No.129232

真・恋姫無双『日天の御遣い』 拠点:夏侯惇・夏侯淵

リバーさん

真・恋姫無双の魏ルートです。 ちなみに我らが一刀君は登場しますが、主人公ではありません。オリキャラが主人公になっています。

今回は拠点。
チャーシューチャーシュー言わせすぎました……

2010-03-10 14:59:46 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:10156   閲覧ユーザー数:8613

 

 

【拠点 夏侯惇・夏侯淵】

 

 

 日が頭上高くに昇った、穏やかな天気の午後。

 旭日は城内にある中庭で一人、刀に手を添えた格好で静かに佇んでいた。

 

「………………ふぅ」

 

 息と一緒に余計な力を抜き、集中を研ぎ澄ます。

 左手はあくまで刀に添えているだけ、抜く気もなければ型や構えをとる気もない。というかそもそも、旭日にはこれといった戦闘スタイルが存在しない。

 思ったままに思った通りの行動を選択し、感じたままに感じた通りの攻撃を繰り出す。

 人を斬る技量はある。

 人を断つ技術はある。

 でも、あるだけ。

 旭日の力とは技も術も、何もかもを無視した、圧倒的なる暴力。

 暴力を振るうのに型や構えなんてものは無駄であり邪魔だ――それが旭日の辿り着いた、自身の力への答え。

 ゆえに今、旭日が行っている作業は型や構えの確認では勿論なく、自分自身の力の再確認――暴力がどういったものか理解し直す作業。

 集中を研磨し、目を瞑ってイメージする。

 

「(敵の数は……二十人くらいでいいか)」

 

 二十人の敵に四方八方を囲まれ、かつハンデとして自分の足は動かさないとイメージを設定。少し物足りないかもしれないが、頭の中のみで繰り広げるにはもってこいの設定だろう。

 前方より迫る槍を抜刀と同時に裂き、返す刀で敵を両断する。次いで剣を振り上げ突進してきた敵の攻撃を、上体をひねって避けるのと同時に胸へ向けて刺突を繰り出し、後ろに控えていた者とまとめて貫く。背後からの槍は空いた右手で掴んで引っ張り、近寄ってきたところを横一文字にぷつりと斬り裂いた。

 

「(……やっぱ二十人じゃ足りなかったな)」

 

 最後の一人を真っ二つにして集中を通常時に戻し、目を開けようとした――瞬間。

 

「――――――っ!?」

 

 抜く気のなかった刀を抜き放ち、突如として襲いかかってきた矢を弾き落とす。

 矢の飛んできたほうに目を向ければ、そこにいたのは――

 

「ふむ。やはり効かんか」

「…………随分と物騒な挨拶の仕方だな、秋蘭」

 

 ――そこにいたのは、華琳の命で真名を預けてもらった、春蘭と秋蘭の二人。

 

「いきなりすまなかった。あまりに隙がないものだから、ついな」

「………………」

「ついで殺されかけちゃ困るんだが……つうか、春蘭はどうしたんだ? やけに大人しいじゃねえか」

 

 薄く微笑んでいる秋蘭とは反対に、春蘭は珍しく難しそうな表情だ。

 ぱくぱくと口を開いては閉じるを繰り返していた彼女だったが、やがて何かの意志を固めたのか、じっとこちらを見つめて(もしくは睨んで)彼女は言った。

 

「す、少しはやるようだな」

「あ?」

「だが勘違いするなよ! 華琳さまに一番忠実で有能なのはこのわたしだ!」

「……は?」

「ふふっ……姉者なりに九曜を認めた、ということだよ」

 

 よほど間の抜けた顔をしていたのだろう、秋蘭が傍に寄ってきて補足してくれる。

 

「私や季衣達を助けてくれた時には既に認めていたのだろうが、それより前にあの村で悶着があったのでな。九曜のことをちゃんと認めることができないでいたんだ」

「それでさっきの矢、か」

「うむ。姉者は頑固ではあるが狭量ではない。しかと力を示せば認めてくれるさ」

「しゅっしゅしゅ秋蘭っ! わたしは別にこやつのことなど――」

 

 きゅるるるるるる――と。

 声の代わりとばかりに響いたのは、盛大な腹の虫の音。

 

「………………」

「………………」

「………………」

「あう……うぅ……」

「……ま、まあ、もういい時間だしな」

「う、うむ。そろそろ昼にしようか。九曜もどうだ?」

「どうだって……いいのか?」

「ついでだし、構わんよ。姉者も良いだろう?」

「…………ああ」

 

 わかりやすいくらい不服そうだったが、こくりと頷く春蘭。

 

「言っておくが……奢らんからな」

「……誰も期待しちゃいねえよ」

 

 一体どこが認められてるんだか。

 油断すれば零れ落ちる溜め息を堪え、旭日は歩き出す二人の後に続いた。

 

 

 

 

「うまいっ!」

 

