No.99417

真・恋姫無双 季流√ 第12話 さりげない出会い

雨傘さん

黄巾党編が始まりました。
たくさんの応援、ありがとうございます!
お楽しみ頂ければ幸いです。

2009-10-06 23:23:09 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:38520   閲覧ユーザー数:23130

「ふう~~、しつっこい奴等だなぁ……」

 

汗を拭う一刀は、もう幾度目かになる、黄巾党退治に溜め息をつきたくなった。

 

一刀と春蘭の2人が洛陽から帰ってきた次の日、休暇をもらえたはずだったのだが、黄巾党が複数ヶ所で出てきたことにより、結局休暇は無し。

 

それからはまるで蟻の如く、連日のように湧き出てくる連中を追っては退治、追っては退治というように、ずっと出ずっぱりなのだ。

 

これで5日連続になる。

 

しかも連中は大した抵抗もせずに直ぐに逃げるのだ、しかも蜘蛛の子のようにちりじりに……厄介なことこの上ない状況であった。

 

とにかく連中は、食料と装飾品をやたらと盗みたがる。

 

ようやく何人かを捕まえてきつい尋問をしてみても、拠点はおろか首領の名さえ明かさない。

 

しかも全員が必死な表情で”俺が守る!”と、わけのわからない理由の一点張り。

 

正直いって、こちら側としては参ってしまった。

 

桂花は連中の出現パターンから、何か法則性はないかとやっきになったり、春蘭は黄色い布を視界に入れるとすぐさまキレては駆け出していくし、秋蘭はそんな状況を見て、溜め息をついている有様だ。

 

__まぁ気持ちはわかるけどさ。

 

日に多くて2、3回も出撃していれば、誰だってイラつきもする。

 

唯一元気なのといえば……

 

「兄ちゃ~ん、一緒に御飯食べよう!」

 

一刀の胸に飛び込んできた元気一杯の季衣は、日向の匂いがしてとても落ち着く。

 

「に、兄ちゃん……くすぐったいよう」

 

抱き上げられているのが恥ずかしいのか、もぞもぞと動く照れた季衣には癒されます。

 

一刀は季衣をそのまま持ち上げて肩車をする。

 

「うわぁ! 兄ちゃん! 高い高い!」

 

「季衣、流琉はどうしたんだ?」

 

「流琉はね~、今日は春蘭様とまた退治にでも行ってるんじゃないかな?」

 

__哀れ、流琉。

 

春蘭の暴走を、一生懸命に食い止めている流琉の健気な姿が見えた。

 

「そっか、じゃあ仕方ないな。

 ……よっし! じゃあ気合を入れるためにも、街に出て腹いっぱい食べようか!

 季衣隊長! 御指示をお願い致します!」

 

うわーい! 突撃~! と、頭の上ではしゃぐ季衣を連れ、肩車のまま城の外へと向かう。

 

 

__突撃て……春蘭の影響が出過ぎないことを、切に祈りたい。

 

 

その日はもう、見事なほどの晴天であった。

 

街の人は忙しく動いているが、そこに浮かぶ顔はとても楽しそうである。

 

陽気な雰囲気の中で、季衣は次々とお勧めの屋台に入り、どんどんと平らげていく。

 

そして次々と手渡される勘定を払っていく一刀君……だが! 心配はご無用。

 

__ふっふっふ……ついに俺にも、給料が貰えることになったので、多分に手持ちがあるのさ!

 

基本給は一般兵と同じだけど。

 

ただ、この間の韓居の時や、洛陽のときの報告をすると、臨時ボーナスとして結構な額の特別給が入る。

 

正直一刀にはとても使い切れないので、こうやって食費のかかる季衣に御飯を奢ったり、流琉に珍しい食材や調味料を買ってあげたりして、消費しているのだ。

 

__まぁそれでも、全然余ってるんだけどね……飯代と、たまにちょっと服を買うくらいで、使うものが無いんだもの。

 

装備は残念ながら、ここの鍛冶屋では理想のものが作れなかったし……

 

理由としては、職人の腕がどうこうではなく、加工技術に問題がある、何より炉の性能が低いのだ。

 

いずれ華琳が新しい炉の開発をしてくれるとは思うが、しばらくはこの間のを補修したもので我慢するしかないだろう。

 

8件の屋台に入って、季衣がようやく腹3分目になったというので、今度はあそこ行こう! と騒ぎはじめる。

 

__華琳さん、私用で使ってごめんなさい! と心中であやまっておいて、季衣についていこうとすると……ドンっ! と誰かとぶつかってしまった。

 

「すいません! ちょっと余所見してて……大丈夫ですか?」

 

そう言って一刀が顔を上げると、そこにはいかつい顔をしたおっさん達がいた。

 

「おうおう兄ちゃん! いい度胸してるじゃねえか?」

 

兄貴フラグキター。

 

ぶつかった連中を見ると、いかにもな風貌の5人が一刀にガンくれている。

 

「すいませんでした」

 

と、一刀が丁寧に謝っても、色々と難癖をつけてきて話が進まない。

 

話が停滞してきたので、ちょっと心配になった一刀は、チラリと横を見ると季衣の目が段々と座ってきている。

 

__は、早く何とかしないと! 殺される! ……兄貴達が。

 

「治療費だしてもらおうかぁ~おぉ?」

 

__仕方ない、季衣にやられるより、俺にやられることを幸いだと思ってくれ。

 

そう考えた一刀は思考を切り替えようとした、その時遠くから1人の小柄な男が走ってきた。

 

「アニキー! 天和ちゃん達いましたよ~!」

 

「なにぃ!? やっぱり俺の目に間違いはなかった! 街へ入ってくのが一瞬見えたからな、おいそんな奴はほっとけ! 行くぞ!」

 

その言葉に応じて、5人は回れ右をして駆け出していってしまう。

 

下げていた頭を上げて呆然とする一刀と季衣。

 

「どういうこと?」

 

「僕にもわかんないよぅ」

 

 

__まぁいい……のかな?

 

 

「はぁ……はぁ、ちーちゃーん!

