No.1001292

真・恋姫†無双-白き旅人- 第二章

月千一夜さん

第二章となります
こちらも、多少の改変のみ
既読の方は懐かしさを楽しんでいただければと
初見の方は、“こいつ、イカレテやがる”と思っていただければ幸いです

続きを表示

2019-08-08 15:30:47 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:2351   閲覧ユーザー数:2155

「助さんと格さんが足りないと思うんだ」

 

「ど、どうしたんですかいきなり?」

 

 

 

それは、ある晴れた昼下がりのこと

比較的に整地された道を歩く、二人の男女の姿があった

 

一人は先の尖った長い帽子を被った少女

鳳統、真名を雛里である

 

もう一人は白い外衣を身に纏い、顔をフードですっぽりと覆い隠した男

司馬懿仲達・・・またの名を、北郷一刀である

 

二人はあの森での一件の後、目的地を特に決めることもなく何となく“南”に向け歩いていた

まぁ魏の領内をあまり歩きたくない一刀からしたら、向かうのは必然的に南か西に絞られてしまうのだが・・・

 

その途中のことだった

一刀が突然、そのようなことを言ったのは

 

 

「だからさ、俺たちには足りないんだよ・・・“助さん”と“格さん”がさ」

 

「は、はぁ?」

 

 

もう一度、同じように言う一刀

しかし雛里はそれに対し、可愛らしく首を傾げてしまう

その様子にズキュン♪としてしまう一刀だが、自分は“ぺド野郎という名の紳士”だと言い聞かせグッと堪える

 

それから、彼女を指さしながらニッと笑った

 

 

「雛里ちゃんは、“うっかりハチベエ”だし」

 

「あわわ!?

ハチベエってなんですか!?」

 

「俺の国にいる、伝説の英雄の名前さ

うっかり悪の魔王を倒したり、うっかり世界を救ったりするんだ」

 

「うっかりで救っちゃうんですか!?

しゅ、しゅごしゅぎましゅ!!」

 

 

吹き出しそうになるのを必死に堪えながら、一刀は雛里の頭を撫でる

その突然の行動に一瞬だけ慌てる雛里だが、すぐに気持ちよさそうに目を細めた

 

空は、快晴

うん、今日も三国は平和である

 

 

 

「でも、欲しいな~・・・助さんと格さん」

 

 

呟き、彼は空を見あげる

彼がそんなこと言うのには、ある程度理由があった

それも、これからの自分たちの行動に大きく関係していくことだ

だがそんなこと知らない雛里からしたら、わけのわからない話である

 

 

 

「あぁ~、どっかにこう・・・戦える人、できれば元武将さんとか落ちてないかなぁ~

強そうな・・・大きな斧とかでも軽々振り回せそうな人とか」

 

「さ、流石にそれはないですよ・・・」

 

「ですよねぇぇっっとぉ!!?」

 

「一刀さんっ!?」

 

 

 

突然、話している途中に一刀の体がグラリと揺れた

 

彼は慌てて体勢を立て直そうとするが、時すでに遅し

体にかかる重力には逆らうことが出来ずに、彼はその場に盛大にズッコケてしまった

そんな彼の傍に、雛里は慌てて駆け寄っていく

 

 

「ってて・・・」

 

「一刀さん、大丈夫ですか?」

 

「ああ、大したことはないよ」

 

 

そう言って、一刀は苦笑する

それから、自分がズッコケた場所を見つめた

 

 

「なんかに躓いたと思ったら、見てみなよ

“あんなに大きなもの”が落ちてるんだもん」

 

 

パンパンと、外衣についた砂を払う一刀

その言葉に、雛里は“あっ”と声を漏らす

 

 

 

「本当です・・・一刀さんは上を向いてたから、気づかなかったんですね」

 

 

“気をつけなくちゃ駄目ですね”と、雛里は上目遣いで言う

一刀は、“中足も躓きそう”とスッと股間をおさえた

 

 

「まぁ、今度からは気をつけるよ」

 

「それにしても、本当に大きなものに躓きましたね」

 

 

言いながら、雛里はクスリと笑いを漏らした

そんな彼女の様子に、一刀は照れたように頬を掻く

 

そして、こう言ったのだ

 

 

 

 

 

 

「まったく・・・誰だよ、こんな所に“女の人”を捨てたのは」

 

 

 

 

 

 

 

二人の視線の先・・・一刀が、先ほど躓いた場所

 

そこには、一人の女性が倒れていた

銀色の髪をしたその女性を見つめたまま、二人は顔を見合わせ笑う

 

 

「ふふ、本当ですね

見た感じ、旅の武芸者か何かでしょうか・・・もしかしたら、何処かで武将だった人かもしれませんね」

 

「あはは、本当だ

なんか重そうな斧も持ってるし、なんか強そうだしな」

 

「珍しいこともあるもんですね」

 

「そうだよな~」

 

「ふふふww」

 

「あははww」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー間ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「・・・って、本当に落ちてたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!???」」

 

 

 

 

・・・この日、二人は生まれて初めて人を拾った

 

 

 

≪真・恋姫†無双-白き旅人-≫

第二章 野生の○○○が現れた→この白き衣が目に入らぬのかぁ!

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「・・・助さんと格さんが足りないと思うんだ」

 

「ちょっと、待ってください一刀さん!

