No.134784

双天演義 ~真・恋姫†無双~ 七の章

Chillyさん

双天第七話です。

やっと黄巾の話題を出せた。今回もコミックス版準拠。のような原作準拠のような……。前回に引き続き桃香のターン。今作ヒロイン(予定は未定)越ちゃんの出番が少ないです。

一人称ということで自己投影しすぎないようメアリースー診断をやってみた。自己評価で10点。甘くつけているつもりはないけど、よかったよかったと思います。客観的に自分の作品を見るように定期的にやっていこうかな……。

2010-04-06 19:55:26 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2538   閲覧ユーザー数:2301

 今日も今日とて空は青空がどこまでも続き、ところどころに白い雲が浮かんでいる。

 

 ここまで晴天続きだと農作物に与える水だけではなく、飲料水も大丈夫なのか心配になってくる。それに最近は賊が出没する知らせが次々と舞い込み、その討伐にほとんどの武官がかかりきりになっている。もちろん伯珪さんも例外ではなく、むしろ先頭に立って部隊を指揮しているし、城の政務に関しても遠征先に持ち込めるものは持ち込んでやっているらしい。

 

「あ、御遣い様。そこの字、間違ってますよ」

 

 オレはと言えば、今日も今日とて劉備さんに文字を教わっています。いつもはお互いの部屋で気分によってかえているけれど、今日は天気もいいので中庭にある東屋を使って勉強している。

 

 この勉強なんだけど、オレよりも劉備さんのほうが結構頭から湯気を出している。

 

「御遣い様ぁ……どうして経済書とか軍略書が教材なのぉ」

 

 っていつも泣いてるしな。文字の意味を教えてもらっているのに、逆に経済の簡単な仕組みをこっちが教えたり……需要と供給なんてこの時代から考えられてたのかね……治水工事の重要性なんてなんでオレ、劉玄徳に教えているんだろうか?あとなぜ兵站が重要かなんて兵士を率いようって言うなら理解していて欲しかった。

 

 しかしまぁなんだ、伯珪さんが言っていた劉備さんの美徳ってやつは十分理解したと思う。一生懸命オレの拙い経済学の説明を理解しようと頑張っていたからな。その努力が報われているかどうかは別だけどね。

 

「そうそう劉備さん、いい加減御遣い様って呼び名どうにかなりません?」

 

 これも何回も言っている台詞。

 

「えぇぇ。だってだって御遣い様は管輅ちゃんの占いに出てくる流星にのってきたんでしょ?だったら御遣い様って呼ばないと」

 

 と笑顔と早口でいつも返される。このやり取り何回繰り返したろうか?

 

「で、今日わからないことってどれです?」

 

 教材の愚痴が出たときは、必ず彼女がわからないことが出たとき。だからこの問いかけも、今日何度目だろうか……。劉備さんは“えへへ”と照れくさそうに笑いながら教材の経済書の一点を指差している。その場所は需要と供給……まてぇい、それはこの間説明したろうが!

 

「えとねえとね。ラーメン屋さんがいったんお客さんになって、生産者さんから材料を買ってラーメンを作る……そして生産者さんがラーメンを買うって言うのはわかったんだけど」

 

 上目遣いでオレの様子を確認しながら、つっかえつっかえ劉備さんはどこがわかっていてどこがわからないのかをオレに説明してくる。

 

「どこが需要で、どこが供給なのかなぁって……」

 

 言い終わった後、人差し指同士をつつき合わせながら上目遣いでオレを見る。さすがにこの間聞いたものをもう一度聞くことに若干の呵責があるんだろう。

 

「需要っていうのは例えば劉備さんがラーメン食べたい!って思うことが需要で、供給っていうのがそんな劉備さんにラーメンを売ることを供給っていうんです」

 

 ため息をつきながら質問に答える。若干この天然系脳みそにどうやって説明しようかなんて悩んでもみたけれど、基本的なことを言う以外なかった。あとはどうやってこの天然系脳みそが出す理解を修正してやるか、それにかかっている。

 

「……じゃあ、生産者さんは何になるの?」

 

 指をあごに当てて考え込みながら、本気で不思議そうに聞いてくる。ちょっとまて、何になるってどういう意味だ?

