No.990320 フレームアームズ・ガール外伝~その大きな手で私を抱いて~ ep10コマネチさん 2019-04-16 23:05:26 投稿 / 全7ページ 総閲覧数:667 閲覧ユーザー数:667 |
「まいったな。部品が足りなくなった……」
その日の夕方、大輔の家にて、机に向かって作業をしていた大輔は、頭をかきながら呟いた。彼の自室は部室同様に機械とメモ書きであふれている。違いは日当たりが良く、明るいという事、そして空気清浄用にアーキテクトの育てている観葉植物が置かれていた位だ。
「マスター……これを」
と、ギガンティックアームズを装着したアーキテクトが、ハーブティーを乗せたトレイを持ってくる。二人の間ではありふれた光景だ。
「おっ、有難うアーキテクト」
ハーブティーを飲みながら大輔は一息つく。作業に没頭して、暫く腹に何も入れてなかったからだ。予想以上に喉が渇いていた。
「味と香りが違うね。新しい奴かな」
「今日のはハイビスカス。主成分はクエン酸」
「いい酸っぱさだよ」
アーキテクトは窓を開けて喚起しようかと考えるが、風が出ている為、部屋の窓は開けられないなと考える。小さな部品が飛んでしまってはいけない。と、外の様子を見るとそれぞれの木々が赤く黄色く鮮やかになっていた。大輔もそれに気づいたようだ。
「あまり気にはしてなかったけど、外の紅葉も進んでるな。アーキテクト、買い足しついでに散歩でも行くか」
何かマスターと話す話題が欲しかった。向こうから話を振ってくれたことに嬉しくなるアーキテクト。
「!……はい」
アーキテクトはギガンティックアームズから分離。飛ぶ為の装備、キラービークを装着。背中に飛行用の翼のようなフォルムが追加された。そして外に出る二人。
「綺麗だなぁ」
アーキテクトを連れて大輔は近所のパーツ屋へと足を運んでいく。車道の両脇、歩道との間にはイチョウの並木が植えられており、コンクリートの道路を黄金色に彩っていた。。
「マスター……一人での製作、辛くはない?」
大輔の隣、キラービークを装着したアーキテクトが聞いた。二対の大きな羽根はまるで童話の妖精の様なシルエットを形作っていた。
「全然、久しぶりにやり甲斐のある事が出来てうれしい位さ」
「そう……」
「アーキテクトの方はどうだい?他の黄一君達のFAGとも仲良くなれたかい?」
「はい……。久しぶりに気分の高揚を確認」
「そっか良かった。先輩の連れていた皆とも会えなくなっちゃって、気にしていたみたいだからさ」
「マスター……マスターは私の思ってる事、何でも知っている」
「?なんかそんな気がしていただけだよ。それに、マスターってそう言うもんだろ」
「……私の周りのFAG達は私の表情を理解していない」
「あぁそっか。前もそんな感じだったからな。辛くはない?」
「不安だったら少しだけある。笑顔が出来ない。うまく接客の上で意思の伝達が出来ないのが不安」
「前の部活の時もそんな感じだったなぁ」
ロボット部の時もアーキテクトは笑う事が出来なかった。浮いていたというわけではないが、逆に目立ってはいた。
「あの時はそれでも楽しい時だった」
「メイド喫茶の手伝い。不安かい?」
やりたくないなら降りても大丈夫。そう大輔は思う。が、
「少し思う……。でもマスターの好きなロボット部を潰したくはない。それに……仲間のFAGとの共同作業はやはりASが高揚する」
「楽しいんだね。有難うアーキテクト」
「……こういう時に笑顔で返したい」
表情は変わらない。しかしアーキテクトの気持ちは感じた大輔だった。紅葉したイチョウの舞う中を進むアーキテクト、自然という有機物の中を進む彼女を見て、何とも言えないノスタルジックさを感じる。
「笑顔は無くても君は十分可愛いよ」
「っ?!」
