「……ねぇ、何固まってるのよ、あんた」
「…………」
墓を作り終え、埋葬した後。
俺は考えに耽っていた。
隣にいる女の子の名前は荀イクというらしい。
しかし、今の現代でそんな名前をつける親はいないだろう。
何より俺はその名前に覚えがある。
そして女の子が言っていた曹操……。
有り得ない可能性が浮かぶ。
でも信じられないと思っていながらも、その考えが正しいと俺はどこかで確信していたんだろう。
「ちょっとっ!!」
「うわっ!?」
キンとなる高い声が耳を襲い、思わず耳を塞ぐ。
原因である女の子を恨めしい目で見ると、何故か凄い不機嫌そうだった。
「……いきなり何するんだよ」
「いきなりじゃないわよ。声をかけたのにあんたが無視したんじゃない」
どうやら考えに集中してて無視していたみたいだ。
「悪い。……で、何?」
「……本当にこんなのが?…………まぁいいわ。
北郷、あんたって天の御遣いなの?」
「天の御遣い?何それ?」
なんだか偉く大層な言葉だな。
「最近そういう噂があるのよ、光る衣を纏った天の御遣いが流れ星にのってやってきて世に平和を齎すっていう噂がね。
そして盗賊から逃げている時、私は昼間だっていうのに流れ星を見たわ。
それからすぐ後、見たこともない光る服を着たあんたが来たって訳」
なるほど、そりゃタイミングが良すぎればそう思うか。
で、天の御遣い……ねぇ。
「でもその様子だと違うみたいね。
それにあんたみたいなのが天の御遣いだなんて信じられないし」
「……確かに俺は天の御遣いなんてものじゃないけど、
多分この世界の住人じゃないと思う」
「…………どういうこと?」
「違ったらあれだけど、君の字って文若じゃない?」
「っ!?」
驚く顔を見ると正解みたいだな。
「なんで教えてないのに、私の字を知ってるの!?」
「待って、あと少しこっちが質問していいかな?」
「…………………何よ」
「ありがと。
じゃあ、荀イクが言ってた曹操って魏の曹孟徳のこと?」
「曹操さまはあってるけど、魏?曹操さまは陳留の刺史よ」
「え?」
……まだ魏は出来てないのか?
じゃあ……
「それじゃあ、黄巾党、劉備、孫権、この中で聞いたことあるのってある?」
「……黄巾党や劉備なんてものは聞いたことないわね。
でも孫権なら、確か袁術の客将の孫策の妹だったかしら」
……黄巾党はまだで、呉も独立出来ていないか。
「最後に、今って漢王朝かな?」
「そうよ。何当たり前のこと聞いてくるのよ」
……信じられないけど、決まりだな。
「で、いい加減あんたは何なのよ?」
「……俺自身も信じられないんだけどさ、俺はどうやら未来から来たみたいなんだ」
「………………………………………は?」
いや、そんか可哀相な人を見る目で見ないでくれ。
「……あんた馬鹿じゃないの?」
……口にも出さないでくれ。
「とりあえず……俺の話を聞いてくれないか?」
「はぁ…………言ってみなさいよ」
「うん。曹操や君、荀イクは俺のいた国じゃとても有名な人物なんだ……1800年前の人物としてね」
俺の言葉に筍イクは表情を変える。
「詳しく教えなさい」
「分かった」
そして俺は今考えている現状の予想を筍イクに話した。
「……なるほどねぇ」
頷きながらも少しも納得のいった表情はしていない。
当たり前か、こんな突飛な話。
「やっぱり信じられないよな」
「……正直、半信半疑よ。でも完全には否定できないわ。
曹操さまならともかく無名の私まで知っているっていうのは、未来の知識で知っていたからだとすると一応の説明はつくもの」
「でも完全に未来とは言い切れないんだ、俺の世界じゃ曹操や荀イクは男だったって話だから」
「や、やめなさいよっ穢らわしい!
私や、あろうことか曹操さまをあんた達みたいな汚い男と一緒にしないでよ!!」
うん、話しててずっと思ってたけど、この子男が相当嫌いなんだな。
あれ?でも……
「荀イクは男嫌いなんだよな?」
「当たり前でしょ!あんな低脳で醜い者、近づきたくすらないわ」
「……だったら俺はいいのか?」
「え?」
「いや、近づきたくすらない男である俺と、今凄く近くにいるんだけど……」
ちなみに少し近づけばキスできるくらいには近い。
「…………」
「…………」
筍イクは何を言ってるか理解してない顔から、徐々に顔が青くなっていく。
「〜〜〜〜〜ひっ」
そして、爆発した。
「いやぁぁーー!!」
「ごぶぅっ!?
