No.129916 真・恋姫†無双 頑張れ一刀くん その22010-03-14 02:32:43 投稿 / 全6ページ 総閲覧数:23868 閲覧ユーザー数:17272 |
一刀がこの世界に来て数日が経ったある日、漢王朝から大陸各地の諸侯に黄巾党の討伐命令が下された。
それは同時に漢王朝が衰退しているという事実でもあった。
そして雪蓮たちは袁術より荊州の北方にいる黄巾党本隊を討伐せよとの命令を受けた。
戦の準備を始めた一刀たちはいくつかの問題に直面した。
そこで一刀が案を出したところ、それが採用されたのである。
一刀は冥琳に軍師の心得を教えられ出陣することとなった。
「……人が死んでいく」
一刀の視線の先には燃え上がる真っ赤な炎に焼かれている黄巾党の姿があった。
「……これが現実だ。戦が起これば人が死ぬ。……敵、味方関係なくな」
一刀に突きつけられる厳しい現実。
現代に、それも日本という平和な国で育った一刀は死は決して身近なものではなかった。
目の前で大量の人が死んでいく。
それも人の手によって。
そのことは一刀に大きな衝撃を与えた。
こうして一刀の初陣は幕を閉じた。
小さな身体。それは一刀が思っていたより大変だった。
「ふぅ、やっと昼休みか……。街に飯でも食いに行こうかな」
午前の政務を終えて……といっても字が読めない一刀にあまり出来ることは少ないのだが、それでも何か出来ること探して働く一刀。
「あら一刀?」
城から出た辺りで一刀は後ろから声をかけられた。
「ん? ……ああ雪蓮か。どうしたんだ?」
そこには雪蓮が立っていた。
「私は街にご飯でも食べに行こうと思って。一刀は?」
一刀が答えると、じゃあ一緒に行きましょ♪ ということになり、二人で街に出かけたのだが……
「か~ずとっ、遅いわよ~」
「そんなこと言ったって雪蓮が速過ぎるんだろ!」
雪蓮とは脚の長さがかなり違うので一歩進むごとに大きな差が生じるのである。
それと同時に背が低い一刀は大人たちから見えにくいのでよく人にぶつかるのである。
それを見かねた雪蓮は、何かを閃いたかのように嬉々とした表情を浮かべ一刀に近づき、そして一刀を抱きかかえた。
「おわっ!」
急に抱きかかえられた一刀は情けない声をあげた。
「な、なにするんだよ雪蓮!」
一刀は雪蓮に問いただすが……
「あら。意外に抱き心地がいいわね♪」
聞く耳持たずに一刀を抱きしめていた。
(この歳になって抱っこされるなんて……」
一刀は男としての尊厳を傷つけられたと、ショックを受けていたが……
(でも意外にいいかも)
身体は子供、頭脳は大人、そして心は子供だった。
一刀を抱っこしたままご機嫌に街を歩く雪蓮。
街の人たちの反応は様々だったが……
「あの男の子可愛いわね~」
「天使よ! 天使がいるわ!」
「ああ、私も抱きしめたいわ……」
大人気の一刀であった。
そして料理屋では……
「はいっ、一刀く~ん。あ~ん」
「ちょっ、それはさすがに無理!」
膝に乗せた一刀にご飯を食べさせようとする孫策さまが目撃されたらしい。
「……………………………雪蓮、なんだそれは?」
「なにって、見ればわかるじゃない」
昼休みを終えて執務室に戻った雪蓮は普段は見せないようなやる気を見せていた。
その理由は膝の上にあるモノだった。
「ははっ、どうも」
苦笑いを浮かべて答えたのは、雪蓮の膝の上にいた一刀だった。
「一刀ってばね、すごいのよ冥琳~。抱き心地はいいしなんかやる気がみなぎってくるのよ!」
興奮気味に語る雪蓮に呆れた視線を向ける冥琳。
「ぶー。冥琳も抱きしめてみればわかるわよ!」
「へっ、あっ、ちょーーーーーーー。ぐふっ」
雪蓮は一刀を冥琳パスしたが、勢いが強く、胸の谷間に顔が収まってしまった。
元の姿の一刀ならば喜ばしいことなのだが、今の一刀にとっては息苦しいだけだった。
そして冥琳は…………
「…………悪くはないわね」
「でしょー!」
あっさりと陥落していた。
「まあこれで雪蓮が政務にやる気を出してくれるなら、北郷はいい拾いモノだったというわけだ」
と言いつつも一刀を抱きしめる力が少し強くなるのだった。
「それじゃあ今日もお勉強しましょうね~♪」
椅子に座り、一刀を膝に乗せた穏が間延びした声を出す。
働かざるもの食うべからず。この世界で一刀が食べていくためには働かなけばならない。
しかし小さくなった身体では剣を持つのがやっとなので武官として生きていくことは出来ない。まあ元の身体でも無理だったであろうが。
そこで冥琳に軍師としての才能を見出されたのだが、現代人一刀は兵法書など読んだこともなくこの世界の字も読めない。
筆頭軍師の冥琳が一刀のために割ける時間がそうあるはずもなく途方に暮れたところで名乗りをあげたのが穏だった。
『孫子』を読みたいがためであったが。
こういうわけで度々勉強会が開かれているのだ。
しかし穏には厄介な性癖があった。
それは大好きな本を読むと気持ちが高ぶり、それが性欲のようなものに変わってしまうというモノだ。
普段の一刀なら、やってやんよ! と襲いかかるのだが、今の一刀は子供であった。
性欲などは皆無であった。
というわけでこうした色仕掛け攻撃には耐えることができる一刀であったが…………
「穏! む、胸が! お、溺れる~~~~~~!」
その大きな胸に抱きしめられ意識を失うのであった。
「はぁ~ん、またやってしまいました~♪」
あまり反省しない穏だった。
「おう、北郷ではないか」
午後から暇になった一刀が街を歩いていると、酒屋で酒を飲んでいる祭がいた。
「あっ祭さん。……また昼間っから酒飲んで。」
「酒は人生の伴侶じゃからな」
カラカラと笑う祭を見て呆れる一刀であった。
「ほら、お主も一杯やらんか」
「あの~、俺子供なんだけど…………」
挙句の果てには酒を勧める祭。
「でも確か祭さんって午後から警邏じゃなかったっけ?」
「うっ。ま、まあ見るからに街は平和じゃから大丈夫じゃろ」
それと仕事をサボることは関係ないんじゃないかと一刀は思ったが口にはしなかった。
「冥琳にばれたらしかられるよ?」
「ふんっ。周家のご令嬢は全く可愛げのない娘に育ったものだ。昔は夜中に一人で厠に行けずにピーピー泣いておったのに。だいたいあいつは――」
冥琳について愚痴りだした祭。
そこで一刀は祭の後ろにいる冥琳に気付いた。
「さ、祭さん。そろそろ仕事に戻った方が……」
「なんじゃ北郷。まだ話はおわっとらんぞ」
(祭さん……あなたのことは忘れないよ)
心の中で祈った一刀であった。
「何の話をしていたのですかな。祭殿?」
「うおっ!? 冥琳!?」
いきなり現れた冥琳に驚嘆する祭。
「警邏をせずに街で酒を飲んでいると報告があったものでね、まあ続きは城で話しましょうか。これ以上、将軍の痴態を民衆に曝すのはよくありませんのでね」
そう言うと、冥琳は祭の腕を掴むと城へと引き摺って行った。
「北郷助けんか! こらっ! 北郷~~~~~!」
祭の声は街の喧騒に消えていった。
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誤字脱字報告、感想ありがとうございます。
頑張っていきまっしょい!