No.100661

真・恋姫無双 季流√ 第13話 逢う魔が時

雨傘さん

やっと黄巾党との戦いになります。
いつも多大な応援、ありがとうございます!
漸くあの3人組を出せました~。

2009-10-12 22:28:00 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:36073   閲覧ユーザー数:21811

「お世話になりました」

 

またこの街にお礼をしにくるといい、天和達は元気に旅立って行った。

 

そうやって人和達が頭を下げ、城を後にしたのが1月前のこと。

 

最後まで付き人を誘われていた一刀だが、それは丁重にお断りさせていただいた。

 

それから2週間、毎日のように出現していた黄巾党に変化が訪れていた……何かを目指すように動いていた連中の動きが乱れ、小集団の活動へと移ったのだ。

 

おかげでこの2週間程は、こちらとしても散発的な討伐を繰り返してはいたが、中規模以上の集団が現れなくなったので、兵の動員数が減り、この規模ならば将以外にも部隊長で対応できるとのことで、緩やかなローテーションを組めるようになった。

 

だったのだが……

 

「不味いわね……連中に、また組織力がでてきている」

 

華琳の言葉が、政務室に静かに響く。

 

散発的な黄巾が、徐々にまた部隊化している。

 

いや、以前よりも何かに突き動かされているように見える。

 

1月前でも1000を超えるような黄巾党は、あまり出たことがない。

 

だが、この1週間……1000、2000の規模はざらになってきていた。

 

予測のつかない黄巾党……分裂や万が一の状況に備え、武官4名を2名ずつの組にして、絶えず討伐に向かわせてはいるが、ここ1週間4人はずっと討伐に出ずっぱりだった。

 

桂花の報告によると、大陸のあらゆる地域でも同様の現象は起きており、ようやく腰の重い王朝の官軍が黄巾党の討伐へ向かい始めているらしいが、やはりというかなんというか、手に負えていない。

 

諸侯は各々の対応を迫られ、討伐を余儀なくされているのが現状だ。

 

対応できる諸侯は領地の黄巾党を討伐しているが、それでも相当に手を焼いている様子……弱小の領主などは逆に返り討ちにあうという有様。

 

領主の中には逃げ出す奴も多いらしく、漢王朝が臨時の領主を次々に任命して、なんとか場を繋いでいる。

 

「……はぁ……」

 

__情けないわ。

 

だが、今はそんなことを言っている場合じゃないわね……自分達にしても、決して余裕というわけではないのだから。

 

華琳の手元にある報告書、この陳留から馬で丸1日程離れたところにある街の傍に、1000前後の黄巾が集まっているというもの。

 

人事大刷新の時に華琳が罷免したとある役人が治めていた街であり、陳留よりは小規模なものの、ちゃんとした城壁がある街だ。

 

やすやすと1000程度に落とされはしないだろうが……

 

現在、春蘭と流琉は別の黄巾党を討伐し終わり、帰途の途中。

 

秋蘭と季衣を行かせるしかないが……2人とも、特に秋蘭の負担が増えている。

 

秋蘭は武官としても文官としても、やってもらうことが非常に多い。

 

華琳を別に考え、武官のトップは春蘭、文官のトップは桂花、その両方の実質ナンバー2が秋蘭になる。

 

軍内部で頭が回って力もあり、細かく気を配れる者といえば秋蘭しかいない。

 

彼女は武官と文官の橋渡しをする、貴重な存在なのだ。

 

更に最近では以上の仕事に加え、文官と武官育成の件、そして裏で進めている計画のためにも、秋蘭には活躍してもらっている。

 

常人の7,8人分の仕事量だ……常人とは一線を画す体力を有している秋蘭といえど、いずれは無理が祟るだろう。

 

華琳はここで頭を抱える。

 

自分の覇道を支える優秀な文官武官共に、後3人……いやせめて、最低でも2人ずついなければならない。

 

登用に関して桂花に尽力させてはいるが、未だ頭一つ抜ける人材の発見には至ってはいない。

 

既存の臣下達も韓居のころに比べれば大分育ってきてはいるのだが、それ以上に……この領地の前任者達が溜めに溜めた仕事に、不始末に、不祥事に……いくらあっても、人手が足りない状況。

 

せめて黄巾党が落ち着いてくれるか、どこか一ヶ所に集まってくれれば……

 

「どこに出るのか……わからないのよね」

 

そう、黄巾党の連中は徹底的な秘密主義を未だ貫いているので、首謀者の名前さえわからない。

 

その忠誠心だけは、華琳でさえ感心してしまうほどであった。

 

そしてここでもう1つの問題が、華琳の頭をさらに悩ませている。

 

中規模以上に膨れ上がった黄巾党を討伐するには、こちらもそれなりの兵数を動員するということになる、そしてそれに比例して機動力は落ちるのだ。

 

華琳は自分の軍の足の遅さは理解していた。

 

騎馬部隊が全軍の比率として少ないのだ、春蘭以外にまとまった騎馬部隊と呼べるものがない。

 

その春蘭にしても、乗馬に関して本人自身は得意だが、別に教えるのが得意というわけではなし。

 

部隊構成のバランス……これも早く解決せねばならないだろう。

 

今まではその機動力不足を華琳と桂花の先読み、秋蘭の応用力とでカバーする事で、対応してきたのだが……この不規則に現れる黄巾党に関しては、裏目にでることも多かったのだ。

 

どうしても後手に後手にと回ってしまう。

 

「仕方ないわ。

 もう少し、皆に耐えてもらうしかないわね」

 

そう締めて、華琳は部屋を出た。

 

 

「秋蘭、季衣。

 また黄巾党が出たわ、数は1000。

 兵1200を連れて討伐に向かって頂戴」

 

華琳と桂花が、新しく入ってきた情報を基に、秋蘭と季衣を呼び出して討伐を命じる。

 

「「御意」」

 

