幕間 恋
ある日の昼下がり、俺と月は前に詠と見てきた街の様子を下に、街の復興案立案に取り組んでいた
「ふぅ、さすがにこの規模の街だと仕事の量が桁違いだな…」
目の前に積まれた書類の山、山、山…正直気が滅入って来た
「でも、街に暮らす人たちのためにも頑張らないといけませんよね」
月がこっちを向いて微笑む…そんな事いわれてはサボれないよなあ
…月ってこういうところは結構強かなのかな、なんて考えていると部屋のドアが勢い良く開く
「きゃっ…え?恋ちゃん?」
そう、開いた扉から入ってきたのは恋だった
「……今、仕事中?」
俺と月を見て少しさびしそうに言う恋
「ああ、悪いな恋。何か用事だったか?」
聞くと首をフルフルとふって
「いい。恋、仕事終わるまで、待ってる」
そういって部屋の椅子にちょこんと座る恋…悪いことをした訳ではないのになにかとても悪いことをした気分だ
チラッと月を見ると月も同じ気持ちだったのかこちらを見ていたのでなんだか苦笑してしまった
とにかく仕事を終わらせないとな…と仕事を再開する俺たちだったが、
じー
…
じーー
……
じーーー
…こんな状態じゃあ土台無理な話である
月と顔を見合わせて嘆息、恋に話しかける
「えーと、恋?じっと見られててもやり辛いってゆうか…」
「…恋、邪魔だった?」
「そんなことはないよ!?でも、なんていえばいいかなあ」
本気で悲しそうな恋にあまり強いことはいえないし、どうしたもんだと思っていると月が助け舟を出してくれた
「じゃ、じゃあ恋ちゃん!待ってるだけじゃ暇だろうし、私たちのお手伝いをしてくれないかな?そうすれば一刀さんの仕事も早く終わると思うし」
ナイス月!!と心の中で喝采を送る俺
恋もそれを聞いて
「わかった。恋もお手伝いする」
と顔を輝かせて手伝いを始めた…
そうして平和に仕事が終わる
…そう思ってた時期が俺にもありました……
「あ、あはは…」
月が苦笑を漏らす
…恋が手伝うといったのは書類の整理だった
まあ、重要な仕事を任せるわけにもいかなかったし「恋にも、片付けくらいできる」と言う恋の言葉を信じたのだが…目の前に広がるのは書類が飛び交う、いうなれば紙版地獄絵図といったところだ
しかもいちばん厄介なのはその中心に居る子で
「♪~」
ノリノリで絶賛<お手伝い>中だった
…まああんなに楽しそうに手伝ってくれている恋に俺たちは何もいえるはずも無く
「れ、恋?仕事は終わったから、もういいんだぞ?」
「そ、そうですね。恋さんのお陰で助かっちゃいました。」
…俺たちは優しい嘘をつくのだった
「終わった?それなら一刀、一緒にお昼寝する」
そういって俺の袖をつかむ恋
「一刀さん、行ってあげてください。ここは片付けて…え?」
「月も、一緒」
そういって月の袖もつかんで歩き出す恋
「え?私はまだ片づけが」
「さっき仕事終わったって言った。月も一刀も疲れてるから一緒にお昼寝する」
そういって月のことばを無視しつつ、俺たちを引きずっていく恋だった…
中庭に来るとどこからとも無く集まってくる動物たち…恋の大切な家族たちだ
木陰まで行くと月の袖をつかんだまま動物達と一緒に寝てしまう恋
「あのう、一刀さん。どうしましょうか…」
恋に袖をつかまれたままなので抜け出すわけにもいかない月が聞いてくる
「まあ、帰ることもできないし…多分、恋は恋なりに俺と月を心配してくれてたんだと思うよ。最近のんびり休んでなかったし、少しだけって事で恋の行動に甘えさせてもらおう」
「…そうですね。じゃあお言葉に甘えちゃいましょうか」
そういって恋の横に横たわる月…すぐに寝息が聞こえてきたしやっぱり月もつかれてたんだろう
「しっかしこうしているととてもあの呂布と董卓には見えないよなあ」
二人の寝顔はとても愛らしく、今が乱世なんて事を忘れてしまいそうなほど幸せそうだった
(やっぱりこの子たちにはこんな笑顔が良く似合うよなあ)
こんな笑顔を守るためにも一刻も早く乱世を鎮めたいと思いながら俺も木にもたれながら眠りについた…
「うう、ん?」
なにか第六感的な寒気を感じ俺が目を覚ますと
「なにこんなとこでサボってんのよ!」
「ちんきゅうきーーっく」
「へぶっ」
いきなり詠に顔面を、ねねにわき腹を蹴られる俺
しかも反対同士から蹴りを食らったため体を逃がすこともできず声も無く悶絶する
「な…な、にを…」
必死にそれだけ聞くといつものように烈火の如く怒る詠が答える
「月にあんたがどこに居るか聞いたらここだって言うから来て見たら…サボってこんな時間まで昼寝なんて良いご身分ねぇ」
そういえばもう日が傾いてきたのか、周りが薄暗い…とゆうか月から?
