No.134376

輪・恋姫†無双 十八話

柏木端さん

十八話投稿です。
気づいたらシリアスになっていた……
とりあえず今回で拠点は一区切り。祐一君の休日は終わりです。
次回からはまた時間が進みます。

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2010-04-04 18:04:30 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1909   閲覧ユーザー数:1751

 

「祐一さん、大丈夫ですか?」

 

「……随分遠回りしたなあ、オレ。」

 

「?なんの話?」

 

この日、午後の昼飯時から桃香を探して彷徨い、美汐に会い、焼きそばを振る舞い、からかいすぎて頭部強打による気絶。

 

気がついてから桃香の居場所が分からず適当にふらつき、鈴々に会い、鍛錬に付き合い、無防備の鳩尾に強力なダイビングヘッド喰らってブラックアウト。

 

眼が覚めたら日も結構傾いて来ていて、桃香が心配そうな表情で覗き込んできていた。誤解なきように断っておくが、別に膝枕されてるわけではない。

 

「まあ良いではないか、良いではないか。」

 

とりあえず現状を把握するべく周囲を見回すと、どうやら鈴々と鍛錬していた場所の近くにある東屋の椅子に寝かされていたらしいと気づく。

 

桃香は隣に立っていた。机を挟んだ向こう側にも椅子はあるんだから座っていればいいのにと思ったが、口には出さない。

 

心配かけた自分が言うべき台詞じゃないと悟ったともいう。

 

「とりあえず、『鈴々はどこ行ったんだ?』とか『なんで桃香が此処に居るんだ?』とかの疑問は口に出さず心の奥の小脇に置いておいて言っておこう。心配かけたならすまん。」

 

「言ってます、口に出して言ってます。」

 

とりあえず桃香から聞いた話によると、鈴々は夕方から警邏だったらしく桃香が来たときに入れ替わりで警邏に向かったそうだ。「ごめん」と伝言を聞かされた。

 

そして、桃香は仕事の途中で書庫に向かう用事があって、その途中で倒れている祐一と鈴々に気づいて介抱したらしい。

 

鈴々が警邏に向かったのがついさっきと言っていたし、桃香があの「お兄ちゃーん!!」という叫びを聞いた時は書庫に向かうために外に出た後だと言っていたので、気を失っていたのは十分かそ

 

こらだと結論づけた。

 

「ホント、今日はせわしない日だ。」

 

今日はわざわざ潤に仕事を半分なすりつけて暇を作ったというのに。

 

そう思って、思わずため息をついた。

 

 

「そう言えば、あの、お昼ごはんありがとうございました。」

 

「へ?」

 

「あの、美汐ちゃんが祐一さんが作ったものだっていって届けてくれたんですけど…」

 

「ああ、焼きそばね。」

 

「あれ、やきそばって言うんですか?おいしかったです!」

 

現在地、書庫。

 

仕事上の調べ物かなにかだと祐一は思っていたのだが、どうやら『調べ物の為に持ちだした書物の返却』及び『書庫の整理』が用事だったらしい。

 

「書庫の整理をしている領主、と考えると、かなりシュールだ。」

 

「しゅ…しゅー…る?」

 

「気にするな。ていうか、桃香が書庫の整理しなきゃいけないほどひどいのか…文官増やそうよ、やっぱり。」

 

「うん、それは私も思った。朱里ちゃんとか雛里ちゃんとかは特にひどいもん。」

 

「昨日、俺の献策ってことで文官の増強案出したんだけど…見た?」

 

「うん。朱里ちゃんとかビックリしてたよ。『真面目なこと考えられるんですね』って言ってた。」

 

「それ、ひどくね!?」

 

「誉めてるんだよ。」

 

「だろうけど!そうなんだろうけど!!」

 

だからと言って即納得できるわけでもない。

 

「でも、前の領主さんはどうしてたんだろう…こんな少ない文官だけで上手く頑張ってたんだよね?」

 

「そうだな。領主が美味しくなるように頑張ってたんだろ。」

 

「?」

 

「集めた税金を暴動が起きない程度に民に還元して、可能な限り着服するように頑張ってたんだろ。」

 

「そんな!?」

 

「そうすれば文官の仕事量は大したことないし、むしろ人件費が浮いて金が余る。そう言う寸法だったか、此処で雇った文官を次の任地にごっそり引きつれていったかだな。」

 

「……後の方だったらいいんだけど。」

 

「俺たちとしては文官を新規採用したいんだから前者の方が楽だな。住民の政治不信とかも問題だろうけど。」

 

「……うん…」

 

祐一は、桃香という人間は他人によせる期待が大きすぎると感じている。

 

少なくとも、桃香は領主に任命されるような人間は善人だという期待を持ち、此処の前任はきちんと統治を行っていたと信じていたのだろう。

 

桃香が掲げる理想にもそれが表れている。

 

 