なんで見なかったことにして、少し前の会話からやり直そうとしてるんですか!!?」

 

 

“うっ”と、雛里のツッコミに対し一刀は声をあげる

それから、視線を自身の足元へとうつした

 

そこには、先ほど見たとおり一人の女性が倒れていた

銀色の髪に、紫色を基調とした色合いの衣服

 

そして、相当の重さであろう戦斧

一刀はそんな女性の姿を見つめ、その場にしゃがみ込んだ

 

 

「息は・・・してるみたいだ」

 

 

一刀の言葉に、“よかった”と雛里は安堵の息を吐いた

そんな雛里の様子に苦笑し、一刀は女性の体を抱き上げた

所謂、お姫様抱っこというやつである

 

 

「仕方ない、か

このまま、近くの街まで運ぶことにしよう」

 

「はい、そうしましょう」

 

 

頷く雛里が先頭を歩き、その後ろを一刀がついて歩く

一刀が運ぶ女性はというと、先ほどから偶に小さく声を漏らしていた

そんな彼女を見つめたまま、一刀は僅かに表情を歪める

 

 

 

「なんかさ・・・俺、この人を何処かで見たことがある気がするんだけど」

 

「その人を、ですか?」

 

「ああ」

 

 

言われて、雛里はその女性を見つめる

それから、ニッコリと笑いながら首を横に振った

 

 

「私は、きっと初対面だと思いますけど」

 

「そう、なのかなぁ

ていうか、俺なんかよりも雛里ちゃんの方がこの人のことを知ってるような気がするんだけど・・・」

 

「気のせいですよ♪」

 

「ああ、うん・・・きっとそうだよな」

 

 

雛里の言葉に、うんうんと頷く一刀

そんな彼を見て、雛里は“そうですよ”と笑顔を浮かべていた

それから、二人は顔を見合わせ笑う

 

 

「さて、とりあえず近くの街まで急ごうか」

 

「はいっ!」

 

 

力強くうなずき、早足で歩き出す雛里

その後ろで、一刀は女性を抱えたままついていく

 

 

(けどやっぱ・・・どっかで見たことある気がするんだよなぁ)

 

 

頭の中・・・なかなか出てこない答えに、モヤモヤとしたものを抱えながら

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

「ふぅ・・・なんとか、宿は確保できたな」

 

 

言いながら、一刀は安堵したように息を吐き出した

それに続くよう、雛里も椅子に座ったまま笑う

 

 

「はい、本当に良かったです

もう少ししたら、日が落ちてしまうところでした」

 

 

そう言って見つめた、窓の向こう

彼女の言うとおり、空はもう赤く染まってきていた

 

 

あれから、近くの街を目指し歩いた二人

しばらく歩きもうすぐ日が暮れるといったころ、ようやく街に辿り着くことができたのだ

それからすぐに宿をとり、ひとまず運んでいた女性を寝台へと寝かせた

 

因みに、宿は混んでいるらしく一部屋しかとることが出来なかった

仕方なく一刀は自分は街の外で野宿をするといったのだが、それを雛里が全力で止めた

何でも、一刀なら間違いは起こさないだろうとのこと・・・要するに、一刀のことを信じているというのだ

 

 

『イエスロリータ、ノータッチ・・・か』

 

『一刀さん?』

 

 

そこまで言うならと、一刀も渋々承諾

ただ部屋には二つしか寝台がないため、自分は椅子で眠るから雛里は寝台で眠るようにという条件付きでだが・・・

 

 

 

「さて、と・・・これからどうしようか?」

 

 

そう言って、彼が見つめた先

そこには寝台の上に眠る、銀髪の女性の姿があった

彼女はスヤスヤと、安らかな寝息をたてている

 

 

「とりあえず、目が覚めるまでまってみましょうか?」

 

「うん、それがいいかな

見たところ、病気かなにかってわけでもなさそうだし」

 

 

雛里の言葉に、一刀は頷き女性の額を優しく撫でる

銀色の髪がさらりと揺れた

 

 

「熱があるわけでもないし、今のところ医者は大丈夫か」

 

 

“ふぅ”と、一刀は椅子に座り彼女の顔を見つめる

そしてまた、先ほどのように表情を歪めていた

 

 

「う~ん・・・やっぱ、見たことある気がするんだよね」

 

 

腕を組み、何かを考えるよう俯く一刀

その様子に、雛里は額に手を当て同じように考えていた

 

 

「少なくとも、私は初対面だったと思います」

 

「そっか・・・なら、魏にいた頃に見たのかなぁ」

 

 

一刀がそう言うと、“そうだと思いますよ”と雛里は微笑む

その微笑みに癒されつつ、一刀もそうだったかと一人納得した

 

 

「ん・・・」

 

「「!」」

 

 

ふと、小さく漏れた声

それが眠っていた女性から聞こえたものだと気付いたのは、その女性の目が僅かだが開かれたときだった

 

 

「ここ・・・は?」

 

「目が覚めたみたいだね」

 

「ん・・・?」

 

 

ゆっくりと言葉を紡ぐ女性

一刀はその女性を安心させるよう笑みを浮かべたまま声をかけた

そんな一刀のことを見つめたまま、固まってしまう

どうかしたのか?

そう思い、一刀が彼女に再び話しかけようとした時だった・・・

 

 

 

 

「董卓・・・様?」

 

「は?」

 

 

彼女の口から、そのような言葉が聞こえたのは

 

その言葉に、今度は一刀が固まってしまう番だった

“董卓”

彼は、その名前を知っている

彼だけではない

雛里も、その名前を知っていた

 

“反董卓連合軍”

これに参加した二人が知らないはずがない

洛陽にて暴政をはたらく董卓を倒すために集まった諸侯たち

その中には二人の主である曹操と劉備もいたのだから

だからこそこの名前が出た時、二人は顔を見合わせ一様に驚きを隠せないでいたのだ

対して、その原因となった彼女もまた驚いていた

口をパクパクとさせ、慌てて手をブンブンと振っている

 

 

「す、すまない!