もう何度目かの連続した出陣に、疲労の色が濃いのが表情から見て取れる。

 

 

__本当に……不味いわね。

 

 

秋蘭達が出陣して丸1日が経った。

 

そろそろ討伐を終え、復興作業の経過報告が入ってくるかと思っていた華琳達なのだが、城へ駆け込んできた血だらけの早馬の報告を聞いて、直に春蘭達を政務室へと呼び寄せた。

 

「どうしたのですか? 華琳様」

 

春蘭が尋ねると、真剣な目をした華琳が重い口を開く。

 

「直ぐに部隊の準備をしなさい。

 秋蘭の援軍に向かうわよ」

 

「な?! 秋蘭が危ないのですか?」

 

信じられないという春蘭に、桂花が説明を入れた。

 

「夏侯淵将軍は兵1200で、黄巾党1000を大した被害もなく撃破したわ。

 そのまま町の修復作業をしていたのだけれども、いきなり黄巾党の部隊が次々に現れては、街をあっという間に包囲したらしいのよ。

 ……その数合せて、9000以上と見ているわ」

 

「「「な?!!」」」

 

9000……7倍以上!

 

「現在夏侯淵将軍と許緒将軍は、城壁内に立て篭もりなんとか耐えているわ、でもこの戦力差では長くは保たない……直にこちらから援軍を出します。

 夏侯惇将軍は今すぐに出せる兵を、できるだけ用意して出発の”バタン!!” ……もう」

 

桂花が言葉を終える前に、春蘭は部屋を駆け出していた。

 

静かにしていた一刀が口を開く。

 

「……9000、か……どれくらいもつかな」

 

__7倍なんて勝負にならない……多くの一般人も一緒だとすると、ただ守る事でさえ難し過ぎる差だ。

 

「現地に義勇軍がいたらしいわ」

 

静かに黙していた華琳が応える。

 

「数は300程、報告では義勇軍は協力的らしいわ。

 錬度はわからないけれど……丁度こちらは1500弱ってところよ。

 それでも圧倒的差だわ、しかも黄巾党はまだまだ増えているようなの」

 

華琳の表情と声が、事態の深刻さを実感させる。

 

「もっと何か、情報はないのか? 気づいたことでも、なんでもいい」

 

「……連中はまるで示し合せたように街に集まっている、恐らく黄巾党を指揮している人物がいると思うわ。

 報告によると、連中に目をつけた盗賊とかも多く混じっているようね。

 旗がないようだから……誰が指揮官かはわからないのだけれど」

 

__指揮官ができた、それがこの大人数を集めているっているのか……なら……

 

「華琳、馬を1頭頼めないか? 早いやつがいい」

 

「どうするつもり?」

 

「先に出る。

 連中の手際の良さがあがったのは、指揮官ができたからに違いないだろう。

 だけどまだ急ごしらえのはずだ、まともな指揮系統までができているとは到底思えない。

 ……今なら、何とかなるかもしれない」

 

「あんたバカァ!? 1人でなんて無理に決まっているでしょう!」

 

「に、兄様?!」

 

桂花と流琉が声を荒げて抗議するが、一刀は華琳から視線を外さない。

 

「……できるの?」

 

「やってみせる」

 

すぐに力強く返答された華琳は目をつむり、僅かに思案した後……意を決して頭を上げた。

 

「桂花……一刀に1番の早馬を、あと何か望む物があるならば全て用意してあげなさい」

 

華琳はそう伝えると、立ち上がって部屋を後にしようとする。

 

一刀とすれ違うとき、かろうじて聞き取れる小さな声で華琳が呟いた。

 

 

「……お願い、一刀」

 

 

バタン

 

「……全く! 何をやるのか知らないけど、あんた死ぬつもりなの!」

 

「そうですよ兄様! 1人でなんて!」

 

2人が一刀に詰め寄ってくる。

 

一刀の視線からすれば自分の胸辺りに、猫耳フードと大きめのリボンがピョコピョコしてて何故か和んでしまう光景だ。

 

だが、時間がないので先を急がそう。

 

一刀は桂花と流琉の肩を掴み、2人の頭の間に顔を寄せていく。

 

「な! なななななんなななあ!!?」

 

「兄様?」

 

予想外の行動に2人の顔が朱に染まるが、一刀は2人の耳に口を寄せると、これから自分がとる行動を伝える。

 

初めはただ慌てていた桂花だが、耳元で紡がれる言葉を脳が吟味したころには、驚愕の瞳で一刀を見上げていた。

 

「……本気? 失敗したら間違い無く死ぬわよ? そんなに信じられるの?」

 

「危険なのはわかってるさ。

 でも、あっちには季衣がいるんだ。

 ……絶対、気付いてくれる」

 

ニコっと自信満々に笑う一刀。

 

「兄様……わかりました! 直に用意します!」

 

流琉が急いで部屋を駆け出していく。

 

「……っていうか! いつまで人の肩に触っているの!?

 孕むでしょ! この無責任孕ませ男~~!!!!」

 

残された桂花がドンっと一刀を突き放すと、ついて来なさい! と叫んで部屋を出ていった。

 

 

その後馬と仕込みを終えた一刀は厩舎に来ていた、先ほどの2人が見送りにきている。

 

「兄様……」

 

流琉が一刀に歩み寄って抱きつく。

 

「季衣と秋蘭様を……お願いします。

 そして…………無事に帰ってきて、ください」

 

一刀に抱きついている流琉の肩は、少し震えていた。

 

「大丈夫さ、流琉。

 俺がそうそうやられるもんかよ? な?」

 

胸の中でコクリと頷いた流琉は、そっと離れていく。

 

「……生きて帰ってきなさい…………この、クズ男!」

 

 

__そういう桂花の声が、僅かにでも震えていたのは内緒だ。

 

 

「……はぁ……はぁ……防壁の方はどうなっている?」

 

息の上がった秋蘭が、義勇軍の代表者達に尋ねる。

 