その大輔の何気ない発言。アーキテクトは動きが固まる。動揺してるのは大輔以外でも解った。
「あ……花屋を確認。パーツ屋に行く前にこっちに寄っていきたい」
顔を赤らめたアーキテクトは、ごまかす様に目についた花屋に入って行った。「あぁ待てよ」と大輔も後を追いかけていく。店に入るとさっきまでの寂しい色合いはどこへやら、様々な色の花が青々と生い茂っていた。
「ここは季節感関係ないなぁ」
「そんな事はない。季節の旬という物は常に変化している」
店内を素早く飛び回るアーキテクトはそう答える。淡白な物言いでも、興味を強く持っているのが解る飛び方だった。大輔も興味ありげに店内を見回す。
「ん?随分とこの花束、作り物っぽいな。造花か?」
「データ取得済み。それはシャボンフラワー。石鹸で作られたフラワーギフト」
「へぇ、そういうのがあるんだ。本当に花が好きなんだね」
そう言う大輔に、アーキテクトは「うん」と答えた。彼女の小さな変化も見逃さない大輔だ。彼にはアーキテクトが嬉しそうに店内を飛び回っているように見えた。
「好き。言葉で伝達しなくても伝えられるから、黙っていても皆が綺麗とか可愛いとか褒めてくれるから……正直羨ましい」
「ママ見て!綺麗な妖精さんが飛んでる!」
「っ!?」
別の客である女の子の指摘にアーキテクトは驚き固まった。
「ハハハ。いるじゃないか。君を普通に褒めてくれる奴」
「ぁ……行こうマスター」
顔を真っ赤にしながらアーキテクトは出ていく。大輔もそれを追いかけた。
そしてまた日は流れて。いつもの模型店でいつものFAG達といつものマスター達。そしていつものコミュニケーション用スペース。
「完成したぞ!FAG用パワードスーツ!とりあえずテストとしてつけてみてくれ!」
大輔が完成させたボディは内部機構の露出したボディだ。構成自体は轟雷達がつけている追加のアーマーと似た様な物だったが。
「これはまた武骨な……まさにロボットって感じだぜ」
装着したアーキテクトの姿にヒカルは思わず感想を漏らした。
「M・S・Gのコンバートボディを参考に作ってみたんだ。どうかな」
装着したアーキテクトは重りの乗ったトレイを軽々と持ち上げる。動きも軽快で以前とは雲泥の差だ。
「問題ない。これなら複数人の注文でも一度に運べる」
「良かったぁ」
「マスター、お疲れ様」
そう言ってねぎらいの言葉をアーキテクトはかけた。大輔の目の下にはクマが出来ている。かなり負担になったのは見守っていたアーキテクトには理解していた。
「そう言ってくれると僕もやった甲斐があるもんだよ。と、アーキテクト、これも作ってみたんだけど……」
そう言って大輔はある物をアーキテクトに手渡す。形状はメカニカルな頭をとりつけたハンドパペット。
「これは?」
「翻訳機能をつけたハンドパペットだよ。アーキテクトの思った事を言葉にして話してくれるんだ。アーキテクトの意思疎通の手助けになってくれればいいかなと思ってさ」
「マスター、感謝する」
「アーキテクト、大丈夫なんですか?なんか怪しいとも思えますが」
と、轟雷がそう言った瞬間、その時パペットの頭部の目が光った。「あ、光った」と誰もが思ったその時、
『うるっさいなぁ。マスターの苦労も知らないで』
と、ガラの悪くなったアーキテクトの声が響いた。パペットからだ。
『眼の下のクマを見てみなよ。マスターがどれだけ夜更かしして作ったと思ってるの?』
「っ!?」
アーキテクトの表情が曇る。戸惑いの表情。その場にいた全員が見た事のない表情だった。そこまで強い感情という事だ。
「喋った、っていうかあんな表情できたんだ……」
そうスティレットが言うと再びパペットの目が輝く。
『スティレット。マスターの事好きって言ったよね。……私もマスターがだーい好き。でもさ。人間とFAGじゃ結ばれない。……ヤダよ……そんなの』
