に走っていく一刀。

 

「やはり、姉上もここを狙っていたか」

 聳え立つ、曹の家紋旗、風に揺れるその傍は歓喜の声を上げているように見える。

「そして、劉備も健在か」

 噂では公孫讃の下から離れ、平原の相として名を馳せている彼女。

 一からの状態でここまでの短期間で昇っている彼女達の力に感服するしかない。

「流星、黄巾に関する情報は集まったか」

「はっ、確たる情報でありませんが、黄巾を率いているのは三姉妹の旅芸人だそうです」

「冗談がすぎるのではないか」

「私もそう思います」

 もし、それが本当だとしたら性質が悪すぎる冗談だ。

 旅芸人というだけで、ここまでの人を集める事は脅威すぎる。

「流星、姉上の動きをよく見とけ。必ず動きがあるはずだ」

「それは、張三姉妹についてですか」

「その通りだ。姉上が、このようなおもしろそうなものを見逃すはずがない」

 

 

 天の御使い―北郷一刀の策は大成功だった。

 敵陣営の死角を見抜き、そこをついた策は大した被害を出す事もなく進んでいく。

 ただ、一つを除いて。

「お父さん、しっかりして!」

 栄花の目の前には、言葉からして地面に倒れている男が彼女たちの父親なのだろう。

 一目で助からないと、分かる。余りにも血を流しすぎていた。

 そして、そこに立ちふさがる彼女と父の傍にいる彼女、彼女たちは双子だった。

「どうして、私たちが殺されなくちゃいけないのよ! 何も悪い事はしていないのに!!」

 目の前で高圧的な瞳と共に憎悪ともとれるその声を、彼にぶつける。

 彼女の意見は、尤もだと思った。

 服装は明らかに、町人が普段生活するような格好だった。

 黄布のように、黄色い布をしてない彼女たちはどこからか、流れ着いた者なだろう。

「この人殺し! 確かにここの人達は悪い事をしていたのかもしれない。でも、私たちにとっては助けてく

れた恩人達なんだから!」

 彼は何も言う事はなかった。

 ただ、ひたすらに彼女の怨念にも近い声を聞き入れる。

「このっ!―――」

「待ちなさい、小喬ちゃん」

 声の主は、お父さん、と呼ばれていた男からだった。

 

 

「お父さん、話しちゃだめだよ!」

 彼女声は悲鳴に近かった。

「いいんだよ、大喬ちゃん。わしは、もう助からん」

 子供をあやすような優しい声だった。

「そこのお方、わしのような者を助けて感謝していますよ」

 もはや死に逝く体だというのに、感謝される意味が分からなかった。

 彼ら達は不幸な家族だったのかもしれない。

 何故だかわからないが、黄巾党という賊に助けられその事によって、同じ黄巾党として見られてしまい襲

われてしまったのだ。

 男の横に眠る兵士。

 彼女たちを連れ去ろうとしているところを、男が必死に抵抗し斬られ、止めを刺そうとしたところを栄花

が男を助けた。

 だが、時はすでに遅かった。

「なぜ感謝をする。そこの娘のように、我に恨み言を吐くのが当然だと思うが」

「はっはっはっ」

 男は愉快に笑った。

「お前さんは、変わっておるのぉ。連合でありながら味方を殺し、敵であるわし達を助け、さらにはこちら

を気遣うななどおもしろいお方やの」

「どちらにせよ、貴公は助からん」

「そうそう、現実を見せんでおくれよ。いまはお主と話しがしたいのじゃ」

 その言葉に何も返す言葉は見つからなかった。

 

 それから何の得にもならない、話をした。

 戦場の真っ只中だというのに、そこにいる彼ら達の空間だけが隔離されたように誰も入ってこれない。

 しかし、やがてそれは終わりを迎える。

 男の顔が青白くなってきている、もうすこしで息絶えるであろう。

 怨念の言葉を残しながら。

「栄花よ、わしの頼みごとを一つ頼んではもらえないかのぉ」

「どうせ最後だ、よかろう」

「天和ちゃん達に、ありがとう、と伝えてもらえんかのぉ」

「張角の真名のことか?」

 そうじゃ、と男は告げる。

「その言葉承った、安心して逝け」

 先ほど、敵だといったのに嫌味すぎる言葉だった。

「おぉ、それと最後に一つ――」

「一つだけでは、なかったのか?」

「そんな細かい事を気にするようでは、女子は寄ってこんぞ」

「・・・・・・・・・」

「大喬ちゃんと小喬ちゃん、娘を頼んでもらってもよいか」

「ちょっと、お父さん!」

「ふざけろ!」

 