「東はまだ大丈夫やろなぁ、南も補修しといたのが幸いでまだなんとか……でも西はありあわせの材料で作ったしなぁ……半日保つかわからん」

 

濃い紫の髪を大きく2つに結んだ、童顔の娘が秋蘭に答える。

 

彼女が動くたびに、たわわな胸がぶるんぶるん揺れるのが、戦場とは思えぬ雰囲気を醸し出していた。

 

「そうか……半日だと、姉者達が間に合うかどうかギリギリといったところか。

 速めに馬は出したのだが……これほど早く連中に囲まれるとは思わなかった。

 しかもこんな、無様な不覚を取るとは……季衣は、大丈夫か?」

 

秋蘭は不眠不休で動いている季衣を労うが、季衣はいたって元気であった。

 

「はい! ボクは大丈夫です! それよりも秋蘭様、そのぅ……腕が」

 

季衣は心配そうに秋蘭の右腕を見る。

 

巻いた包帯には血がにじみ出ている、それに体も細かい傷があった。

 

「大丈夫、大した怪我じゃないさ。

 よし……なんとか半日持たせよう……頼むぞ季衣」

 

「はい! きっと兄ちゃん達が助けに来てくれますから、頑張りましょう!」

 

季衣の微塵も疲れを感じさせないその姿に、既にボロボロの兵達も気が楽になったようだ。

 

「ですがどうしましょうか……特に西は楽観視できません。

 黄巾も集中的にそこを破ろうとしておりますし、何か対策を……」

 

「も~凪ちゃんったら考えが硬いの~!

 こんな時はもっと楽に考えたほうがいいんだから~」

 

「何を沙和! 私はできうる限りのだな」

 

そうやって言い合いを始める2人の娘達。

 

先ほどの爆乳で童顔の子が李典こと真桜、次に真面目な発言をしたのが楽進こと凪、間延びした口調が特徴的なのが于禁こと沙和だ。

 

この3人が義勇軍の代表であり、かつ実力者でもあった。

 

不幸中の幸いというべきか……街の前任者が城壁の強化だけは行っていたようで、やすやすと破られはしない、黄巾に衝車のような攻城兵器がないのも幸いだ。

 

ただ西の城壁の門が、以前の戦闘の時に壊されたようで、完全に閉まらなくなってしまった。

 

そこを皆で塞いだのだ……特に李典の驚くべき技術力がなければ、あの短時間で西の入り口を塞ぐことができなかっただろう。

 

この大梁義勇軍がいなければ、秋蘭達は捨て身での脱出しかできなかったかもしれない。

 

秋蘭はこの義勇軍と、3人娘の確かな能力を認めていた。

 

「言い争っていても仕方あるまい……とにかく当面は時間を稼ごう。

 よし、西門に近づかせないように弓による牽制を集中させる。

 楽進……義勇軍と私の弓兵を引き連れて向かって欲しい、補佐は私の副官に任せる。

 頼めるか?」

 

「御意に!」

 

「「「「は!」」」」

 

凪が兵達を連れて行くのを見届けると、後の指示は季衣に任せ、秋蘭は仮眠をとることにした。

 

既に彼女は疲労困憊である……街の住人と兵を守るために防壁を築く間、1晩中秋蘭は最前線で戦い続けていた。

 

そして防壁が完成したと聞き、わずかに油断したときに、敵の流れ矢が右腕にあたってしまったのだ。

 

街にいた医者に診せたところ、怪我自体は骨も神経も外しており問題はないが、秋蘭自身は安静にせねばならないとの診断となった。

 

現代で言えば、過労死してもおかしくない状況なのだ。

 

未だ意識をしっかり保てていたのは、常人を超える精神力と体力の賜物だろう。

 

そんな状態の秋蘭は、体を横にすると直に寝入ってしまう。

 

そして残された者達は、各々その場の地面に腰を下ろして、一時の休みをとることになった。

 

「なぁなぁ、ボクっこの兄さんってどんな人なん?」

 

秋蘭を街医者に任せて、真桜が季衣の傍へきて腰を下ろす。

 

連れて沙和も反対側の隣に座った。

 

「兄ちゃん? 兄ちゃんはね、すっごい優しいんだよ~! ボクに色んなことを教えてくれるし!」

 

「へぇ~……ええ兄ちゃんやんか」

 

「うん! それに凄い格好良くて、とっても強いんだよ」

 

「え~?! イケメン? イケメンなの~?」

 

「い、け……?」

 

「顔がカッコいいってことなの~! 阿蘇阿蘇に乗ってた~最近の流行語なの~」

 

「へぇ~、そうなんだぁ? ……うん、かっこいいよ!

 ……それに……それにね……」

 

「「それに?」」

 

2人が季衣の両隣から覗き込むように表情を見ると、そこには眩しいほどの笑顔が浮かんでいた。

 

「兄ちゃん、ボク達の村を助けてくれたんだ。

 ……ううん、それだけじゃない。

 いつもボク達が危なくなったら、助けてくれるんだ……だから今回も、絶対来てくれるよ!」

 

そう言いながらヘヘ~と笑う季衣に、2人は毒気が抜けたような気分になった。

 

こんな純粋な子にここまで言わせる男なのだ、それだけで期待するには十分だろう。

 

それからしばらく時間が経ち、凪が戻ってきたので、医者に止められながらも秋蘭が起きてきた。

 

そして凪からの報告を聞くと、神妙な顔つきになり皆を集める。

 

……そろそろ柵が保たなくなってきている。

 

だが、凪からの報告で他に気になるものがあった。

 

今まで妙に統率がとれていた黄巾党に、乱れが見え始めているということだ。

 

「皆、どう思うか意見して欲しい」

 

秋蘭の言葉に各々が考えを述べていく。

 

「連中の指揮官が、負傷でもしたんかいな?」

 

「……それは違うんじゃないか?