ちょ、今腹に肘がいい角度で――」
「近寄らないでよっ!妊娠しちゃうじゃない!!」
「いや、何もしてないのに妊娠は――」
「はっ!まさか最初から私を犯すために近づいたの!?
これだから男は……いやぁ犯されるぅー!!」
「いやいやいやいや」
「近づかないでって言ってるでしょ!
染るじゃないっ!!」
「何がだよ!?」
ダメだ、混乱して話が全然通じない。
「こ、これ以上あんたみたいな獣と一緒になんていれないわっ!
じゃあね!」
「あっ!」
荀イクは混乱したまま傍に控えていたあの馬に乗る。
「さぁ早く逃げるわよっ!
でないと孕まされちゃう!」
それから俺を残して此処から逃げようとした――――のだが。
「…………」
「…………」
「ヒヒン」
「な……なんで動かないのよ!」
荀イクが騒ぐが馬は無視して動かない。
というか気にしないようにしてたんだが、
この馬さっきから俺のことを熱い瞳で見ている気がするんだけど……。
「ちょっと!あんたは私が買った私の馬なのよ!
だから言うこと聞きなさいよぉ!」
「ヒ〜ン」
「あは……はは」
濡れた瞳でウィンクしてきたよ。
「きーーー!!
私の話を聞きなさいよーーー!!」
ぽかぽかと馬を叩く荀イク。
まぁ、痛くはなさそうだな。
けど、いい加減鬱陶しくなったのか馬が体を上下に激しく振り出した。
「ヒヒ〜ン!」
「えっ……きゃあっ!?」
「危ない!」
その反動で荀イクが馬から落ちる。
それを慌てて、何とか受け止めることに間に合った。
「だ、大丈夫か?」
「え、ええ……ありがと――」
「…………」
「…………」
見つめ合う俺たち。
腕で抱えているので、もちろん二人の距離は近い。
再び青くなっていく荀イクの顔。
「……ひっ」
この後、五回程同じやり取りを繰り返した。
「はぁ……はぁ……」
「いい加減俺がそんな気がないって分かってくれたか?」
「仕方ないから……一応……信じて……あげるわ……」
俺よりずっと騒いでいた分、荀イクは息切れしながら地面に座り込んでいた。
「とりあえず水飲むか?」
「っ!そこから近づかないでって言ったでしょ!」
言葉通り、荀イクが混乱するから今は五メートルほど距離をあけていた。
だけど――
「水はこっちにあるんだから仕方ないだろ?
それに喉乾いてんじゃないか?」
「くぅ……!でも……」
「水、いらないのか?」
「……………いる」
「じゃあ近づくからな」
「ゆっくりよっ、ゆっくり来ないと殺すから!」
物騒なこと言うなよ……。
で、無事水を飲んで落ち着いた後。
気になることを聞いてみた。
「これから荀イクはどうするだ?」
「なんであんたに教えないといけないのよ」
「…………」
なんか俺初めより嫌われてね?
「別に教えてくれてもいいだろ」
「……分かったわよ。
このまま陳留に行くわ。
もともと曹操さまの軍に入るために旅をしていたもの」
「なるほど」
史実通り、荀イクは曹操のところに行くのか。
ちなみに筍イクには自分のことは話ないように言われた。
半信半疑の俺の言葉に左右されたくはないそうだ。
んで、曹操か……。
今俺には行くところも帰るところもない。
だったら俺も曹操のところへ行ってみるのがいいか。
「なぁ、荀……イク」
そう決めて顔を上げて見ると、筍イクは再び馬に乗っていた。
「えと……荀イクさん?」
「じゃあ、私行くから」
「行くじゃなくて……俺は?」
「はぁ?あんたのことなんか私は知らないわよ。自分で考えたら?」
心底どうでもいいって顔で言う。
……それはないんじゃないか、荀イクさん?
「それでも一応助けて貰った恩はあるから、私が曹操さまの部下になったら救助隊くらいは要請してあげるわ」
「……それまでの食料は?」
他の人が持っていた水や食料は馬につんである。
つまり、置いていかれると水も食料もない状態になる。
「そこらへんの草でも食べていればいいじゃない」
あんた鬼ですか?