今のは、忘れてくれ!!」

 

「あ、ああうん!」

 

 

彼女の言葉に、一刀も慌てて頷く

“何か事情があるのかもしれない”と、そう思ったからだ

一刀からしたら、反董卓連合はもう終わったことだ

今更董卓軍の関係者だったからといって、どうする気もないのだ

それ故に、彼は彼女に気にしないよう伝え安心させようとした

 

 

「俺は気にしてないよ

だから、君も気にしないで」

 

「あ、ああ・・・すまない」

 

 

その言葉に、彼女は安堵したようにため息をついた

それから、キョロキョロと辺りを見回した

 

 

「すまん・・・私は何故、ここにいるのだろうか?」

 

「ああ、実は今日の昼ぐらいかな・・・倒れている君を見つけてね

それから君を抱えて、近くの街まで来たんだよ」

 

 

言われ、彼女は頭をおさえ苦笑した

やがて“なるほど、な”と声を漏らす

 

 

「そうか・・・私は、倒れていたのか」

 

「覚えてない?」

 

「ああ・・・大方、疲れていたのだろう

そういえば、ここ何日かまともに睡眠をとっていなかった」

 

 

彼女の言葉

一刀は“そうだったんだ”と呟き、コクリと一度頷いた

それから彼女の手をとり、ニッと優しげに微笑む

 

 

「なら、今日はゆっくり休むといいよ

宿代なら気にしないでいいからさ」

 

「しかし・・・」

 

 

言いかけた彼女の言葉

彼はそれを、スッと手で制す

 

 

「いいから、いいから♪

こういう時はゆっくり休むに限るって、ね?」

 

「うむ・・・ならすまないが、お言葉に甘えるとしよう」

 

 

“ありがとう”と彼女は頭を下げる

そんな彼女に、一刀は“気にしないで”と笑っていた

すると同時に、何かを思い出したのか手をポンと叩きだした

 

 

「そういえば、まだ俺たちの名前を教えていなかったね

彼女は鳳統ちゃん、俺と一緒に旅をしてるんだ」

 

「ほ、鳳統でしゅ」

 

「うむ、よろしくな」

 

 

カミカミな雛里に、思わず微笑んでしまう女性

その様子に笑みを浮かべながら、“それで、俺が・・・”と彼も自身の自己紹介を始めようと立ち上がった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の名前は“司馬懿”、字は“クエンティン・タランティーノ”だ

巷では、“鬼才”なんて呼ばれたりもしてる

俺のことは気軽に、字で“クエンティン・タランティーノ”って呼んでくれ」

 

「ぶっ!!?」

 

 

 

 

 

吹き出す雛里も華麗にスルーし、サムズアップしながら言う一刀

しかも、ここ一番の良い笑顔で

 

そんな彼の言葉に、彼女は難しそうな表情のまま口をパクパクとさせていた

 

 

「くえんt・・・す、すまん、悪いがもう一度聞いてもいいだろうか?」

 

「ああ、いいよ」

 

 

言って、一刀はポンと雛里の肩を叩いた

そして相変わらずの良い笑顔で、雛里のことを見つめる

 

 

「それじゃ、雛里ちゃん・・・よろしく♪」

 

「あわわ!?

なんで、そこで私に振るんですか!!?」

 

「面白いk・・・雛里ちゃんのためを思ってだよ、勿論」

 

「聞こえましたよ!?

今、面白いからって言おうとしましたよね!?」

 

「ボク、ナニモシラナイヨー

イイカラ、イッテミヨーーーー♪」

 

「あわわ、あわわわわわ」

 

 

白々しい一刀の言葉に、あわわ言うことしかできない雛里

だがいつまでもこうしてはいられない

やがて雛里は意を決して、力強く拳を握りしめ口をひらいた

 

 

 

 

「くえんひんひゃりゃんぴぃのしゃん、でしゅ!!」

 

 

 

 

 

 

ーーーー間ーーーー

 

 

 

 

 

 

「うん、そういうわけで・・・」

 

「待て待て待て!

そのまま話を進めようとするな!

わからなかったぞ!?

全くと言っていいほどに、わからなかったぞ!?」

 

 

慌てて、声をあげる女性

その言葉に、一刀は呆れたようにため息を吐き出していた

 

 

「今、雛里ちゃんが言ったじゃないか

“クエンティン・タランティーノ”って・・・聞こえてなかったの?」

 

「いや、言えてなかったからな!?

よく舌を噛み切らなかったなと褒めてやりたいくらいに、言えてなかったからな!?」

 

「そんなことないよ・・・ねぇ、雛里ちゃん」

 

「え、あ、はい、その・・・ハイ、チャントイエテマシタヨ?」

 

「不自然なほど目が泳いでいるんだが?

あと、ちょっと口元から血が・・・」

 

「見なかったことに・・・」

 

「出来るかーーーーーーーーー!!!!」

 

 

 

“うがー!”と、彼女は頭を抱え叫ぶ

その様子にフッと笑みを浮かべながら、一刀は“仕方ない”ともう一度名乗ることに

 

 

「クエンティン・タランティーノ、だよ

よろしくね」

 

 

言って、スッと手を差し出す一刀

その手をしばし見つめた後、彼女はその手をソッと握った

 

 

 

 

 

「うむ、よろしく頼む・・・“クエン酸・楽しいよ”」

 

「うん、その発想はなかったよ」

 

 

相変わらず、まったくと言っていいほどに伝わっていなかったが・・・

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「うん、もういいや・・・好きに略して呼んでくれて構わないよ」

 

「すまない」

 

 

彼女の言葉

彼は“別にいいよ”と、笑顔で言う

あれから何度か言い直したが、何故か彼女は“クエン酸”から離れようとしなかった

“足りてないの?クエン酸が足りてないからなの?”と、一刀は頭を抱える

雛里とは全く違うタイプの間違いに、彼は苦笑しつつも前回同様略して呼ぶように言ったのだ

 

 

 

 

 

 

「さて、鳳統に“タラシ”だったな

まずは・・・」

 

「ちょ、ちょっと待って!

どこをどう略したら、そんな失礼な呼び方になったのさ!?」

 

 

彼女の言い方に慌てて止めに入る一刀

だが彼女には何が悪いのかわからないようで、キョトンとした表情のまま一刀のことを見つめていた

 

 

「なんだ?

