No.134618

双天演義 ~真・恋姫†無双~ 六の章

Chillyさん

双天第六話です。

今回の流れもコミック版から。白蓮さんはいい人で有能(……ハズ)です。こんな人だから乱世に飲まれるんだよなぁ(--;

う~ん、時間があんまり進まないが流したくもなし。気長に書いていきたいと思います。

2010-04-05 21:44:23 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:3002   閲覧ユーザー数:2669

 抜けるような青い空。

 

 活気溢れる街並。

 

 隣には桃色の髪のニコニコ笑顔の美人さん。

 

 これぞわが世の春!

 

 と言いたいけれど、後ろを歩く護衛の兵士の方々がそれを全て台無しにしているよな。

 

「ねね!御遣い様!」

 

 隣を歩く劉備さんが肩を落としていたオレをつついて、元気な声をかけてくれる。

 

「あの土煙は何?こちらに向かってきているみたいだけど」

 

 好奇心いっぱいです!と言っていいほど瞳を煌かせ、前方に見える土煙を指差してオレに尋ねてきた。

 

 土煙を上げて近づいてくる物体、いや物体たちは一直線にオレのほうへとやって来ている。

 

「まずい!もう見つかったか!」

 

 土煙の集団来襲に備えオレは劉備さんの前に出て身構えるが、劉備さんは不思議そうに首を傾げるだけ。そりゃ説明してないんだ、そうだろう。だがこの集団に対して無防備にその姿をさらそうものなら、あっけなく引きずり回され体力の限界まで挑戦する羽目になる。

 

「えぇと御遣い様。囲まれちゃったんですけど、これって……」

 

 別働隊がいたらしく、劉備さんはすでに子供たちに囲まれもみくちゃにされていた。“キャ、誰?お尻触ったのぉぉ”なんてうらやま……いや、すでに被害にあっているようだ。

 

「御遣い様ーくらえーーーー!」

 

 その声が聞こえたときには、もう目の前に木製の靴の裏があった。

 

 意識を劉備さんに向け、後ろは無警戒だったオレは飛び込んできた子供に蹴られ、無様にも後ろに吹き飛んでしまう。後ろと言うことは当然かばっていたはずの劉備さんがいると言うことで……。子供達に囲まれ動きの取れない劉備さんの胸の中へ飛び込んでしま……えずに、子供達も含め、サッと避けられてしまった。

 

 そして追い討ちをかけるように、倒れた俺に遠慮なく飛び乗ってくる子供たち。

 

 その様子を楽しげに笑顔を見せる劉備さん。

 

 あの討伐が終わった日の夜、伯珪さんに頼まれた仕事をオレはやっている。

 

 討伐自体は簡単に終わると言う伯珪さんの言葉通り、追撃部隊は襲撃された邑を出発して二日目の夕方、オレたちが待っている邑にほぼ無傷に近い形で戻ってきた。

 

 多少の怪我人は出たようだが死者は出ずにすんだようだ。もちろん伯珪さん、越ちゃん、子龍さん、関羽さん、張飛さんにはまったく怪我は無く、元気な姿を見せてくれた。

 

 この邑の復興に使う部隊のみ残り、後は翌日帰参するための準備に慌しい中、オレは伯珪さんに呼ばれ、彼女の天幕を尋ねた。

 

「伯珪さん、オレに用事らしいけど……って先客がいたのか、また来たほうがいいよな?」

 

 天幕に入ると先客として関羽さんがいたので出ようとしたが、伯珪さんに止められた。

 

「二人に用があったんだ。構わないから入ってくれ」

 

 伯珪さんに言われ天幕に入るも居心地が悪い。関羽さんにものすごく睨まれています。あの名前を言ったことが気になるようで、常に警戒されていますよ、本当に。

 

 しかしオレと関羽さんとの接点が思いつかない。二人“に”用ということは関係性があるはずなんだけどな。

 

「さっき桃香が……劉備が私の元で手伝いたいと言ってきた。関羽、それは知っているな?」

 