痛みを堪えながら必死に周りを見てみると
…月どころか恋も動物たちも居なかった…
「え?みん、なは?」
「なにをいってるですか!!お前一人でここで寝ていたではないですか!!」
…多分月も恋も俺が熟睡してるから起こすのは悪いとそっとしておいてくれたんだろうが…こんなことになるなら起こしてくれたほうが良かった
まだ痛みの退かない体を押さえながらそう俺は思うのだった…
霞 幕間
「お、一刀やん」
俺が休憩がてら、庭を散歩していると酒を飲んでいた霞に呼び止められた
「おいおい、こんな昼間から酒なんて飲んでていいのか?」
「今日は非番なんやからかたいこといいなや、なんなら一刀も飲むか?」
そういって酒を突き出す霞
「いや、俺は仕事だし…」
「まあまあ、こんなとこほっつき歩いとるんやから、少しぐらい付き合えや」
そういって無理やり俺を引っ張り寄せる霞
…まあ、もともと休憩のつもりだったし、と霞の相伴に預かることにした
そこから二人で酒盛りとなり、色々なことを話す俺たち
俺はふと気になったことを聞いてみることにした
「なあ、霞。ちょっと聞いてもいいかな?」
「ん?なんやいうてみいや」
「君は、月の事をどう思ってる?」
「何や一刀、ウチが月の事ねらっとるとおもっとんのか?ウチにそっちのケはないで」
茶化す霞だったが俺の真剣な目を見て、言い直す
「月には恋を助けてもろうた恩もある。それにウチ個人としてもあの子の事は守ってやろうと思ってるよ」
何や急に、と酒を飲む霞…俺は彼女なら、と語りだした
「もしかしたらこの先、月は大陸の諸侯たち全員に命を狙われるかもしれない。そうなれば大きな戦になる…その時、君はあの子を助けてくれるか?」
「…もしそんなことがあったとしてもウチや恋は月の味方や、それだけは間違いない…しっかし一刀、自分なんや未来が解るみたいな言い方するやん」
暗い話はここまでとでもいうように口調を明るくする霞
そんな彼女の気遣いが有難く、俺もおどけた口調で言う
「霞は俺が未来から来た天の御使いだって言ったら驚くかい?」
天は帝をさす言葉、ということで変な波風を起こさないためにも洛陽に来てからは天の御使いを名乗っていない
でも彼女になら言ってもいい気がして、つい言ってしまった
「へ?なんやそれ?」
誤魔化す意味も込めて、さあてね、と霞の問いを流しながら酒を飲む俺
「ちょい、教えてくれても言いやぁーん」
絡んでくる霞と酒を飲みながら一日は過ぎていくのだった…
洛陽に来て暫らくの月日が流れた
黄巾の乱は諸侯の軍の活躍もあり次第に勢いを弱め、曹操が首領張角を討ち取ると完全に失速、瓦解していった
洛陽警備に就いている俺たちも黄巾の残党や山賊退治に連戦連勝、新しく取り入れた警備対策と復興策が功を奏し洛陽に活気が戻るなどまさに順風満帆だった
そんなある日、帝から直々に月に宮中に出仕する旨の連絡が入り俺と詠をつれて月は宮中に出向いていた
「董卓。こたびのそちの働き、まことに大業である」
「ありがたきお言葉でございます」
張譲を介さず、少帝自ら月にねぎらいの言葉をかける
「朕は帝になってからというもの、政を部下ばかりに任せ、まったく民を省みることが無かった。しかし、董卓が来てからは洛陽に光が戻ったかのごとく栄えておる。朕もそちを見習い、部下に頼ってばかりではなく政に目を向けるよう心を改めたいと思っておる。今日呼んだのはな、そちにはその手伝いを頼みたいという話なのだ」
「そ、そんな大層なものではありません!…ですが、陛下にそこまで言われては断れようはずもございません」
月は少帝のべた褒めに恐縮しつつも答える
「うむ、では董卓。そちを太師に任ずる。この役は古来より空席となっておったがそちであればかまわん。朕の弟、陳留王劉協もそちを気に入っておる。これより朕と弟、天子が師としてより一層の洛陽の発展に努めてくれ」
「お、お待ちください!」
これに慌てた張譲が割ってはいる
「太師は古来より、天子を助け国政に関与する権利を持った重要な役職。我々に相談も無しにそのような…」
「張譲、朕も今後の洛陽、ひいては漢の事を考えた上での決断じゃ。異論は許さぬ」
「はっ…わ、わかりました」
少帝の強い口調に張譲も口を挟めないのか、引き下がる
「うむ…では改めて董卓、引き受けてくれるな?」
「…はっ、董仲頴。その任、ありがたく拝領いたします」
こうして月は太師に昇進、これにより今までよりも更に漢のために働くこととなった…
忌々しい、と影はひとり呟く
何進を殺し、少帝を据えるまでは良かったのだがその後が問題だった
やはりいかに田舎者とはいえ切れ者で鳴らしていた太守を取り立てたのが失敗だった
最初は軍だけ取り込み、傀儡とするつもりが最初の黄巾退治から予定を狂わされ、軍事だけでなく政治にも口出しをするようになっていた
そしてあろうことか、自分の傀儡である少帝にまで取り入り、今では太師である
あの少帝はおろか、弟の劉協もあやつに懐いており、もはや自分の操り人形にはならないだろうし、もうこの宮中では自分に復権の目はないだろう
だが、まあいい、と影は言う
こうなってしまえばあの兄弟は用済みだ
早々に消し、代わりに劉虞あたりを皇帝に据えればいい
二人を殺し、董卓にその責を押し付け馬鹿で有名な袁家の姫あたりをそそのかせば恐らく面白いぐらいに事がうまく運べるだろう
そうして影はある部屋の前で止まる
「陛下、陳留王様、夜分遅くに申し訳ございません。張譲でございます」
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前回の続き、幕間三話と八話後編です
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