 もうお姉ちゃん疲れたぁ!」

 

「ち、ちぃも、も~う限界よ!

 なんで連中に気づかれたのよ!」

 

「ちぃ姉さんが、街に入る時に熱いからって帽子を取ったでしょう。

 どうやらその時に気づいた人がいたみたいね」

 

「ちぃのせいだって言うの!?」

 

「そうよ」

 

「え~ん! ちーちゃんのバカァ……!」

 

地味な格好をした3人が、裏道を走り抜けていく。

 

この真名で呼び合う3姉妹は長女から天和、次女が地和、三女が人和。

 

3人は最近、数え役満☆シスターズとして、売り出し中の歌で生計を立てる旅芸人だ。

 

最初は数人のおっかけができてくれて嬉しがっていた彼女達だったが、最近妙なことに気がついた。

 

おっかけの勢いが……半端無い。

 

既に自分達が把握している数だけでも、万を超えているのではなかろうか?

 

人和が彼女達のマネージメントをしているのだが、二千人を超えたあたりから、既に個人レベルで路上ライブを行える規模ではなくなってしまった。

 

色々なところへ現れる大量のおっかけから逃れるように、街から村へ、村から町へ、町から街へと逃れに逃れてついに今日、ようやく治安がいいと噂される陳留についたのだ。

 

だけれど最後の最後で詰めを誤って、この有様というわけである。

 

この中の唯一の常識人でもある人和は、最近の情勢を鑑みて嫌な汗を流していた。

 

お気楽な姉二人は知っているかわからないが、自分達のおっかけ達が村や町で強盗まがいのことをやっている。

 

このままでは、自分達の歌で多くの人々に迷惑がかかってしまう。

 

だけど行く先々の村や町で、おっかけ達は潜伏しており……身の危険を感じることも度々あった、そのような状況で歌ってくれと迫られると、彼女達は歌わざるを得ない。

 

だが歌うと、おっかけがどんどん増えていく。

 

そのような悪循環ができあがってしまい、どうしようもならなくなってしまった。

 

それでも自分達の歌で始まった、一連のこの事態をなんとか止めなければ……

 

今人和が取れる手段といえば、目立たないように行動して、おっかけの目から少しでも逃れ、状況が落ち着いてから興行で、改めて略奪行為を止めるように自分達が呼びかければ……まだ止められるかもしれない。

 

それが人和の考えであった。

 

現在、後ろから追っかけてきているのは10人以上……この街の警邏の人でも気づいてくれれば……

 

だが、そんな人和の気持ちを流れていく状況は裏切っていく。

 

街の構造に詳しい人間が相手にはいて、裏路地へ裏路地へと誘導するように追っているのだ。

 

だんだんと人気が路からいなくなっていく。

 

「こっちだよ!」

 

「……え?」

 

突然聞こえた声の方へ、思わず私達3人は道を切り替えた。

 

後ろの連中がそれを見て慌てだしているよう……どうやらこちらが、大通りへと繋がっているらしい。

 

「こっちこっち!」

 

元気で明るい声が、3人を導くように先導していく。

 

その声の主を人和がようやく視界へ入れると、明るい桃色の髪を高く2つに結んだ少女だった。

 

少女といっても、自分達より断然足が早い。

 

「あ、あなたは?!」

 

「後で話すから! こっちだよ、急いで! ……兄ちゃん、いいよ~!」

 

「お~う! そのままいつものところへ、連れてってあげてくれ」

 

「うん! 一応だけど気をつけてね~!」

 

人和達が走り去った横路地から、青年がスッと道に出てきて、追っかけてきている連中の道を塞ぐ。

 

「あの人大丈夫なの?! 10人はいるのよ!」

 

「ん~……あんな連中の10人程度余裕じゃない? それよりお姉さん達追われているんでしょ?

 いいところに案内して上げる!」

 

元気に言い放つ少女の小さい背を見て、どうしようかと姉達を見ると、何の疑いもなくついて行っている。

 

__これは、あんまり考えてないわね……

 

人和は荒い吐く息の中で溜め息をつくと、その少女の背中を見失わないよう気をつけながら、走っていった。

 

 

 

 

「どけや兄ちゃん!」

 

連中の足止めに成功した一刀は、16人の青年からおっさんに絡まれている。

 

「どかないよ。

 さっきのは俺が悪かったけど、今はどう見ても君達のが危ない人達だ」

 

「うるせい! やっと天和ちゃんたちをみつけたんだ! 彼女達は俺達の命なんだよ~!」

 

__うわぁ……ええー

 

一刀は心の中でひきながら、叫びながら攻撃してきたその男の鳩尾に、一撃をいれて黙らせた。

 

手加減は、一応だがした。

 

「「「「「なぁ?!」」」」」

 

「……さて、俺は今日季衣との楽しい時間を、わずかでも減らしたくないんだ。

 警邏に突き出しまではしないけど……夕方くらいまでは、寝ててもらうよ?」

 

連中は、そう言い放った一刀を瞬き1つの間に見失ってしまう。

 

 

そして彼等が気がついた時には、黒いカラスがカァカァと啼いている、赤い空を眺めていた。

 

 

「おいし~!!!!!」

 

「こんなおいしいの、食べたこと無い!!」

 

「……ね、姉さん達……」

 

「でしょ~? この店はボクのとっておきの店だからね」

 

季衣がニコニコとした表情で、次々に運ばれる点心を食べていく。

 

姉2人は気にしていないようだが、人和はすでに気が気でなくなっていた。

 

こんな高い店に入れるほどの金子など自分達にあるわけが無い。

 

しかも個室……この場所代だって、払えるわけないがないだろう。

 

「お? なんだ、先に食べてたのか?」

 

扉が開くと1人の青年が入ってきた。

 

「へへ~ごめんね兄ちゃん。

 でもまだ食べ始めたばっかりだから、大丈夫だよ~。

 それに兄ちゃんの分も、頼んでおいたし!」

 

そうかそうかといって、男は季衣の頭を撫でると、嬉しそうに頬を紅潮させる。

 

「えへへ~」

 

「あ、あの……」

 

先程助けた、3人の中で眼鏡をかけた子がおずおずと話しかけてきた。

 

「わ……私は人和と言います。

 助けて頂きありがとうございました!