 

「さっきもいったように、もう助からん。だったら、栄花に頼む事しかなかろうて」

「でも――」

「だって――」

 彼女たちの意見も尤もの事だ。

 自分の父親を殺した人と一緒に暮らすなど、できることではない。

「大喬ちゃん、小喬ちゃん、どうかお父さんの最後の頼みじゃ」

 彼の言葉に彼女たちは頷くしかなかった。

 彼を悲しませないためにも。

「あとは、栄花だけじゃ。どうじゃ?」

「我は貴公のように人を愛することはできん」

「栄花が? ここにきてもそんな冗談を言うとは恐ろしい。・・・・・・いいんじゃよ、この娘たちも子供ではな

い」

 その言葉は、ここから助けてもらえればそれでいい。

 後はあの娘達が決める事だ、と語っていた。

「承知した、貴公の願いしかと聞き入れた」

「ありがたいことじゃ」

「不躾な疑問で悪いが、なぜ自分の娘を、ちゃん付けで呼ぶ?」

「わしは、小さい子が好きなんじゃ」

「くたばれ、くそじじぃ」

「はっはっはっ、本当に面白い方じゃ・・・・・・・・・のぅ、栄花よ」

「他にもまだ、あるのか?」

「戦が無い世界に、お主と出会ったらすばらしきことじゃったと思ったよ」

「―――」

 そうして、彼は眠りについた。

 栄花に願い(呪い)の言葉を残し。

「我が君、張角と思われる人物が曹操様の将と思われる者と一緒にいるところを発見しました」

「容姿は」

「無手で銀髪の女でありました」

「そうか・・・・・・流星は、彼女たちを保護しておけ」

「我が君は、どこへ?」

「知れたこと、頼みごとを放るほど無粋ではない」

 そうして、彼は黒い外套を靡かせ戦地に赴く。

 黒髪から覗く聖碧の瞳に、人の血を思わせる紅の槍。

 人々はこう思うだろう。

 生きた死神、それか、鬼だと。

 そして、もう二度と目覚める事は無い男に目を向ける。

「残念だが貴公と会うことは二度とあるまい・・・・・・我の逝く先は天獄なのでな」

 そうして動き出す。

 彼(死者)の願いを果たすために。

 

「はあああああああああ!!」

 敵は楽進。

 曹操軍の新鋭隊であり、無手の者。

 武器を持たずとも身に着ける甲冑と共に戦地を駆け抜ける姿は銀光として呼ばれている。

「相変わらず良い動きをする」

 だが、彼には通用しない。

 光とも呼ばれる、速度でも軌跡さえわかってしまえば避けるのは容易い。

「いきなりの挨拶だな、楽進。久しぶりの再会としての、挨拶にはすこし過激が過ぎるのではないか」

「私の部下をこのようにしておきながら、よくその様なことをいえるな」

 彼達を囲むように曹操軍の兵士達。

「当たり前だ、こやつらに死などという安寧を渡すわけにはいかん」

 そう彼ら達は死を許されなかった。

 ある者は腕を亡くし、足を亡くし、目を亡くし、口を亡くし、耳を澄まさずとも声が聞こえる。

 もう死なせてくれ、と。

 しかし、死は許されない。

 死の案内人が通行を許可しなければ、通れないのだから。

「ましてや喬公殿と同じ日の命日では彼に頭が上がらんのでな」

 そう。

 あの男を斬りつけた兵士は、曹操軍の兵士だった。

 

 