 どこに指揮官がいるかはわからないが……指揮官が倒れたのであれば、もっと直接的に混乱すると思う」

 

「そうやんなぁ……凪の言うとおりやんなぁ、でもじゃあなんなんやろ? そもそも連中ってどうしてここへ集まってくるんかなぁ?」

 

「そうなの~、それなのになんで合流した黄色ちゃん達の指揮がとれているのか、わっからないの~」

 

どう考えても、不可解なことが多い。

 

「…………」

 

「う~ん、頭が痛くなってきたの~」

 

「せやなぁ、なんで示し合わせたように集まって、初めからわかっているかのように動けるんかなぁ~……」

 

「でも、今は徐々に混乱してきている、か。

 どうして今頃になって……」

 

いくら考えても、誰もわからない。

 

結局、特に意見が出ぬまま話し合いが膠着してしまったので、とりあえず解散して各々の持ち場に戻ろうとした、その時…………

 

 

ふと…………空を見上げた季衣が、何かに気付く。

 

 

 

「……あれ? これって……」

 

 

季衣が呟くと、いきなり走り出して外壁の上に身を乗り出した。

 

「危ないぞ季衣! どうしたというのだ!?」

 

そう叫ぶ秋蘭が降ろさせようとするが、季衣はそれを聞かずにその場から動かない。

 

キョロキョロと辺りを見渡し……そして、確信する。

 

「……兄ちゃん、だ!」

 

ポツリと呟く季衣の言葉に、秋蘭が驚いた。

 

「北郷? 北郷が来ているというのか?!」

 

「……だって、これって……はい! 兄ちゃんがどこかにいるはずです!」

 

「場所は?!」

 

「それが、いるのはわかるんですけど、どこかまでは……。

 見渡してもいないし…………もしかして!?」

 

季衣は外壁からピョンっと飛び降りると、もう一度皆を集めなおす。

 

「秋蘭様! 間違い無く兄ちゃんがいます!」

 

「疑うわけではないが、どうしてそんなにはっきりとわかるのだ?」

 

興奮している季衣に、冷静な秋蘭が問いかける。

 

「かれーの匂いがするんです!」

 

「か、かれー? ……匂い?」

 

初めて聞く言葉に、秋蘭達が頭をひねる。

 

「兄ちゃんの国の料理なんです! 流琉が教えてもらって1度だけ食べたことがあります! この独特な香りは間違いないです!!」

 

キラキラした瞳でそう言われた凪達だが、香りに注意して辺りを嗅いでも、それらしい匂いがわからない。

 

だが季衣の食に対する執ちゃ……情熱と、脅威的な身体能力をよく知っている秋蘭には、季衣の言葉は信じるにたるものだった。

 

「北郷が来ているとして、では一体どこに……」

 

すでに前提を北郷が来ている、というものに思考を素早く切り替えて、秋蘭は考える。

 

「それもわかります! ……匂いは街の外の方から来ているんです。

 だから……兄ちゃんは黄巾党の中にいます」

 

「!!」

 

「な?!」

 

「なんやて!?」

 

「無茶なの~!」

 

それはそうだ、黄巾党の服装をして紛れているということは、余程本人を知っていないと気付けるわけがない。

 

それはつまり、こちらからも狙われるということだ。

 

既に援軍は向かってきているはずなのだから、それまでになんとかしないと、華琳達と戦うことになって、最悪は……

 

それにあの中に潜伏しているということは、何かしらの工作をするつもりなのだろう。

 

もし工作がバレでもしたら、裏切り者で一斉に黄巾党に囲まれる。

 

正に、単身。

 

「まったく、無茶をする奴だ。

 ……フフ…………………………全兵に通達!

 外で何か動きがあったときに、直に動けるようにしておけ!」

 

秋蘭は北郷の考えを読み取って、直にどんな動きにも応じれるように指示を下した。

 

そこに一切の迷いは無い。

 

 

__頼んだぞ……北郷。

 

 

「おい! 同志! おめえあんな馬を持ってくるなんて、すげぇじゃねえか!」

 

「ありがとうございやす! 後ついでに食料も持ってきやした!

 何やら遠方の商団だったようでして、変わった食べ物が多く、天和ちゃん達にどうかと思いやしたんで」

 

「そうかいそうかい、いい心がけだぜ! 今度の天和ちゃんたちの披露会には良い席用意するからよ、一緒に叫ぼうぜ! がっはっはっは!」

 

ゴツイ大柄なおじさんが、バンバンと一刀の背中を叩く。

 

華琳達よりも早くに秋蘭達がいる街の近くへと辿りついた一刀は、街を囲んでいる大規模な黄巾党に合流しようとする少数の黄巾党に接近し、馬を手土産に渡して仲間に入れてもらえることになった。

 

格好を連中と同じ黄色を主体にし、適度に体を汚して農民風に振舞っただけなのだが、ずいぶんあっさりと受け入れられることとなった。

 

そこに違和感を感じた一刀は子分らしい人に話を聞くと、とんでもないことがわかった。

 

どうやらこの黄巾党……天和達のファンの集まりらしい。

 

初めに声をかけたら、お前は誰の”ふぁん”だ? っと返され、一瞬焦ったものだが、”ふぁん”という言葉にひっかかり、更には”俺は地和ちゃんだぜ!”っと言われたので、勢いで天和と答えたら”王道だね~”と褒められた(?)