 あの……さきほどの人たちはどうしたのですか?」

 

「ん? ……多分今頃寝てると思うけど……夕方位には、目を覚ますんじゃない?

 あ~お姉さん、俺も飲茶一つ」

 

は~いっといった店員の声が返ってくる。

 

__ん? 人和?

 

「あのさ、それって君の真名じゃないのかな?

 いいのかい?」

 

「あ……はい。

 私達ちょっと理由があって……その、真名を名乗っているのです」

 

__まぁ本人がそういうなら。

 

「そうなんだぁ、俺は北郷一刀。

 でもごめんね?

 俺は真名が無くてさ、だから好きに呼んでくれていいよ」

 

一刀の名前を聞いたら、ふんわりとしたピンクの長い髪をした娘が、身を乗り出してくる。

 

「一刀っていうんだぁ~……う~ん……カッコイイし、私の好み!

 私のことは天和って呼んで! か・ず・と」

 

「あ~ずるい姉さま! ちぃは地和よ一刀!」

 

そういって青く短めの髪を結んだ明るい娘が、一刀に向かって自己紹介をする。

 

__天和……地和……人和……駄目、深く考えるな。

 

「ん、よろしくね天和、地和、人和。

 ところでさ、さっきの人達にはなんで追っかけられていたんだい?」

 

一刀の言葉に3人が黙る、聞いてはいけなかったのだろうか?

 

しばらくすると人和が顔を上げた。

 

「私達、旅芸人をしていて……歌で各地を回っているんです。

 その、初めは私達の歌に共感してくれたおっかけは数人程だったのですが……その」

 

「……増えたんだね? しかもとんでもなく。

 それで君達を見かけたファンが、ここまで追っかけてきたってわけか」

 

「ふぁん……ですか?」

 

「あぁ、追っかけの別称みたいなものさ。

 そういうアイドルを追いかける人達のことを、ファンって言うんだよ。

 あ! ちなみにアイドルってのは、君達みたいなかわいくて人気な娘達のことをいうから」

 

微妙にどっちも意味は違うのだが、この時代で説明は難しいので大体の意味でいいだろう。

 

一刀が3人を見てみると、3人とも顔を赤くして俯いていた。

 

「あ、あの! 一刀さん。

 匿っていただけたのは嬉しいんですけど……その、私達お金が……」

 

「ん? ああ、ここのお代を心配しているの? 別にいいよ。

 ここはこっちで持つからさ」

 

「そういうわけには!」

 

「いいんだよ、なぁ季衣?」

 

ね~っと季衣と笑いあう。

 

「だってここの料理だって、間違いなく一流ですよ! こんな個室まで用意してもらうなんて……」

 

「だから大丈夫なんだって……そうだな、君達なら教えてもいいか。

 3人とも、ここに入った時すぐにここへ通してくれたでしょ?」

 

3人ともコクリと頷く。

 

「ここはお城御用達だからね。

 将軍職の人間は、自由に入って格安で食べれるのさ、なぁ許緒将軍?」

 

「へへ~そうだよ~。

 だから遠慮しないで食べてって!」

 

「「「将軍!?」」」

 

3人ともが点心を頬張る季衣を見て固まっている。

 

__まぁ知らなければ普通そうだよなぁ……

 

この店は密かに一刀が提案して設立した試験料理店”老山龍”、華琳達が外交関係で利用する際に接待に使われる店なのだ。

 

店員は全員”兵士”だし、流琉が兵の中から見込みのありそうなものを選び、徹底して料理の腕を鍛えているので味も一流。

 

建物の設計は一刀と秋蘭が行い、セキュリティも高い、城への抜け道も用意されている。

 

将軍専用の個室になるのは4階全てであり、用途によって部屋の広さを変えられるように、設計されている。

 

今は個室の3分の1を仕切っている状態だ。

 

ここは他の将軍級の人が利用していない限りは、直ぐに通してもらえるという、正にプライベートスペースでもあるのだ。

 

華琳も外でおいしく食べれる店ができて喜んでおり、経営者は一刀、料理長は流琉でやっている。

 

ここの料理兵士達もノリノリで働いてくれるし、彼らの腕が上がるのならば、遠征の時の糧食の節約にも繋がり、限られた食材の中でも味の向上が望めるだろう。

 

食欲を満たすということは、士気の向上を上げるのに必須だ。

 

店の仕入れも良い問屋を桂花から聞いて、安く良質なものを取り揃えているので安い。

 

安くて美味い、三拍子のうち二拍子が揃っている店に、人が入らないわけがない。

 

ただ無制限に開放をすると、一般市場に対して悪影響にもなるので、この店は完全予約制を導入している。

 

更に1階と2階までしか一般開放をしていない、こうすることで入店人数を制限し、普段から気安く利用することはできなくする。

 

これなら市場への影響も少ないし、何より他の料理店へのいい見本になる、食文化向上を狙うための施設でもあるのだ。

 

実際予約をしている人達を見ると、料理店経営の人が多く、レシピに関しては隠し味以外は親切に教えてあげることにしている、そこからは各々の腕次第。

 

よって店は慌しくならないし雰囲気も良い、更に美味くて安く誰でも入れるというのだから、予約は現在3ヶ月待ちという状態だ。

 

現在、”街で一度は訪れたい店”ということで週刊誌で紹介されていた。(何故、週刊誌という出版物が出ているのかの謎は解けないのだが……)

 

「ねぇねぇ! 許緒ちゃんが将軍なら一刀もそうなの?!」

 

天和が興味津々としているが、一刀は苦く笑うだけだ。

 

