いつからだろう
ずっと、二人は一緒だった
私と朱里ちゃんは、ずっと・・・ずっと、一緒だった
でも、いつからだろう
私の居場所が、無くなってきた・・・そう感じたのは
私の存在に、私自身が疑問を持つようになったのは
乱世は終わった
ここからは、内政に力を入れていかなくちゃいけない
そんな中、朱里ちゃんは・・・私なんかよりも、ずっと皆の役に立っていた
皆が、朱里ちゃんのことを見ていた
皆が、朱里ちゃんのことを頼っていた
この、私でさえ
一番の親友のはずの彼女を頼っていた
そんな自分に、すごく・・・腹がたった
『私・・・最低だ』
そして、思う
“ああ、ここには・・・私は必要ない”
そんな時だった
私が、あの白い流れ星を見つけたのは・・・
お昼なのに、美しく光り輝くその白い流星に
私は、目を奪われてしまった
そして、一枚の書置きを残し・・・国を飛び出した
それから一年、色々なところを旅しました
でも、中々見つかりません
そんなある日、私は出会ったんです
『やぁ・・・どうも、こんにちわ♪
僕は、通りすがりの“唯のロリコン”です』
白く輝く、不思議な男の人と・・・
『俺の名前は【司馬懿】、字は【ミラ・ジョヴォヴィッチ】だ
気軽に、字の“ミラ・ジョヴォヴィッチ”で呼んでくれ』
『み、みみみじゃじょぶぉびっちぇしゃんでしゅか?』
『き、君さ、そんな噛んでよく舌を噛み切らないね・・・いや、可愛いからいいけど』
≪真・恋姫†無双-白き旅人-≫
第一章 となりのペドロ~猫バスよりも、俺にNO・RA・NA・I・KA?
ーーー†ーーー
「み、みじゃじゃぼぶっちぇしゃん!!」
「違う!
“ミラ・ジョヴォヴィッチ”だ!
さぁ、もう一回!!」
「み、ミジャゴボヴィっチェシャン!!」
「惜しい!
さぁ、もう一回だ!!」
「あ、あわわ・・・も、もう無理れしゅ」
「なっ・・・諦めんなよ!
熱くなれ!もっと熱くなれよ!!
やれるって、絶対やれる!
君ならできる、だから頑張れよ!!」
「あ、あわわ、私頑張ります!!」
「そうだ、その意気だ!
さぁ、ばっちり決めてくれ!!」
「はい!!
ミラ・ジョヴォぴっ!!!??」
「鳳統ちゃーーーーーーん!!!!???」
現在、とある森の中
何故か、某松●修三並みにやたらと熱くなっている二人組がいた
一人は先の尖った長い帽子を被った少女
鳳統・・・真名を雛里である
もう一人は白い外衣を纏い、顔はフードですっぽりと隠した男
司馬懿(ロリコン)、字は“ミラ・ジョヴォヴィッチ”である
森の中での、偶然の出会い
二人はあれからひとまずお互いに自己紹介をした
彼は彼女の名前に驚き、また少女は彼の字を覚えようと必死だった
それから、彼のある一言によってこのような状況になったのだ
『ところでさ、人の名前を噛んだりするのってさ・・・物凄く失礼じゃないかな?』
『あ、あわわ!?
もももも、申し訳ありません!!』
言って、彼女はすごい勢いで頭を下げる
そんな彼女の姿に、彼は“やれやれ”といった感じで息を吐きだした
『いや、俺は別にいいんだけどね
ただこの先、“スティーブン・セガール”さんや“アーノルド・シュワルツネッガー”さんといった名前の人と出会ったときのことを考えるとさ
その時に君は、ちゃんと噛まずに言えるのだろうか?』
この言葉に、雛里はパクパクと何度か口を動かし
そして、項垂れてしまった
『・・・む、無理そうでしゅ』
『しかも、すでに噛んでいらっしゃる』
『あ、あわわっ!』
これは、“重症”だ
そう思い、彼は大きく息を吐きだした
『仕方ない・・・可愛い女の子の為だ
ここは、この司馬懿に任せてくれないかな?』
『・・・え?』
そう言って、彼は・・・楽しそうに笑うのだった
・・・というわけで始まったのが、冒頭にあったことである
とりあえず、まずは自分の字からという司馬懿の提案のもと雛里は何度も練習していたのだ
結果は、まぁ先ほどの通り・・・
「大丈夫、鳳統ちゃん?」
「い、いひゃいれす」
鳳統の惨敗、すなわち修造の惨敗だった(?
