「テメェ……いきなり何しやがる!!」
「何かしてたのはアンタたちだろ!女の子を襲おうとして!
大人として恥ずかしくないのかよ!」
「はっ!ガキが説教か?
こちとら大人の恥なんてとっくに捨ててんだよ!!
盗賊なめんな!」
「――盗賊?」
その言葉を聞いて俺の頭は要約冷静になった。
が、冷静になった途端冷や汗が出てきた。
見れば蹴り飛ばした男以外、各々武器を構えて俺を睨んでいた。
あれって本物?玩具じゃないよな……?
さっき見た殺されていた人たちの状況から見るに……本物。
「と、盗賊?何言ってるんだ?
今の時代盗賊なんていないに決まってるだろ?」
自分に言い聞かせるように言う。
でも、体の震えは止まらない。
足がガタガタ震える。
「なんだお前?怯えてるのか?
……へっ、よく見りゃいい服着てるじゃねぇか。
それにその小せぇ剣も売りゃ高く売れそうだな」
「な、なんだよ。
これは家の家宝なんだ……やらないぞ!」
「ああ、別にくれなくていいぜ。
……テメェから奪やぁいいんだからなぁ!!」
「っ!!」
慌ててその場から跳び引く。
そのすぐ後に何かが刺さる音がした。
体制を整えつつ見ると、リーダー格の男が振った斧が俺の後ろにあった木に刺さっていた。
……やっぱり、本物!!
心臓が速くなるのが分かる。
冷や汗が大量に流れ息も上手く出来ない。
今俺には、殺されるって恐怖心が身体中を占めていた。
その時――
「馬鹿っ!!左から来てる!!」
焦った女の子の声に従うように視線を動かすと、
男の一人が槍を構えて間近まで来ていた!
「死ねぇええ!!」
「うわあぁぁ!!?」
間一髪。
情けない声を上げながらも男の攻撃を交わし地面を転がる。
「はっはっはっ……!」
荒い息が漏れる。
なんだよこれ……?
本当に死んでしまう……!
「あ、あんた大丈夫なの!?」
「え?」
振り向くと襲われていた女の子が目の前にいた。
俺を殺すために男たちが女の子から離れ、さっきの転がりで俺が此処に来たんだろう。
「あんた私を助けに来てくれたんじゃないの!?
なのにやられそうになってるってどういうことよ!」
「どういうことって……俺が聞きたいよ」
いきなり知らない場所にいて、いきなり殺されそうになってて……
本当にどういうことだよ!
……でもこの女の子を助けに来たのは事実だ。
この子だけでも助けないと……。
「……逃げてくれ」
「え?」
「……俺が何とか食い止めるから君は逃げてくれ」
そうだ。
せめて逃げてくれれば……。
「……無理よ」
「な、なんで!?」
「…………こ、腰が抜けて、立てないの!!」
…………なんてこった。
「そ、そうだ!
あの馬に乗っていけば……!」
「……あんたを降ろしてからまたどっか行っちゃったわよ」
うそーん。
言われた通り、あの馬の姿は何処にもなかった。
いい奴だと思ってたのに……!
「……どうしよう?」
「どうしよう?じゃないわよ!
あんた男ならなんとかしなさいよ!!
私は絶対、曹操様の所に行くまでは死ねないんだからっ!!」
「―――曹操?」
曹操……。
三国志に出てくる曹操のことか?
なんで曹操?
それにどうして……
その名前に痛いほど胸が締め付けられるんだ?
「なんで……痛っ!?」
頭が急に……!
「え?な、何よ?
どうしたの!?」
「くっ……俺は……っ!?危ない!!」
「きゃあっ!?」
痛む頭を我慢しながら女の子を抱えて転がる。
さっきと同じように、俺がいた地面に男の斧が刺さっていた。
「なぁに俺たちを無視して話してやがんだ、あぁん!?」
怒る男にまた冷や汗が流れる。
そうだった。長々話てる暇なんてない!
この子を何とかして逃がさないと……!
