No.130138 真・恋姫†無双 頑張れ一刀くん その32010-03-15 07:27:27 投稿 / 全8ページ 総閲覧数:23550 閲覧ユーザー数:16959 |
荊州の黄巾党を撃破した雪蓮たちに袁術より新たな指令が下った。
それは黄巾党本隊を撃破せよとのこと。
しかしそれと引き換えに呉の旧臣を呼び寄せることを許されたのであった。
いよいよ孫呉独立に向けて動き始めた。
孫権たちが合流するのが遅れるとのことでまずは出城にいる黄巾党を叩き、そして孫権たちは合流したのちに他の諸侯と共に黄巾党本隊を殲滅するという作戦になった。
そして一刀は、雪蓮に抱っこされていた。
「………………なあ」
「どうしたの一刀?」
「軍議の時くらい降ろさない? なんか格好つかないし」
確かに子供を抱きかかえたまま軍議するような軍はここ以外に存在しないだろう。
だが一刀の意見は一蹴される。
「だ~め♪ それよりお昼にしましょ」
その一言で昼食をとることになった。
雪蓮の膝の上で支給された弁当をたべる一刀。
もはや一刀の定位置になりつつある。
「ご飯はどう? 美味しい?」
「ん~、美味しくないことはないと思うよ」
(味が薄いと感じてしまうのは俺が現代人だからだろう)
「ん? どういうこと?」
「味が薄いんだよね。俺が居たところでは濃い味付けが多かったからね。物足りなさをかんじるんだよね」
そのような他愛のない話をしながら時間は過ぎていった。
「孫策様が前線部隊を率いて先行しました!」
「ちょっ、総大将が自らって……」
「全く、世話の焼ける……! 穏! 北郷! すぐに追いかけるぞ!」
伝令を聞いた冥琳たちは、すぐに雪蓮の部隊を追いかけた。
追いついたのもつかの間で、雪蓮はそのまま祭を連れて突進していった。
冥琳は素早く指示を出し雪蓮たちの援護し黄巾党を撃破した。
そこに雪蓮たちが帰ってきた。
「雪蓮っ!」
そこから冥琳の怒涛の説教が始まった。
説教が終わると雪蓮は燃え尽きたのように真っ白になっていた。
「これは自業自得だな」
「ぶー、一刀までそういうこと言う!」
「そりゃあ俺だって心配したからな。冥琳だって雪蓮のこと思って言ってるんだからちゃんと聞かないとだめだよ」
「もうわかったわよ~。それよりも……えい!」
雪蓮は素早く一刀を抱きしめた。
「…………結局こうなるんだな」
もはやあきらめた一刀だった。
そんな雪蓮にさらに追い打ちをかけることが起こる。
「お姉様! 今、報告を聞きました! 単騎で敵陣に突入するとは、どういうことですかっ!」
雪蓮に向かって捲くし掛けるのは孫権。真名を蓮華という。
雪蓮と同じく桃色の髪を地面に着くかというくらい伸ばしている。
蓮華は雪蓮の腕の中の一刀には目もくれず、雪蓮を責め立てていく。
一刀は蓮華を観察する。
(……雪蓮の言った通り真面目でカタブツっぽい人だな。でもここまで起こるのはきっと雪蓮のことが大切だからなんだろうな……。……っていうか雪蓮が動かなくなっちゃったな)
雪蓮を叱りつける蓮華の表情は今にも泣き出しそうな表情で、心底雪蓮を心配しているようだった。
雪蓮もそれが分かっているのか、黙って聞いていた。
……というよりも、もはや聞こえていないようだった。
こってり絞られ、真っ白になった雪蓮を見て落ち着いたのか、蓮華は雪蓮に抱えられている一刀に気付いた。
「ね、姉様! その者は一体何者ですか!」
依然として燃え尽きている雪蓮に代わり、冥琳が答える。
それを聞いた蓮華の表情が険しくなり、一刀睨みつけた。
「貴様が天の御遣いと言われている男か」
睨まれた一刀は萎縮する。
(……なんか思いっきり嫌われてないか? でも、こういうのは第一印象が大事だからな。一か八かやってみるか)
人知れず決意をした一刀は行動に移した。
「お姉ちゃん怖いよぅ」
そう言って、冥琳の後ろに隠れた。
その瞬間普段の一刀を知っている者たちは一斉に噴き出した。
「ぐはっ!」
蓮華の良心に甚大なダメージを与えた。
さらにいつの間にか復活した雪蓮が仕返しと言わんばかりに追撃に出た。
「蓮華ったらこんな小さい子を怖がらせるなんていけないわよ~?」
「わ、私はそんなつもりじゃ――」
そこで蓮華が一刀を見ると、目に涙を溜め、上目遣いで蓮華を見つめていた。
「はうっ!」
蓮華は力なく膝をついた。
「わ、私はこのような子に怖がられてしまったのか……」
そしてなにやらぶつぶつ呟いて、自分の世界に入り込んでしまった。
(あれ? ちょっとやり過ぎたかな?)