 出されたラーメンをずずりと啜った春蘭は、不機嫌な顔をにこやかな笑顔にすぐさま変えた。

 

「……最初の一口目でそれかよ」 

「ふんっ。うまいものをうまいと言って何が悪いのだ、この馬鹿者が」

「馬鹿に馬鹿と言われてしまった……」

 

 旭日が小声で何かを呟いていたようだが、気にせず二口目に突入する。

 場所は以前、季衣に奨められ秋蘭と共に足を運んだラーメン店。

 そこに今日は旭日を連れてやってきていた。妹と、姉のように慕ってくれる子としかまだ訪れてない店なので、よく知らない者に紹介したくはなかったのだが……こうなったら仕方ない。

 毒を食わば皿までと、毒や皿の代わりにチャーシューに舌鼓を打つ。

 

「やはりここのラーメンはうまいな。特にこのチャーシューなど、たまらんぞ」

「ふうん……チャーシュー欲しいんだったら、いるか?」

「お? くれるのか?」

「俺のはチャーシューメンでチャーシュー多めだし、構わねえよ」

「なんだ、意外といい奴だな貴様!」

 

 遠慮なく旭日の器に箸を伸ばしてチャーシューを残さず掴み、ぱくりと口の中に入れる。味がしっかりと沁みたチャーシューはとても美味しく、自然と春蘭の頬が緩んだ。

 しかしご満悦な春蘭とは裏腹に、ただのラーメンと化してしまった元チャーシューメンと春蘭を交互に見つめる旭日はなんともいえない、なんと言ったらわからない微妙な顔をしていた。

 

「……全部とるなよ。そしてもう少し味わって食えよ」

「むぐむぐ……ふぁんふぁ、くれるふぉひゅーはは」

「姉者、ちゃんと口の中の物を飲み込んでから喋れ。何を言っているのかわからんぞ」

 

 秋蘭の注意に頬張っていたチャーシューをよく噛んだ後、ごくんと飲み込む。

 

「んく……くれると言うから、チャーシューはいらんのだと思ったではないか」

「チャーシューメン頼んでそんな判断するわけ……はぁ、もういいや。迂闊な発言をした俺が悪かった」

「やれやれ。九曜、私のを一つ分けてやるから、姉者の馬鹿さ加減は堪えてくれ」

「なっ、九曜! 貴様ぁ、秋蘭からあんなうまいチャーシューを巻き上げるつもりかっ!」

「……俺から巻き上げたお前が言うな」

「落ち着け、姉者。大人しくラーメンを食べていろ」

「う……うむ」

「どっちが姉だかわかりやしねえな、ったく。秋蘭も、春蘭があんなに美味いと誉めてるんだ、自分で食べりゃいいさ。俺は次のお楽しみにしとくよ」

 

 苦笑するようにそう言って、旭日は「お、確かに美味いな」と麺を啜る。どうやらチャーシューを奪われたことはもう気にしていないらしい。

 そんなどこか大人びた態度が無性に腹立たしく、詰め込むように箸を進めていく。

 

「(これでは、わたしがまるで子どもみたいではないか)」

「姉者、誰も横取りなどせんのだからもっとゆっくり食べろ。ほら、口の周りが汚れている」

「うん? んぅ……っ。す、すまんな」

 

 秋蘭にされるがままに口元を拭ってもらう春蘭だったが、綺麗になったところではっと旭日のほうに顔を向けた。

 意地の悪いあやつのことだ。

 性格の悪いあやつのことだ。

 あの癇に障る、人を小馬鹿にした皮肉な笑みを浮かべているに違いないと。

 

「………………っ」

 

 だが、予想していた小馬鹿や皮肉がどこにもない、優しさが溢れた旭日の微笑に、春蘭は。

 言葉を――失った。

 

「……春蘭? どうかしたのか?」

「あ、く……よ、う…………………………」

「だから、どうしたのか? 人の顔を見たと思ったら固まりやがって、いくら俺でも流石に傷つくんだが」

 

 上手く言葉にできない。

 上手く言葉が出てこない。

 

「くよ……九曜、早く食べねば麺がのびるぞ」

「あ? いやでも」

「……わたしのことは気にするな。なんでも、ない」

「………………? まあ、なんでもないならいいけどよ」

 

 首を傾げながらも旭日がラーメンを啜り始めたのを確認して、自分たちも食事を再開する。

 あれだけ美味しかったのに、どこか味が褪せたような気がした。隣りに座る秋蘭も似た心地なのだろう、箸の進み方が遅くなっている。ただ――ただ、目の前の男の微笑を見ただけで、食欲が一気に失せてしまった。

 

「(不愉快だ……っ)」

 

 皮肉な笑みを浮かべていたほうがずっとマシだった。叶うならいつか見た、日を思わせる温かな笑みを浮かべてほしかった。

 見たくなかった。

 あんな優しい微笑なんて。

 優しくもどこか寂しさの滲む微笑なんて――見たく、なかった。

 

 


 
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