『この大陸を、誰もが笑って過ごせる、戦いの無い平和な国にしたい。だれとも戦いたくなんてない。話せばわかりあえる。』

 

 

日本という国はある意味で、桃香の理想の完成形に近い存在だろう。

 

法の下に平等で、基本的人権として自由で文化的な生活を約束し、侵略戦争を完全否定し、その為の武力を放棄すると宣言している。

 

だが、決してそうではない。

 

本当にくだらない理由で差別をし、偏見は消えず、路上で段ボール被って眠るものは消えず、戦闘機や戦車を持つ組織は公認され、外国へと飛んでいく。

 

そんな理想と現実の狭間でもがき、現実を理想に近づけようとしながら、同時に理想が現実に侵食される。

 

それが日本の現状だと、祐一は考えていた。だいたい平和の裏を幾つも見てきたのだから、桃香の理想がどれだけ遠い存在なのかは理解しているつもりだ。

 

下手な完成形を知っているだけに、この世界のどんな人間よりも正確に。

 

そして、だからこそ祐一は桃香には“諦めて欲しくない”と思う。

 

世界はいつだって理不尽だけど、人間は誰だって中途半端だけど、そんなことを理由に退けて欲しくない。

 

理想に押しつぶさせたりなんてしない。現実に絶望なんてさせない。

 

だから、ここらでもう一度桃香の思いに触れてやろうと思い、一言問いかける。

 

 

「桃香、桃香の理想の敵は何だと思う?」

 

 

 

「私の理想の…敵?」

 

急な話題に、心底不思議そうな顔をした桃香が首をかしげる。

 

「そう、侵略の無い平和な国を本当に作ろうとしたときに、一番どうしようもないと思えるような敵。」

 

「えーと……自分の欲望の為に他人のことを顧みない人…」

 

「50点。」

 

「はうっ……違うの?」

 

微妙に落ち込み気味な桃香に言い聞かせるように語る。

 

「曹操は領主として優秀だろ?民の利益になるような政治ができる人間だ。間近で話したんだしそれはわかるだろ?」

 

「…うん」

 

「でも、曹操はきっと桃香の理想に頷かない。殴って殴って殴りぬいた相手。上下をはっきりさせた相手としか手をとらない。地位的にも能力的にも同じだけのものがある相手が存在することは、

 

将来の戦いの火種になるから…っていう理屈だ。」

 

「そんなことは…」

 

「ないと言えるか?自分が死んだあとの次代も、百年後の子孫も、みんな桃香みたいな話せばわかるという人間ばかりだと断言できるか?」

 

「でも!」

 

必死に否定しようとする桃香に祐一は声をかぶせるように言葉を投げる。

 

「そして、桃香の理想の最大の敵がこれだ。」

 

「ふぇ!!?」

 

桃香の首に抜いた剣を向けながら。

 

「怖いか?」

 

コクコクと頷く。でも、祐一は剣を引かない。

 

「桃香が今感じている恐怖が、桃香の理想の敵だ。」

 

コレを知らないままでは、

 

「信じている人が相手でも、剣を突き付けられたら怖くなる。」

 

曹操に負ける。

 

「一度でもその事実を突き付けられたら、まだ剣を抜いていない人も信じられなくなる。」

 

その時がいつになるかわからない。だけど、

 

「この人も自分に剣を突き付けるかもしれない、今度は死んでしまうかもしれない、そうなるくらいなら……こちらが先に剣を抜いてしまえ。」

 

その時になって、伝えておけばよかったと後悔するのは最悪だから。

 

「この、疑心暗鬼と生存本能が、桃香の敵だ。」

 

伝える。桃香の想いが、曹操の想いに潰されないように。

 

「今は、まだ答えを出せなくていい。だけど、平和な国の敵がいなくなった時には、今言った桃香の理想の敵を倒せるだけの覚悟と想いと言葉がいる。」

 

抜いた剣を戻す。

 

桃香がうつむいたまま、ポツリと言葉を紡ぐ。

 

「祐一さんは……祐一さんも、私の理想は、無理だって思いますか?曹操さんの方が、正しいって思いますか?」

 

「………」

 

祐一は何も答えず、桃香のもとに歩み寄り、

 

 

ポン、ナデナデ

 

 

無言で頭をなで始める。

 

「…?」

 

「曹操の下に行こうと思ったことはないし、俺は桃香の理想を聞いてそれに協力しようと思って此処にいる。」

 

ある想いをこめて、桃香の頭をなでる。

 

「無理なものなんてありはしない。曹操の理想にだって、桃香の理想と同じように強大な敵がいる。」

 

迷えと思い、進めと想い、克てと願う。

 

「無理かどうかは桃香以外に誰も決められないし、絶対不変の真理なんて誰も教えてくれない。だから、」

 

なでるのをやめ、眼を合わせる。

 

「覚悟を決めて、自分で選べ。」

 

びっくりしたように眼を丸くして、そして、

 

「はいっ!」

 

花が咲いたように、笑った。

 


 
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