どこかおかしかったのか、タラシ」

 

「だから、その呼び方はらめなのおおぉぉぉおおおお!!!!」

 

 

彼女の呼び方が、グサリと心に刺さっていく

というのも、魏にいるころの渾名も関係してのことなのだが・・・もちろん、彼女が知る由もない

 

結局、雛里のころと同様に“仲達”と名乗った一刀

偽名云々のお話は華麗に誤魔化し、彼は話を進めていった

 

それから、今度は彼女が自己紹介を始めたのだが・・・

 

 

 

 

 

「私の名前は“華雄”という」

 

「「・・・え?」」

 

 

今度は、二人が驚く番だった

 

 

「いや、ごめん・・・もう一回、言ってくれる?」

 

「なんだ、聞こえなかったのか?

私の名前は、華雄という」

 

 

その名を聞き、二人は聞き間違いではなかったと頭を抱えた

特に・・・雛里

 

 

「ねぇ、雛里ちゃん

俺の記憶が確かなら、劉備軍って反董卓連合軍のころに彼女と・・・」

 

「あわわ、いっ言わないでください!!」

 

 

顔を真っ赤にしながら、慌てて言う雛里

数分前の自身の言葉が頭の中で反復しているのだろうか

もう、今にも泣きそうだった

そんな彼女の姿に“ぴちゅん♪”とされる一刀だが、“自分はぺドという名の選ばれし者なんだ!”と言い聞かせ何とか堪える

 

華雄はというと、そんな二人の様子に苦笑を浮かべていた

 

 

「仲達たちは、随分と仲がいいのだな」

 

「あ、あわわ!?」

 

 

そして、突然の言葉

雛里はさらに顔を赤くし、一刀はというと照れたように小さく笑みを漏らしていた

 

 

「雛里ちゃんと一緒に行動しはじめたのは、つい最近のことなんだ」

 

「そうなのか?

とても、そうは見えなかったが・・・」

 

「ほんの、数日前からだよ

偶然森の中で出会ってさ・・・それから、俺の旅について来てくれることになったんだ」

 

「そうだったのか

しかし、旅か・・・いったい、何の為に?」

 

 

華雄の問い

 

一刀はスッと、部屋の窓を見つめた

窓の向こう・・・外は、もうすっかりと日が落ちている

 

彼はそんな景色を眺めたまま、優しげに微笑んでいた

 

 

「何の為、か」

 

 

呟き、視線を自身の手にうつす

その手を、彼は静かに握りしめた

 

 

「俺さ・・・」

 

 

 

 

 

“ぐ~~~~~♪”

 

 

 

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

シンと、静まり返る部屋

何故か、凄まじく気まずい空気の中

 

無言のまま手をあげたのは・・・華雄だった

 

 

「す、すまない」

 

 

顔を真っ赤にしながら、絞り出すような声で言う華雄

そんな彼女のしぐさに、一刀と雛里は思わず吹き出してしまう

それからお互いに顔を見合わせ、大きな声で笑った

 

 

「うん、そういえばもうそんな時間だったね

それじゃぁ、そろそろ晩御飯にしようか」

 

「はい♪」

 

 

二人の言葉

華雄はというと・・・照れくさそうに笑いながらも、お腹をおさえたまま頷いたのだった

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

「そういえば、さ・・・」

 

 

部屋に食事を運び、三人で仲良く食べている時のことだった

食事も一段落したと一刀が箸を置き、華雄を見つめたまま口をひらいた

 

 

「華雄は、どうしてあんな所に倒れていたんだ?」

 

「む・・・?」

 

 

その言葉に動かしていた手を止め、華雄はふと天井を見上げる

その瞳は、微かだが揺らいでいた

 

 

「私は・・・ずっと、探していたのだ」

 

「探していた?」

 

「ああ・・・1年前に偶然見た、白き流星をな」

 

「「!」」

 

 

“白き流星”

その言葉に、二人はピクリと反応する

しかし華雄はそれに気づくことなく、話を続けていた

 

 

「その流星を見つけることが出来れば、わかるような気がしてな」

 

「わかるって・・・」

 

 

“何が・・・”

一刀がそう言い掛けた時だった

それよりも早くに、華雄は悲しげな表情を浮かべたまま言ったのだ

 

 

 

「私のもつ“武”は・・・いったい何の為にあるのだろうか、とな」

 

 

 

重い

一刀はその一言を聞いた瞬間、そう思った

いや、重いだけではない

 

 

(華雄・・・)

 

 

彼は、“似ている”と・・・そう思ったのだ

 

何故、そう思ったのか?

 

それを彼は、今はまだ言うことはできない

故に、その言葉に対し“そっか”と・・・力なく言うことしかできなかったのだった

 

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

「ん・・・」

 

 

翌日

一刀は朝一番、椅子から立ち上がり思い切り体を伸ばしていた

椅子で寝ていたため、体が少し痛いのだ

 

 

「ふぅ・・・よし、こんなもんかな」

 

 

言って、彼は窓の外を眺める

太陽の温かな光が心地よい

今日は、良い天気だ・・・そう思い、彼はフッと微笑む

 

 

「おはよう・・・朝が早いのだな、仲達」

 

「華雄、おはよう」

 

 

そんな彼の背後から、声をかけてきたのは華雄だった

彼女は肩を軽く回し、それからコクンと頷いた

 

 

「ふむ、もう大丈夫なようだ」

 

「そっか、よかったよ」

 

「ふっ、仲達たちのおかげだ・・・ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 

彼女のお礼に、彼は笑顔でかえした

その笑顔に一瞬だけ華雄が固まってしまうが、すぐにハッと我にかえりまた肩をグルグルと回していた

どうかしたのか?