「お前がいってることが、わからん」

「ふん、どちらにせよ。先に仕掛けてきたのはそちらではないか。何か後ろめいた事でもあるのか」

 ふふふ、と笑う彼は全てを知っている笑みだ。

 そして、それを知りながらも尋ねる彼は、悪戯好きな子供のようだ。

「彼女たちの事を知っているのか」

「? 知らんなぁ。どうしてここで、そこにいる者達が出てくるのだ。ほぅ、もしかしたらそこにいるのは

もしかしたら、張三姉妹なのか」

 悪戯好きな子供は、おもちゃと遊ぶ。

 壊れないように、ゆっくりと。

「チッ・・・・・・これでは曹操様の覇道に支障がでてしまう」

 それは当たり前の事だった。

 都を含め、大乱を生んだ張本人たちを殺さずに、生かす行為など朝廷に反逆している。

 次は、曹操達が逆賊として追われる日々が続くであろう。

「どうした、楽進。顔色が悪いぞ、心配せずとも目的の一つは済んだ。後、一つだけ達することができれば

貴公に用はない」

 ちら、と彼女たちのほうに顔を向ける。

 恐怖で言葉が出ないのか、ぱくぱく、と魚のように口を動かし三人で身を寄せ合っている。

「それだけは許さん。どうしてでもというなら、このままお帰りもらう」

 グッ、と拳を握る。

 敵は不気味な男―栄花。

 先の戦において、奴の力は並だった。

 奇跡のような本来起こりはずもない、事が無ければ私に勝つ事は不可能である。

 あのような、ぎこちない動きをしていた者がこの短期間で成長することはありえない。

 だが彼女は気づいていなかった。

 自分の兵を気遣う余り、先の攻撃を見切られていた事に。

 

 

「鈍いな、その様な光では闇を晴らすことはできん」

「なにっ! なぜ、私の動きが見切られている」

 彼女は知らない、彼が一度見たもの記憶する異才の者だということを。

 そして以前会った時彼は、歪なほどに不完全だった。

 だが彼は完成した。

 他の色に惑わされないほどに、純粋な色になりここに存在した。

 真っ黒となって。

「だが、これなら!」

「なら、こうするまでよ!」

 彼たちの動きは一糸乱れぬ回し蹴りだった。

 その蹴りの動きは、彼が思春に繰り出した蹴撃と一緒だった。

 両者の蹴撃が重なった瞬間に草木を揺るがす、轟音が響き渡る。

「くっ・・・・・・」

 体格の差がここにきて、生じたのか。

 三メートルくらい吹き飛ぶ楽進。

「我の身に届かせたいのなら、重要な所で小細工など考えないことだな」

「貴様に教えを請う必要は無い」

「その意気込みはよし。だが、鈍き銀光など霞んで見えるわ!」

「がはっ!」

 体内にモノを全て吐き出すような感覚に陥る。

「ほぅ・・・・・・・まだ立つか。勇ましい姿よな」

「我・・・が名・・・は・・・楽進。曹操様・・・と共・・・に覇道・・・を進む・・・者」

「その敬意に称し、教授してやろう・・・・・・我が動きを決して見失うなよ・・・・・・でなければ、死ぬぞ」

 そう言って彼は消えた。

 いや、消えるなんてそんな馬鹿なことはありえない。

 それなら、一体どうやって?

 沈んだのだ、地面につくほどまでに体を落とし全身の筋力を使い昇りつめる蹴撃は天へと昇る道しるべ。

 今回は、黒光だったが、次回は天下を照らす銀光に違いない。

「そして、伝えよ。曹操・・・いや姉上に。曹涼が共に覇を唱えるために帰還したと」

 そうして彼女の意識は刈り取られた。

 

「張角とは貴公のことか」

「は、はい」

 恐怖か緊張か、それが彼女には分からなかった。

 彼女を助ける者は訪れないだろう。

 ここは、既に死地。

 あるものは、悲痛に嘆く兵士どもの声だけ。

「貴公たちが助けた、三人の旅人たちのことを覚えているか?」

「は、はい。それは、よく覚えています」

 その言葉であの、家族の事だろうとわかった。

 男は笛を巧みに扱い、その音色と共に娘達が舞う姿に感激し、共に苦しい時を過ごした者達だ。

「遺言だ、ありがとう」

 感謝される言葉が痛かった。

「そのような顔はするな。娘達は無事だ」

「で、でも」

 父親のほうは亡くなった、と告げられた。

 もし、私たちではなく、他の人に助けられたのはこういう結果にはならなかったのでは、と余技ってしま

う。

「思い出話しを聞かされた」

「えっ?!」

 突然の言葉に理解できなかった。

「もちろん、貴公たちと共に旅をした話しだ」

 彼の言葉は優しく、思い出を語ってくれた。

 聞いているだけで、その情景を思い出し現実から逃れるほど優しかった。

 曹操軍の兵士達は、彼のことを恐怖するだろう。

 だけど、私は思わない。

 さっきはあんなに恐かったのに、いまはなんともないから。

 天の御使い―みんなは彼のことを世を正す救世主だと呼ぶけど、わたしは絶対に呼ばない。

 だって、天を名乗るんなら、どうして私たちを助けてくれなかったの?