「っ!っ!」
アーキテクトは必死になってパペットを外そうと掴む。が、手に接続されておりパペットは外れない。表情がどんどん焦ってくる。
『マスター!私マスターの事愛してます!ずっと傍にいさせて下さい!結婚できないけど!赤ちゃん作れないけど!寿命は私の方が短いけど!ずぅぅーっと尽くしますから!マスター大好k
パペットが言い終わる前に『ぐしゃっ』という音を立てて、声を発していた頭部は破壊された。アーキテクトが取り付けられたサブアームでパペットの頭を握りつぶしたのだ。
「……」
彼女の全身はわなわなと震えていた。大輔には、その場にいた全員がその理由を理解していた。
「アーキテクト……ごめん……」
「……っく。うぅ」
ボタボタと大粒の涙が落ちる。アーキテクトの涙だ。ASの中で満たされたであろう恥ずかしさに嗚咽するアーキテクト。大輔も「やらかした」と判断し、謝るしか出来なかった。直後にアーキテクトの顔が大きく歪む。隠してた感情は満ちると同時にあふれ出した。
「うぅっっ!ぅえぇぇーーーーんっ!!ぅわぁぁぁぁーーーーーーーっっ!!!」
ガクッと膝をつくと、周りもはばからずに、アーキテクトは小さな子供の様に泣き出した。轟雷達にとっては、いつもの冷静な彼女とは余りにもかけ離れた姿。その場にいた全員が、彼女に声をかける事は出来なかった。
その日の集まりはそこで終わりだった。空気は台無しとなってしまい、結局その後大輔はアーキテクトを連れて帰るしかなかったからだ。帰ってきた後、大輔はアーキテクトが気になって作業が手に付かない。というか何もする気が起きない。アーキテクトの方も大輔と顔を合わせづらく、別の部屋に閉じこもったままだ。
「……駄目だ」
ベッドに寝転びながら理系関係の本を読み続ける。時間潰しだが、どうにも気晴らしにはならない。アーキテクトのつけたパペットの言った「愛してる」が耳に残る。
「……マスター」
と、部屋のドアがきぃと少し開くとアーキテクトが入ってきた。部屋は薄暗く、廊下は逆行となっている為、アーキテクトの表情は確認できない。
「アーキテクト……その……」
大輔は上半身を起こし、昼間自分がした事を謝罪しようとするが。
「マスター……マスターの製作物を壊してしまいました。ごめんなさい」
大輔の言葉を遮る様に、頭を深々と下げてアーキテクトは謝る。
「いやあれは」
「昼間のあれは、ただの間違い。ちょっとした設定ミス。忘れて……」
そう言って部屋を出ていくアーキテクトを大輔は追いかけようとベッドを降りる。
「待ってくれよ」
「来ないで!!」
アーキテクトが叫んだ。普段の冷静な様子からは想像も出来ない姿だった。
「今はマスターは大事な時期。部活の宣伝だけに集中して、私もそうするから……私、頑張る」
遠まわしに拒絶する様に言ってアーキテクトは部屋を後にした。大輔は黙ってそれを見守る事しか出来なかった。
翌日の学校にて、大輔はヒカル達にこの事を相談する。
「そりゃ災難だったとしか言えないな……」
同情する様にヒカルは言った。黄一がそれに続く。
「アーキテクト本人は?」
「一応練習には出ているけど……、正直このままでいいとは思えなくて」
このまま練習をさせるべきか、それとも取りやめるべきか。大輔は悩んでいた。アーキテクトと生活を続けてはいたが、こういった展開は今までにない。
「FAGだとしても、対応は人間と変わらないだろ。……時間を置いて話し合うしかないな」
「でもさ、文化祭まで時間が無いんだぞ。どうにか両立する方法はないもんか」
「それだけどさ。……文化祭の手伝い。やめようかと思うんだ」
大輔のその発言に「え?」と声を上げる二人。