そう思い、彼は彼女に声をかけようとする・・・が

 

 

 

 

 

 

 

「た、大変だああああぁぁぁああああああ!!!!!!」

 

「「っ!!?」」

 

「ふ、ふあわわわっ!!!??」

 

 

それは、突如として響いた声によって阻まれてしまう

因みに、その声に驚いたのか雛里が寝台から床へ顔面ダイブしていた

 

 

「何かあったみたいだな」

 

「行ってみよう」

 

「ああ」

 

 

頷きあい、二人は部屋から飛び出していく

その後ろを慌てて、雛里が追いかけていった

 

 

 

 

 

さて、そういうわけで宿を飛び出した三人

先ほどの声の主は、すぐに見つかった

すでに今の声を聞きつけた村人が、その声の主の周りに集まっていたからだ

 

 

「何やら、騒がしいな」

 

「ああ、皆焦ってるように見える」

 

「あわわ、いったい何が・・・」

 

 

その尋常じゃない様子に、三人の表情も強張る

とりあえず話を聞こうと、一刀達はその人ごみの中へと駆けて行く

 

 

「すみません、ちょっといいいですか?」

 

「ん・・・アンタは?」

 

「俺は姓を“松岡”、名を“修造”

字は“諦めるなよ!!熱くなれよ、もっと熱くなれよ!!頑張れって君なら出来る、だから熱くなれよ!!”といいます」

 

「松岡? 修造?

え、なに?

熱くなるの?

おじさん、熱くなっちゃっていいの?」

 

「おうふっ!?

そ、そんなことより!

いったいこれは、何の騒ぎですか?」

 

 

この親父・・・ガチだ!

と内心焦った一刀は、すぐさま話題を変える

 

勿論“自分で言っておいて”などと、空気が読める二人は言わない

そんなことよりもまずは、今の状況が知りたかったというのもあるが・・・

 

 

「ああ、それが・・・この村のすぐ近くの森に、巨大な虎が出たみたいでね」

 

「虎が?」

 

「ああ・・・あの森には私たちもよく行くからね、皆でどうしたものかと悩んでいたところさ」

 

「ふむ・・・虎、ね」

 

 

腕を組み、一刀は考える

妥当なところ、この辺りを治める太守なりに連絡し何とかしてもらうといった案がある

その間は森には入れなくなるが、死ぬよりはマシなはずだ

 

 

 

 

 

「そそそ、そういえば・・・私の娘が、さっき森に遊びに行くって家を出て行ってしまったわ!!!!」

 

「なっ・・・!?」

 

 

 

しかし、その案はこの一言で崩れ去ってしまう

一刀は頬を伝う冷や汗を拭い、慌てて声の主のもとへと駆け寄っていった

 

 

「今の話は本当ですか!?」

 

「あ、貴方は!?」

 

「“修造”です!

そんなことより、娘さんが山にいるというのは・・・」

 

「ほほ、本当です!!」

 

「くっそ・・・!」

 

 

舌打ちし、一刀は思考をフルに働かせた

杖を握る手に、力がこもっていく

 

 

「娘さんの年は?」

 

「七つになります」

 

「きた、ストライk・・・って違うだろ、俺の馬鹿!!」

 

「は、はいっ!!?」

 

 

煩悩がダダ漏れました、とは言えない

故に一刀は必死に首を横に振るしかなかった

 

と、そのようなことを考えている場合ではない

そう思い、一刀は思考を素早く切り換えた

 

 

(七歳の女の子が、虎に出くわして逃げ切れるわけがない

だったら、太守なんかに助けを求めてる時間はないよなぁ)

 

 

「ああ、いったいどうしたら・・・!!」

 

「くそ、こうなったら俺たちで!」

 

「馬鹿野郎、死ぬ気かよ!?」

 

「けど・・・!」

 

「熱くなれよ!!もっと熱くなれよ!!」

 

「くそ・・・」

 

 

ふっと、見つめた先

娘を心配し、涙を流す母親

そんな彼女のため、森に行こうとする村人達

 

しかしろくな装備もないまま虎に立ち向かうなど、はっきり言って無謀だ

 

“はぁ”と、ため息がこぼれた

それと同時に、彼の中である“決意”が固まった

 

 

 

 

「仕方ない、よね・・・雛里ちゃん」

 

「は、はい!」

 

「ごめん・・・ちょっと、寄り道していくよ」

 

「え・・・?」

 

「む・・・?」

 

 

ポツリと、呟いた言葉

雛里と華雄はその言葉の意味がわからずに、その場に立ち尽くしてしまう

 

そんな二人のことも知らず、彼は先ほどの母親の肩にそっと触れた

それから、ニッと笑い掛ける

 

 

「大丈夫ですよ

俺が、助けてきますから」

 

「・・・え?」

 

 

キョトンと、母親は口も半開きのまま固まった

周りの村人たちも、華雄でさえも同じように固まっていた

そんな中、唯ひとり・・・雛里だけは、何かわかったように顔をあげた

 

 

「まさか・・・」

 

「まぁ、そのまさかだよ

ここで会ったのも、何かの縁だしね

だから・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

~ここから・・・始めてみようと思うんだ~

 

 

 

 

 

 

 

 

“バサリ”と、彼は身に纏う外衣を脱ぎ捨てた

 

そして露わになる、日の光を浴びて美しく輝く・・・“白き衣”

 

村人たちは、そのあまりの美しさに目が離せなくなってしまう

村人だけではない

彼女も・・・華雄もまた、その一人だった

彼のその姿を前に、彼女は体が自然と震えてしまうのを抑えることができないでいた

 

 

「あ、貴方は・・・いったい?」

 

 

そんな中、あの母親が声をあげる

震えたままのその声に、彼は太陽のような温かな笑みを浮かべ言った

 

 

 

「俺の名前は北郷一刀

まぁ、“天の御遣い”って呼ぶ人もいるけどね」

 

 

 

三年前・・・消えたとされる、天の御遣い

歴史から消えた、乱世を終わらせた英雄の名前

 

その彼が今再び、歴史の表舞台に立とうとしていた・・・

 

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「・・・というわけで、森の中です」

 

「でしゅ!」

 

 

現在、村の近くの森の中

一刀は外衣を羽織り、杖を片手に歩いていた

その後ろを、必死に雛里がついて歩いていた

 

 

「ていうか、なんで雛里ちゃんまで来るのさ?

