No.146829

恋姫無双 ~天帝の花~ 10話

夜星さん

お待たせいたしました。
時間があるときにでも読んでくださると幸いです。

2010-05-31 19:30:07 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:2986   閲覧ユーザー数:2513

 雪蓮たちと別れ許昌へと身を寄せ、これから起きるであろう戦乱への準備をするための一日からこの物語

は始まる。

「さすがに、あの時は無茶をしすぎたか」

 目が覚め、寝台から起き上がろうとしたときに迎えたのは激しい激痛だった。

 まさに最悪の目覚めである。

 脳内で流れるのは、楽進との一戦。

 あのときに放った、蹴撃の代償は大きかった。

 一瞬により、全筋肉の持て余る力を注ぎこんだのだから仕方がないことだった。

 放った直後は、とてつもない疲労感に襲われ痛みさえ忘れるほどに体がだるかった。

 そのことを、考えれば痛みが感じられる分ましなことだろう。

「気がつけば、朝か」

 空は雲ひとつもないくらいに、快晴だった。

 

「君よ、お目覚めでありますか」

 扉を開け城の侍女たちの格好と流星の格好は変わっていた。

 なんでも、一刀がいうには。

 金髪ぽにぃてぃるにはえぷろんどれす、というものが最低限必要しらしい。

 栄花はわからずにその場を諦めたが、流星は真剣に一刀の話しを聞き入っていた。

 流星もお洒落が好きな、女性の一人なのだろう。

「あぁ、見ての通りだ。それと流星、人の部屋に入るときはのっくというものが必要らしいぞ」

「・・・・・・それも、北郷様がいた天の知識というものでしょうか」

「その通りだ、何でも来客を知らせるために必要な事らしい」

「心得ました。これからは、失礼がないようのっくということをしましょう」

 頭を下げ、礼をとる。

 これほどまでに、完璧にできている主従関係は多くはいないだろう。

 

「我は姉上に呼ばれているのでな、流星。お前はどうする」

「はっ・・・まずは、これから彼女たちを起こしに行こうかと考えています」

 なんだか心底面倒臭そうな、顔をしていた。

「そのような顔をするな、大喬ちゃんも小喬ちゃんも親を亡くした身だ、優しくしてやれ」

「・・・・・・・・・」

 虫を見るような目で栄花を見た。

「どうした何が不満があるのか」

「いえ、聞きなれない言葉を聞いたので現実逃避をしていました」

「それは、大喬ちゃ――」

「我が君よ、それ以上の発言は契りの事は無かったものと考えていただきたい」

「む、そうか。とりあえず、我は姉上の下に行ってくる。終わるまでは、好きにしてよい」

「はっ」

 そうして、部屋に残されるのは流星のみ。

「あのように、昔に戻られたことは嬉しきことですが・・・・・・あのような子供心も治ってはいらっしゃらない

ようですね」

 従の苦悩に主は知らず。

 

 まず初めに栄花を迎えたのは、とてつもない圧迫感だった。

 もし、普通の人がこの場にいたなら失神しているのに違いない。

 いくら、自分たちの君主である弟というだけで、可愛い部下をあのような目に合わせておいて許せる者は

決していないだろう。

 実際に、春欄は冷静そうに見えるがあまりにも闘気が滲み出ている。

 この場にいる一般の兵士は生きた心地がしないだろう。

「再び出会えたことに、感謝します。曹操様」

 臣の礼をとり、華琳―姉上に、感謝の意を表す。

「家族が迷っているのなら、手を差し伸べる。違わないかしら、曹涼・・・いえ、栄花」

「はっ、お心遣い感謝します」

「いいのよ、あの頃みたいにもっと自然にしてちょうだい」

「では・・・・・・姉上、お元気そうでなによりです」

「栄花も元気そうで、わたしも嬉しいわ」

 

 

「それで、あなたは姉上を忘れるほど何をしていたのかしら」

 星たちと出遭った栄花並に嫌らしい笑みだった。

「見聞を広めていたとしか、お答えできません」

「へぇ~見聞ねぇ、娯楽の間違いではなくて?」

「姉上にはそう捕らえられてもおかしくありません」

 くくく、と笑う姿は子供のようだった。

 とても、戦中に見せる彼とは別人のように見えた。

 楽進に至っては、ぽかんとした表情をしている。

「でも、決して娯楽などではありませんでした。私は姉上のように報告書を読み、そこの場所がどんな状態

になっているかなんてわかりません。だから、私は知る必要があります。この目で、耳で、人々の心を」

 一言一言確かめるような感じで呟く。

「それなら仕方ないわね、でも“あの時”に再会した時に戻って来れたはずよ」

「残念ながら、あの時は記憶というものが失っていました」

「どういう意味かしら」

「・・・・・・・・・」

「そう、別に無理に話す必要は無いわ」

 