「はい、桃香様の理想実現のため、お力を拝借したく思います」

 

 関羽さんが伯珪さんの言葉に頷きながら返答するも、その返答っていいのかね。仕事は一応するけど部下にならない、何かあったら力貸せってことなのかな?やっぱり劉備さんってあのホワホワした印象と違って強かな人なんだろうか。

 

 関羽さんの返答を聞いた伯珪さんはと言うと、思いっきり笑ってらっしゃる。

 

「いや、桃香にしろ関羽にしろ、正直すぎるな。堂々私はあなたの部下にはなりませんが、力だけは使いますと言ってしまうんだから、始末に悪い」

 

 ちょっと心外そうにしているが関羽さんは自分が間違ったことは言っていないと堂々としたものだ。

 

「私が盧植先生のところで、桃香と一緒に勉強していたのは知っていると思う。そのときは先生がなぜ桃香を高く評価するのがわからなかった」

 

 そう言って伯珪さんはオレたちを順々に、話についていけているか確認するために見つめる。

 

「だって桃香ときたら、勉強はそれほど出来ないくせに、やれどこそこの人が大変だ!やれどこそこの畑が忙しい!と、先生の授業そっちのけで人の手伝いをしていたのだからな」

 

「それでこそ桃香様というものです」

 

 昔を懐かしむように目を瞑り、劉備さんについて話す伯珪さんに同意する関羽さん。満足そうに肯いているけど、今の話って勉強できないし授業もサボりまくっていたって言ってない?

 

「桃香は皆に勇を振るわせる武もない、天地の理を知る智もない。あるのは青臭いと言える理想のみだ」

 

 伯珪さんがそう言った瞬間、関羽さんの顔色が変わる。目がつりあがり、顔色が赤く染まる。

 

 関羽さんが何か言い出す前に、伯珪さんは手でその行動を制し話を続けた。

 

「だけど太守になって、何故先生が桃香を高く評価していたかわかったんだ。桃香は人の話を真摯に聞いて、それを取り入れることが出来る。まぁ頑固に意見を変えない部分はあるけれど、その真摯に人の話を聞くって事はとても大事なことだ」

 

 ここで一旦話を止めて、再びオレたち二人を見つめる。そして“ドカッ”とその場に座り込むと疲れたようにため息をついた。

 

「だからこそ、自分の野望を隠して私の配下になると言ってくれば、適当な地位と権限を与えることができたんだけど……正直に話すんだもんなぁ」

 

 トホホと乾いた笑いを漏らす伯珪さんを哀れとは思うまい。さっきまで怒り心頭で顔を真っ赤に染めていた関羽さんも、勢いをそがれて眉をハの字にして困り果てている。

 

「なぁ……諏訪ぁ、良い案ないかなぁ?」

 

 困りきったような、いや実際困りきっているんだろう顔でそんなこと言われれば、助けたくなるのが人情だけど、こと人事に関してオレ口出ししていいのかね。関羽さんの顔を窺っても、手を振って拒否される始末。たしかにこの問題で関羽さんに頼るのは間違いだとは思うけど、すこしくらい考えてくれても良いと思うんだけどね。

 

「いっそのこと地位とか権限、度外視してしまえば?」

 

 暴論だけど地位とか権限つけられないならつけなければ良い。あそこまで力をつけたら出て行きますと正直に言っているのだから、下手に地位と権限を与えることはないと思う。チラっと関羽さんを見ると、何か言いたいけれど言うわけにはいかないとか思っているのか、苦虫を噛んだような表情をしている。

 

「んー……やっぱり、それしかないか」

 

 オレの言葉からと言うわけではないだろうけど、何事か決めたようで伯珪さんはそう言うと立ち上がった。そして関羽さんのほうを向き、確認をとる。

 

「これから言うことに異論があれば、即座にここを出て行ってもらって構わない。だが私は決して桃香を疎んじているわけではないことを先に言っておく」

 