 

「私が需要で、ラーメン屋さんが供給なら生産者さんはどこに入るの?」

 

 だめだ……理解しているようで理解していなかった。オレの疲れきった顔を見て、劉備さんも申し訳なさそうにオレの様子を伺っている。

 

 OK落ち着けオレ、言葉だけで説明しようとするからいけないんだ。ちゃんと図も使って説明すればきっと理解してくれるに違いない。そうだよ、図も用いればわかってくれると信じているよ、劉備さん。というわけで、何かメモを取るのに便利かと思って持ってきていたシャーペンとノートを引っ張り出す。

 

「劉備さん、いいかな?今から図を書いて説明するからよく聞いてくれ」

 

 こくこくと肯きながら真剣な表情でオレが書く図をじっと見つめる劉備さん。こうやって真剣に学びとろうとする姿勢はいいんだよな、理解力がそれについていっていないだけで。ハッ、もしかして伯珪さん、このオレが劉備さんにものを教えることも計算して、劉備さんを文字の教育係りにしたのか!

 

「……というわけで、需要と供給っていうのは物が欲しいっていう思いとその思いを満たすことを言うわけなんだけど……理解できた?」

 

 あぁあ、目が飛んで頭から湯気が出ているな、これ。大丈夫だろうか?

 

「ウン、ワカッタヨ。ゼンゼンワカラナイノガワカッタヨ」

 

 だめじゃねぇか!

 

“ハァ”とため息をついて水差しから温くなってしまった水を湯飲みに注ぎ、劉備さんに差し出してあげる。

 

 コクコクと差し出された水を飲み、一息ついた劉備さんは涙目でオレを見てくるが、オレは視線をそらしてしまう。だってだよ、これ以上噛み砕いて説明なんてオレには無理!

 

「ふぇぇん、御遣い様ぁ、見捨てないでぇ」

 

 泣きながらオレの腕を胸に抱いて懇願してくる劉備さん。ちょ、ちょっと胸、胸を押し付けてくるな。

 

「うわっ、わかった、わかりましたから、手をはな……離して!ね、もう一度教えますから」

 

 オレはそういうと劉備さんは、泣いていた顔をフニャっと崩して満面の笑顔を作った。

 

「さっすが御遣い様!」

 

 そしてオレの首に飛びついて抱きしめてくれた。

 

「ウォッホン」

 

 胸に埋まって夢心地なんて思ったのも一瞬、聞こえた咳払いに反応して劉備さんは離れてしまった。

 

「あー、愛紗ちゃん、おかえりなさぁい。大丈夫?怪我してない?」

 

 咳払いの主、関羽さんの所に飛ぶように劉備さんは行ってしまい、若干の寂しさを禁じえない。

 

「お姉ちゃん、ただいまなのだ!」

 

「うんうん、鈴々もおかえりなさい。怪我してないみたいでよかったぁ」

 

 張飛ちゃんもいたようで二人で話の花を咲かせている。きっと劉備さん、勉強に疲れたんだろうな。ちょうどいい気分転換かもしれないし、すこし話していてもらおう。あの三人が顔合わせるのも久方ぶりみたいだしね。

 

「諏訪殿、さきほどの事はどういった次第で?」

 

 えぇとなんか危機を感じるんだけど、どうしてかな?オレ何にも悪いことしてないよね。善意で劉備さんの勉強見てあげているよね?どうしてこんなに死を意識させることになるのかな?

 

「問答ぉ無用ぉ!」

 

 問答無用と襲い掛かるなら最初から訳なんて聞くなぁぁぁぁ!

 

 

 玉座の間に呼ばれたのはオレを含めて六人。越ちゃん、子龍さんに劉備さん一行。

 

 国の方針会議をするには人数が少なすぎるし、正式な配下でも客将でもないオレや劉備さんがいることがそもそもおかしい。何の話が出るかわからないというのは結構緊張する。

 

 子龍さんは劉備さんたちと話しているし、越ちゃんはジッと玉座の隣に立って目を瞑って伯珪さんの登場を待っている。じりじりと不安だけが広がっていく時間が過ぎて、玉座の間の入り口に伯珪さんが現れた。

 

「すまんすまん、待たせちゃったな。どうも私がいないと政務が滞ってしかたないよ」

 

 やれやれと肩をまわしながら、玉座に向かい腰をかける。

 

 そしてオレたちが揃っていることを確認すると、伯珪さんは越ちゃんに目配せした。それに越ちゃんはため息をついて肯いていたけど、どうしたことだろうか?

