「どうした?お前の腕はそんなものか?」
「くっ・・・」
ホテル・アグスタの上空でキリランシェロは長剣を得物とするゼスト・グライガンツと名乗る男と切り合いをしていた。
キリランシェロが握るのは先日完成したばかりの短剣型デバイス『スコルソール』。これがあるとないのとではだいぶ違う。なにせゼストと名乗るこの男、キリランシェロに魔術を放たせる隙を与えないのだ。キリランシェロがチャイルドマンに暗殺術を学ぶ上で剣術も学んだし、そのうえで短剣を武器に選んだのだが―――
(この男・・・強い!)
騎士を名乗ったこの男は、とてつもなく強い。しかしここで敗れてやるわけにはいかない。キリランシェロはスコルソールから魔弾を5球程度放たせる。しかしゼストは少し身を捩るだけでそれをかわす―――
「我は放つ―――」
キリランシェロが欲しかったのは彼の一瞬の隙。編んでいた構成を一気に解き放つ!
「光の白刃!」
「むうっ!」
キリランシェロが放った熱衝撃波はゼストを直撃する―――が、バリアジャケットに包まれた腕でガードされて大したダメージは与えられなかった。
「なかなかやるな、キリランシェロとやら・・・む?そうか・・・」
ゼストは念意を受け取って不満そうな顔をしたものの、転移の魔法陣を展開させる。
「任務は完遂したようだからな、俺はここらで撤退させてもらう」
「まて!」
「俺を追うより味方の心配をした方がいいんじゃないか?さらばだ!」
ティアナ・ランスターは常々感じている事があった。それは機動六課の面々に対する劣等感である。
(なのはさん達隊長陣や副隊長達はいうにおよばず・・・エリオは10才なのにもうランクはBだし、キャロもフリードみたいな強力な竜を召喚できる天才肌。スバルもお母さんやお姉さんが優秀な局員だし・・・なによりもあいつ・・・)
彼女の脳裏に浮かぶのは黒髪黒目黒ずくめと『黒』の三拍子を兼ね備えた、素直な瞳をした少年―――キリランシェロ。
副隊長格の2人を相手に互角に渡り合う年下の少年と『凡人』の自分を見比べると、どうしても卑屈になってしまう。
しかし、ここは戦場。余計な考え事は命取りである事を、ティアナは失念していた。
「あっ―――」
クロスミラージュから自身が放った弾丸が狙っていたガジェットを逸れ、その弾丸は―――スバルへ。
「スバル、避けてっ!」
「えっ―――」
スバルはティアナの声に振り向くも、すでにティアナの弾丸はスバルがよけきれないところまで来ていた。
スバルは、現在に至るまでの状況を理解できないでいた。
(ええっと、何が起こったんだろう・・・)
ティアナの叫び声に振り向いてみれば、自らに迫りくる弾丸。そこに急に現れた黒い影に腰とひざの裏に手を回されて―――
「スバル、大丈夫?」
チラリと上を見上げれば、黒髪黒目の同僚の少年の顔。キリランシェロが心配そうに自分を見下ろしていた。
キリランシェロが声をかけると、スバルは顔を真っ赤に染めて無言でコクコクと頷いた。
この体勢は俗に言う『お姫様だっこ』という奴なのだが、戦闘に集中しているキリランシェロは気が付く事はなく、よってなぜスバルが顔を染めているのかも気づきもしない。スバルの腕を自分の首に回させると、右手をガジェットに向けて
「我は放つ光の白刃!」
熱衝撃波を撃ち込み、ガジェットを破壊して周囲を警戒する。周りにガジェットがいないことを確認した頃、リィンから通信が入る。
『ガジェットの全滅を確認しました。全員帰投してください』
「了解」
機動六課に帰還後、ティアナはなのはと意見が衝突。模擬戦でなのはに敗れたティアナの姿は機動六課の屋上のベンチにあった。
「ここにいたんだ」
「・・・」
ティアナを追ってきたのはキリランシェロだった。
「隣、いいかな」
「・・・好きにすればいいじゃない」
じゃ、お言葉に甘えて、と彼はティアナの隣に座る。キリランシェロは何をするでもなく彼女と共にミッドの夜景を見つめていた。
「・・・ティアナ、事情はフェイトから聞いたよ。殉職された・・・お兄さんがいるんだってね」
「・・・そうよ。兄さんはミッドの平和を守る為に殉職した。両親のいない私にとっては唯一の肉親で、誇りだった」
ティアナはポツリ、ポツリと語りだした。
兄のティーダ・ランスターは、首都航空防衛隊というエリート揃いの部隊に属していた事。そのなかでも優秀な執務官で正義感あふれる自慢の兄だった事。しかし―――
「犯罪者を取り逃がして、殉職した事で兄さんは無能だって叩かれた。兄さんの名誉は失墜した。だから―――」
「自分がその名誉を回復する?」
「そうよ」
キリランシェロの問いに、前を向いたまま答えるティアナ。
「その為には、無謀な作戦を立てて味方を犠牲にしてもいいの?」
「あんたには分かんないわよ!」
キリランシェロの一言に、ティアナは怒鳴り声をあげた。
「あんたみたいな天才に、凡人の私の気持ちなんて!」
怒るティアナだが、その対象のキリランシェロは暖簾に腕押しとばかりに涼しい表情だ。
「そうだね。僕には君の気持なんて分かりはしない」
「だったら―――」
ほっといてよ、と続けようとしたティアナだが、キリランシェロは続けた。
「だけど、僕はティアナが『凡人』だなんて思った事はないよ。それについては断固否定させてもらう」
「えっ?」
「確かにティアナは攻撃面においては優れているとはお世辞にも言えない」
「うっ・・・」
「だけど幻術で相手を惑わせるトリッキーなところ、前線で戦う猪突猛進なスバルの手綱を握る指揮官としての腕は、磨けばフェイトくらいの執務官にはなれるんじゃないかな」
それは、まぎれもない彼からの激励の言葉。
「前線で戦うだけが、お兄さんの名誉を回復する道じゃないよ」
「『前線で戦うだけが、お兄さんの名誉を回復する道じゃないよ』・・・か」
キリランシェロが去った後、ティアナは一人、呟いた。
「なのはさんに謝らないと・・・それと」
ティアナはクスリと笑い、自分を元気づけてくれた少年の顔を思い浮かべる。
「あいつにも礼を言わないとね」
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約4ヶ月ぶりの投稿です。原作知識がないため、こんなにも遅くなってしまいました・・・orz