 歌を歌っているだけで、なんにも悪いことはしていないのに、どうして敵だと決めて襲うの?

 もし私にとって天の御使いがいるとするなら――

 

「私たちを殺すんですか?」

 話しが終わり一番聞かなくてはいけない、疑問をぶつけた。

「貴公らは、歌を歌っていただけであろう。原因があるとするなら――」

「そ、その本は!!」

 太平要術の書だった。

「乱を築いたモノがいなくなれば、もう起きることはない」

 火をつけ灰となり、風に攫われていった。

「知っていたのですか?」

「前にこれを抱えていた者がいたのでな・・・・・・だからといって、貴公らの罪状が消えたわけではない」

「は、はい。その通りです」

「だから、歌え。死んでいった者たちを癒すために、そして生きる者達のために」

 そう、私にとっての天の御使いは、悪い者(黄巾)と良い者(連合)を裁くことができる、このお方だ。

 

 黄巾の乱は連合軍の勝利として終わりを迎えた。

 しかし、曹操軍の陣営では大変慌しい状況にあった。

「華琳様、この兵士達は一体――」

 次々に運ばれる患者たちは、どこかしらの部位が欠如していた。

 あまりにも悲惨な光景に僅かに顔が曇る。

「わたしが聞きたいくらいだわ、桂花。兵士からは、何があったか聞けないの?」

「はい。どの者も同じ言葉を繰り返すだけです」

 もう戦場には立ちたくない、と。

「でも、よいではないか。生きていれば、また戦うことができるのではないか?」

「この脳筋。あなたのように、単純でできていなければ強くもないのよ!」

「桂花、私を馬鹿にするのか!」

「この状況を見て、そんなこといえるのは、あなたぐらいなものよ!」

「そのとおりだ」

「褒めてないわよ!」

 

「いい加減になさい、あなた達。秋欄、凪はまだ目が覚めないの?」

「はい、以前として」

「そう・・・・・・それにしても、あの凪が負けるなんてね」

 彼女を見た時、身を守るための甲冑が破壊されていた時は驚くしかなかった。

「しかし、華琳様。凪を負かすほどの者が、あの賊共だということは考えられません」

「そうね、それは春欄の言う通りだと私も思うわ。そうすると一体誰が――」

 まさか連合の中の誰かが?

 考えたくはないけど、それしか考えられないわね。

 でも諸侯たちの動きは私が直に観察していたはず。

 見落とす訳がないはずだけど。

「各諸侯たちの、不穏な動きは見られませんでした。ですので、我々の“動き”がばれたことはないでしょ

う」

「そうね、その意見については秋欄については同じ意見よ」

 秋欄の考えに桂花は同意する。

 彼女たちも私と同じの考えだ。

 だとすると――

 

「旗を掲げていない者が犯人だということね」

「しかし、華琳様。お言葉ですが、そのようなおかしな奴がいるとは考えられません」

「春欄! 華琳様のお考えを否定するというの!」

「だが――」

「いいのよ、桂花。私もおかしなことだと思っているわ」

 自分の存在を消すような者がいるなんてね。

「だとすれば、一体誰が――」

 秋欄の言葉により、沈黙が流れる。

 そして、一人の兵士の言葉で動き出す。

「緊急報告! 楽進様がお目覚めになりました!」

 

 

「凪、悪いわね。本当なら、休んでもらいのだけれども」

「い、いえ・・・・・・申し訳ありません、華琳様。張三姉妹を取り逃がしてしまい―」

「それなら心配要らないわ。彼女たちは私たちの仲間となったのだから」

 なぜ? と思った。

 あの時私は、あの男に負けあいつは張角を狙っていたはずだ。

 なら、生きているはずがない。

「あなたにも色々と思うところがあるかもしれないけれど、とりあえず私の質問に答えてちょうだい」

「は、はい」

「凪を・・・いえ、凪たちをこのようにした者はだれ?」

 そうだ、私は伝言を頼まれていた。

「華琳様、曹涼という男が帰ってきたと、と言ってました」

「!?」

 凪の言葉に華琳は声を出すことはできなかった。

 