某松岡●造の力をもってしても、彼女は彼の字を噛まずに言うことが出来なかった
“仕方ない”と、司馬懿は苦笑する
「まぁ、人には得手不得手があるからね
とりあえずは、呼びやすいように略してもらって構わないよ
もう、日が落ちてきているし・・・そろそろ、ここを出ないとマズイからね」
「も、申し訳ありません」
「いいって、気にしないで」
そう言って、司馬懿は笑う
そんな彼の言葉に、鳳統は微かに頬を赤くしながら頷いた
「そ、それでは“ビッチ”さん・・・」
「ごめん、俺にその発想はなかった!!
その略し方だけはだめだ!!」
「?」
可愛らしく小首を傾げる雛里に一瞬キュンとなる司馬懿だが、自分は“ぺドという名の紳士”だと言い聞かせ何とか堪える
それから、額に手を当て溜め息をついた
「うん、これは俺が悪いよな
ごめん鳳統ちゃん、実は俺の字は“ミラ・ジョヴォヴィッチ”じゃないんだ」
「・・・へ?」
男の突然の告白
雛里はキョトンとしてしまう
そんな様子に、司馬懿は苦笑しながらペコリと軽く頭を下げる
「俺の名前は司馬懿
字は“仲達”・・・だったはず!」
「“はず”!?
“はず”ってなんですか!?」
男の言葉に、今度は盛大にツッコんでしまう雛里
司馬懿はそのツッコミに満足気に頷いた後、軽く笑いをこぼしながら頭を掻いていた
「いやぁ、名前まではハッキリと憶えてるんだけど字は曖昧でさ
確か、司馬懿の字は仲達で合ってるはずなんだけど・・・どうかな?」
「“どうかな?”ってなんでしゅか!?
私が知ってるわけないじゃないでしゅか!?」
「もちつけ鳳統ちゃん
また凄まじく噛んでるから」
“どー、どー”と、鳳統の言葉を軽くいなす司馬懿
そんな中、雛里はある疑問が頭に浮かんできた
それは・・・
「あの、もしかしてその司馬懿という御名前も・・・」
「うん、偽名♪」
ズルッと、盛大にズッコケる雛里
その見事なコケッぷりに、司馬懿は感銘の声をもらしていた
森の中での不思議な邂逅から、はや数時間
日は・・・もうすぐ、完全に沈もうとしている
ーーー†ーーー
「落ち着いた?」
「は、はい・・・」
もうすぐ、日が落ちようという頃
相変わらず、二人は向かい合い立っていた
ただ先ほどに比べ、雛里の顔には疲れが目立っているようだったが・・・
「さて、と・・・そろそろ、日が落ちてしまうな」
「あわわ、そうでした!
早くここを出ないと、今夜はここで野宿になってしまいます!!」
雛里の言葉に頷く司馬懿
彼はそれから、持っていた杖を肩に担ぎ息を吐き出した
「しっかし、こんな所で人に会うなんて・・・今日はついてるな」
「あわわ、そんな・・・私のほうこそついてますよ」
言って、二人は笑いあう
それからお互いに安心したように溜め息をついていた
“よかった、よかった”と
そして二人は、ニコニコとしながらこう言ったのだ
「俺さ、実は道に迷ってて・・・」
「私、実は迷子になってしまいまして・・・」
ーーーーーーー間ーーーーーーー
(って、二人とも迷子かよーーーーー・・・)
(って、このお方も迷子だったーーーーー・・・)
もう薄暗い森の中
二人はまったく同じことを考えながら、同じように頭を抱えていた
まさか、二人そろって迷子とは思わなっかのだ
「これは、終わった・・・」
「終わりましたね・・・」
言って、二人は溜息を吐きだした
状況は変わらず
まぁ一人よりは二人の方がいいのだろうが・・・それでも、ここから出られないという事実は変わらない
そんな中“仕方ない”と、司馬懿が顔をあげる
「とりあえずさ、一人よりは二人っていうし
まだ少し日があるうちに、歩いて行ってみない?」
「あ、あわわ・・・いいんですか?」
「いいんですかって、何が?」
雛里の言葉
司馬懿は、首を傾げる
「その、ご一緒に行動しても・・・」
「ああ、それなら大歓迎さ
ここ最近ずっと一人だったから、すごい寂しかったし
それに、君みたいな可愛い“ロリ”と一緒に歩けるんなら・・・迷子だって、楽しいものになるしね」
そう言って、彼は笑った
その瞬間、僅かに吹いた風
サラリと揺れる髪・・・見えた瞳
優しい光りを宿す、彼の瞳
雛里はその瞳に一瞬見とれてしまう
だがすぐに我にかえり、彼女は慌てて頷いていた
「あわわっ!
