地面を耕して畑の面積を広げたあと、近くにある手頃な岩に腰掛けながら上空に広がる真っ白い雲を眺めていた。滲んだ汗を心地良く蒸発させていく風が、畑に規則正しく並ぶ葉っぱを優しく揺らしている。どの葉っぱも、資料映像で見るものより細くて弱々しくて色も薄い。栄養と水は適切な量を供給できているはず。やっぱり問題は日照だろう。
「ひよっこいね」
後ろからリーディーが話しかけてきた。聞いたことのない単語だから、たぶん日本語だろう。
AIたちが僕に話しかけてくるときは、英語か日本語のどちらかになる。論理的な話や、議論、協議をするときは英語。逆に、抽象的な話や、雑談、無駄話をするときには日本語になる。もちろん、AIたちは無駄な話なんてしないのだけれど、でも僕の成長にはその無駄話が必要であるとAIは判断して、わざわざ日本語を使っているらしい。
「ひよこ?」
ひよっこい、から連想した言葉をそのまま口に出してみた。
「うん、だいたい正解」
リーディーの返答。あたらずといえども遠からずのようだ。
「不正解の部分は?」
「まず、生き物じゃない」
「ほう」
「形容詞」
「うん」
「今のトウモロコシの様子を表してる」
「ふむ」
そこまでヒントを聞いて、畑に生えている葉っぱに視線を移した。
ひよこは、確か、ニワトリの子どもだっけ。黄色いモコモコした鳥。畑に生えているトウモロコシの苗のなかには、緑色が薄くなって、黄色と言えなくもない葉っぱもあるにはあるけれど、まさか『ひよこのような色をした』なんて単語ではないはず。形容詞でもないし。
「……んー、小さくて可愛い、とか」
「ブッブー。途中で考えるのめんどくさくなったでしょ?」
図星だったので、両手で頬を挟み「あっちょんぶりけ」と呟く。最近読んだ漫画に書いてあったポーズを真似してみた。
「そのあっちょんぶりけってなんだい?」
リーディーが声を低くして問いかけた。男性の声真似だろう。
「ぴのこが考えた言葉なのよさ」
僕は声を甲高くして答える。女の子の声真似だ。『女の子』という生物には一度も会ったことないけれど。
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人間に未来を託された十六人のAIが宇宙を進み続け、百六十三万年かけて辿り着いた惑星オルブ。
地球とよく似たその星で、やがてひとりの人間が生まれた。
「人間はね、神様に勝ったんだよ」
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