「じゃあね」
「ちょ、置いていか……な……いで……」
「…………」
「…………」
うん、そういやさっきもあったね。こんなこと。
「な……なんで動かないのよぉ!」
「ヒヒン!」
「きゃっ」
また馬が上下に動き荀イクが馬から落ちる。
今度は距離が離れていたため助けられずに荀イクは尻餅をつく。
そして馬はそんな荀イクを鼻で笑って(ように見えただけ)、俺の前に来たかと思うと背を下ろした。
「……えと、乗れってことか?」
「ヒン!」
いや、頷かれても……。
「ちょ、ちょっと待ちなさいっ!あんた主人である私じゃなくてソイツを乗せようとしてるのよ!!」
「ヒ〜ン」
だからそんな熱い瞳で見ないでくれ。
「きーーー!!
聞いてる――『ブオン!!』」
瞬間、強い風が荀イクの頬を掠めた。
「あ……ぁ……」
また尻餅をつく。
でも仕方ないだろう。
勢いのある蹴りが荀イクの頬を掠めたんだから。
もちろん蹴ったのは馬。
恐ろしい速さだった。
「しかし……困ったな」
荀イクは呆然と尻餅ついたままだし、馬は俺に色目を使ってくる。
どうしろと?
で、どうなったかというと。
「……最悪だわ」
「これしか方法が思いつかなかったんだから諦めろって」
「うるさいわねっ!
それより動かないでよ、染るじゃない!!」
「だから何がだよ!?」
俺たち二人は馬の背に乗っていた。
俺の前に荀イクが座る感じでだ。
あれから何回試しても馬は荀イクを乗せようとせず、俺の前に背を降ろすだけだった。
此処から陳留までは馬で急いでも5日以上はかかるらしく、歩きでいくのは無理。
だが馬は乗せてくれない、さぁ困ったぞ。
っとなり、じゃあ俺と一緒に乗ればどうなんだ?って話がでて試すと乗れた。
で、現在に至る。
うん、荀イクには物凄く反対されたし騒がれて殴られてのてんやわんやだった。
が、最終的に馬に乗っていかないと無理と諦めて承諾したのだ。
「う〜気持ち悪い。
なんで男なんかと一緒に……」
「そういうなって」
「……うるさいっ」
完全に怒ってんな。
というか俺のせいじゃないんだが……。
でも役得ではあるな、荀イクは女の子。しかも可愛い。
そんな子とくっついて馬に乗ってるんだ。
自然と体も触れ合うわけで……とても柔らかいです。
しかもいい匂い。
……………あ、しまった!
そんなことばっか考えてたら……!
「……ねぇ」
「……何だ?」
「さっきから何かお尻に硬いものが当たってるんだけど。
まさか、あんた……」
「いやぁ〜」
「誉めてないっ!
最低っ、あんた何考えてるのよ!
……ひっ、やっぱり私を孕ますつもりなのね!?」
「いやぁ〜」
「否定しなさいよっ変態!
く〜〜〜やっぱり一緒になんて間違いだったのよ!
って抱きしめるな!!」
「だって落ちたら危ないだろ?」
「あんたが落ちればいいじゃない!
うぅ……もうやだぁー!!」
「あはは」
「笑うなっ、死ね!あんたなんか死んじゃえ!!」
――こうして俺たちの旅が始まった。
でもそれは、これから長く続く物語の始まりの始まりでしかなかったんだ。
あとがき。
今回は此処までです。
次回に新しい恋姫キャラが登場します。
それにしても真・恋姫がPSPで出るのを昨日初めて知りました。
どうやら追加要素も多く、EDも各ルート二つ用意されているらしい。
これは魏ルートは買わないといけないですねっ!
でもPSP持ってない……出費がかさんでしまいます……。
ま、そんな話は置いといてコメント返していきます。
村主さん>桂花は無印時代から大好きなキャラなんですよ。でもツンツンした桂花が好きなので、僕の作品ではあからさまにデレることはないでしょう。
BookWarmさん>別のところで投稿してましたからね。続きはここで頑張って書いていきますね!
分かりました。今後も見て下さいね。
それではまた次回に。
支援してくれた人、コメントくれた人、お気に入りにしてくれた人、何より見てくれた人、
いつもありがとうございます。
また見てくれると嬉しいです。
Tweet |
|
|
60
|
5
|
追加するフォルダを選択
一章その3です。
話が余り進んでないですが、楽しんでもらえると嬉しいです。