 

まさか、あの3人が張角達だったとは……それであの盲信的な忠誠心の正体にも納得した。

 

どうやら黄色の服は、彼女達が普段着ている服のイメージカラーであると同時に、ファンの証でもあるらしい。

 

天和達の、大陸で一番の歌手になりた~い! から、大陸を制覇した~い! に変わり、大陸を征服した~い! とか、どうせこんなところだと思い、一刀は眩暈がした。

 

__笑えね~……

 

あまりに下らない、大陸を揺るがす一大事件の全貌に、頭痛が起きそうな気さえする。

 

「はぁ……よし、やりますか」

 

とりあえず一刀は静かに気を取り直すと、1万を超えているんじゃないかと思う黄巾党の大集団へと合流……そしてさりげなく、その姿をくらました。

 

手には流琉が急ごしらえで作った、カレーを持っている。

 

一刀は街から見て風上に向かい、糧食……というより食料が適当に置いてある場所で、火を熾し始めた。

 

そしてカレーを火にかけると、辺り一体に食欲を強烈に刺激する、なんともいえないスパイシーな香りがブワァッと広がった。

 

__気づいてくれよ、季衣。

 

街攻めに参加していない黄巾党達が、暖められたカレーの匂いに釣られて集まってくる。

 

「おい、お前……なんか旨そうな匂いじゃねえか」

 

「それってなんて食いもんだ?」

 

気付けば多くの黄巾党が、一刀を中心に取り巻くようにして2重、3重と集まってきていた。

 

__さて……これでどうくるか……ん?

 

「オイ! こんな時に何をしてやがる! まだ飯の時間には早いぞ! 誰がやってんだぁ!?」

 

「へ、へえ! こいつが……って、あれ?」

 

そう言って皆が振り返ると、既に一刀は火の近くにはいなかった。

 

辺りを囲んで見ていた者達も、カレーばかりに気をとられていたので、顔も姿も覚えていない。

 

大男はチッと1つ舌打ちをすると、カレーを始末しておけと命じて、その場から離れていった。

 

スッ

 

その大男の後を一刀はこっそりとついていく……近すぎず、離れすぎず……周囲と一体になって、誰の印象にも残らないように……

 

まるで影のようについて行った一刀だが……

 

__アレは、なんだ?

 

一刀の視線の先、先程の大男に白いゆったりとした服で頭をすっぽりと隠した、怪しさ爆発の奴が近づいてきている。

 

__白い装束……これは、道服というやつの一種か?

 

その白い装束は大男に寄って耳打ちをすると、男がやたら大きな声で、自分の仲間に指示を上げ始めた。

 

「おめ~ら~! 後一息であのふざけた柵が破れる! 西門を徹底的に攻めて、このまま押し込んじまえ!」

 

おおお~!! という怒号が応えた。

 

__なんだ? あの白い奴……

 

気になった一刀は、異質な雰囲気の白い装束に目標を変えてついていく……すると、そいつと同じ格好をした白い奴等が何人かいた。

 

白い奴らは黄巾党の小集団のボスらしき男達へ接触すると、次々に耳打ちをし、その直後ボス達から大声の指令が下されていく。

 

__これは……まさか……

 

だが、そうと決めるのも難しい。

 

白い装束連中は皆別々に動いており、司令塔らしき人物にいつまで経っても接触しないのだ。

 

連携は取れているのだから、誰かが統一的な指示を出しているのに違いないのに……

 

「時間……は無い、か」

 

嫌な汗が流れる。

 

遠くに見える街へ視線を移すと、まるで蟻のような黄巾党が門に取り付いて、今にも雪崩れ込もうとしていた。

 

__もう、いくしかない。

 

意を決した一刀は白服の後ろにそっと近づき……手早く手刀を首に落とした。

 

勝てるという高揚した雰囲気に飲まれ、油断している黄巾党達には、自然な流れで白服が突然倒れたようにしか見えないだろう。

 

バキ

 

__ん? なんだ今の変な手ごたえは。

 

硬い物を壊したような感触を不思議に思うが、今は気にしていられない。

 

「どうした!?」

 

一刀はさも心配しているかのように、倒れた白装束に近づいて、覆面を剥ぐ……すると……

 

「……な…………に?」

 

中から現れた人の顔には精気が無く、その精巧な造詣には、自分がやったのであろうヒビが……いや、これはまるで……

 

「人形……ってか、マネキン……か?」

 

手で触れる触感からは、生命を一切感じない。

 

__一体なんなのだ、これは?

 

 

 

カタカタ……カタ

 

「……オま江……ハ……だレ、駄?」

 

 

「馬鹿な……」

 

カタカタと動き出す人形。

 

強烈な悪寒に従い一刀は慌てて離れると、白い道服を纏ったマネキンが地に伏しながらも、首をギギギギっと、こちらへ向けてくる。

 

「オまえ覇? ……尾ヤァ? 句ックっ……くッ苦」

 

段々とはっきりしてくる、気味悪い声。

 

 

「余卯ヤク……ミツけ魔死タよ……北郷、一刀……」

 

 

ゾク

 

__不味い!

 

気がついたら一刀は、既にそのマネキンの頭を潰していた。

 

「……ハァ……ハァ、ま、不味い……今のは、何か決定的に不味かった」

 

流れる脂汗が、不快に肌を伝っていく。

 

「おい! ……お前、何してんだ?」

 

一刀は自分の周りを囲んで、驚いている黄巾達を見渡す。

 

突如不審な行動をした一刀に、疑惑の視線が集まっていた。

 

__くそ、こっちも不味い……! ……そうか!

 

「おい! 白い奴等は化物だ! こいつを見ろぃ! 人間どころかこりゃあ妖だ~~~!!!!」

 

必要以上に大きな声で叫ぶ一刀の言葉を聞いた連中が、白服の中身をそ~~と覗いては、サッと青褪めた表情へ変わる。

 

「白いやつらの面を剥げ! 妖だったら潰すんだ~!」

 

一刀は慌てふためく振りをしながら、大声で叫び散らし、辺りを駆け続けた。

 

そして一刀の言葉を受けた黄巾党が、次々に白い道服を囲んでは剥いでいく。

 

面の中から現れる、やたら人間くさい人形に、空寒い恐怖を覚えた連中が次々と人形を壊していく……そして徐々に混乱という種が、黄巾党に拡がっていくのを一刀は肌で感じていた。

 

ざざっ

 

そうして混乱をばら撒いていると、一刀の前に2人の白い装束が現れる。

 