ぶっちゃけ、かなり危ないと思うよ」

 

「一刀さんお一人で、危険な所には行かせられません!

もともと、この策は私が考えたものでしゅし・・・最後まで責任を持ちたいんでしゅ!!」

 

「ああ、うん・・・その噛み具合で、どれだけ本気かってことは伝わってきたよ」

 

 

さて、あれからどうなったのか・・・

 

一刀は自身が天の御遣いだということを明かした

それからすぐに、森の中へと駆け出して行ったのだ

そのすぐ後に、雛里がついて走ってきたわけなのだが・・・理由は、今言ったとおり

“仕方ない”と、一刀は苦笑する

 

因みに、雛里が言った策とは“一刀が魏へと帰る為の策”のことである

つまりまずはこの村から、“天の御遣い”という名を広めようというのだ

母親の娘を無事に連れ帰ることが出来れば、かれらは“天の御遣い”の名を深く記憶するだろう

 

もっとも・・・一刀からしたら、そのようなことは後回しでもよかった

ただ単純に“助けたい”と、そう思っての行動だったのだから

 

 

 

「しかし、いないなぁ・・・幼女」

 

「はい、そうでs・・・幼女?」

 

「え、あ、いや・・・そう娘さん、娘さん中々見つからないな」

 

 

“ど真ん中、ストライクなんだよなぁ”と、一刀

多分ロクなこと言ってないなと、雛里は“そうなんですか”と流した

 

 

 

「けれど、おかしいですね

まだ七歳らしいですし、そう遠くには行けないはずなんですけど・・・」

 

 

 

言いながら、彼女はキョロキョロと辺りを見渡す

そして、“あっ”と声を漏らした

 

 

「いました・・・」

 

「え、嘘!?」

 

 

言われ、一刀は彼女が見つめた先を見つめる

そして・・・絶句

 

そこには、確かに少女がいた

泣きながら、こちらに向かい走ってきている

 

本来なら“幼女ワショーイ”といく一刀だが、状況がそれを許さなかった

 

 

「ああ、くそ!!」

 

「一刀さん!!」

 

 

 

 

彼らが見つめる先にいる幼女

そのすぐ後ろには、4匹の巨大な虎がいたのだから・・・

 

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「なんて、ことだ」

 

 

村の中

未だざわめきに包まれる村の中心で、彼女は自身の両手を見つめ呟く

その体は、微かに震えていた

 

 

「まさか、この私が武者震いを起こすとは・・・な」

 

 

呟き、彼女はフッと微笑む

そして・・・思い出す

彼が、天の御遣いが村を飛び出す直前のことを

 

 

 

 

 

『待て・・・本当に行くのか?』

 

 

華雄の言葉

一刀は、頬をポリポリとかきながら笑う

 

 

『華雄・・・まぁ、言っちゃったしね

娘さんを、助けてくるって』

 

 

“馬鹿な”と、彼女は思う

遊びに行くのとは、わけが違う

下手をすれば、死んでしまうのだ

 

しかし、彼は笑っていた

 

 

 

『しかし・・・相手は巨大な虎だぞ?

命に関わることだ

しかも、ここの村人とお前はまったくの赤の他人じゃないか』

 

『そこら辺は、まぁ一応考えてはいるよ』

 

 

“それに・・・”と、彼は小さく笑う

その微笑みに、彼女は“見た”のだ

 

 

 

『乱世は終わったんだ・・・それなのに、未だに悲しそうな顔をしてる人たちがいる

俺は、そんな人たちを見捨てることなんてできないよ』

 

『ぁ・・・』

 

 

 

その笑顔に

その笑顔の奥にある優しさに

 

彼女は“見た”のだ

 

 

かつての自身の主・・・“董卓”の姿を

 

 

 

 

 

 

 

 

「くくっ・・・本当に、面白い男だ」

 

 

 

言って、彼女は駆け出していた

その手に、長年共にあった“相棒”を握りしめて・・・

 

彼女は、駆け出して行ったのだ

村の門を飛び出して

 

彼が・・・一刀が入っていった、森の中へと

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

そして、場面は再び森の中

彼・・・北郷一刀は現在、絶賛大ピンチだった

というのも・・・

 

 

「「「「ぐるるるる・・・」」」」

 

 

四匹の巨大な虎に囲まれているのだから

そんな中、少女と雛里を庇うようにして一刀は杖を構えていた

 

 

「あわわわわ」

 

「ねえ、こんなにいるなんて聞いてないんだけど!?」

 

「私もでしゅよぉ!!」

 

「恐いよ~~!!」

 

 

自分一人だったなら、逃げられたかもしれない

しかし、ここには雛里と少女がいる

一刀は何とか、この危機を乗り越えるための策を考えていた

だが、中々思いつかない

 

 

(とにかく、一か八かだ・・・!)

 

 

「雛里ちゃん!

俺が何とか気をそらすから、その間に逃げるぞ!」

 

「で、でもどうやって・・・!」

 

「こうやってだよ!」

 

 

言って、彼は杖の先端を正面の虎へと向ける

それと同時に、グッと前へと足を踏み出した

 

 

「“メラ”!!」

 

 

“轟!!”と、杖の先端から勢いよく炎が噴出していく

その炎が、一匹の虎へと命中した

 

 

「今だ!!」

 

 

その隙に、彼は雛里と少女の手を掴み駆け出す

・・・因みに、叫び声は気分である

 

 

「よっし、上手くいったか!?」

 

「ガアァッァアアアアアアアアア!!!!!」

 

「うっほう、きたああぁぁぁあああああああああ!!!!!??」

 

 

咆哮をあげ、勢いよく三人を追いかけてくる四匹の虎

その恐ろしさに体が震えそうになるのを、一刀は必死に抑える

 

 

「やっぱアレか!?