「ところで、姉上は私に何の御用で?」

 暗い雰囲気を切り替えようと本来の目的を口にする。

「そうだったわ、春欄がどうしてもあなたと勝負したいらしいのよ」

「なぜ? とお聞きしても」

「どちらでもいいわよ」

 ちらっと、春欄を確認する。

 間に入った時よりも、少しは落ち着いていたがいつでも爆発できるような状態だった。

「回避不可能のようですので、諦めましょう。しかし、条件が一つあります」

「なにかしら?」

「秋欄と流星もの仕合を条件に呑みましょう」

 その言葉を最後にして栄花は自室へと戻っていった。

 

 

「どうしたの、凪。栄花に何か不満でもあるのかしら」

 彼女は終始、栄花のことを睨むように見つめていた。

「いえ、あまりにも“あの時”の栄花様とはかけ離れていたもので

「ふふふ、なにを言っているの? 凪。栄花は、何一つとして変わっていないわよ」

 どこか含みがある言い方だった。

「春欄、栄花に勝てるわよね」

「はっ、華琳様が望むのならば勝利を捧げるまでです」

 いかなる強敵であったとしても。

「秋欄、流星に勝てるわよね」

「はっ、我が命を懸けましても」

 いかなる難敵であったとしても。

「あなたたちがいてくれて本当に、嬉しいわ」

 こうして一日が過ぎていく。

 

「栄花といったな、この時を楽しみにしてぞ!」

「・・・・・・・・・」

 夏侯の名の者か。

 些か厄介だな。

「あの時の屈辱を返せると思うと、嬉しくてたまらん」

「・・・・・・・・・」

 あれが、得物か。

 あのような物を扱える者がいるとは思わなかったがな。

「どうした、臆して声も出んのか」

「・・・・・・・・・」

 だが、それも納得できる。

 姉上の右腕と呼ばれるなら、それぐらいのことは出来て当然だろう。

「無視するなーー!」

「・・・・・・・・・」

 覚悟を持たなければ、こちらが負ける。

「貴様ぁ! いつまでそうやっているつもりだぁ!!」

「すまん、どうも貴公に勝てる要素が見つからんのでな。考え事をしていた」

 

「ふん、いまさらそのような事をいっても許してやらんからな」

 どうやら相当、武に自信があるみたいだな。

 それは当然の事か。

「夏侯元譲、いざ参る!」

「曹文烈、お相手仕る!」

 

「久しぶりというべきか、流星」

「・・・・・・・・・」

 対峙するのは、互いに主を持つ者。

 そして、秋欄が手に持つのは弓であり流星が握るのは短剣。

 互いから出る気は、どこか似ているモノがあった。

「あなたにそんなことをいわれる筋合いは、ありません」

「・・・・・・・・・」

 次に口を閉ざしたのは、秋欄だった。

「それにいまは、試合中です。よもや、あの頃のように私があなたに勝てないとでもお思いなのですか?」

「そんなことはない、私はただ――」

 お互いの周りには、矢が短剣が散らばっており、実力は同等のように思える。

「あなたの言葉は何も聞きたくはありません。あなたは私にとって、非常に不愉快な存在です。できること

なら、あなたを殺してしまいたい」

「・・・・・・・・・」

 また、秋欄は言葉を発する事はできなかった。

 そして流星はいつにもなく饒舌だった。

 だが、その理由を秋欄は知っていた。

 