「いやさ。結果的にアーキテクトを傷つけてしまったのは事実だ。……そんな事をしてまで宣伝をしていいとは思えなくてさ……。無理をしているんじゃないかって思うんだ」
昨日の拒絶のされ方に大輔はアーキテクトが読めなくなっていた。というか不安になったのだ。
「大輔……。お前さんいつも表情は解るのに、そういうのは解らないって感じだな」
「……その通りさ。解らない。今まではそんな事なかったのに」
「……その考えはさ。アーキテクトの気持ちをないがしろにしてない?」
大輔の言葉を遮る声が一つ、どこだと周りを見てみると、空いた窓から入ってくる人影、否FAG影が一つ。フル武装のスティレットだった。
「スティレット?どうしたんだよこんな所まで来て」
「アーキテクトが練習に身が入らなくなったと思ったら案の定よ。大輔さんに、昨日の後何があったか聞こうと来てみたらってわけ」
聞く手間が省けたわとスティレットはぼやいた。
「それだけでここまで来たのかお前」
「……いいでしょ。そういう気分なんだから」
本当はアーキテクトがマスターに対して恋愛感情を持っているのをスティレットは知っていた。だから自分と重ねてしまい、気になって来たわけだ。スティレットは大輔の視線まで飛ぶと口を開く。
「アーキテクトはね。自分に出来る事を必死にやってるのよ。あんな恥までかいて、それでも必死に自分の役割を果たそうとしてる」
「……それで、このまま続けていてもアイツの為にはならないと思って」
「それで取りやめたらそれこそアーキテクトの為にはならないわ。ましてやアイツの気持ちを理解してるって事にはなるわけない」
「それは……」
「ねぇ、これで何かアーキテクトに罪悪感みたいなのがあるんだったら、何度拒絶されてもアーキテクトと向き合ってあげてよ。だってさ……」
アーキテクトは大輔さんの事が好きだから、そう言おうとするスティレットだが、その言葉は飲み込む。言えない理由は、アーキテクトの気持ちが自分にも当てはまるだけに、本人に知られた事がどれだけ辛いか自分も理解していたからだ。
「……信頼してるんでしょ?アーキテクトの事。アイツの気持ちが解ってるって思ってるんなら、ここで向き合うってのは愛してるとか以前の問題の筈よ!」
「スティレット……」
自分のヒカルへの気持ちを肩代わりする様に、真摯にスティレットはアーキテクトの為と伝えた。だからか、大輔の気持ちにもそれは突き刺さる。
「……僕は」
アーキテクトとの信頼関係、いつだって自分に寄り添ってくれた。
「そうだね。僕は技術者だ。失敗したって何度も立ち上がってきた……それをずっと傍で見守ってくれてたのがアーキテクトだったのに……やってみるよ。僕」
ここでやめたらアイツは泣き続けるだろうし、僕もきっと後悔するだろうから……。そう少年は思い、アーキテクトの事を考えた。
そして大輔の自宅にて、今日は部活をせずに帰宅。こういう時は部員一人というのは都合がいい。調子の悪かったアーキテクトは途中で家に帰されたとの事で、大輔は家に帰る事となる。
「アーキテクト……いるか?」
フローリングの廊下でアーキテクトと行き会う大輔。
「ぁ……おかえりなさい。マスター」
まず話したのはその一言だけだ。顔色等で誰が見ても調子が悪いと言うのは解った。なんというか、昨日までは動きは控えめでも健康的な印象ではあったのだが、今日はどうにも病的な印象がある。
「アーキテクト、話がある」
「……拒否する。今は調子が悪い」
そう言ってアーキテクトは自室に入ると戸を閉める。部屋の中は簡易的な植物室。空き部屋を利用したアーキテクトの趣味の部屋だ。FAGが人間の個室を一つ使えると言うのはかなり珍しい。
「だったら僕の一方的な独り言だ。聞き流したっていいよ」
『……』
ドア越しに聞いているアーキテクトは黙る。大輔は肯定と判断。話を続ける。