「ふふ……まさか黄巾党に紛れているとは思いませんでしたねぇ。

 どの勢力でも貴方のことは聞きませんでしたし……灯台下暗しとは正にこのこと。

 ”みつけたぞ北郷!”……左慈、せっかく用意したのですから、そちらの人形で話してくださいよ」

 

すると、もう1体の白服がいきなり怒鳴り始める。

 

「見つけたぞ北郷!! こんなふざけた外史など俺は認めない! 貴様を殺して止めてやる!」

 

代わる代わる話す白装束達……気味が悪い。

 

「……左慈、はやる気持ちはわかりますが、この人形数体でこの周りの状況では無理ですよ。

 今回はお互いの顔見せということで、いいではありませんか。

 おっと、失礼しました……私は干吉という者です。

 それでこちらが、かわいいかわい”ドグッ”……左慈と……申します、以後お見知りおきを。

 北郷一刀殿……しばしその命お預けしますが、いずれは……お覚悟を」

 

白い道服達はそう告げ終わると、操り糸が切れたように、その場にガシャッと倒れ込む。

 

周りの連中がそ~っと近づいて覆面を上げると、妖め! っと叫んで、人形を粉々にした。

 

辺りを見渡したところ、白い道服は今ので全部が勝手に倒れたようだ。

 

__于吉に……左慈か……確か道士だったか……いや、今はそんなこと考えている場合じゃない!

 

一刀は1つ頭を振ると思考の外へと追い出し、改めて状況を確認する。

 

白服が倒され、指揮が絶たれてきた黄巾党は、右往左往し始めていた。

 

__この調子なら、混乱は徐々に大きくなっていくだろう、これなら”ドゴオォォオオ!!”……な?!

 

突如響いた大きな音のしたほうへ視線を向けると、どうやらここからでは見えない、街の反対側の門が破られたらしい。

 

__クッ……少し遅かったか!

 

落ち着け、と自身に言い聞かせながら一刀は考える。

 

そして華琳達が来るであろう、街道の先に視線をずらした。

 

「……ん! よし、まだ間に合う!」

 

まだ遠くではあるが、よく注意してみればうっすらと見える華琳達の軍の姿を見て、ニヤっと笑った一刀は、考えついた決めの一手を、急いで準備しなければならない。

 

華琳達がやってくる街道の方角と、一番近い街の門を一直線にし、その延長線上になにか燃えるものを集める必要がある。

 

一刀はスゥッと深く息を吸い込むと、先ほどとは打って変わった、堂々たる態度で辺りへ怒鳴った。

 

「てめえらぁ!! 何してやがる!! 妖が出たからなんだ、うろたえてんじゃねえ!!!

 もう街の門は突破してるんだぞ!

 ……よし、そこのお前達! ここに燃えるもんを集めろ! 急げ!!!」

 

「え?! ヘ……ヘイ! わかりやした!」

 

周りの唖然としている黄巾党員に、語気を強くして命令を下し、その作業を手伝わせる。

 

混乱している人間の集団というものは、扇動をされやすい、しかも確かな指揮系統は無く、信じれる将もいないこの状況。

 

頼れるもののない弱い心は、こうやって強い指示と怒気をぶつければ、案外簡単に折れて従うものだ。

 

そしてすぐに指示したところへ、大量の燃える物が集まった。

 

__季衣が俺に気付いているなら……秋蘭なら……この意味をきっとわかってくれる。

 

華琳の軍が上げる砂煙が、先程よりも大きくなってきた。

 

__よし、今だ!

 

一刀は懐から小瓶を取り出し、持ってきていた油を撒いて、一気に火をつけた。

 

 

そのキャンプファイヤーのような大きな火の塊は、あっという間にボウッと大きく燃え上がって炎と成り、煙を舞い上げて青い空を灰色へと変えた。

 

 

ドゴオォォオオ

 

「何の音なの~!?」

 

大きな音が街中に響き渡る。

 

「西の防壁が破られたんや! ……アカン! 途中に作った小さい防柵や、罠なんて直に破られてまうで!」

 

「……っく! 私が出ます! 私の気弾なら多少時間も……」

 

「駄目なの~!! 凪ちゃん! そんなことしたら死んじゃうの~!!!」

 

身を賭けて駆け出そうとする凪を、真桜と沙和が必死に食い止める。

 

だがそうこうしている間にも、すぐに黄巾党はこの街の中心部へと、向かってくるだろう。

 

__どうする……どうする?!

 

全員が焦る中、秋蘭は外壁からずっと外だけを注視していた。

 

ただ、信じて。

 

 

__…………ん? …………あれは!!

 

 

突然前触れも無く昇る、不自然で大きな煙……そしてその方角は……陳留へと至る道。

 

__そうか、北郷!

 

秋蘭はその意を受け取ると、城壁から急いで降りて、街中の人の前に出て声を張り上げた。

 

「皆の者!

 たった今、我等の援軍がそこまで来ている! ……だが西門が破られた今、このままでは1歩早く! 黄巾党が我等の下へ先に来てしまう! だから我らは自らの足で、援軍へ向かうことにする!」

 

ざわ……ざわざわ……ざわ……

 

「老人と子供、そして女を中心にして円を組め!

 その周りを動けるもので固めるんだ、東門から一斉に飛び出していくぞ!

 動けぬ者には周りの者が手を貸せ!