「いや、俺はただの一般兵……兵卒だよ、しかも新兵だ」

 

「え~~~?」

 

3人はもうわけがわからないといった感じで首を傾げている。

 

「ほらほら、だからお金のことは心配せずに、人和も食べなよ。

 ……さっきからお腹なってるよ?」

 

バッと人和は自分のお腹に手を当てて、羞恥からか真っ赤になった。

 

__さっきから、キュ~~~ってかわいらしい音は、聞こえていたんだよね。

 

人やはり空腹には勝てなかったのか、人和がおずおずと箸でシューマイを掴み。

 

 

「……いただきます」

 

と小さく言い、パクっとかわいらしく食べ始めた。

 

 

「いや~……季衣は今更だけれど、3人ともよく食べるね~」

 

一刀の前には既に空皿が20枚程が、軽く積みあがっている。

 

「お恥ずかしい話なんですが……最近ロクなものを食べることができなかったんです」

 

「そうなのよ! ちぃもずっと走りっぱなしで疲れちゃった。

 あ! これもおいしい!」

 

「ねえ一刀~……私、疲れちゃったな」

 

いつの間にか一刀の隣に座っていた天和が、擦り寄ってきた。

 

「ちょ……ちょっと天和。

 そんなにくっつくと、食べにくんだけど」

 

「あ~! 姉さまずるい! ちぃもする!」

 

「ちょ……ちょっと地和さん?」

 

気づいたら一刀の両脇には、天和と地和がしっかりと陣取っている。

 

何故か背筋に悪寒が走った一刀は、チラリと周りを見渡すと、人和はどこか不服そうで、季衣は完全に不機嫌になっていた。

 

__……え? ……季衣が不機嫌だと? やばい。

 

これを後で、流琉ないし誰かに話されでもしてみろ?

 

理不尽にどつかれる。

 

わけもわからずに追い掛け回される……気がする。

 

理由はサッパリだが、何故かそうなるであろう光景だけが、頭に鮮明に浮かび上がった。

 

それを察した勘のいい一刀君は、季衣を呼び寄せる。

 

「なんだよ……兄ちゃん……」

 

一刀はそれに答えずに、おいでおいでと手招きを続ける。

 

季衣が渋々近寄ってきて、ようやく手が届くところまで来ると、よっと持ち上げて膝の上に乗せた。

 

「うわ?!」

 

__さぁ、わけもわからないだろう! だがここで手を緩めるわけにはいかない。

 

なでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなで

 

なでな……よし! 勝った!

 

既に季衣は完全に我が手に堕ちた、この笑顔が何よりの証拠だ!

 

っということでとりあえず危機も脱したし、そろそろ俺も御飯を……

 

そう考えた一刀だが、まだ終わっていないのだ。

 

ここで中華テーブルを想像して頂きたい。

 

一刀は中華テーブルの回転するところに乗っている、目の前のシューマイを取ろうとした。

 

すると箸がシューマイを掴むその瞬間……シューマイが消える。

 

シューマイが消えた先をみると、人和が俯きながらあつあつのシューマイを、頬一杯にして食べていた……既に皿が空だ。

 

__いや、まぁリスみたいですっごいかわいいんだけれどもね?

 

4、5個あったよ? シューマイ。

 

一個一個肉汁たっぷり熱々で、そこそこ大きかったよ?

 

人和の意外な特技(?)にちょっと驚いた一刀はどうしよう、と考えた。

 

何に怒っているのかさっぱりなのだ。

 

一刀は既に己の理解を超えた状況に対して、頭がフリーズしかかっている。

 

 

リスみたいになって、もぐもぐしている人和を見ながら視線が止まってしまったのは、仕方がないのだろう…………きっと。

 

 

さきほど人和はちょっとした嫉妬で、一刀に意地悪をした。

 

姉達のように素直にアピールできない自分は、これぐらいしかできない。

 

だが、その意地悪は予想以上の功を奏してしまった。

 

__一刀さんが私を見てる……

 

頬一杯にシューマイを入れている自分を、じっと見ている。

 

は……恥ずかしい、でも……ちょっと嬉しい……

 

モグモグ、ジーー……モグモグ、じーー……もぐもぐ、じ~~~……

 

__……もう、無理!

 

人和はお茶を掴むと、一気に口の中のシューマイを胃へ流し込んでしまった。

 

後で思い返してみると、これも火が出るほどに恥ずかしいのだが、その時は何も考えられなかった。

 

全部流し込んだ人和は、それを見ていた一刀と目が合う。

 

ニコ

 

__……あ。

 

ここであえて説明をしたい。

 

一刀の視線からみると、人和がシューマイをたくさん食べれて、満足したように見えたのだ。

 

”機嫌が悪かったわけじゃなかったんだぁ”

 

この凄まじいまでの勘違いを引き起こしている一刀は”シューマイたくさん食べれてよかったね”っといった意味合いで、人和に笑いかけたのだ。

 

だが、人和は自分に優しく微笑みかけてくれる一刀を見て、そんな風に考えられようはずがない。

 

2人の勘違いから生まれた桃色空気……それに気づいて、天和地和の視線が鋭くなる。

 

幸いにも、季衣は膝に乗ってて気づいていないが……

 

””ぎゅ……””

 

いきなり天和と地和は、一刀の両腕に抱きついた。

 

「?! ちょっと2人とも?」

 

いよいよ混乱し始める一刀。

 

互いに牽制しあう3姉妹、その真ん中の一刀は視線をうろうろ、その膝上では幸せそうに御飯をほおばる少女。

 

なんだろうか? このカオス。

 

だが、そのカオスもそんなに長くは続かなかった……いや、続けさせてなるものか。

 

 

*次ページから、時空の歪みが観測されております。

 様々な事象はきっと全てが幻です、お気をつけ下さい。

 

 

「今日は許緒将軍様と、まねーじゃー様が来ておりますよ」

 

店の1階で、華琳は店員にそう説明を受ける。

 