一刀は少し反省するのであった。
「ふふっ。北郷もなかなか策士だな」
「そうですね~♪ 蓮華様がすっかりやられちゃいましたよ~♪」
「くっくっく。北郷の奴も軍師らしくなってきたようじゃな」
三人は一刀の成長を温かく見守っていた。
雪蓮が二人の女性を引き連れ一刀の前にやってきた。
「このような子供が天の御遣いなのですか?」
「そうよ思春」
鋭い目つきの女性は甘寧、真名は思春。
「はわ~。この方が御遣い様……」
忍者のような格好をしているのは名を周泰。真名を明命という。
二人は小さな天の御遣い、一刀を観察する。そして近くでぶつぶつ呟く蓮華を不思議に思う。
「こやつはお前たちの夫になるかもしれん人物だ。…………いつになるか分からんがな」
「ええっ!?」
冥琳の言葉に頬を染め驚きの声をあげた二人。しかしそれは当然の反応だろう。いきなり現れた天の御遣いという怪しさ満点の男が夫になるとつげられたのだから。しかも自分たちとは結構年齢差がある子供であるのでなおさらだ。
驚く二人に雪蓮と冥琳が孫呉に天の血を入れることによって得る恩恵を説明した。
あまり納得がいかないようであったが国のためなら命でも捨てるという覚悟のある二人は了承した。そして雪蓮の命により一刀に真名を預けることになった。
「姓は周、名は泰、字は幼平、真名は明命! 一刀様、よろしくお願いします!」
元気よく自己紹介する明命に一刀は癒されながらも自分も自己紹介をする。
「こちらこそよろしくお願いします。俺は北郷 一刀って言います」
そして笑顔で手を出す一刀。
「まだまだ未熟だけどよろしくね、明命」
「はいっ! お猫様! あああ、じゃなくて一刀様!」
(えっ? 俺って猫と間違われたの!?)
明命の大好きなお猫様と間違われるのであった。
そして次は思春に向きなおした。
「……我が名は甘寧、字は興覇。……王の命により真名を教えよう。思春と言う」
あくまでも自分の意志ではないということ強調する思春。
「よろしくお願いします」
「よろしくするのは孫権様次第だな……」
そう言って一刀が握手のため差し出した手を一瞥し、後ろの下がろうとしたが、
「だめ?」
その上目遣いで見つめる一刀の一言で手を軽く握った。
「よろしく思春」
「……今回は特別だ」
プイっとして今度こそ後ろに下がった。
蓮華たちの合流により部隊を再編した雪蓮たちは黄巾党本隊のいる城へと進軍を始めた。
黄巾党本隊の籠もる城に到着すると、すでに諸侯たちが陣を展開していた。そして雪蓮たちも陣を展開し、城攻めのための軍議を開いた。
作戦は一刀の提案した、夜の闇に紛れ思春と明命の部隊が城に侵入して食糧庫に火をつける。そうして混乱した城に城内に突入するというものであった。
作戦開始が目前に迫った頃、一刀は落ち着かない気持ちを紛らわすために天幕の外の出て空を見上げていた。
「ああは言ったものの……やっぱり怖いな」
人と人が殺しあう戦場。
直視するのが怖いのは偽らざる感情というもの。
作戦に対する責任をとるとは言ったが、正直戦場で何をすればいいのか分からない。そもそも部隊を率いたことのない一刀がどう行動すればいいかなど考えることは山ほどあったが、どうも思考が働かなかった。
そんな一刀に声をかける者がいた。
「……一人でなにをしている」
「んー……考え事かな」
蓮華であった。
自己紹介の後、正気に戻った蓮華は一刀の身体の事や、夫になるという話を聞いていた。結局、雪蓮に諭されしぶしぶ了承したが、一刀に真名を教えることはなかった。
「怖いの?」
「ああ。正直怖い」
自分の気持ちを包み隠さず言う一刀。
「そうか。……ふっ、男のくせに軟弱な奴ね」
「軟弱……かもなぁ。でもこの作戦は俺の発言によって始まったんだ。だから……怖くても逃げるわけにはいかない」
逃げずに見届ける。それが一刀にできる最大にして唯一の責任の取り方だ。
「孫権はどうしてここに?」
「わ、私は、その……」
そう言って口籠もる蓮華。
「……これが私の初陣なんだ。緊張してなにが悪い」
別に悪いとは言ってないとは言わなかった。
一刀は緊張している蓮華を見ると、案外自分に似ているなと思い親近感が湧いていた。