 焦る必要は無い! ……なんとしても皆で生き残るぞ」

 

秋蘭の気合の入った有無を言わせぬ言葉に、街中の民が急いで1箇所へと集まっていく。

 

その先陣を凪、真桜、沙和にとらせるため、呼び寄せた。

 

「……よし、このまま先陣をきって東へ向かえ。

 東門を一気に開け放ち、楽進と李典はそのまま兵と共に突撃して、先にある大きな街道へ、皆の道を作ってくれ。

 于禁は皆がはぐれないよう、後方から全体を援護しろ。

 目印は大きな煙が上がっている方角だ、門から飛び出れば直にわかる。

 そして皆で声が枯れるほど大声を出させろ……そうすれば、華琳様達が絶対に気付いてくれる」

 

「御意!」

 

「よっしゃ~! やったるで~!」

 

「わかったの~!」

 

力の入った返事を返した3人が、兵を指示して東門へと向かい始めると、街中の人達もその後について動き出し始めた。

 

「季衣は私と一緒に殿だ。

 …………いけるか?」

 

秋蘭の言葉に、季衣の体からどんどんと気迫が溢れてくるのがわかる。

 

「はい! もちろんですよ! っていうか、秋蘭様はみんなと一緒に脱出してください!

 ボク一人でも、あれくらい止めて見せます!!!」

 

「ふふ……頼もしいな。

 心配はいらないよ、無理だと思ったらちゃんと下がるから」

 

そういうと、季衣の頭を優しく撫でる秋蘭。

 

季衣はその手の暖かさを感じながら、自分が秋蘭も守らなければならないと思い、俄然やる気が溢れ出した。

 

街の人達が東門へ向かい、その姿が小さくなっていくのと同時……反対の西門から入ってきた、黄巾党が中央広場へと雪崩れ込んでくる。

 

 

「……いくぞ、季衣」

 

「はい!!!」

 

 

「華琳様! あれは北郷からの合図だと思われます!」

 

最高速で馬を走らせる桂花が、前方から突然立ち上る不自然な煙を見て、一刀の合図を読み取った。

 

「春蘭! 騎兵を率いて先行の煙に向かって走りなさい! 突撃して秋蘭達を助けるのよ!」

 

華琳の声を受けた春蘭は、解き放たれた獣と同義。

 

「御意! 待っていろ秋蘭! 季衣!」

 

そう叫ぶと春蘭は馬を叩き、グングンと加速して行くのであった。

 

 

ここまでくると、戦い自体に特に問題は起きなかった。

 

既に指揮系統を失っている黄巾党は、街から突如出てきた人達に驚き、更にいつの間にか後背から迫る軍団にも気づいてしまったことで、完全に事態を把握できなくなり、その混乱に収拾がつかなくなった。

 

小規模レベルでの抵抗はあったが、気付いたら1万1千に迫っていた黄巾党は、ちりじりになっていく。

 

凪達義勇軍を含めた町民は、怪我人こそ出たものの、重傷人も死者もなく保護された。

 

その中で特筆すべきなのは、春蘭の活躍となるだろう。

 

闘神として壁を越えつつある彼女に、雑兵程度がいくら纏まって向かおうとも敵うわけはなく、次々と黄色い布を斬りつけては、大地へと消し去っていくその姿は正に圧巻であった。

 

「秋蘭~~!! 季衣~~~!! どこだ~!!!」

 

脱出してきた一団の中に秋蘭と季衣の姿はなく、2人が殿を務めていたことを、集団の先陣をきっていた女達から聞いた。

 

春蘭は単身で、門に群がる黄巾党を吹き飛ばしながら、開け放たれた東門から街に入ると……そこでは秋蘭と季衣が、何十人もの黄巾党に囲まれながら満身創痍で戦っていた。

 

「おおオオオ!!!」

 

何も考えずにただ突進し、黄巾3人を胴ごと一気に横へ切り裂く。

 

「な、なんだぁ! この女!?」

 

雷のように現れ、猛烈な殺気を振りまく黒髪の登場に、戸惑う黄巾達。

 

「あ……姉者!」

 

「春蘭様~!」

 

囲まれている2人と目があうと、春蘭は安堵して頼もしい笑顔を見せた。

 

「待たせたな!」

 

「……いや……来てくれる、と……思ってい……た……よ?」

 

春蘭が現れたことで安心したのか、緊張が解けた秋蘭は気を失うように地に倒れてしまう。

 

それを突然現れた、黄色い布で頭を覆っている男が支えた。

 

「しまった!?」

 

「秋蘭様!」

 

「よし! そこのお前よくやった! その青い女を人質にしろ!」

 

1人の黄巾の男がそう叫ぶが、秋蘭を支えている男は全く反応しない。

 

「オイ! なにしてやがんだ! 早くそいつを!? ッガァ!」

 

どさ

 

叫んでいた男の眉間には、手投げナイフが刺さっている。

 

「……大丈夫か? 秋蘭」

 

投げたナイフの行方を見もせずに、黄色の布を深く被った男は、その被っている頭巾を取った。

 

「っっっ!! 兄ちゃ~~ん!!!」

 

「北郷!」

 

一刀は秋蘭の頭を優しく撫でると、そっと地に降ろす。

 

「て、てめぇ……」

 

黄巾党の連中は、その男が敵だとようやく気付いたようだ。

 

「……さて、春蘭?

 秋蘭をこんな目にあわせたこいつらに与える判決は……何がいいか?」

 

「ふ……ふふふふふ、あははははははは!」

 

一刀は辺りに転がっていた雑兵の槍を蹴り上げて構えると、愉快そうに大声で笑う春蘭と、背を合せて並んで黄巾達と対峙した。

 

 

「……当然……死刑だ!!!」

 

 

「ん、ここは……?」

 

「秋蘭……? 目を覚ましたのか! おい! 誰か華琳様達と医者を呼べ!」

 

「姉者か? ……そうか、援軍に来てくれたのだな。

 するとここは、私の部屋か」

 

「ああ! もう安心しろ! ……よかった……よかったよぅ……」

 

抱きついて顔を埋めてくる春蘭の頭を撫でながら、秋蘭が苦笑をしていると、医者と華琳達がやってきた。

 

診断によると、どうやら怪我よりも、疲労の上に出血がたたった方が重かったらしい。

 

2週間療養すれば、無事快気できるとの診察だった。

 

「2週間、か……」

 

__まぁ布団の上でも、政務位ならできるか。

 