「あらそうなの? 相変わらず仲がいいわね。

 まぁ丁度いいわ。

 彼等と相伴をあずかろうと思うから、そのように席を作ってくれないかしら?」

 

「へ? お相伴ですか?」

 

「そうよ? ……何か不味いのかしら?」

 

そして店長はちょっと困った顔をすると、華琳は命令口調で先を促す。

 

「あの……まねーじゃー様は……女性のお連れの方と、いらっしゃっているので御座いますが……」

 

ピクリ

 

「それは、知っている人?」

 

「いや、あの……さきほど注文をとりに行った際に、私が聞いた話の感じですと、先程知り合ったばかりなのではないかと……自己紹介しておりましたし」

 

その言葉を聞いた途端、3人の瞳の色がさっと変わった。

 

みるみると穏やかな雰囲気が変容していく3人。

 

華琳様は、見るもの全てを魅了するほどの芸術的な笑みを浮かべ、体から鬼気迫るほどの覇気を纏い。

 

秋蘭さんは、愉快そうに冷笑を浮かべるという中々複雑な表情をしながらも、鋭い眼でスゥっと全てを射抜く眼光を携え。

 

流琉ちゃんは、にこやかに笑う……ただ……ただただ、にこやかに。

 

 

 

それを目前で見ることになってしまった店員さんの、後日証言は以下の通りである。

 

「えぇ、えぇ、そりゃもう……私はもう、死ぬかと思いましたね。

 曹操様、夏侯淵様もそれは物凄い迫力をしておりましたが……え? 次のここの名前は伏せても? ありがとうございます。

 もう御一方はさるところの料理長様なんですが……あれはー……なんといいましょう?

 怒り、ではありませんね、笑ってるんですから……ハハ。

 えぇはい、そうですよ、ただ笑ってるだけなんです。

 

 ただ……………………………………私は、その方が一番……恐ろしかったです。

 

 も、もういいですか? この後仕事がありますので

 それでは私はこれで……」

                                 とある記者の手記より

 

 

 

さて、どうしてここに3人がいるのかというと、理由は簡単。

 

黄巾党をさっさと退治した、そして街の視察を兼ねて街に出てきた……ただそれだけ。

 

姿が見えない春蘭は、街を歩いているときに黄色の布を見た! といって走って行ってしまった。

 

それだけは唯一の幸いであったろう、”必死”が”致死”に変わる程度のことでしかないが……

 

恐れおののく店員を後にし、3人は階段をゆっくりと上がっていく。

 

……ぎし…………ぎしぎし………………ギギシ………………

 

一歩一歩と、階段をのぼる死の音色。

 

そしてそこに混じるは楽しげな声。

 

本来、ここの施設は外に漏れぬように、相当な防音処理を施されている。

 

けれども彼女達の現在の聴力は、某警官が数キロ離れた金の落ちる音を聞き分ける聴力と、ほぼ同等の能力を有しているといっても過言ではない。

 

 

 

ここから複音声が多数混じります、更に詳しい描写は力不足のため、スリガラス越しで記述されております。

ご注意してお読み下さい。

 

 

ぎし……ギシ……”かーずと! こっちも食べてよ~”……「あら? ホントに楽しそうね」…………ミシ! みしししし!!………………

……ぎぃ……”ちいが折角食べさせてあげようって言ってるんだから、感謝なさい!”ミシばきゃきゃ!! ”み、店が!”……「まねーじゃーとやらに、ツケておけ」…………みし……”姉さん達! 一刀さんが困っているじゃない!”…………ドゴキャ!!

……「ニィサマ? ……まだ……女の方がいるの?」……ぎいし……ぎしぎし…………”兄ちゃん、おいしいね~”……”そうだなぁ、あぁあぁほら口についてるよ?”……”うぅ、んう?”……”ほら、取れた、(パク)”……”に、にいちゃん?!"…………ブチブチブチィ!! 「「「死ぬ?」」」……………………ボキャグオン!!!

 

 

「……なんだ今の音?」

 

確かに階下から何かが壊れる音がした。

 

喧嘩でも起きたのだろうか?

 

一刀は立ち上がって部屋の扉を開け、1センチ……そう、ただの1センチ扉を開いたとき、一刀は直ぐに扉を閉めた。

 

そして余ってる椅子やらテーブルやらを、かつて無いほどの速さで積み上げていく。

 

__もの凄い……”死臭”がした。

 

あまりの濃密な死臭で、自分がバラバラになる幻視をしてしまったほどだ。

 

「ど……どうしたの? 一刀~?」

 

「一刀?」

 

「一刀さん?」

 

「兄ちゃん?」

 

4人が一刀の突然の行動に、疑問符を等しく並べる。

 

だが、その答えは用意できそうにない。

 

「季衣、3人を抜け道から城へ案内してくれ。

 今すぐにだ!」

 

一刀の真剣な声に驚いた季衣は、急いで3人を壁の隠し扉を空けて押し込んでいく。

 

「兄ちゃんは?!」

 

「俺はここに残る! 城に戻ったら安全なところに隠れているんだ!」

 

「や、やだよ! 兄ちゃんも行こうよ!」

 

季衣が涙目になって懇願するが……

 

__ごめん、今回は聞いてあげられそうにないんだ。

 

「……俺が行ったら、もっと被害が広まるかもしれない。

 もうこうするしかないんだ」

 

「兄ちゃん!」

 

「安心しろ季衣、俺は生きて戻る。

 俺が嘘なんてついたことあるか?」

 

「……ううん…………兄ちゃん! 約束だからね!」

 

__あぁ、わかってるぜ、生きて戻る。

 

だが無事に戻れるかは話が違うよな?

 

汚い大人をどうか許しておくれ、季衣。

 

ドン……ドンドン……ドンドンドンドン……ドンドンドン、ドオンドオンドオンドオン!!