「もしかしたら、あなたは正しい選択をしたのかもしれない。だけど、私は決してあなたを許さない」

「・・・・・・・・・」

「私は“あなた”達がうらやましかった。互いに尊重し、主従としてだけではなく互いに理解できる者とし

て」

「・・・・・・・・・」

 秋欄はあの頃を愛おしく思う。

 互いに学び武を競い、真っ直ぐ走っていたあの頃を。

 その思い出は幾年が経っても、決して衰える事はなかった。

 むしろ、時が経つにつれて胸が締め付けられていた。

「栄花様とあなたが!!」

「・・・・・・っ!」

 幾度にも渡る攻防、決して崩れることがない均衡が徐々に動き出してきた。

「羨ましかった、あなたが――眩しかった、あなたが――栄花様があなたに向けた笑顔が、妬ましかった!」

「くぅっ!」

 開いていた距離が縮まり、お互いが得意としていた域が崩れつつある。

 互いの攻撃は当たる事も無く、無造作に散らばっていく。

「私は、あなたを許さない――」

 既に互いに得物は持たず、無手となっていた。

 両者の白い肌は、傷つき、血がつき、荒れだしていた。

 だが、そんなことは関係なく彼女達は美しかった。

 そして、直に終わりは近づく。

 お互いに立つことが難しいのか、足がよろきつつあった。

 流星は拳を握り、秋欄は蹴りの構えをする。

 そして、遂に終わりを告げる。

「栄花様を裏切ったあなたを!!」

 流星の渾身の思いは、秋欄には届かなかった。

「――――――――おまえに、なにが分かる!!!」

 彼女のどこか悲しみが混じった声と共に流星は地に伏せられる。

「おまえに、なにが分かる・・・・・・」

 顔を伏せ流星の顔に水滴が落ちる。

 それは、涙だった。

「わ・・・たし・・・は・・・・・・あ、なたの・・・かわ、りなん・・・か・・・・・・な、い。えい、かさま」

 

「はは、楽しいな栄花よ」

「くっ、おのれぇ――」

 春欄の攻撃をなんとか受け流し、体勢を整えるが息つく暇も無く連続に彼女の猛攻が降り注ぐ。

「華琳様の弟君と聞いたときは、驚いたが。これで、納得した!」

 その声と共に、蹴りが栄花の腹にめり込む。

「がぁっ! まさか、本当にこの我を忘れていようとは」

「? なにをいっているのだ? 栄花よ」

 栄花の言葉に疑問を浮かべる春欄。

「気にするな、これからの事を考えると楽しくて仕方なくてな」

「あぁ、本当だ。栄花のような者がいれば、華琳様の統一への道も近いに違いない」

 

 

 

「さすがですね、春欄様。あの栄花様を、まったく寄せ付けないなんて、一回でも栄花様に勝ち、油断して

いた自分が悔やまれます」

 観客として見ていた凪がぽつりという。

「なにも悔やむ必要は無いわ、凪。そうやって、人は反省して成長していくのよ。これからも、私のために

頑張ってちょうだい」

「はっ!」

 本当に、凪はいい子ね。

 それに比べて、春欄は・・・・・・可愛い子なのは確かなんだけど。栄花を忘れるなんて、後が恐いわよ。

 だけどいま、一番気がかりなのは・・・・・・秋欄。

 流星を見下ろす彼女に目を向ける。

 華陀の言うとおりの結果になったわね・・・・・・怨むかしらあの子は。

「だけど、どうしても栄花様の動きがなんだか気になります」

 顎に手を当て、思案する凪。

「なぜかしら? 私から見ても、お互いにいい動きをしていると思うけど」

「いえ、それは私なんかが言うのはおかしいですけど、お二人とも本当に素晴らしいです」

「だったら――」

「栄花様が、一度も攻めていないんです」

 ようやく凪の言いたい事が分かった。

 栄花と春欄に目を向ける。

 春欄の体にはどこも傷がついておらず、服にさえ乱れはなかった。

 それに対し、栄花は息も乱れ服には泥がつき、どうみても押されている事がわかる。

 だが、凪の言うとおり栄花は一度も攻めてはいなかった。

 

 

「これで最後だ、栄花!」

 上段から落ちる大剣。

 いくら模擬専用の贋物の剣であろうとも、精密に作られており殺傷能力はないが平気で骨を折ることぐら

いは可能だ。

 だが栄花はこの時を待っていた。

 敵は明らかに油断をしている。

 普通ならば、相手の得物を落すか得物を突きつけそこで試合は終わる。

 しかし、春欄の攻撃は得物を破壊しようとしていた。

 これこそが好機だ。

「そうはいかん!」

 この時、初めて栄花が動いた。

 最速で懐に潜り込み、拳を叩き込もうとする。

 春欄の驚きの顔が見える。

 だが、もう遅い。

 すでに、布石は完成した。

「地に――っ!!」

 全て完璧だった。

 こちらが一度も仕掛けてはいないとは、いえ、それに見合う動きをした。

 だが、彼女には届かなかった。

 突き出されて拳は、膝によって阻まれた。

 