こ、こちらこしょよろしくお願いしましゅ!」
「うん、よろしくね♪」
フッと微笑み、彼はゆっくりと歩き出す
その後ろを、ちょこちょこと雛里はついていく
もうすぐ真っ暗になってしまう森の中
夜の森は危険だ
だがしかし、二人の足取りは随分と軽いものだった・・・
ーーー†ーーー
「そういえば・・・どうして、司馬懿さんは偽名なんて使ってるのですか?」
ふいに、歩きながら雛里は尋ねる
それに対し、司馬懿はポリポリと頬を掻いていた
「う~ん、まぁその・・・幾つか、理由があるんだけどさ」
ピタリと、そこで彼の足が止まる
何事かと、隣を歩いていた雛里も同様に足を止めた
そして見た
司馬懿の体が、微かに震えているのを・・・
「司馬懿、さん・・・?」
「ん、あぁごめん・・・ちょっと、思い出しちゃってさ」
力なく笑い、彼は言う
そんな彼の様子に、雛里は申し訳なさそうに頭を下げた
「ごめんなさい、変なこと聞いてしまって!」
「ああ、気にしないで
そんな大した、理由じゃないんだよ」
“それに・・・”と、彼は持っていた杖を見つめる
それから、ニッと口元を釣り上げた
「この名前に相応しくなったら、俺は・・・“彼女”と肩を並べられるかもしれないしね
そしたら、たぶん許してもらえる・・・だから、大丈夫なんだ」
そう言って、彼は笑う
それから、彼は空を見上げた
「しかし、結構時間が経ってたみたいだな」
見上げた空・・・日はもう完全に落ちていた
幸いなことに、夜空に浮かんだ月灯りのおかげかそこまで暗くはなかったのだが
それでも、今日はここら辺が限界だろうと司馬懿は溜め息をつく
「今日はもう、諦めたほうがよさそうだね」
「はい、仕方ないですよね」
雛里も、彼の言葉に頷く
それから、辺りをキョロキョロと見回した
「あそこの木の傍なら、ちょうどいいかもしれません」
言いながら、雛里は指を差す
その先には、他の木よりも少し大きな木があった
その下で、一夜を過ごそうということか
彼はそう思い、その木の傍まで行こうとして・・・ピタリと、足を止めた
「司馬懿さん?
どうかしたのですか・・・?」
雛里の言葉・・・司馬懿は、それに対し苦笑する
それから、彼女の前に庇うように立った
「残念だけど、お客さんみたいだ・・・」
「お客さん?」
雛里はその言葉の意味がわからず首を傾げる
だがすぐに、その意味を理解することになった
ガサリという音
その音が聴こえてすぐに、先ほど自分が指を差した方向から何人かの男が現れたのだ
雛里は、自分が彼に会う前に考えていたことを思い出す
「あ、あわわっ・・・!」
“賊”
「へへ・・・兄ちゃんよぉ、随分と可愛い嬢ちゃんを連れてるじゃねぇか」
そんな中、ひとりの男が話し出す
風貌や周りの男の反応からして、この男が賊の親玉なのだろう
手に持たれている剣も、若干だが立派なものだった
雛里は恐る恐る周りを観察する
賊の人数は十人
十人は親玉である男を中心に、自分たちを囲むように近づいてくる
この状況から逃げられるか?