 

__ヒィ!

 

一刀は一所懸命に机と椅子を支える。

 

暴漢対策に頑丈な材質で注文しておいて助かった。

 

__過去の俺、心底サンキュー!

 

ドンドンドオンドオン!!! ドオンドンドオン…………ドンドンドン……

 

__よかった、勢いが治まってきてるみたい、諦めてくれるか?

 

ドンドンドントントン……………………コンコン………………

 

__は? ノック?

 

…………ドガォォォオオオオオオオン!!!!

 

一刀は机を支えた状態のまま、視線を横へとギギギっと、ずらす。

 

 

壁が無くなっていた。

 

 

人間の固定概念とは、恐ろしい。

 

出入りは扉、そんなことはない。

 

彼女達ならば、少しくらい頑丈な壁など、その気になればただの紙だ。

 

__まさか…………実際にヨコヌキされるなんて!

 

「随分お楽しみだったようね? 一刀。

 私も混ぜてくれないかしら? ……是非に」

 

__華琳さん、なんでそんなバチバチと、鳴ってるものを体に纏っているのですか?

 

それ、電気……というより放電現象ですよね。

 

基本は特質系だけど、変化系に似たこともやれる……あぁ、なるほど?

 

__秋蘭さん、秋蘭さんはどうしてお目目がそんなに紅いの?

 

そういう家系?

 

あーいるよね、いるいる! ……たま~にね。

 

__流琉……俺は流琉のこと、結構理解できてると思ってた、季衣の次くらいには。

 

でも間違ってた。

 

流琉も特質系なんだね? てっきり強化系や放出系あたりかと……

 

あとね流琉、ただでさえここまで尊敬すべき先生のお力を借りて進めているわけだけれども、それは感心しないな!

 

それはね、シャマ○ュっていってね?

 

更に別作品の聖女様が使う拷問霊なんだよ? ……え? 知ってる? そう、お兄さんは安心した!

 

__そう、えっと……うーんと……

 

 

 

ごめんなさい。

 

 

 

                あーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……そういう理由だったの。

 なら初めから、そういえばよかったじゃない」

 

素晴らしい笑顔の華琳が、優雅に食事を口元へと運ぶ。

 

「そうだぞ? 北郷。

 そうすればもっと、穏やかな食事ができたのだ」

 

秋蘭がドキッとするような流し目で、一刀を見ながらエビチリを口へ運び、歯先でブチッと海老を噛み切る。

 

「そうですよ兄様。

 人助けなんですから、コソコソしなくていいじゃないですか!」

 

流琉がプリプリとかわいく怒りながら、人和のようにシューマイを……

 

__いっててててて!!

 

「……ニイサマ?」

 

ニコヤカな流琉。

 

__皆、頼むから……そう思うのならば、この状況に改善を!

 

ギザギザの石畳の上に正座させられ、手足はどんな怪力でも解けないような、鎖をびっしり巻かれ拘束されて力が出ない!

僅かにでも体をずらして痛みを和らげようとすれば、スタンガンのような雷気が縛っている鎖に走って痺れる!

 

__これは……拷問だ!

 

た、助けてくれ! 誰でもいい! き……季衣、そうだ季衣! 俺の危機を察してくれるのはもうあの少女しかいない! 届け俺のシンパシー! 季衣戻ってきてくれ!!!!

 

「石畳の追加……3枚、頼んだわよ流琉」

 

「はい! じゃあお願いねシャマ○ュ」

 

「ふふ……特に重いやつをな」

 

__季衣! 頼む季衣! お前のほのぼのキャラでこの空気を早く! この石が置かれる前に季衣! 頼む、季衣ー!

 

「更に4枚追加で」

 

「御意に!」

 

「おやおや……もう頭より、高くなるんじゃないか?」

 

__きいぃいいい!?

 

「今のは……まぁいいわ、もう1枚ね」

 

「ですよね!」

 

「当然ですよ華琳様」

 

__某なんでも飲み込む白い不思議少女のように、俺のモノローグを読まないでくれー!! 華琳! 秋蘭! 流琉!

 

「1枚追加で3枚除外だから、2枚減らして」

 

__流琉~~!!

 

 

「……1枚除外、ですよね? ……ふふ」

 

 

城に戻ったとときの一刀の姿は散々だった。

 

ボロボロの一刀に抱きついて、シクシクと泣いてくれる季衣。

 

ホント、いい子だ。

 

「あの……一刀さん、大丈夫ですか?」

 

心配してくれる人和に一刀はアハハ、と正直さわやかさからは程遠いであろう笑顔で返す。

 

「華琳が今日は城へ君達を泊めていいってさ、ちょっと急なんで客室が一つしか用意できなかったんだけど、ごめんね?」

 

その言葉を聞いた人和が慌てて、そこまでしてもらうわけにはいかないと言うが、

 

「そう言わないでくれ。

 今から外の宿を探すのも大変だし、昼間の連中ももう目が覚めているだろう。

 この街で君達がまた襲われたりでもしたら、風聞にも関わるからね」

 

と、一刀の説得がしばらく続いて、ようやく人和も折れたようで、そのお礼に3人の歌を披露してくれることになった。

 

そしてその日の夜、城壁の上で一刀と興味の引かれた季衣と流琉がオーディエンスとなる。

 

「ハーイ! 一刀! 私の歌声を聞いてってね! 夢中にしちゃうんだから!」

 

「一刀! ちぃの魅力に酔いしれなさい!」

 