「ちょっといきなり何するの……って、いやぁ!!何抱きついてるのよ!変態!!」
「イテッ!?たたくなよ!そうしないと俺も君も死んでたんだぞ!」
「ふぇ?………………あ」
女の子も状況を理解し、再び怯えだす。
「へへ、やっと観念したか?」
男たちの目は完全に俺たちを見下していた。
理解出来てしまう。
こいつらは人を殺すことに何も感じていないって。
むしろ喜びを感じている……。
今まで以上の恐怖が俺を襲う。
殺される人の気持ちってのは、こういう気持ちなのか。
なんて間抜けなことも考えてしまう。
お笑いだ。
俺は今まさに殺されそうになっているのに……
なのに……。
「あ、あんたその武器は?それ剣なんでしょ!だったらそれで何とか出来ないの!?」
そう、俺には戦う武器がある。
生き残る可能性がある選択肢。
だけどそれは同時に目の前の男たちを殺すことになる。
俺は何よりそれが怖かった。
「出来ない……」
「何でよ!」
「人を殺すなんて俺には出来ないよっ」
「なっ!?こんな時に何言ってるの馬鹿っ!!
このままだと私たち殺されちゃうのよ!?」
「っ!?」
殺され……る?
この子が?
そうだ。俺が死ぬだけじゃない。
この子も殺される……。
「心配すんなよガキ。
その女は俺たちがたっぷり楽しんだ後に殺すつもりだ。
だから今から死ぬのはお前一人だ」
……そんなことさせたくない。
俺という存在全てが訴えていた。
女の子を助けないといけないって。
「そろそろ俺たちも疲れてんだ。
だからいい加減……」
殺されるのは嫌だ。
人を殺すなんてもっと嫌だ。
でも、この子が酷いめにあって殺されるのは……絶対嫌だっ!!
「死ねや!!」
だから俺はっ!!
数秒……沈黙が流れた。
男たちも女の子も驚きの顔をしている。
「ど、どういうことだ!」
俺に斧を振り下ろしたリーダー格の男の言葉。
焦りの言葉。
理由は簡単だ。
「なんでそんな小せぇ剣で俺の斧を受け止められる!?」
男と一振りを俺が『地刀』で受け止めたのだ。
「『地刀』は名前の通り、生きとし生ける者たちを支える大地のように、どっしりと重く硬い刀。
そんな斧ぐらいで折れたりはしない」
受け流すことが基本の刀でも耐えきれず折れることなんてザラにある。
それを無くすために作られた護りに特化した最高の一振り。
それが『地刀』。
「そして――」
「はぇ?」
男の呆けた声も当然だろう。
俺はもう一つの刀、『一天』を抜き、男が持つ斧ごと男を振り抜いた。
「天をも切り裂く一振りを生み出すと言われた『一天』。
その切れ味はそんな斧なんて豆腐みたいに切り裂く…………あんたごと」
「はびゅっ」
果たして最後まで俺の言葉は聞こえただろうか?
奇妙な声をあげ、男は縦に血飛沫をあげ、真っ二つになった斧ごと倒れた。
「兄貴――!!」
「や、野郎!!」
「う、うわぁー!!」
男たちが叫ぶ中、俺の頭の中は一つのことでいっぱいだった。
……殺した。
俺が人を。
殺した殺した殺した人を殺してしまった殺した殺しちゃった殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した。
本当なら今すぐ胃の中にある全てを嘔吐して、狂ったように叫びたかった。
大声を出して泣きたかった。
でも俺はこの子を護るんだ。
死なせたりなんかしない。
絶対護るんだ!
「よくも兄貴を!!」
「このクソ野郎がぁ!!」
「仇とってやる!!」
――周りの動きが遅くなった。ちゃんとこの状態に入れたな……。
――この状態になったことで分かる。
目の前の男たちは不動先輩より弱い。
――それでも怖い。
こいつらは俺を殺そうとしていて、女の子も殺そうとしている。
――余裕なんて持てる筈もない。手加減なんて問題外。
――やらなきゃ死ぬ。
――まださっきの感触が鮮明に残っている。気分が悪い。夢なら覚めて欲しい。
――でも少なくとも現実で、俺がやらないと俺が、何より女の子が殺される。
――だったらやるしかないじゃないかっ!
――殺すしかないじゃないかっ!
――くそったれ!何で……何で何でこんなこと……俺はしたくないのに!
――どうして!!
「うおあぁぁぁぁ!!!!」
「はぁ……はぁ……」
『一天』についた血が流れ落ちる。
蒸せかえるような臭い……血の臭い。
盗賊の男たちが地に倒れ伏していた。
息はない。
俺が……殺した。
「ねぇ……大丈夫?」
女の子の声に答える元気はなかった。
というか今は何も考えたくなかった。
嫌なことは忘れて、寮のベッドで寝たい。
今日のことは全部夢にして……。
「ちょっと返事くらい……っ!?危ないっ避けて!!」
「――え?」
首を動かす。
すると、一番最初に馬に蹴られた男が俺に剣を振り下ろしていた。
目を見開く女の子。
血走った目の男。
迫る剣。
避けられない……。
人を殺した罰が当たったのかな?