答えは、恐らく否
司馬懿だけならばわからないが、自分は走ることに自信はない
しかも相手はたぶん、この森のことを知り尽くしている
「あ、あぁ・・・」
“絶体絶命”
そんな言葉が浮かぶ
雛里の体は、大きく震えていた
しかし・・・
「大丈夫だよ」
“彼”は、違った・・・
「え・・・?」
唖然とする雛里
そんな彼女をよそに、彼はスッと前に出る
それから、持っていた杖を彼らに向けた
「貴方たちは、山賊さんか何かですか?」
「は?」
その質問に、賊の親玉は思わずそんな声をあげてしまう
それからすぐに、呆れたように自身を指さした
「いや、どっからどうみても賊だろうが!?」
「いや・・・ただのいい歳したオッサンにしか見えないんだけど」
「オッサン!!?」
司馬懿の言葉に、親玉が驚きのあまりまた声をあげた
そして、同時に思う
“何なんだコイツは?”と
そんなことつゆ知らず、彼は話を続ける
「ていうかさ、なんで賊なんてしてんの?」
「いや、なんでって・・・」
この質問に、今度は他の賊が呆れたように反応する
司馬懿はその反応を見て、深いため息を吐き出していた
「いやさ・・・乱世は終わったんだよ?
なのにアンタらは、こんなとこで何やってんだよって話しさ
何なの?
“働いたら負け”とでも思ってんの?」
「んなっ!?」
「あわわ!?」
グサリと、賊たちの心に何かが刺さった
そして雛里は、司馬懿のあまりの発言に“あわわ”言っていた
それでも尚、彼は止まらない
「お、俺らだって最初は頑張ったさ!」
「最初だけ?
それ、頑張ったって言えんの?
始めだけ頑張るのだったら、子供だってできるよ?
赤ちゃんだってハイハイすんのに、すっごい頑張ってるよ?
あんた、ハイハイ以下の頑張りしかしてないんじゃないの?」
「ごぱぁっ!!?」
容赦のない一言に、また一人賊が怯む
そんな中、雛里は思った
“あれ? 絶体絶命?”と
「いい歳して、仕事ないからってやさぐれて・・・アンタらは恥ずかしくないのか?」
「て、てめぇ!!
こっちが下手に出りゃ、調子に乗りやがって!!」
チャキッと、一斉に賊たちが武器を構える
しかし・・・司馬懿は、気にしていない
先ほどから変わらない態度で、賊たちに向かい杖を向けている
そのまま・・・賊たちをあざ笑うかのように、冷たい笑みを浮かべた
「おいおいおい、いいのかよ?
それ以上近づいたら・・・この杖が、火を噴くよ?」
「なっ・・・なめんじゃねえぇぇぇええ!!!」
その言葉が合図となった
「ぶっ殺してやる!!!!」
賊の親玉が、顔を真っ赤にしながら司馬懿に突っ込んでいく
剣を大きく振り上げながら、彼めがけ駆けていく親玉
だが。司馬懿は動かない
このままでは、彼は殺される
「司馬懿さん・・・!」
しかし雛里は、何故か恐くはなかった
聞こえたのだ
賊が駆け出した瞬間、確かに聞いたのだ
彼が・・・司馬懿が言った言葉を・・・
“なら・・・仕方ないな”
「ぁ・・・」
それは・・・本当に、一瞬の出来事だった
剣を振り上げたまま、走っていた親玉が
それを見ていた賊たちが
そして、雛里が
全員の視線が集まる
彼の・・・司馬懿の持つ杖に、その先端に灯る“赤”
「司馬懿・・・イキまーーーーーす!!!!」
「は、え、ちょっ・・・」
そして、凄まじい勢いで噴き出る“炎”
それは真っ直ぐに、賊の親玉に向かい噴出していく
「おおおおっぉううううぅぅぅぅううううう!!!!??」
バッと、反射的にしゃがむ親玉
直後、頭上を通り越していく炎
チリッと、髪の毛が僅かに焦げたが・・・そのような些細なことは気にしていられなかった
全員の視線が、今度は司馬懿本人に向けられる
彼はその視線に気づき、ニッとまるで悪戯に成功した時の子供のように笑った
そして一言
「言ったろ?
この杖が火を噴くってさ」
ーーーーー間ーーーーーー
((((本当に噴いたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!????))))
(あわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわw(ry)
ザワッと、一斉に賊たちが司馬懿から距離をとる
雛里に至っては、壊れたように“あわわ”と慌てふためいている
そんな周囲の反応に、彼は満足げに頷いていた
「ふっふっふ・・・これぞ司馬懿印の発明品“ぼくのかんがえたかっこいい武具シリーズ№54”、先端から炎が出る危ない杖!