「惜しかったな、栄花。今度こそ最後だ」

 栄花の目には軌跡が見られなかった。

 なら、それを防ぐ事も回避する事も不可能だ。

 だから、今回の勝負は栄花の負けが決定した。

 彼は別に不満など一切無い、もし仮に買ったとしても喜びはしなかっただろう、それなら負けたとしても

後悔する事はありえない。

 だが、一つだけ気になることがあった。

 覚えがある声と共に言葉が脳に走った。

 “――さま、共に―――め、ましょう――”

 “――ちゃん、――ついて――だ!―――”

 “――です、――には――ますから―――”

「貴公たちは――」

 茫洋ともいえる声と共に栄花の意識は閉じた。

 

 “全く貴方という人は――――”

 やめてくれ。

 “ほぇ~、――おもしろいね―”

 ヤめてくれ。

 “――、さすがです!――――”

 ヤメてくれ。

 “““――――治めましょう―――”””

 ヤメテクレエエエェェェェェェェェ!!!!!

 

「あぁぁぁ、がはっ、あぁぁぁ」

「落ち着いてください、栄花様! お気を確かにしてください」

 なんだあの夢は・・・・・・不快だ。

 あぁ、頭が割れそうだ。

 あのような目で―――。

「はぁっ、あぁっ、おぉっ、かはぁっ・・・・・・」

「ちょ、ちょっとあんた、しっかりしなさいよ」

 呼吸がうまくできない。

 何故だ、何故だ、何故だ、何故だ、何故だ。

 我が何なぜ、あのような夢(願い)を見なくてはならん。

「あぁぁぁぁぁぁ!!」

 吐き出せ。

 内に溜まるものを全て出してしまえば、このような事には。

 早く冷静になれ。

 彼女達が脅えている。

 喬公殿にこれでは、本当に頭が上がらんではないか!!。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、・・・・・・大喬に小喬かどうしてお前達がここにいる」

「も、申し訳ありません。お部屋からお声が聞こえたものでつい」

 申し訳なさそうに頭を下げる。

「本当に大丈夫なの? 随分うなされていたみたいだけど」

 心配そうに小喬も顔を覗かせる。

「悪い夢を見ただけだ、それよりも流星はどうした」

「流星様は、夏侯淵様との試合で・・・・・・」

「そうか」

「ちょ、ちょっと、これからどこへ行こうとしているの?!」

 外套に手を伸ばし外に出ようとする、彼に声を掛ける。

「少し、外へ出て気分を変えてくるだけだ」

「いくらんでも、こんな夜中に外に出たら風邪を患ってしまいます」

「そうよ、お姉ちゃんの言う通りよ」

「それなら、お前達も来るか」

「「えっ?!」」

 

 

 目の前にあるのは細長い墓石だった。

「こ、これは?」

「父上の墓だ」

 その言葉に彼女達は黙ってしまう。

「なに、父上については何も覚えて無くてな。そのような顔をすることはない、十年以上も顔を合わせては

いない内に消えおって」

 だが、どこか優しい声色だった。

「それでは、今日がそのお父様の命日なのですか?」

「そんなことは、我には知らんな。もっと別の用事がある」

「もったいぶらずに、いいなさいよ」

 拳を握り、目の前にあるのは墓石を破壊した。

「ひぃ、栄花様」

「ちょっと、さすがにそれは」

 彼の行動に彼女達は驚かずには、いられなかった。

 

「このように形だけで父上を象るなぞ、不愉快だ。それに――」

 地にはどこか、似ている槍が落ちていた。

 紅い血の色をした、槍だった。

 そう、栄花が持っていた得物と全く同一のモノだった。

「どうする、お前達は・・・・・・我は父上の意思を引き継ぎ、こうして手に持った」

 彼は問いかける。

 お前達は、どうする? と。

 彼は父の意思を継ぎ、その槍を我が物として父の存在を見せ付けると。

 私たちがやることは。

「「お父さんが願った平和とこの舞を」」

 同時に動き出し、流れるように舞うその姿は桜の花びらがひらひらと落ちるように美しかった。

 その舞に魅了されるものが絶える事は決していないだろう。

 そう、誰もその舞に飽きる事はない。

「美しいな、大喬・小喬、息をする事さえ憚れそうだ」

 