 

「まずは越、子龍に関羽、張飛。今回も賊討伐ご苦労様。多少の被害は出たが賊を片付けることができた」

 

 今回は結構大規模な賊だったらしい。他の太守の領地から流れてきたらしくこちらの地理に不慣れだったため渓谷に追い詰め、数を有利に働かせなかったらしい。渓谷の入り口で本隊が待ち構え、子龍さんと関羽さんの率いる別働隊が渓谷の反対側から賊を追い立てたそうだ。

 

「子龍。今回の賊で気がついたことはあるか?」

 

「今回のというわけではありませぬが、ここ最近、賊の発生が多すぎるように感じますな。あとなにやら賊の着ているものに黄色い布が多くみえるような……」

 

 今回の討伐について聞いた話を思い返していたら、話が少し進んでいたようだ。子龍さんの言うとおり最近の賊討伐に出兵する回数がかなり多い。そして黄色い布か……。三国志で黄色い布といえば、話の冒頭、劉玄徳が名を上げ始める最初の相手、黄巾党が思い浮かぶ。有名武将が女性の世界だから、知っていることが起こるとは限らないと思っていたけれど、黄巾党の反乱は変わらず起きたということか。

 

「そう。実は各地で野盗が集結しているんだ。しかも結構な規模に拡大していて、その被害の広がり方も相当早い」

 

 一人一人に語りかけるよう話す伯珪さん。その深刻な顔つきに皆の顔つきも真剣みを帯びてくる。

 

「どうやら組織として纏め上げている存在がいるらしくてな。その組織の目印が黄色い布だ」

 

 三国志で黄巾党を組織したのは張角、張宝、張梁の張三兄弟だけど、この世界でもそうなんだろうか?たしか太平要術の書かなんかを仙人にもらったとかなんとか言って、人々を張角が纏め上げたんだよな。んで脹らみすぎて統制が取れなくなって暴走したんだったかな?うろ覚えの知識っていうのは役に立たないもんだとつくづく思う。

 

「最近になって漸く上も重い腰を上げて動いたんだが……大将軍率いる官軍が賊の本隊と思わしき部隊に敗れた」

 

 三国志を知っているオレには言わずもがななことではあるけど、他の人間には官軍が敗れたというのは衝撃的な話だったらしい。皆が息を呑むのが聞こえた。

 

「そして宦官どももまずいと思ったんだろうな。各地の諸侯に命令を下した。……黄巾党討伐令を」

 

 大きくなってきた話に再び息を呑む一同。各地の諸侯が一斉にというわけではないが立ち上がり、兵を出すというこの機会に出会ったというのは幸運なのか不運なのか。……後世に名を残したい人間にはぴったりの時代ではあるからな。きっと伯珪さんもこの討伐令を利用して上に上がろうとするんだろう。

 

「というわけでだ、桃香……」

 

 劉備さんの名を呼んだ伯珪さんは言いにくそうに言いよどんで言葉をとめる。“少し早いとは思うが……”とかぶつぶつ言っていたが、意を決したのか言葉を続ける。

 

「ここから出て行くんだ」

 

 あんまりな言葉に劉備さんが驚き、悲しそうな瞳を伯珪さんに向けた。

 

「あーすまん、言葉が足りなかった。桃香の理想を実現するために、今回の事は名を上げるいい機会だと思うんだ」

 

 悲しそうな表情の劉備さんを見た伯珪さんは、罰が悪そうに頭をかいて謝った。確かにあの言い方はないとオレも思う。劉備さんもそんな伯珪さんを見てだんだん表情にいつもの明るさが戻っていく。

 

「ここで義勇軍を募り、独自に黄巾党を討伐するんだ。出発の準備は喜んで協力する。自分の力でどこまでできるか……挑戦してみないか?」

 

 はにかんだ様に笑う伯珪さんの横顔は素直に可愛いと思えた。劉備さんもその顔に満面の笑顔と涙を浮かべ、伯珪さんに飛びついていった。

 

 一頻り劉備さんが喜びを表している後ろで、越ちゃんが関羽さんに一巻の竹簡を手渡していた。

 

「これが貴方がたに付いていくだろう志願者を纏めた物と、必要になるだろう物資の一覧です。物資に関してはこの書を兵站部に出していただければ、用意できると思います」

 

 これあるをわかって用意していたのか、それとも慌てて用意したのかわからないけど、越ちゃんのことだ、きっと前もって調べておいたものだろうな。

 

「お心遣い、感謝します」

 

 関羽さんもその用意の良さに驚いているのか、表情がぎこちないがきっと嬉しいんだろう。張飛さんに抱きつかれてもお小言を言わずにそのままにしていた。

 

「そうそう、忘れていました。諏訪。次回から貴方にも黄巾党討伐に参加してもらいます」

 

 へ?何言っているんですか?越様。オレが戦に役にたつとでも思っているのかい?

 

「仮にも乱を正す天の御遣いとして名が通っているんです。ここまで騒ぎが大きくなったなら、貴方が出ないわけにはいかないでしょう。基本的に本陣にいてもらいますから大丈夫です。そこまで絶対に通しませんから」

 

 越ちゃんの言葉にあの廃墟と化した邑の光景が浮かび、オレはこの先生きていけるのか不安になった。


 
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