「よく生きて帰ってきてくれたわ、秋蘭」

 

その言葉を受けて、秋蘭は嬉しそうな声で返す。

 

「ありがたきお言葉でございます」

 

「兵も町人も、ほとんど被害が出ていないわ。

 ……あなたのおかげよ」

 

華琳様からのお褒めの言葉に、秋蘭は深く頭を下げた。

 

「2週間は療養なさい。

 わかったわね?」

 

「……御意に」

 

少しそのまま話をしていた華琳達だが、あまり長居をすると体に障るだろうということで、春蘭や季衣、流琉、桂花を引き連れて部屋を後にする。

 

その際に季衣と流琉が、果物を盛り付けた皿を置いていき、また来ます! っと、元気な声をかけてくれる姿には癒される。

 

__ん? ……季衣は、疲れていないのか?

 

「……あの、華琳様……北郷はどうしていますか?」

 

「ふふ……安心していいわよ、そこに待たせているから」

 

そして華琳様達が出て行くと、入れ違いに北郷が入ってくる……彼は何故か脛をさすっていた。

 

「どうしたのだ? 北郷」

 

「いや……桂花に蹴られただけ」

 

「フフ、そうか」

 

北郷が椅子へ座ると、互いにしばらく沈黙していたが、それを破ったのは秋蘭だった。

 

「……ありがとう、北郷。

 お前のおかげで、皆を生きて返すことができた」

 

「やれることをやっただけさ、秋蘭が無事で良かったよ」

 

「ふふ……ところで、お前は何をやっていたのだ? 私からは断片的にしかわからなかったのだが……」

 

そう言われた一刀は、自分が黄巾党に扮して潜入し、そこからの顛末を伝える。

 

ただ、白装束との会話だけは誤魔化しておいた。

 

「……無茶をする。

 一転すれば、お前自身が危険だったのだぞ?」

 

「まぁね、でもおかげで色々わかったこともあるんだ」

 

「ん?」

 

「華琳にはもう話したんだけど、連中の中に白い奴等がいなかったか?

 どうやらそいつらが、黄巾を1ヶ所に集め、指示を出していたみたいなんだ」

 

「そうなのか!? では指揮官は……」

 

「うん……あの場にはいなかったと思う。

 白装束の面を剥いだら、中から人形が出てきたんだ」

 

「人形……?」

 

「どこかに操っていた術者がいるんだろう、それが人形を介して直接指揮をしていたみたいだ。

 だからあの場に指揮官はいなかったかも……全体を見渡せる、どこかにはいたんじゃないかとは思うんだけどね」

 

「なんとも……面妖な話だな」

 

奇異な状況に考え込む秋蘭。

 

一刀はスッと立ちあがると、季衣達が置いていった、果物の皿を手に持ってきた。

 

「食欲はある?」

 

「え? ……あ、ああ」

 

串に果物をさすと、一刀は秋蘭の口元まで運んできた。

 

「なぁ!? ……んん、コホン……いや大丈夫だ、自分で食べれるよ」

 

予想外の出来事になんとか平静を装おうとする秋蘭だが、心の準備を全くしていなかった不意打ちからか、頬が赤らんでいた。

 

ちなみに秋蘭は腕を怪我している、当然動かさないに越したことはない。

 

「……ほら、あ~ん?」

 

「いや! だから自分で食べれ……」

 

「はい、あ~ん」

 

「だ、だけれ!」

 

目の前に突き出される果物に、秋蘭は慌ててしまい舌を噛んでしまう。

 

「あ~ん?」

 

「/// ……あ……あ~ん」

 

仕方ないと観念した秋蘭はそっと大きくならないように口を開けた。

 

顔が上気していくのが、自分でもわかる。

 

パク……もぐもぐもぐ……

 

「おいしい?」

 

「あ、あぁ」

 

__い、今、私は一刀に食べさせて貰っているというのか?! 味がわからない! これはかなり恥ずかしい!

 

頭が沸騰気味の秋蘭は、意識が揺らいでしまいそうであった。

 

「じゃあ、次はどれがいい?」

 

「……そ、それを……頼む」

 

 

おずおずと指された果物を、また”あ~ん”をし、すっかり皿から果物が無くなるまで……秋蘭はとても幸せそうな顔をしていたとさ。

 

 

どうもamagasaです。

 

1.5話分位の長めの投稿になりました、そして秋蘭の拠点でもあります。(こんなお姉さんが大好きです)

 

え~、人気キャラたちが続々参戦しました。

 

左慈のポジションいいですよね、于吉の方が便利ではありますが……

 

そして、ついに三羽鳥が!!

人気の3人娘が出たので、これからのキャラ絡みはどうするか? 思案しどころです。

 

今回の話は、以前”スネークな一刀君”を見てみたいとの言葉を頂きまして、それをイメージしながら書いております(ダンボールは出せなかったけど)後は”追跡、水晶翡翠麺”な感じで季衣が活躍しています。

 

それで書いているときに色々考えて思ったのですが、スニーキングミッションってとんでもないですね。(そりゃ伝説にもなるよ、と1人で納得)

 

白装束が絡む事によって、原作よりもピンチに陥った華琳達……いかがでしたでしょうか?

 

 

 

御意見・御感想を心よりお待ちしております!!

 

 

そして……お気に入りに登録して頂けた方が300人を超えました~!

100人様刻みで報告させていただいているのですが、毎回嬉しくて嬉しくて……

これからもどうかよろしくお願いします!!!

 

 

次話は一休みということで、本編2拠点8程の話になります……短いかもしれません、御容赦を。

 

 

では、また

 

五月改訂

 

 

 

 

 

 

 

一言

 

驚いた今日この頃

 

「ゲームセンターCX……有野課長ガンバレー! ……ADか、ん? ……んん? …………あれぇ?!」

さり気に昔の知り合いが、テレビに出ていてビックリしました。

 


 
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