 いつもと変わらない昼時。

「店主、いつものやつを頼む」

「あいよ、栄花様。いつも、ありごとうございます」

 彼は麺条(拉麺)を食べていた。

「ん? 今日のメンマはいつも違うな」

 この店はメンマがおいしいと評判の店だった。

「わかりますか、栄花様。このメンマは、かのメンマ名人から手に入れたんですよ」

「ほぉ、我もメンマを愛する一人として気になるな。どのような者なのだ」

「はい、あれは青い悪魔です」

 予想としていた、言葉とはかけ離れていたいた、ため反応するのに少し時間がかかった。

「店主よ、我はメンマについて冗談という言葉で済まされるのが、一番嫌いなのだが」

 箸は割れていた。

「ひぃ、落ち着いてくださいよ、栄花様。あれは、物の例えというものですよ」

「すまんな、どうしてもこの頃、悪い夢を見るものでな、許してくれ」

 こうして気を取り直して、お昼の時間を精一杯使い青い悪魔について話した。

 

 

「なるほどな、やはりただ壷にしまうだけはいけないのか」

 思案しながら大通りを歩き、メンマについて考える栄花。

 少し歩けば、小さな菓子店に見知った顔を発見した。

「あら、栄花じゃない。珍しいわね、あなたとこんな所で会うなんて」

「おぉ、栄花。残念ながら、お前にやる菓子はないぞ」

「・・・・・・・・・」

 そこには机を囲むように華琳と春欄と秋欄がいた。

「ふん、春欄にいわれなくてもそれぐらいわかっている」

「くっ、本当にお前は可愛くないな」

「春欄に褒められるとは光栄だな」

「私は褒めてなどいない! ・・・・・・褒めていないよな、秋欄」

「・・・・・・うむ、姉者は間違ってはいないぞ」

 いつもの光景が目に映った。

 

「で、栄花はこんなところで何をしているのかしら?」

「いや、究極のメンマを考えていたら、いつの間にかというわけだ」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 真剣な顔をして話す彼に彼女達は言葉が見つからなかった。

「そ、そう。あなたにも、興味があるものは一つぐらいはあるわよね」

「興味だと?! その言葉は関心せんぞ、姉上。我からいわせてみれば、メンマというものは―――」

 急激に腹に重い一撃をもらった。

「どう、少しは目が覚めたかしら?」

「・・・・・・失礼した、どうもメンマの事になると気がおかしくなる傾向があるらしいな」

 心の中で青い悪魔を滅することを誓う、栄花。

 

「ところで栄花もどう?」

 席は一つだけ空いていて、必然的に華琳の隣となる。

 栄花が席に座ることによって、場がざわつき始める。

 ある者は彼女の姿に惹かれ、ある者は彼の姿に魅了される。

 服装も髪も、対照的ではあるが、それが逆に客達の視線を集めていた。

「くっ、これで勝ったと思うなよ、栄花」

 春欄は、栄花の席を見ながら唸っていた。

 

「ほぅ、これは中々にいけるな」

 口の中に広がるさっぱりとした味は、しつこくもなく彼が好む味だった。

「当たり前でしょ、私が認める店の一つなんだから」

 当然よ、といいながら嬉しそうに胸を張っていた。

「これくらないら体にも支障はないだろう。そこの者、これと同じものを五つ袋にしてもらえないだろうか

?」

「はぁ~~」

 女性は、うっとりした顔をして彼を見つめていた。

「ん? 聞いているのか」

「はっ、はい、すぐにお持ちしますので、少々お待ちを」

 顔を覗きこみようやくそこで、意識を取り戻し顔を赤くしながら店の奥に駆けて行った。

「そこまで急ぐ必要もないのだがな」

 再びお菓子に手を指し伸ばそうとするが、阻まれた。

「あの子は私の獲物よ、手を出したら容赦しないわよ」

「姉上にそのようなことを言われなくても、分かっている」

「ふふ、ならいいのよ」

 そして、ゆったりとした時間が流れる。

 

 

「では、これで失礼する」

「あら、もういいの? せっかくの休みぐらいゆっくりしたら?」

 手土産を持ち、席を立とうとしたときに声を掛けられる。

「流星の体調を見なくてはならんからな」

「随分と気に入っているのね、あの娘のこと」

 流し目で話す華琳。

「いざという時に使い物にならなくては、話にならんからな」

「使い物ねぇ・・・・・・・・・」

 呟く華琳の言葉には哀しみが混じっているように思えた。

「・・・・・・秋欄」

「ん、なんだ」

 この時、初めて栄花から声を掛けた。

「元気そうでよかった」

「―――」

 少年の声で呟き、人混みの中に消えていく。

「本当に不器用ね」

 彼女の言葉に答えるものは誰もいなかった。

 

