月が太師になって暫らく経ったある日、俺達の下に信じられない知らせが届いた
なんと少帝陛下と陳留王劉協が何者かによって殺害されたらしい
しかもその日のうちに張譲とその部下が失踪
俺たちは宮中に残った文官たちと共に今後についての会議をすることとなった
「恐らく、失踪した張譲一派が今回の首謀者と思われます」
文官の蔡邕さんがいう
聞く所によると皇帝達二人が殺害される前に警備の兵が部屋に入っていく張譲を見たらしい
そして張譲たちの行方だが張譲たちを通した門兵の話によれば冀州…袁紹の治める土地に向かったという
「わ、私が、私が居たせいでお二人は…」
月は二人の死は自分のせいだと悲しんでいた
「月、しっかりして。月は何も悪くない。張譲が全部悪いんだから」
詠が月を励ますが詠自身、誰の責任かなんて事態ではなくなっていると解っているのか心なしか青ざめていた
(くそっ、月が善政を敷いていればそれでいいと楽観視していた俺の責任だ…)
いまさらこんなことを言ってもどうにもならないとわかっていても自分の不注意を呪わずにはいられなかった
「…でも、ここでこうしていても仕方ない。とりあえずは少帝陛下と陳留王様の葬儀、そして都の混乱に対する対処に全力を尽くそう…」
そういって動き出す俺たちだったが俺の頭からは反董卓連合の文字が離れなかった…
天子の死から数日後、一番の懸念だった宮中及び都の混乱はかなりの物であったものの宮中は張譲一派ではないものしか残らなかったため、大規模な内部分裂は防げ、都も月の信頼が篤かったため暴動などは起こらなかった
しかし都の外…ほかの都市では「董卓が天子二人を殺害、宮中を奪った」という噂が後を絶たなかった…
冀州
城である男が袁紹に面会をしていた
「…とゆうように天子を手にかけた董卓は洛陽において暴政を敷いております。私はこれを止められるのは三公を輩出した名家の跡取りである袁紹様しか居まいと命からがら洛陽より逃げ出してまいりました。どうか袁紹様のご威光をもって洛陽をお救いください」
洛陽より逃げた張譲である
「おーほっほっほ!大宦官である張譲さんにそこまで言われては断れませんわ!!斗詩さん、猪々子さん!諸侯の皆さんに文を送りなさい!!このわたくし、袁本初を盟主として反董卓連合を結成しますわ!!」
「れ、麗羽様!この人のことそんなに簡単に信じちゃって良いんですか!?」
斗詩と呼ばれた少女…袁家の二枚看板が一人、顔良が主君袁紹を諫めるが
「まあまあ良いじゃん斗詩。そいつ悪い奴なんだろ?だったらとっちめてやんないと」
猪々子と呼ばれた少女…二枚看板のもう一人でもある文醜が止めてしまう
「ありがとうございます袁紹さま。成功の暁には劉虞さまを帝とした王朝の大将軍の座を約束いたします…それと事は相談なのですが私は董卓から身を隠さねばならぬため、檄文には私の存在を伏せていただきたく存じます」
「あらそう、よろしくてよ。その代わり、大将軍の約束はしっかり守ってくださいな」
おーほっほっほ、と城からは袁紹の笑う声だけが響いた…
陳留
「華琳様!!袁紹から檄文が届きました!!」
「あら、あの愚物にしては行動が早かったわね…まあいいわ。桂花!!春蘭達を呼びなさい!!さっそく軍議に入るわ!!」
はっ!!と桂花と呼ばれた少女…王佐の才とまで呼ばれた軍師、荀彧が走る背中を眺めつつ華琳…曹猛徳は一人思考する
(太師にまで上り詰めた董卓とやらが天子を殺すとは思えないけど…大方、権力争いにでも巻き込まれたのでしょうね。)
しかしそんなことは自分には関係ない、と華琳は考える
(この事態は私にとっても好機…董卓には悪いけど、私の覇業の礎になってもらうわ)
そう考えてひとりほくそ笑むのだった
呉郡
「雪蓮、袁術からの文だ。袁紹の檄文に乗り、反董卓連合に参加するため我等も従軍せよ、との話だ」
「はあ…、あんなクソガキに従軍なんてやってられないわね」
雪蓮と呼ばれた女性…小覇王、孫策がいらだたしげに言い捨てる
「そういうな、この連合には私達にも大きな得がある」
「でもさあ冥琳」
冥琳と呼ばれた女性…呉の大都督、周喩に向き直りつつ雪蓮は続ける
「今回の戦…なーんかあんまり良い事が起こらない予感がするんだよね」
「…それは、いつもの勘か?」
そ、勘…という雪蓮の言葉を聞きつつ考える冥琳
「…しかし、今回は断るわけにも行くまい。軍議を開くぞ、雪蓮」
え~、とごねる雪蓮を宥めつつ、冥琳は準備を始めるのだった
平原
「桃香様!袁紹より檄文が届きました!連合に参加し暴政を働く董卓を討てとの内容です!」
黒髪の女性…義侠であり後の世には軍神と崇められる関羽雲長-真名は愛紗-が叫ぶ
「え!?どうしよう朱里ちゃん?」
桃香と呼ばれた少女…大徳と民に慕われる劉備が朱里…歴史上最高位の頭脳を持つ名軍師、諸葛亮に問いかける
「はわわ、し、しかし董卓さんが暴政を働いている証拠はありませんし…」
「何を言っている朱里!!このような不義を見過ごすことなどできん!!」
「あわわ、す、すみません」
朱里が小さくなってしまうのを桃香が庇う
「愛紗ちゃん、落ち着いて。朱里ちゃんも怖がってるじゃない」
「む…すみません桃香様」
「でも、もしこれが本当なら放っては置けないよ、朱里ちゃん…この連合、参加しても良いかな」