なんて思い、なかば諦めたように目を瞑る。
だが、剣は俺に届くことはなかった。
「ヒヒーン!!」
「ぷげらっ!?」
逃げたと思っていたあの馬が今度は男の顔面を蹴り飛ばしたのだ。
男は三回転した後、ぐたっと倒れ動かなくなった。
恐らく死んだんだろう。
俺は馬に視線を移す。
どうだ!と言わんばかりに俺を見ていた。
「お前……逃げたんじゃなかったんだな」
そんなことを言いながら、俺は少し笑えた。
あの後、まだ腰が抜けて立てない女の子の回復を待つ間、馬……女の子の馬だったみたいだ……を借りて、荒野で殺されていた人たちを林へと運んだ。
「何……してるのよ」
「うん、ちょっとね」
今俺は盗賊が持っていた斧の刃を外し、縦から横に縄で付け替えて地面を掘っていた。
そんな俺に、既に立てるようになった女の子が聞いてくる。
「ちょっとじゃ分からな………………だいたい想像はつくけど。お墓?」
「うん。……あのまま荒野に置き去りなんて、あんまりだろ?」
「……そうだけど。だけどどうして盗賊の死体も運んで来てるの?」
「墓を作ってるんだから、埋めるためだよ」
その言葉に女の子は眉毛を吊り上げた。
「はぁ?何で襲ってきたこいつらの分まで……?自業自得じゃない」
「……それでもだよ。流石に同じ穴には埋めないけどさ」
殺された人たちと盗賊たちの墓は少し離れて作るつもりだ。
流石に一緒はないだろう。
「……呆れたお人好しね、あんた」
「それは違うよ」
「え?」
「これは俺のためにやってるんだ。
このぐらいでもしないと殺した罪悪感で発狂しそうなんだ」
確信がある。
女の子がいなかったら間違いなく狂っていた。
「……盗賊なんて人の皮を脱ぎ捨てた獣じゃない。気にしても仕方ないわよ」
「人だよ」
作業を一旦止め女の子を見る。
「どんな酷いことをやっていたとしても、俺が殺したのは間違いなく人なんだ」
「………………ふんっ」
しばらくお互い見つめ合っていたが、機嫌悪そうに女の子が顔を背け、
それを見た後、俺は再び穴を掘り始めた。
それから少しして……。
「……何してるの?」
「見て分からない?穴を掘ってるのよ」
「なんで?」
「こいつらは男だけど盗賊から私を逃がそうとしてくれたから……人としての礼儀とお礼よ」
バツが悪そうにそう答え、女の子は小さなスコップのような物で穴を掘るのを手伝ってくれた。
そんな姿に自然と笑みがこぼれる。
「お礼か……そっか」
「……言っておくけど盗賊たちのはしないわよ。そんな義理ないもの」
「わかってるよ」
そんな事を言いながらしばらくは二人一緒に穴を掘り続けた。
「そう言えば……俺は北郷一刀、君は?」
「……男に教えるなんて本当は嫌だけど仕方ないわね。荀イクよ」
「ふ〜ん荀イク……荀イク?」
待て待て。
何だか嫌な予感が……。
そう言えばさっき曹操とか何とか……。
曹操、荀イク……ん?
え?
あとがき。
今回は此処までです。
この作品で初めての恋姫キャラは桂花です。
好きなキャラトップ3に入るぐらい好きなので、これからこの子はきっと特別扱いされていくと思われます。
ではコメントを返していきます。
aoirannさん>そうですねwでもチョウ蝉との絡みはおそらく無いので大丈夫でしょう。
ヒトヤさん>はい、その通りで魏の知将である桂花です。
村主さん>一章の終わりには方針が決まってるので楽しみにしておいてくれると嬉いです。
おやっと?さん>はい桂花でした。記憶の方は戻るとしても簡単には戻すつもりはないですね。
此処まで見てくれてありがとうございます。
前回もたくさんの人に見てもらえたようで嬉しかったです。
頑張っていくのでまた見て下さい。
ではまた明日。
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一章その2です。
ちなみに一章は全部で七話で終わりです。