「一刀さん、とてもお世話になりました、今日は私達の歌で楽しんでいってください」

 

~~~~♪~♪♪~~~~~♪♪~~~~~

 

「兄ちゃん! 凄いね!」

 

隣で季衣が体を揺すりながら、楽しんでいる。

 

__これは確かに凄い、ここは俺からすると1800年ほどの前になるのに、彼女達がやっている歌といい踊りといい……まさに現代音楽ではないか。

 

楽師がいないからアカペラにならざるをえないが、彼女達の元気な歌声と笑顔と踊りはまさに見るものの心を楽しくしている。

 

なるほど、彼女達に多くのファンができるのも頷ける話だ。

 

この世界、漢王朝が疲弊する影響で人々は未来どころか、明日への希望すら抱けない。

 

その中で彼女達の歌は……正に太陽のような温かな活力に溢れている。

 

季衣と流琉が無邪気な顔で、彼女達の合いの手に合わせて応援する。

 

それに彼女達も応じて場が一体になっていく。

 

彼女達が3曲目に入ろうとしたとき、ふと大きな気配がしたので、視線を城壁下の中庭へ向けると大量の兵士が集まっていた。

 

それを見て春蘭と秋蘭も、後ろの方で困惑しているようだ。

 

天和達もそれに気づいたのか、兵達が見える場所まで身を乗り出して歌い出す。

 

「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!」」」」」

 

静寂の城が、一斉に喧騒に包まれた。

 

騒ぎを聞きつけて更に大勢の兵士達が集まり、何事かと華琳や桂花までも出てきた。

 

「ちょっと一刀! なんなのこの騒ぎは!」

 

華琳達が城壁をつたってきたので事情を説明すると、初めは呆れていたようだが、下で騒ぐ大勢の兵達を見て、その影響力に素直に感心したようだ。

 

「凄いわねこれは……歌でこれだけの人を盛り上げるなんて」

 

「…………それはな華琳、彼女達の歌には希望が見えるからさ」

 

「希望?」

 

一刀の言葉に華琳が不思議そうな顔をする。

 

「3人を見てみろよ、踊って歌って、もう汗だくだ。

 だけれども皆を楽しませようと、彼女達は輝いている。

 頑張ろうって気にさせてくれると思わないか?」

 

「…………そう、ね」

 

この返答は、華琳にしては曖昧な返事だった。

 

華琳は、曹孟徳は音楽の楽しさも勿論知ってはいたが、人心を掴むには良政と完璧なる統治による安全だと考えていた。

 

このような方法で、これだけの人々の心を掴み、笑顔にできるなんて考えたこともなかったのだ。

 

__フフッ……

 

身震いする。

 

大陸は広い、どのような優れた人材がいるのかわからぬもの。

 

華琳は三姉妹を見遣ると、確かに日々の疲れを忘れさせ、元気にしてくれるような快活さを放っていた。

 

__これは…………

 

華琳の頭の中で、思索が駆け巡る。

 

__彼女達……欲しいわね。

 

すると一刀がいきなり立ち上がった。

 

それに気づいた天和達が、不思議そうな顔をする。

 

「一刀?」

 

華琳達も一刀を見上げるので1つ笑顔を見せると、ちょっと待ってて、と言い残して城壁を降りて走っていってしまった。

 

「「「「「?」」」」」

 

皆で疑問を浮かべた顔をしているが、下の兵達がもっと~! っと、せがむので天和達は次の歌を続けていく。

 

5曲をぶっ続けでやった天和達は、ちょっと兵達にいって小休止をとることになった。

 

この隙に兵士達は仲間を呼びにいこうということになり、ちりじりに報せに走る。

 

季衣と流琉から渡された水を飲んで、息を整える3人。

 

すると、一刀が下の兵に見られないように、こっそりと隠れながら城壁の上に登ってきた。

 

「一刀~折角歌ってたのに、最後のほういなくなるなんてひどいよ~」

 

「そうよ! ちぃの歌を聞いていきなさいよね!」

 

天和と地和が一刀の腕を、しっかりと抱きかかえるように抱きつく。

 

この様を見て華琳達の額に血管が浮き上がった。

 

何気に桂花までもが不機嫌になっているのは、どうしてだろう?

 

「一刀さん、それは一体なんですか?」

 

人和は一刀の手に握られている、木製のものを指差す。

 

「これは楽器だよ、伴奏があったほうがよりいいんじゃないかと思ってね」

 

「楽器なの? でも私達でもこんなの見たこと無いよ~」

 

「そうね、なんか珍しい形をしてるけど……って、一刀ってひけるの?!」

 

地和の驚く声に一刀は苦笑を一つ返すと、壁に寄り添うように立つ。

 

ここからは下の兵達に見えない。

 

華琳から人の印象に残るような行動は、極力控えろとの言を受けているので、彼女達以外の前で弾くことを避けるようにしたためだ。

 

「一刀? あなたそんなものを持っていたの?」

 

華琳が当然の疑問を述べると、一刀は正直にいうわけにはいかないなと考える。

 

「この間洛陽に行ったときに見つけてね。

 コレがなんなのかもわからなくて、困っていた人がいたから、譲り受けてきたんだよ。

 たしかにこの辺りじゃちょっとみない楽器かもしれないけれど、音色は折り紙付きさ。

 凄い通る、綺麗な音がなるんだよ」

 

そう言った一刀は、簡単で軽快な音楽を適当に弾き始める。

 

その楽器の独特な弾き方にも驚いたが、その音色には皆が衝撃を受けた。

 

まるで聞いたことがない音。

 

華琳は周りをそっと見てみると、季衣は尊敬の眼差しで見上げているし、流琉はその一刀の立ち姿を見てもう表情が赤くて大変なことになっている。

 

春蘭と秋蘭、桂花も唖然として一刀に釘付けになっており、頬がうっすらと赤くなっているように見える、かくいう華琳も自身の鼓動が上っていくのを感じていた。

 

一刀は3人にさっきまで歌っていた曲をもう一度歌うようにいい、それにあわせて即興の曲を合わせていく。

 

先程よりも多くの兵達が集まった中庭は、聞いたこともない音楽、リズム、雰囲気に、テンションは最高潮まで上り詰めていく。

 

「「「「「「ほわあああああぁぁぁぁああああああ!!!!!!」」」」」

 

天和達の楽しげで、軽快な歌と踊り。

 

兵達の叫ぶような応援。

 

一刀が奏でる、壮大で透き通るような音色。

 

 