その名も“ひのきの棒”だっ!!」
「あわわ、名前はしょぼいですっ!!」
雛里のツッコミもよそに、彼は上機嫌に笑いつづける
その姿を見れば、どっちが悪者かわかったものではない
そんな中、賊の一人が恐る恐るといった様子で司馬懿を指さした
「まさか、てめぇ・・・五胡んとこの妖術使いか!?」
「妖術使い?
そんなまさかっww」
司馬懿は男の言葉に爆笑
しかし、他の者は皆彼を警戒していた
そもそも、彼は服装からして怪しいのだ
顔だって隠しているし、さらに炎がでる杖まで持っている
むしろ、“僕、怪しくないですよ”なんて言っても冗談にしか聞こえない
「これは妖術じゃなくて、ちゃんとした技術だって」
「し、信じられるかっ!」
この言葉に、頷く男たち
それを見て、“この中には、ニュータイプはいないのか”と唸る司馬懿
雛里は、“多分、どうでもいいことを言ってるな”となぜか思った
そんな彼はしばらく考えた後に、深い・・・本当に深い溜息をついた
「ま、仕方ないよな・・・このまま妖術使いなんて思われるのも嫌だし」
「・・・え?」
聞こえた声
雛里は、彼のことを見た
瞬間・・・見えたのは“白”
「ぁ・・・」
バサリと、何かが自分の前を通り過ぎて行った
それが彼が先ほどまで着ていた外衣だと気付いたのは、それからすぐのこと
その向こう・・・彼女には、光が見えた
彼女だけではない
賊たちも同じように、光を見ていた
月灯りをうけ、キラキラと美しく輝く・・・“白き光”を
「あ、貴方は・・・いったい・・・」
声が震える
だがしかし、聞かなくては
雛里は震える声のまま、必死に目の前の光に向け声を出す
その問いかけに、光りは・・・“彼”は、優しく微笑んだ
そして杖を肩に担ぎ、静かに口をひらいた
「俺の名前は“北郷一刀”
まぁ人によっては俺のことを・・・【天の御遣い】と呼ぶ人もいるけどね」
ーーー†ーーー
「天の御遣い・・・だと?」
親玉は、ゆっくりと呟いた
噂には聞いたことがあった
乱世を終わらせるべく、この国に舞い降りたということ
三年前に、その役目を終え天へと帰ったということ
だがしかし、実物を見たことはない
あくまで噂のみの存在
それが親玉をはじめ、男たちの認識だった
ならば・・・目の前の男はどうだ?
実際に見たことはない
実際にいたかどうかも、自分たちにはわからない
だがしかし・・・“本物”だと、そう確信していた
この目の前の白き光は、紛れもなく本物である
男たちは、そう思っていた
だからだろう・・・自分たちが、こうして膝をついているのは
男たちは自然と、自分たちでも気づかないうちに跪いていたのだ
そして、頭を下げていた
「御遣い様・・・」
その様子を、雛里はじっと見つめていた
先ほどまでの態度が嘘のように、静かに頭を下げる賊たち
そして・・・そんな彼らを、優しげな瞳で見つめる男
天の御遣い、北郷一刀
彼はしばらく彼らを見つめた後に、すっと親玉に向かって歩み寄っていった
「親分さんはさ、けっこう力がありそうだね」
「へ、へぇ!
力になら、少しは自信がありますっ!!」
「なら・・・そうだな、土木関係の仕事を探すといいよ」
「へ、へ?」
御遣いの言葉
わけがわからないといったふうに、男は声をあげる
そんな彼の肩をポンと叩き、御遣いは優しげに笑った
「さっきも言ったろ?
乱世は終わったんだ・・・けどさ、やることなんてまだまだ山のようにあるんだから
今までの戦によって壊れてしまった街の復興や、新しい土地の開拓
君の力が必要とされる場所は、それこそ沢山あるんだ」
「俺の力が・・・必要?」
“ああ”と、一刀は笑った
それから男の手をとり、スッと立ち上がらせる
「今からでも間に合うさ
君の・・・君たちの力を、この国の今の為に
そしてこれから先の未来の為に、貸してくれないかな?」
その一言で、“充分”だった
「う、あぁぁ・・・」
賊の男たちは皆、その一言で涙を流していたのだ
一刀が手を取った親玉もまた、盛大に涙を流していた
誰かに、自分を必要とされる
彼らには・・・それが、堪らなく嬉しかった
「さて、と・・・鳳統ちゃん」
「ひゃ、ひゃいっ!」
いきなり話を振られ慌てる雛里の様子に苦笑しながら、彼は懐から一枚の紙を取り出した
そしてそれを、雛里へと差し出す
「こっからなら、蜀が一番近いし
劉備さんのところも、結構人手が必要なんだよね?