メラじゃ駄目なんか!?

MPケチったら駄目なんか!?

メラゾーマくらい出さなくちゃダメなのか!?」

 

「あわわわわ、このままだと追いつかれちゃいますよおおおお!!!??」

 

「ああ、もう!

こうなりゃ、ヤケクソだ!

雛里ちゃん、君はそのままその幼女を連れて逃げるんだ!」

 

「一刀さんは!?」

 

「俺は・・・ここで時間を稼ぐから!!」

 

 

叫び、一刀はその場で方向転換する

そんな彼の姿に一瞬足を止めそうになる雛里だが、一緒に走る少女のことを見て思い止まる

 

 

「一刀さん、絶対に戻ってきてくださいね!!」

 

「大丈夫だ、問題ない!!

・・・って、これ死亡フラグじゃん!?

ごめん、今のやっぱなしいいいいいぃぃぃいいいい!!!??」

 

「ガアアァァアア!!!」

 

「うひゃああ!?

ちょっと待って、心の準備だけさせてええぇぇぇええええ!!!??」

 

「一刀さーーーーーーん!!!??」

 

 

背後から聞こえる声に、彼女の不安は一気に高まる

その不安を必死に押し殺し、彼女は村へと続く道を駆け抜けていった

 

因みに、一刀は間一髪で虎の猛攻をかわしていた

そのかわり、四匹に囲まれてしまったのだが

 

 

 

 

「おいおいおい・・・これってピンチじゃね?

ものっそいピンチじゃね?

じいちゃんとの特訓という名のイジメでさえ、こんな状況は想定してなかったよ?」

 

 

じりじりとにじり寄ってくる虎たち

一刀は頬を伝う嫌な汗を拭い、深く息を吐き出した

 

 

「まだ“アレ”は使えないし・・・今あるのだけで、何とかするしかないか」

 

 

“仕方ない”と、彼はまた深く息を吐き出す

そして、眼前に立ちはだかる虎を睨み付け叫んだ

 

 

「我が名は司馬懿!

字は仲達!!

貴様らの相手、全力で務めさせてもらおう!!」

 

 

 

 

~ただし・・・~

 

 

 

 

「俺は、ぶっちゃけ戦えないから・・・全力は全力でも、全力で逃げるってことだけどな!!!!!」

 

 

なんとも、情けない本音をぶっちゃけながら一刀は自身の懐に手を入れる

そして取り出したものを、思い切り地面へと叩きつけた

 

瞬間・・・辺りに、凄まじい程の煙が広がっていく

 

 

「が、ガウ!!?」

 

 

その突然の事態に焦る虎たち

そんな虎の隙間を縫うようにして、彼は駆け出して行った

 

 

「はっはっはっは、見たか!!

これぞ司馬懿印の発明品“ぼくのかんがえたかっこいい武具シリーズNo.76”

地面に叩きつけたら“胡椒”やら“唐辛子”やら“ウコン”やら“ジャスミン”やらが含まれた煙が辺り一面に広がる不思議なボール

その名も“モンスターボール”だ!!

一見嫌がらせに見えて、健康や香りにも気を使った素敵な一品!!

さぁ、貴様らにぬけっげほっがはっ!!??

ちょ、まっ、ごほっ、煙出すぎじゃ・・・ごほっ!

喉痛っ・・・あ、でもジャスミンの良い香り・・・ごほ、がはっ!!?」

 

 

 

・・・むせた

それはもう、盛大にむせた

どれくらい酷かったかというと、走ることを忘れるくらいにむせた

 

それが、不味かったのだ

 

 

 

「ガアアアアァァァアアアア!!!!!」

 

「っ、しまっ・・・!!?」

 

 

彼が気づいた時には、もう遅かった

虎は、あと数秒で彼を噛み殺さんというところまで迫っていたのだ

 

 

(ウソだろ・・・ここまでなのか?

俺はまだ、“見つけてないんだぞ”?

まだ、俺は“なれていないんだぞ”?

なのに・・・!!)

 

 

 

 

 

~ごめん、華琳~

 

 

 

 

 

 

ギュッと目を瞑り、彼は身構える

 

しかし・・・

 

 

(あ、れ?)

 

 

中々、その時はやってこない

もう襲いかかってきていてもおかしくないのに、だ

彼はその事態を不審に思い、恐る恐る目を開けていく

 

そして・・・見えた光景に、彼は言葉を失ってしまう

 

 

「まったく・・・無茶をする」

 

 

風に揺れる銀色の髪

“彼女”は斧で虎をおさえつけたまま、彼を見つめ微笑んだ

 

 

「なん、で・・・?」

 

「なんで、だと?

それを、お前が言うのか?」

 

 

呆れたという表情をする彼女に対し、彼は苦笑してしまった

それから、彼は杖を構え彼女に向かい微笑んだ

 

 

「ありがとう、華雄」

 

「ああ、気にするな

今後、こういうことは多々あるだろうしな」

 

「“今後”?」

 

 

首を傾げる一刀

そんな彼の様子にクッと笑いをこぼし、彼女は目の前の虎を・・・真っ二つに切り裂いた

瞬間、残りの虎たちが一斉に二人から距離をとる

彼女は・・・虎たちの行動に笑みを浮かべ、斧を思い切り地面へと突き刺した

 

そして・・・叫ぶ

 

 

 

 

 

「我が名は“華雄”!

天より舞い降りし“白き流星”を守護する“斧”なり!!

