現在、大陸を舞台に割拠する4人の英雄がいる。
有能な将軍や軍師を揃え、自身も有能な将であり君主である『乱世の奸雄』曹操。
母の築いた土台を奪い返し、江東の地に一大勢力を持つ『小覇王』孫策。
曹操の友であり漢王朝皇帝を擁し、竜の如き勇ましさで敵を蹂躙する『紅竜王』織田舞人。
そして―――
劉備領徐州の彭城で、少女は頭を悩ませていた。彼女の名は諸葛亮。字を孔明という小さな少女は劉備軍が誇る軍師である。その知謀は『伏竜』と称されるほどだが、彼女の頭脳を持ってしても解決できない事態があった。
それは東西南北の諸侯と連合して築き上げた『曹操・織田包囲網』の完全なる瓦解である。
当初の予定では魏軍と織田軍を東西で分離し、魏軍は馬超軍が、織田軍は劉備軍が相手をして時間を稼いでその隙に孫策軍が寿春を制圧、袁譚軍が鄴を制圧してそこを足がかりに一気に許昌と洛陽を攻め落として帝を救い出し、敵両軍の本拠地を奪取して諸侯の決起を促し退路を断った完全包囲で曹操・織田舞人を滅ぼす。
しかしその予定は大いに狂う。最初に躓いたのは皮肉にも劉備軍からだった。
織田軍は素早く北の動きを察知すると、本隊が城を出る前に素早く反転。敵の軍師が虚報を振りまいて本隊の動きを鈍らせ、織田軍は大した被害を出さずに許昌へと帰還してすぐさま袁譚軍と決戦してこれを討ち破った。
孫策軍は当初の予定が狂うと、占領した寿春城に城代を置いて『領内の反乱の兆しあり』としてさっさと戦線離脱。頼みの綱としていた馬超軍も、魏軍の最新鋭部隊の前に壊滅。
これで、曹操・織田連合軍は憂いなく東に―――彼女たちの主・劉備の討伐に大軍を差し向けてくるだろう。
もちろん彼女達も敵軍主力が他の敵と戦っている間、軍を遊ばせていたわけではなかった。張飛を主将に青州へ進軍を計画したが、袁譚軍との決戦が終わり漢に臣従した『燕王』公孫淵が青州の魏軍を救援して張飛率いる劉備軍を撃破した。
さらに関羽を総大将に許昌への電撃作戦を行ったが、こちらは敵将楽進に作戦を挫かれた。
打つ手がすべて裏目に出て、いつしか敵を孤立させるはずが、包囲網が破られてこちらが孤立してしまったという笑えない状況になっていたのだった。
一方、包囲網を打ち破った漢の大将軍織田舞人は許昌城内の自邸である人物と再会していた。
「お久しぶりです、舞人さん・・・」
「油虫(ゴキブリの意)みたいにしぶとく生きていたわね、あんた」
『洛陽の変』の際、遠征先で袁紹軍に敗れて以降、行方不明になっていた月と詠、そして中庭では華雄が霞を相手に鍛錬をしている。
『洛陽の変』で袁紹軍に敗れた彼女たちは、拠点である長安城に逃れて再起を図る―――かに見せかけて洛陽城下で潜伏していた。しかし官渡の戦いで曹操・織田連合軍が袁紹軍を撃破した直後、洛陽を守備していた漢・魏の与党である鮑信がたまたま華雄を発見して董卓主従の存在を知り、密かに舞人との連絡網を確立させていたのだ。
「城下で生活している間に、月が侍女の才能を開花させちゃってね・・・」
沈痛な溜息をつくのは詠。どうも下町での生活が、心優しく気配り上手な月の才能を開花させる場所になったようだ。
「月を侍女に、ボクをアンタの軍師に、華雄をアンタの将軍として雇う―――っていう事でいいわね?」
「ま、別にかまわねぇよ。さすがに『董卓』の名を出すのはまずいが、将だった華雄・賈駆の名前なら出してもかまわんだろ。正直言うと、詠と華雄みたいな有能な将軍が今は一人でも欲しかったんだ」
「大戦があるんでしょ?」
詠は口には出さなかったが、十分に理解していた。大戦、それは―――
東征、すなわち劉備征伐である。
劉備。字は玄徳。民への底なき慈愛の心に溢れ、比類なき名将・軍師に主と慕われる少女は一つの決断を下す。
「桃香様、では・・・」
「うん、決めたよ・・・朱里ちゃん」
劉備は告げる。自らの夢をかなえるための決断を。
「私たちは益州に逃げる。今は生き延びて、曹操さんと戦える力をたくわえる!」
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第12弾です。作者自身もついぞ忘れていたあの3人が再登場です。