だったらさ・・・一つ、お願いしてもいいかな?」
「あ、はい!
わかりました!!」
そこまでで、彼女は彼が言いたいことを理解する
すぐさま彼から紙を受け取ると、背負っていたバッグから墨と筆を取り出す
そしてその紙に、黙々と何かを書き始めた
やがて書き終わったのか、その紙を丁寧に畳むと一刀へと差しだす
彼はそれを受け取ると、賊の親玉に渡した
「ここにいる鳳統ちゃんは、蜀では軍師をやっててね
ある程度なら、融通がきくんだ
というわけで、それ・・・君たちの紹介状
それをもって成都まで行けば、仕事が貰えるはずだから
そっから先は、君たちの頑張り次第だよ?」
「あ、ありがとうごぜぇます!!!!」
「どういたしまして」
バッと、勢いよく頭を下げる男たち
その様子に、苦笑する彼
雛里は・・・そんな彼の姿から、目が離せなくなっていた
月明かりの下
出会った・・・この、白き光から
「天の御遣い、さま・・・」
ーーー†ーーー
「お~、やっと出れた~~~~♪」
その翌日
森の出口に、二人の男女の姿があった
鳳統こと雛里と、司馬懿こと北郷一刀である
彼はすでに昨日と同様、フードを被り“司馬懿”となっていた
さて、昨夜はあれからどうなったのか
ひとまず、賊の親玉だった男・・・“周倉”の案内によって、出口付近まで歩いた一刀たち
それから、そこで一晩過ごしたのだ
そして今日の朝、こうして出口までたどり着くに至った
なお周倉たちは、つい先ほど成都に向かうべく別れた
彼らは一刀にお礼を言い、いつか必ず恩を返すと涙を流しながら歩いて行った
「さってと、次は何処に行こうかな」
言いながら、彼は思い切り背中を伸ばす
見上げた空・・・今日は快晴
“絶好の旅日和だ”と、彼は嬉しそうにつぶやく
そんな彼の様子を見つめながら、雛里はゆっくりと口をひらく
「あ、あの・・・魏に、華琳さんのところには帰らないんですか?」
「っ・・・」
ピタリと、彼の動きが止まった
次いで、プルプルと震える体
明らかに、様子がおかしい
「あ、あの・・・御遣い様?」
「・・・だ」
「はい?」
微かに聞こえた呟き
それを聞き、彼女は首を傾げた
「深夜のテンションだったんだ・・・仕方なかったんだよ!」
「へ、あっあわわ!?」
そんな彼女の肩を、ガッと掴む彼
何故か顔を真っ青にしたまま、僅かに瞳をウルウルとさせながら
彼は必死に声をあげていた
「あ、あの、一体どうしたんですか!?」
「ご、ごめん・・・ちょっと取り乱しちゃって」
“ふぅ”と、彼は息を吐き出した
それから、ゆっくりと話し始める
彼が・・・何故、彼女たちのもとに帰らないのかを
「俺さ・・・この世界から消える前に、皆に宛てて手紙を書いたんだ」
「はい」
この話は、実は雛里も聞いたことがあった
彼女と仲の良い魏の軍師、程昱こと風
彼女から、何度かその話を聞いたことがあったからだ
その話をする時の風の表情を、雛里は今でもしっかりと憶えている
故に、その手紙がどれほど大切なものだったのか理解できていた
「その手紙を書いてたのが、もう深夜でさ
眠気と戦いながら、必死に皆に対しての想いを書いてたんだ」
「は、はい」
「でさ、眠い時って偶に変にテンション・・・まぁ、気分が盛り上がる時ってない?」
「・・・え?」
ガクリと、彼女の肩が落ちる
そんなこと知らずに、彼は話し続けた
「その時が、まさにそれでさ・・・しかも、よりにもよって華琳に宛てた手紙の時にね
その時は“ま、後で直せばいっかww”みたいな感じだったんだ
けど、結局・・・」
「そのまま消えてしまった、と?」
“ああ”と、彼は顔を真っ青にしたまま頷く
その頼りない姿に、彼女は思わず額をおさえため息をついてしまった
「それで、その手紙にはなんと?」
「それは・・・」
呟き、懐から取り出したメモ帳にボールペンをはしらせる
やがて書き終えたのか、それを雛里へと手渡した
「この紙を見てくれ・・・コイツをどう思う?」
≪小さくたっていいじゃない、人間だもの byかずと≫
「すごく・・・“斬首”です」
「だよね、ちくしょーーーーー!!」
雛里の言葉