桃香が朱里に向き直って言う
「…桃香様がそうおっしゃるなら私に異はありません」
「うん、ありがとう。愛紗ちゃんさっそく鈴々ちゃん達を集めて相談しよう」
そういって桃香たちは連合に参加を決めるのだった
涼州
「母上、袁紹のとこからこんな文が!!」
「なんだぁ?あの名家馬鹿から文だ?…なんだこりゃあ?」
娘から文を受け取った馬騰は余りの内容に顔をしかめる
「母上!今すぐ一刀たちのところに行って…」
「…いやそいつは無理だ。今董卓軍に合流なんてしたら涼州まで危険にさらすことになる」
「なっ…!じゃあ母上は一刀たちを見殺しにするって言うのかよ!!」
「落ち着け翠。誰も助けねえなんていってねえだろ…。幸か不幸か今は匈奴が攻めてきてるって報告があるから連合に参加しない大義名分はある。その間に奴等を助ける方法を考えるぞ」
そういって親子は匈奴と諸侯連合に対する策を考えるために部屋を後にした
大陸各地に放った斥候により、俺達の元にある知らせが届いた
曰く、天子二人を殺害し、都の政権を牛耳る魔王董卓を討つため大陸各地より諸侯が集結、反董卓連合を組んだ、という話が出回っているらしい
「あんたの世界の筋書き道理になちゃったわね…」
詠が嘆息しながら言う
今俺たち董卓軍首脳メンバーは広間で今後についての会議をしていた
「すまない、張譲に対する認識が甘かった俺の責任だ…」
「…いえ、そんな事言ったら僕の責任でもあるわ。それに今は責任がどうこうの前にこの事態をどうするか考えましょう」
「そうですよ、一刀さん。」
詠と月がフォローを入れてくれる
「…ん、そうだな。それでこれからの諸侯連合の動きだけど」
諸侯連合は冀州の袁紹―張譲が逃げ込んだとされる土地の太守が天下の諸侯に董卓誅すべしの檄文を送ったことに端を発するらしい
それに加え冀州を中心に董卓暴政の噂が広まっていることからもこの件に張譲がかんでいる事は明白だった
そして諸侯連合は今、洛陽の東…兗州に集結していることから恐らく汜水関を通り洛陽を攻める行軍経路をとるようだった
「この戦は私たちの問題です。洛陽の人たちに迷惑をかける訳にはいけません」
「それで、私たちは汜水関そして虎牢関で敵を迎え撃つことにするわ。それで…」
「ちょっと待ってくれ。…汜水関と虎牢関って同じ所じゃないのか?
」
三国志演義では有名な話である汜水関、虎牢関の戦いであるがそれらの関は同一箇所の別名だと何処かの本で読んだ気がする
「はあ?何言ってんのよ。洛陽を守る汜水関、虎牢関って言ったら有名な話じゃないの」
…どうやらこの世界は史実よりも三国志演義に近い世界らしい
「そんなこといいから話を戻すわよ。…汜水関には霞と華雄と僕、虎牢関には恋とねねに行ってほしいの。月と一刀は…」
「いや、詠。詠と月は洛陽に残ってくれないかな?」
俺がそういうと詠が何でよ、と問いかけてくるので俺は続ける
「詠には万が一のために洛陽の人たちを長安に逃がす準備をして欲しいんだ。…洛陽の人たちを俺たちの争いに巻き込むわけにはいかないからね」
あの後洛陽にも月の悪い噂は伝わってきたのだが「董卓様がそんなことするはずが無い!!」と誰も洛陽を出て行こうとしなかったのだ
そんな月のことを慕っている人々を危険な目に合わせるわけにはいかない…と詠を説得する
「…そうね、民を逃がすために僕と月が残るのは分かったわ。でもそれじゃ汜水関に軍師が…」
「そっちは俺が行く」
「な、なにいってるんですか!一刀さん!!」
月が珍しく声を荒げる…でも引くわけにはいかなかった
「聞いてくれ、月。…俺の知っている歴史では、この戦いは負ける。それを変えるには歴史の異分子、つまり俺がいくしかないんだ」
「でも!!」
「それに前この首飾りに約束しただろう?…俺は必ず帰ってくる。だから月は俺の帰る場所を守っていてくれ…頼めるかい?」
そういって月の顔を見る…まだ不安そうな顔をしていた月だったが俺の決意に折れてくれたのか、だったらっ、と前置きして
「絶対に、絶対に帰ってきてくださいね、一刀さん」
といってくれた その気持ちにこたえる為にも
「ああ、約束だ」
そう答える俺だった
「…分かったわよ。月が許すんならいいわよ。汜水関の方はあんたに任せるわ。くれぐれも生きて帰ってきなさいよ」
少し不機嫌そうに言う詠…そんなに俺がいくことに反対なのかな?
「じゃあ、その方針でいくわよ!各自準備しなさい!!」
詠の号令で皆が解散する…俺は独りになった隙を見て詠に話しかける
「詠、ちょっといいか」
「なによ、まだなんかあるの?」
「実は…」
詠に俺の考えを話す
「…わかった。こんな状況ですもの、あらゆる手を打っておかないとね…片方の書状は僕が送っておくわ。もう一つは…」
「俺が持っていく。まあこっちは本当の意味で藁に縋るようなものだけどね」
そういいつつ詠とその作戦について話し合うのだった…
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董卓IF√第九話です
誤字脱字、おかしな表現等ありましたら連絡いただけると嬉しいです
追記 数日前のことなのでいまさらですがお気に入りユーザー100人突破いたしました ひとえに皆様のお陰でございます
この場を借りてお礼申し上げます