 

「あ、あのぉ・・・華琳様ぁ、私たちにも分かるように説明を」

 華琳は凪の言葉を聞き腹を抱えながら笑っていた。

 このような姿を見たのは初めてだった。

 だけど、どこが同じように笑っていた気がしたような。

「そうね、あなた達は分かるはずがないものね。覚えている春欄、私たちがまだ出会う幼い頃のことを」

「もちろんです、華琳様。忘れるはずがありません」

「ありがとう、春欄。あの席に私たちがいた反対側にいた、少年は覚えているかしら?」

「え、えっと――」

「ま、まさか―」

 春欄は首を傾げ悩み、秋欄は思い当たった様子だった。

「し、しかし―」

 あれは歪み子として城の者たちに嫌われていたはずだ。

 そして、たしか――

「どうしたの、秋欄? なにかいいたそうね」

 悪戯な笑みを作りながら問うた。

「は、はい。弟君は確か――」

「死んだはずでは、といいたいわけね」

 そう。

 当主の争いに巻き込まれ死んだはずだ。

 

「ふふふ、そうね。でも、あなた達も最近あったばりじゃないの」

 どこまでも可笑しそうに笑い、春欄たちは華琳の言葉の意味が理解できなかった。

「だが、華琳様の弟君はなぜ我々の部隊を襲ったのだ?」

「それも、そうね・・・・・・凪、あいつが襲う前に何か言っていたはずよ」

「は、はぁ・・・・・・喬公という者との命日は許さん、といっていました」

「? どういう意味なのだ」

「そう・・・・・・なら、仕方ないわね・・・・・・行くわよ」

「えっ?! どこへですか?」

「弟を迎えに行くのは、家族として姉として当然でしょう」

 孫策の陣営に向かうとするときに、今まで沈黙を守っていた桂花から声をかけられる。

「華琳様・・・その男―いえ、弟君はどういった者なんですか?」

「ふふ、そうね」

「この世で最も人を愛し・・・・・・・・・憎んでいる、可愛い弟よ」

 

「そう、なら仕方ないわね」

「しかし、姉様。わたしには納得できません!」

 蓮華は姉の意見の食いついていた。

 それも納得の話しである。

 戦が終わり身支度をしているときに、突然に陣営から抜けたいと話したのだから。

「いい、蓮華。呉の力の源は結束力よ、それを乱すという者は必要ないわ」

「それは、わかります。しかし、兄様の意見は――」

 あまりのも子供のように我侭過ぎるのではないか、と思った。

「そうね、本当なら罰を与えるどころか、打ち首もいいところなんだけど」

 雪蓮の意見は正しい。

 もし、このままどこかの国に属してしまっては内部情報がだだ漏れなのだから。

「母様と約束しちゃったのよねぇ~」

「何がですか?」

「栄兄を止めないでくれってね。それに、幸い栄兄が指揮する部隊はないし。民たちにも、またどこかへ旅

にでも出たといえば、それで済むし、後は――」

 獣のような殺気を帯びた眼で彼を睨む。

「決して口外しないと誓おう」

「栄花兄もそういってくれていることだし、いいんじゃないの」

 余りにも横暴な意見だった。

「それにお迎えが来たようね」

 

 

「初めまして、我が名は曹操」

 どこまでも透き通るような声で参上した。

「私が孫策よ。それで、官軍様が一人でいったい何の用かしら?」

「残念ながら、二人わたしの可愛い部下を外に待てせているわ」

「ふ~ん、それで?」

 早急に答えろと、瞳で語る。

「弟を返しにもらいにきたわ」

 華琳の言葉で一斉に皆の目が栄花に集まった。

 

「さ、さすがにそれは予想できなかったわ」

 顔を隠しながら溜息を吐いた。

「雪蓮、我がいうのもなんだが――」

「はいはい、いいわよ。それはそれで、いいんだけど・・・・・・記憶が戻ったくらいで口調まで変わっちゃうの?