 目が覚めればいつもの天井が広がっていた。

 ここ数日同じ光景だ。

「私は負けたのですね」

 この言葉も同じ繰り返しだった。

 秋欄と仕合で気を失い、目が覚め最初の言葉は絶対安静で外出禁止だった。

「しかし、いまはこの方がいい」

 秋欄に負け、自分の主の期待に応えれることも出来ず、されにはあのような醜態をさらし、どのような顔

をして会えばいいだろう。

「失望なさったに違いない」

 そうやって自分自身を追い込む。

「できることなら、消えてしまいたい」

 彼女が呟いた後に、部屋に音が生まれた。

 あれは、確かのっくというものだ。

 

 

「どうした流星、食べないのか」

 椅子に座り、何故だか分からないが手にはお菓子を持っていた。

「い、いえ突然の出来事にどう反応したらいいのかわからなくて」

「それならば、心配することはない。怪我人には、こうやって接することが重要らしい」

「そうですか」

 流星は、じーっとお菓子を見つめる。

「それも北郷様からの入れ知恵で?」

「なに、これはおもしろそうだと思いやっているだけだ」

「・・・・・・・・・」

 彼の本心が見えた。

 だが結局、主人の言葉には逆らえない流星だった。

「ふむ、親鳥の心境がわかりそうな感じがする」

「なにをおかしなことをいっているのですか」

 そういいながらも、ちゃっかり食べている姿は微笑ましかった。

 そうして何度か繰り返した頃――

 

「ご期待に応えられず申し訳ありませんでした」

 唐突に彼女は謝りだした。

「・・・・・・・・・」

 彼は無言で最後の一つを差し伸べる。

「・・・・・・・・・い、いただきます」

 彼女はお菓子を口に銜える。

「・・・これが、餌付けというものか」

「!? ひ、人が真剣な話しをしようとしているのに!!」

 真っ赤になりながら叫ぶ彼女は珍しかった。

「ふん、その話しがただの自分への叱責という無駄な行為でなければ聞いてやろう」

「・・・・・・っ」

 彼女が言おうとしていた言葉を切り捨てられた。

「よく聞け流星、我がお前を選びお前が我を選んだ」

「―――」

「我を絶望させるなよ」

「・・・・・・・・・」

 もしかしたら、彼女が望んでいたのかもしれない彼の言葉だった。

 

「流星は、黙って雛のように口を開けていればよい」

「・・・・・・・・・君には敵いませんね」

「当たり前だ、我は主だからな」

 彼がくれた味(モノ)は、いつにもなく甘かった。

 

 城内はいつにもなく慌しかった。

 遅れてきた栄花の耳に、ある言葉が届いた。

 “反董卓連合”

 都を占領し、悪逆非道を働いている董卓を打ち滅ぼそうと。

 そして、それは彼女達にとって名を上げる絶好の機会となり参戦する他になかった。

 その選択は栄光への架け橋かそれとも絶望への奈落の道か――。

 猛将・華雄

 驍将・張遼

 飛将・高順

 天下無双・呂布

 

 世界は廻る。

 英雄達の時代、群雄割拠へと。

 

 あとがき

 

 どうも、SSを書くために原作をやりはじめたら止まらなくなってしまった、どうしようもない夜星です。

 やっと次から反董卓連合の話しへとなりました。

 栄花も紅双、文字通りの二つの槍を手に入れましたので、これからの戦闘シーンをどうしようかと色々と

考えています。

 さて、新しく出てきた高順というオリキャラですが、恋と同等の強さを持った武人ということで解釈して

ください。作者の中では、恋の双子みたいに考えています。

 まぁ、はっきりいってこれって反董卓連合潰すの無理じゃね? と作者は思ってますが・・・。

 一刀なら一刀ならきっとなんとかしてくれると信じています。

 

 ここで、いきなり全く意味がない話になりますがお気に入りが40人を超えました。

 前回の話に一体何が起きたのかと、混乱している状態です。

 数多くの激励をしてくださる、皆様のためにもかき続けたいと思います。

 それと応援者リストに名前が載っていたときは歓喜しました。

 

 だらだらと話しましたが、次回はやはり戦闘・戦闘・戦闘みたいにしたいと思ってます。

 どうなるかは、わかりませんが書き上がったら更新しますので、その時はよろしくお願いします。

 では、またの機会にお会いいたしましょう。


 
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