「緊張しているなら俺を抱きしめるといいみたいだよ。……雪蓮が言うには抱き心地がよくて落ち着くらしい」
冗談混じりで一刀が言うと、
「ほ、本当か? じゃ、じゃあ少しだけ」
ひょいっと、雪蓮がいつもしているように一刀を抱っこする蓮華。
そんな蓮華に驚きつつも身を任せる一刀。
(……若干身体が震えている。本当に緊張していたんだな)
ますます親近感が湧く一刀だった。
「……不思議ね。本当に落ち着いてきたわ」
顔の強張りも緩み、わずかに微笑んだ蓮華の身体の震えは治まっていた。
一方一刀は、
(雪蓮も美人だけど、姉妹だけあって孫権も笑うとかなり可愛くなるなぁ~。こりゃあ身体が小さくて逆によかったかも。……襲っちゃうかもしれないし)
そんなことを思っていた。
「……お互い、無事でいられるといいな」
「安心しておけ。……お前は私が守ってやる」
照れ隠しをするように蓮華は明後日の方向を向いていた。
「う~む」
「なんだ。私に守られるのが不満なのかっ!?」
断られるのかと思ったのか、蓮華が声を上げた。
、
「あ、違う違う。女の子に守ってやるって言われて、思わず嬉しいなー、なんて思った自分が悔しいと言うか、呆れたと言うか。……こういう場合は俺が守ってやるぜ! ぐらいのほうが格好つくのになぁって」
一刀がそう言うと、無理はするなと蓮華が笑い飛ばした。
「私は呉の王族のはしくれとして、兵たちの上に立つ。そして兵たちを守って見せる。それがひいては民を守り、国を守ることに繋がる。……私はそう信じている」
ギュッと一刀を抱きしめ、月を睨みつけながら独白する蓮華の姿。
一刀はその姿がどこか作り物めいた感覚を覚えた。
それは無理をしている蓮華の痛々しさであった。
「やっぱりさ、孫権は俺が守る。孫権が兵のみんなを守るなら、孫権は俺が守ってあげるよ」
「……き、貴様に出来るのか?」
「出来る、と信じて、俺は俺の出来ることを精一杯やる。……そうやって守ってあげる。孫権を」
「……ふ、ふんっ。期待はせん。でも……好きにすれば良い」
そうして話しているうちに作戦決行の時間が来た。
結果として、作戦は見事に成功した。
逃げ回る黄巾党は諸侯たちによって殲滅され、ここに大陸を覆い尽くした黄巾党の乱は終わりを告げた。
戦いに勝利した時の興奮が冷めやまない一刀は眠れない時間を過ごしていた。
一刀の胸の中はいろんな感情が渦巻いていた。
「……また一人で考え事?」
「ああ、孫権か。……仰る通りいろんなことを考えていた」
一刀は再びやってきた蓮華とたわいのない話をしていた。
「……そういえば孫権はどうしてここに来たの?」
少し目をそらし、やがて意を決した蓮華が口を開いた。
「あなたに言いたいことがあったから……」
「俺に?」
コクンと首を縦に振る蓮華。
蓮華が一刀に話したのは、しっかり戦いぶり見させてもらい一刀が孫呉のために努力していると知り、信頼を得ることができたということだ。
そして一刀は蓮華の言葉遣いが柔らかくなっていることに気付き、信頼を得ることが出来たんだなと実感していた。
「私の真名は蓮華という。……この名、お前に預けたいと思う」
一瞬驚いたがすぐに差し出された手を握る一刀。
「俺は北郷 一刀。改めてよろしく蓮華」
「よろしく。一刀……」
微笑む蓮華に、一刀は再び見とれてしまった。
<おまけ>
自己紹介が終わり、蓮華が正気に戻った時。
「し、思春!」
「どうされました? 蓮華様」
「あ、あの男の子はどこいにいったの?」
「北郷のことですか? あの者なら雪蓮様と共に本陣に行きましたが」
「そ、そう……」
「?」
「……ね、ねえ思春」
「はい」
「男の子……私のこと怖がってた?」
「……いえ。特にそうは見えませんでしたが?」
「そ、そう。……よかった」
「蓮華様?」
「べ、別になんでもないのよ!? もし怖がられてたら立ち直れないとか思ってないのよ!」
「…………」
「本当はお姉様みたいに抱きしめたいとか思ってないんだからね!?」
「…………」
「ああ、どうやって仲良くなればいいのかしら……」
「…………」
完。
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正直祭はなんも浮かばなかったww