彼は頭をおさえたまま叫んだ
言葉のとおりである
これを見た華琳の反応・・・彼らが想像する限り、まず間違いない
ニヤリと笑みを浮かべた後に、確実に首を落とそうとするだろう
「で、でも御遣い様は華琳さんにとってとても大切な御方ですし
それに三年もたってるんです・・・もしかしたら、もう許してくれるかもしれません」
「甘い、甘すぎるよ鳳統ちゃん!」
「あ、甘いでしゅか!?」
「ああ、甘いよ・・・実は俺、一年前にこっちに帰ってきたんだけどさ
その時に聞いたんだよ・・・」
『本当にいいのねん、御主人様
もうこっちの世界に帰ってこれなくっても』
『ああ、いいさ
約束したから・・・絶対に、みんなのところに帰るってね』
『どぅふふ♪
流石は御主人様ねん
わかったわん・・・この貂蝉にお任せよん』
『ああ、ありがとう・・・ん?』
(あれ?
何か大切なことを忘れてるような・・・)
≪小さくたっていいじゃない、人間だもの byかずと≫
『あ、あのさ貂蝉・・・ひひひひ一つ、聞いてもいいかな?』
『あらん、何かしら?』
『華琳はさ、今どうしてる?』
『曹操ちゃん?
彼女なら、ずっとご主人様のことを待ってるわよん』
『そっか、ならy・・・』
『毎日、笑顔で“絶”の刃を研ぎながらねん♪』
『ちょ、まっ・・・』
『それじゃ、送るわよん』
『あ、ダメだ!!
ちょっと待って、マジで待って!!
これは、あれだなぁ!!
ちょっと、やばい気がしてきたなぁ!!
なんか用事を思い出したような気g・・・』
『ぶるあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!』
『いやぁぁぁあああああ送っちゃ、らめぇえええええええええええええええ!!!!』
「・・・って、ね」
「は、はぁ」
彼曰く、送られたのは魏国内
彼はそこから脱兎の如く逃げ出して、こうして様々な場所を逃げまw・・・旅してまわっているのだ
・・・余談だが、この後すぐにそこに霞が駆けつけるがその時にはもう彼はその場にはいなかった
司馬懿と名乗ったのは、自分の知る三国志で曹操に並ぶ人物として浮かんだのが司馬懿だったからだ
幸いにも、司馬懿はこの世界にはいない
だったら、自分がなろう
もしかしたら、こう名前的な補正でちょっとは気がまぎれるかもしれない・・・そう考えたのだ
勿論、そんなことはなかったのだが
そうこうしているうちに、一年の月日が流れ今に至る
「そのままズルズルと、現在に至るわけですよ」
“はぁ”と、彼は軽く息を吐き出した
その様子に、雛里は苦笑することしかできない
「まぁ、でも斬首ってうのは最悪の場合ですし」
「なら、良くて?」
「う・・・打ち首でしょうか?」
「同じじゃないか
結局、首と胴体がアルマゲドンしてるじゃないか」
“だけど・・・”と、彼は空を仰ぎみる
気持のよい青空を見上げたまま、彼は力なく笑みを浮かべていた
「俺も・・・みんなに早く会いたい
だからこのままじゃ駄目なんだってわかってる
けど、中々覚悟が決まらなくってね」
「御遣い様・・・」
三年だ
その間、ずっと想っていた
想い続けていた
だからこそ、彼は自分の世界を捨ててまで・・・この世界に帰ってきたのだ
そんな彼が、愛する彼女たちに会いたくないわけがない
ただその為には越えなくてはいけない壁(華琳)があって
その壁(華琳)が余りにも高すぎて・・・中々、覚悟が決まらない
「まさに絶壁・・・華琳だけにね」
「そんなこと言うから、怒られるんですよ」
しかし、だ
雛里はその気持がわかっていた
故に、考える
彼が、どうしたら彼女たちのもとに帰れるのかを
「あ・・・」
そして・・・思いついた
「・・・来て、もらえばいいんです」
「え?」
「ですから・・・こっちから会いにいけないなら、向こうから来てもらえばいいんです!!」
大きな声で、雛里は話始める
自身が思いついた考えを・・・
「たとえば、消えたとされる“天の御遣い”
それが何処かの街で目撃されたと華琳さん達が聞けば・・・」
「っ・・・間違いなく、誰かに確認させる」
「はい!