そして、最後の曲が終わった。

 

 

「「「みんな~! 応援ありがとう!」」」

 

最後に兵達に手を振ってから後ろへ振り返ると、3人が一刀の方へ向かってくる。

 

「か~ずと! ありがとう~! 凄い綺麗な音で驚いちゃった!」

 

天和が一刀の右腕をギュっと掴み、右腕の肘に大きく柔らかいものが押し付けられる。

 

「ねえ、か・ず・と。

 私達の付き人にならない?」

 

今度は地和が左手に抱きつく。

 

こちらは大きさこそ天和に届かないが……着やせするのか、凄い柔らかい。

 

「……一刀さん」

 

踊って歌ってテンションが高まり、ちょっとおかしくなっているのか、人和までが一刀の腰にそっと抱きついた。

 

汗ばんだ体から立ち上る、女の子の甘~い匂い。

 

__ヤバイ。

 

変態のように思われるかもしれないが、これは正直たまらない。

 

女慣れしていない一刀は、こんな女の子に囲まれたことなど無い、ましてこんな美少女達に囲まれれば尚のこと。

 

「……一刀?」

 

そして一刀は気づく。

 

人和の後ろにいる人達から、瘴気が立ち上り始めていることを。

 

その中で一際異質な気配が1つ。

 

「ニ・イ・サ・マ?」

 

ゾクゥ

 

一刀は慌てて3人を引き離すと、体が冷える前に、今日はお風呂が沸いているから入ってきたらいいと伝え、3人を送り出した。

 

3人はお風呂に久しぶりに入れることを聞いて、凄い喜んでいるようだ。

 

やはり旅をしていると、満足にお風呂を入れない時も多いらしい。

 

3人が城内に入っていくのを手を振って送り出すと、もう引き伸ばせないと覚悟をして、後ろへ振り向いた。

 

__うわぁ……恐ーい。

 

 

 

それから一刀は全員から身に覚えの無い、種馬だとかスケコマシとかさんざんに言われ、心がボロボロになった。

 

 

__昼は体で夜は心かよ。

 

 

「ねぇあなた、人和っていったわね」

 

「……? 曹操様!?」

 

風呂を上り、華琳に呼び止められた人和は、急いで身なりを整えて態度を正す。

 

「気にしないでいいわよ。

 私が呼び止めたのだから」

 

「ありがとうございます。

 それで……私に何か御用が?」

 

「あなた達は旅芸人として、歌を唄いながら各地を旅していると聞いたわ」

 

「えぇ、そうですが」

 

「単刀直入に言うわ……私に、仕えないかしら?」

 

「?!」

 

「先程、あなた達の素晴らしい歌を見せて頂いたわ。

 私の覇道のため、その力を……」

 

そこで華琳の言葉が止まる、人和が頭を下げたからだ。

 

「……申し訳ありません、曹操様。

 大変ありがたい話ではありますが、もう少し時間をいただけないでしょうか?」

 

「……時間?」

 

「はい。

 姉達とも話し合わなければなりませんし。

 それに……私達が止めなければならない人達がいるのです」

 

「………………」

 

「それが終わりましたら、もう一度ここ陳留へ訪れたいと思います。

 それまで返事を待って頂けないでしょうか?」

 

頭を下げたまま頼む人和。

 

「……いいでしょう。

 確かに私も急すぎたわね」

 

そう言い残すと、華琳はクルリと振り返った。

 

「でも、私は一度欲しいと思ったものは必ず手に入れる。

 ……返事は早めにして頂戴。

 でないと、あなた達を探さなくてはならなくなるから」

 

歩き出していく華琳の背を、人和が見送った。

 

 

 

1人静かな廊下を歩く華琳。

 

その静寂の中で、先程のやり取りを思い返していた。

 

「ふふ……あはははは」

 

 

__昔の私なら……返事を待ったりしただろうか?

 

 

どうもamagasaです。

 

ちょっと更新が空いてしまいましたスイマセン。

 

学校の先生が無茶振りの課題をしてきたので投稿の時間が取れませんでした。

 

まぁ、言い訳はこの辺りにして……

 

 

え~……ここ3話程、一刀君の種馬属性を中心にした話になりました、董卓達、劉協、そして張三姉妹。

結論としては……あまり慣れないことはするものではないな、というのが読み直した自分の感想です。

ですが、これからも色々な話を書いていきたいな、との考えで頑張って書きました。

(実はこの話は初めに書いたものから、かなり修正を入れております。初めの方はあまりに恐くてそのまま投稿できませんでした)

後、途中の時空の歪みについては暗黙の了解ということで一つ(別に彼女達は普段念○力などもちあわせておりません、あれはあまりの迫力によって見えた幻です)

 

黄巾編ということで張三姉妹が登場しました、これから3,4話程が黄巾編になります。

特に魏√はたくさんの作者様たちが、素晴らしい作品を色々と出されておりますので、基本の道筋を踏まえなんとかオリジナル要素を出せるようにしています。

 

いかがでしたでしょうか? (今回の話は自分的に納得がいっていないので、いつか書き直せればと思ってます)

 

 

御意見・御感想を心よりお待ちしております!

 

そして……

 

応援ありがとうございます!!!

たくさんのコメント・応援メールも頂き嬉しいです!

金冠も頂けて大変驚いております。

 

 

 

それで前話に関してなのですが、オリキャラたちについてですね、誰が出ていたのか?という話を頂きまして……しばらく影が薄くなりますし、せめて忘れられないようここで今現在出ているオリキャラ達を名前だけでも紹介しておきます。

 

 

劉協、孫堅、馬騰、陶謙、紀霊の5名です、この中では陶謙だけが男性(お爺ちゃん)で後は皆女性ですね。

 

 

次話は黄巾党との戦いですね、かなり無茶な展開をご用意しております、お待ち下さい。

 

では、また。

 

5月改訂。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一言

 

オリキャラ達の真名に関してですが、ちゃんと自分で考えます。

ですが何か良いものがあればお知らせいただけると嬉しいです、参考にさせていただきます。

 


 
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