なんか変よ。栄花兄」

「ふむ、できるだけ善処しよう」

「・・・・・・っ」

 何故だが分からないが、栄花の背中に夥しい殺気を当てられている感じがする。

「栄兄、我ら呉を敵にすることを後悔するなよ」

「我も全力を持って、反抗しよう。そして、冥琳と共に過ごした日々も忘れん」

「ふん、そのような意地悪い性格は元からのようだな」

「あぁ、そのようだ」

 互いに懐かしむような笑みが生まれる。

「兄様! わたしは決して認めませんからね!!」

「あぁ、蓮華が思うように進むがいい。お前は決して間違えなんていない」

 ふん、と言い残し天幕から出て行く。

 蓮華と共に出て行くときに、思春は一度頭を下げ出て行った。

「流星、お前はどうする」

「全ては我が君のお望みのままについていきます」

「感謝するぞ、流星――お前たちは?」

 双子の彼女たちに問いかける。

「で、できれば私もお供させてください」

「あんたねぇ、普通わたし達のような可愛い女の子を放っておくなんてどうかしているんじゃないの? 追

いていくわよ、多少なり知っている人がいたほうがいいからね」

 そういって、三人は天幕から出て行った。

 

 そして、天の御使いに目を向ける。

「一刀がいう天界という所の話が聞けてよかったぞ。そして、一刀の武術は奇妙で興味深かった決して怠る

なよ」

「こちらこそ、楽しかったよ栄花さん。最後まで説教みたいで嫌だけど、話しが聞きたかったいつでも聞か

せてあげるよ」

「ああ、機会があったならな」

 そうして、栄花も天幕から出て行く。

「あなたはいいのかしら、孫策?」

「そんなもの必要ないわよ、だって栄花兄と別れるなんてありえないし。それに、一刀は蓮華に上げちゃっ

たし、さすがに一人は寂しいからねぇ~」

「なに言っているの、あなたは? まず、あれは私のモノよ。世迷言もいい加減にして欲しいわ」

「えぇ~曹操ちゃんには分からない栄花兄をたくさん知っているもんね~、ねぇ、冥琳?」

「そうだな・・・・・・栄兄か、案外悪くないのかも知れんな」

「いいけど、一番はわたしだからね」

 等といいながら、華琳をからかう呉の王と軍師。

「くっ! 日が悪いわね。今日のところは帰らせてもらうわ」

「うん、栄花兄に雪蓮が好きだよ、といっておいてね」

 そうして、混沌とした大乱は無事に終わった。

 ただ一つを除いて。

「あの愚弟には、お仕置きが必要かしら」

 華琳は数あるお仕置きを考え、その行為に笑みを貼りつかせながら陣地に戻っていた。

 

 

 一刀と栄花の別れは何を意味するのか。

 それは、まだ分からない。

 ただ五胡ではこんな噂が飛び交う。

 天の御使いのせいで、疫病が広がったと。

 世界は廻る。

 数多くの噂を渦巻きながら。

 

あとがき

 

 この頃、小説を読みながらもSSの事を考えている夜星です。

 えぇと、まず最初に前回のSSを上げてから、多くの人から激励のメールと登録しましたや面白かった、と

いう事が送られ感謝しています。このような、SSが書き続けられているのも皆様のおかげです。中には、一

気に全部呼んだ方もいらっしゃるようで・・・・・・。

 さて、一週間遅れての投稿となりましたが過去最大の量ですね。

 とりあえず、今回で黄巾の乱は終了にしようとして、書き始めたのですがここまで長くなるとは思いもよ

りませんでした。

 前回のコメントで五胡√で行くつもりと発表しましたが、しばらくは魏√で行きたいと思ってます。

 そう思うと一番最初にコメントしてくださった読者様に魏√に行くんですね、というコメントに行かない

かもといっていたような記憶があります。

 プロットも考えずに書いているので、申し訳ありません。

 それと思ったことなんですけども、流星の存在感が中々感じられないなぁ、と思っている夜星です。

 なので、次回は会話もたくさん入れながら書きたいなぁと思ってます。

 やっと他の作者様のssが読める・・・・・・

 

 では、書きあがったら投稿していきたいと思いますので気長に待ってくださると幸いです。

 次回にお会いいたしましょう。


 
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