しかも華琳さんは王ですから、そう簡単には国から動けません
そうすると、必然的に動くのは華琳さん以外の誰かとなります!!」
言って、彼女は彼の瞳を見つめる
彼はその彼女の考えに、しばらく唖然とした表情をした後に・・・
「す、すごいよ鳳統ちゃんっ!!
さっすが名軍師だっ!!!!」
「あ、あわわ!!?」
思い切り、彼女に抱き着いた
それこそ、満面の笑みを浮かべたままでだ
そして彼女を抱きしめたまま、ぐるぐると回り始めた
「あはは!
それから会った誰かに、上手く華琳のことを説得してもらえばいい!!
すごい、すごい良い考えだよ!!」
「あわわ、目が回りましゅ」
「ああ、ごめんごめん!
でも嬉しくってさ!!」
言いながら、彼は笑顔のまま彼女の体を離した
そんな彼のすがたに、知らずのうちに彼女も笑顔を浮かべていた
そして思う
ああ、あの男の人たちもきっと・・・こんな思いだったのか、と
誰かに必要とされる
誰かに認められる
それが、こんなに嬉しいものだったとは
雛里はそう思い、空を見あげた
見あげた空・・・晴れ渡る空に、彼女は手を伸ばす
その手が、彼女は何かを掴んだと・・・そう感じていた
~決めた・・・~
「御遣い様・・・」
「どうかしたの?」
「その、よろしければですけど・・・私も、連れて行ってもらえないでしょうか?」
「え?」
雛里の言葉
一刀はピタリと、動きを止める
そんな彼の様子に苦笑しながらも、彼女は真っ直ぐに彼を見つめたまま話をつづける
「この策を考えたのは私ですし
それに・・・見てみたいんでしゅ
御遣い様が、これから何を為していくのかを」
「鳳統ちゃん・・・」
“今、さりげなく噛んでたよね?”とは、彼は空気が読めるから言わない
彼女のその真剣な目を見つめたまま、すっと考え込む
それから・・・彼は笑った
あの、青空に浮かぶ太陽のような笑顔で・・・
「一刀・・・って呼んでよ
こっちでいう、真名みたいなもんだからさ」
「それでは・・・!」
「ああ、一緒に行こうか」
「は、はい!
私のことも、雛里とお呼びくだしゃい!!」
「うん、わかったよ雛里ちゃん」
ニッコリと笑い、彼女の手をとる一刀
その行動に一瞬戸惑うものの、彼女もまたすぐに笑顔になった
「これからよろしくね、雛里ちゃん」
「よろしくお願いします、一刀さんっ!」
澄み渡る空の下
交わされた握手
今ここに・・・物語は始まりを告げた
白き流星はこれから、いかな物語を紡いでいくのだろうか
それは、これからのお楽しみである・・・
「よっし、じゃぁまずは昨日のおさらいだ!!
ミラ・ジョヴォヴィッチの練習から始めるぞ!!」
「あわわ!?
まだやるんですか!!?」
・・・次回に続く!
あとがき
懐かしの第一話です
全ては、ここから始まりました
実際この話は、深夜のテンションで書きました
この頃は始まりと終りしか考えていなくて、こっからいろいろ試行錯誤をしたのを覚えています
この話に関しては、多少の変更のみです
この先
主に、建業編から大幅な改変が加えられる予定です
では、またお会いする日まで
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白き旅人、すべての始まりです
当時の、深夜テンションです
暇つぶしにどうぞ
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