 この確認にいぶかしげな表情を浮かべるも、まずは聞かないことにはどう行動するか判断ができないと考えたのだろう、幾分逡巡してから関羽さんは肯いた。

 

「まず関羽、張飛両名には客将として兵を指揮してもらう」

 

 この辺は納得だろう。伯珪さんもあの二人の力を賊討伐のときに確認しているだろうからただの一兵卒としては扱えないだろう。関羽さんも納得なのかここはすぐに肯いている。

「しかし……桃香は武官はもちろん文官としても雇うわけにはいかない」

 

「ちょっと待ってください!それでは桃香様は何をしろと!?」

 

 あまりの言葉に黙って聞いていた関羽さんは、思わず伯珪さんに詰め寄った。たしかに劉備さんを雇わない宣言はこの人にとっては許しがたいことだろうなぁ。ここに劉備さんがいたらどう反応しただろう?きっと“愛紗ちゃんと鈴々ちゃんを雇ってくれて、白蓮ちゃんありがとう!”と喜んでいるだろうな、自分が雇われないと言われても。

 

「関雲長さん、落ち着いてください。きっと話は終わってませんから」

 

 オレはとりあえず関羽さんを伯珪さんから引き剥がす努力はする。うん努力だ。なんつう力だよ、この細腕でどうしてここまでの怪力がだせるんだよ。伯珪さんもつかまれている肩とか二の腕とか痛そうにしているし。

 

「しかし!あそこまで桃香様を評価しておいて、どうして!」

 

 興奮しているようで聞く耳を持ってくれそうにない関羽さん。このままでは怒って出て行ってしまうかと思っていたら、伯珪さんが何とか動かせる左手で優しく関羽さんの頭を撫でた。

 

「関羽。桃香の事をそこまで真剣に思ってくれて、あいつの友として礼を言う。だからこそ、その忠と武を私の兵たちに見せつけてくれ。そうすればお前達がここを旅立つときに付いていく兵も出よう」

 

 撫でた左手で優しく関羽さんの頭を胸に抱き、諭し語りかけるように話す伯珪さんの言葉にハッとしたように息を呑む、関羽さんがいた。

 

 劉備を雇わないことに納得はできない、しかしこの提案に反発することは出来ないだろう。彼女達にとって兵を持てること、これは名を上げるためには絶対に必要だ。しかもその兵を集める所の太守が公認で募集して良いと言っているのだ、断る道理は無い。

 

「しかし、桃香様は……」

 

 でも劉備の扱いに納得が出来たわけではないらしい。

 

「諏訪、頼みがあるんだけどいいかな?」

 

 肯いて頼みの内容を促してみる。

 

「お前は桃香と共にしばらく見回りをして欲しい。それと文字についても越ではなく桃香から習うようにしてくれ」

 

 へ?越ちゃん、オレの教育係返上?劉備さんが就任?どういうこと?

 

「桃香はいるだけで周りの人間を引き込むやつなんだ。だから、天の御遣いとして大分知れたお前と歩けば、これもまた桃香に惹かれた人間が旅立つときに付いていくと思う」

 

 あぁ、なるほどね。オレを出汁にして人を集めて、劉備さんを知ってもらおうって寸法なんですね。ついでにオレの教育係としてつけることで職とするわけね。

 

 

 

「御遣い様、だ……大丈夫?」

 

 子供達に乗っかられ潰れたオレに声をかけてくれる劉備さんがまぶしく見える。たとえ笑いをこらえるのに一生懸命だとしても、優しく声をかけてくれる存在は貴重です。

 

 こうやって街を見回り、子供達と遊ぶことも仕事のひとつ……だよな?結構商店主のおっちゃんたちにはすこぶるつきで人気だしな。おっちゃんたち……貴様らの視線の先はわかっているぞ!同士よ!

 

「劉備さん……我慢しないで笑っていいよ」

 

 劉備さんと子供たちの笑い声が響く平和な一日。こんな日がいつまでも続いてくれればいいと思った。


 
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