その命、惜しくなくばかかってこい!!!!」

 

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

「一刀さんっ!!」

 

「おっと」

 

 

村に着いた瞬間に、一刀に向かいダイブしてくる雛里

そんな彼女のことを、彼は優しく受け止める

 

 

「よかった!

無事だっだんでずね!!」

 

「ああ、うん無事だったよ

だから鼻チーンしようか、可愛い顔が台無しだから」

 

「チーン!!」

 

「ヒナりん、それ俺の外衣いぃぃいいいい!!!??」

 

 

着いて早々に、二人はワイワイと盛り上がる(?)

そんな二人の様子に、華雄は優しげな笑みを浮かべていた

 

 

「御遣い様!」

 

「お兄ちゃん!!」

 

 

その二人のもとに、あの母親と娘が駆け寄っていく

続くように、村人たちも集まってきた

 

 

「ありがとうございます!

本当にありがとうございます!」

 

「いや、そんな・・・俺、そんな大したことはしてないし」

 

「そんなことありません!

貴方様のおかげで、娘が救われました!」

 

「ありがと、お兄ちゃん!」

 

「ああ、気にしないで

なんたって俺はペd・・・紳士だからね☆」

 

 

ビッと、サムズアップする一刀

その紳士という言葉に込められた意味に、気付くものはいないだろう

 

 

「そんなことよりも、一応虎は退治したから

けど念の為、太守さんには連絡して確認してもらってね」

 

「退治したんですか!?」

 

「華雄がね」

 

 

言って、彼は華雄を指さした

一斉に、彼女に集まる視線

そのことに気づき、華雄はフッと笑みをもらす

 

勝負は、あれからものの数分でついた

華雄の持つ圧倒的な武の前に、虎たちは切り伏せられたのだ

 

あれから数年

彼女は苦しみ迷いながらも、武の鍛錬は怠ったことはなかった

それに、彼女は見つけたのだ

自分が探し求める答え・・・その、欠片を

 

だからこそ、彼女は“この道”を選んだ

 

 

 

「なに、そこいらの猛獣など私の相手ではない

それに私は、当然のことをしたまでだ

何故なら私は、御遣いを守る“斧”なのだから」

 

「一刀さん?」

 

 

首を傾げながら、雛里は一刀のことを見る

それに、彼は苦笑を浮かべることしかできなかった

 

 

「まぁ、そういうわけで

華雄が仲間に加わった、みたいな?」

 

「みたいなって、聞かれても・・・」

 

「あははは、まぁ新しい旅の仲間ってことで」

 

「・・・タラシで合ってるじゃないですか」

 

「ぐはっ!!?」

 

 

“ザクンッ”と、一刀の心に何かが刺さった

そんな彼のことを見て、華雄はまた笑いをこぼすのだった

 

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「しっかし、いいんかな・・・こんなに色々貰っちゃって」

 

 

晴れやかな空の下

歩くのは3人の男女

 

そのうちの一人・・・一刀は背中に背負った荷物を見つめ苦笑していた

 

 

「いいんじゃないですか?

折角のご好意ですし、断る方が失礼ですよ」

 

 

そう言って微笑む少女

雛里の背中に背負われた鞄も、いつもよりも膨らんでいた

この中には、お礼だと言って渡された“食料”が入っているのだ

少女を助けたことと、“天の御遣い”という名が生んだ結果であろうか

 

 

 

「そうだぞ一刀

貰えるものは、貰っておく方がいいだろう?」

 

 

それに同意するように頷くのは、二人よりも大きな荷物を軽々と運ぶ女性

華雄だった

彼女には真名がないらしい

しかし、だからといって彼が自分の名を預けない理由にはならない

そういうわけで、一刀は華雄に自身を“一刀”と呼ぶように言い

雛里は、自身の真名を預けたのだ

最初はそれを断ろうとしていた華雄だったが、それが旅について来る為の条件だと言われ渋々承諾

そして、現在に至るというわけだ

 

 

そんな彼女の言葉に、彼はふぅと息を吐き出した

 

 

「まぁ、いっか・・・減るもんじゃないし」

 

 

それから、彼は空を見あげる

今日も、絶好の旅日和

流れていく雲に、何やら妙な親近感のようなものを感じながら・・・彼はそう思い、ふと微笑んでいた

 

 

「雛里ちゃん、このまま行くと次は何処に着くかわかる?」

 

「えっと、確か・・・」

 

 

彼の問いに、雛里は慌てて持っていた地図をひらいた

彼女がコツコツと様々な情報や記憶から作り出したお手製の地図

それを見つめながら、彼女は呟く

 

次なる目的地の名を・・・

 

 

 

 

 

~次は・・・呉の首都、建業です~

 

 

 

 

 

 

ゆらりゆらり、白き旅人は歩いていく

 

その旅に、新たなお供を引き連れて

 

ゆっくりと、彼らは歩いていく

 

因みに・・・

 

 

 

 

 

 

~村~

 

 

「御遣い様・・・やっぱ、すごい立派な方だったなぁ」

 

「ああ、良い人だったよ」

 

「って、ああ!?

御遣い様のお名前・・・なんだっけ!!?」

 

「やべぇ、おれも忘れちまったぞ!!?」

 

「あ、私は覚えているぞ!!」

 

「「「「ほんとか!!?」」」」

 

「ああ、確か・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確か、そう・・・“松岡修造”様だ!!!!」

 

 

 

 

 

ここに、間違った伝説が始まろうとしていることも

これにより、未だかつてないほどの巨大な“死亡フラグ”が立とうとしていることも

 

彼らは・・・未だ知る由もなかった

 

 

 

あとがき

 

懐かしの第二話です

この話も、多少の変更のみです

既読の方々には、申し訳ないあとは思いますが

懐かしさに浸ってくれれば幸いです

 

この頃に頭にあったのは、“恋姫版、水戸黄門”でした

それがまさか、あんなことになるなんて・・・

 

 

 

 

それでは、またお会いしましょう

 

 

 

 

 


 
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