「正直さ。文化祭の手伝い、やめた方がいいんじゃないかと僕は考えてる」
『っ!マスター?』
「結果的に君を傷つけてしまったからだ」
『否定する。それでは部活の宣伝が出来ない。宣伝できずに部活が存続出来る可能性は……』
どうにか考えを改めさせようとするアーキテクト。ほんの少し、彼女の声が大きくなっているのは、やはり焦りの感情だろうか。
「解んないんだよ。ここでどうするのが正解か。……今まで、君の気持ちを解ってるつもりでいたつもりでいた。……つもりだったんだ」
『マスターは……よく解ってくれてる……』
「でも君の気持ちを解っていたのはつもり、ただの予想だった」
『……』
「アーキテクト……君は、花は言葉が無くても伝えられるって言ってよね。それが羨ましいって。僕はそれじゃ嫌だ。花と違って、君の言葉が聞きたいんだ。君と話がしたい。知りたい。聞かせてくれ。アーキテクトの言葉を」
『……マスター……私……』
それからすぐに、キィと扉が少し開くとアーキテクトが出てきた。目じりに涙を浮かべながら……、
「マスター……私も……皆と出たい。……不安も本当だけど、やりたいって言ったのは本心だから……」
「アーキテクト……」
その顔を、そしてその言葉を聞いただけで安心できた。アーキテクトは差し出された大輔の掌に飛び乗る。同じ目線で向き合う二人。
「……変だよな。部活の宣伝がしたいって思っていたのに、君が傷ついた途端にその気持ちが萎えた。そして君がやりたいって言った方がやる気が出ていた」
きっと僕もお前を……。と続く言葉を大輔は飲み込んだ。越えられない壁を大輔は理解していたからだ。だから別の言葉で続ける。
「二人で、僕と君で話し合って決めよう。どう手伝うかさ。君が楽しいって思うメイド喫茶にしたいんだ」
と、大輔の頭にある事が思いつく、アーキテクトが楽しんでくれる
「仕様変更?マスター大丈夫?あまり時間はない上に元々私達の立場は手伝い」
「大丈夫だよ。君が好きな事を、ロボット部の華である君を伝えたいんだ」
そして文化祭の日がやってきた……。
「わが眠りを妨げる者は誰だー」
暗い教室の通路内でミイラ男。全身包帯ぐるぐる巻きとなったヒカルが客である子供数人ににじり寄る。
「……」
詰め寄られた子供達は意にも介さず、ヒカルのスネを蹴った。
「いってぇ!!」
「その包帯トイレットペーパーじゃん!!安っぽいのー!!」
そう言いながら小学生の悪ガキ共は逃げていく。
「くー。最近のガキはー!!」
「災難だなーヒカル」
蹴られたスネをさするヒカルにのっぺらぼうが近づく。不意打ち同然だった為ヒカルは大声で叫んだ。
「っ!!うわぁぁっ!!……って、なんだ黄一かよ。のっぺらぼう顔でいきなり来るなよー」
そう言われたのっぺらぼう。黄一はマスクをずり上げ見慣れた表情を見せた。
「その辺の客より驚いてんなお前。休憩時間だってよ」
「あーもうか。なんか食べるかなー」
「俺もそうだから付き合うよ」
そう言われたヒカルと黄一は指定衣装の上に上着を着て廊下に出ていく。暗い教室にいたわけだから、昼間の光がひどく眩しい。
「で、どうなったかな。大輔達の手伝ってるメイド喫茶」
自分達のFAGも手伝ってる、というのも気になる要因だ。二人は飲食ついでに隣のクラス。メイド喫茶に入って行った。
「お帰りなさいませぇ。ご主人様ぁ」
と、出迎えたのはメイド服と薄化粧をしたスティレットだ。満面の笑顔で出迎えるがヒカルの顔を見るや否や、何時もの顔つきに戻った。
「って何よマスター達じゃない。そっちの方は順調なわけ?」
「こっちは休憩時間だよ。何か食べようと思ってさ。な、ヒカル」
同意を求める黄一だが、ヒカルからは返事がない。スティレットの方をじっと見ていた。
「ぁ……」
「ふふん。どう?私達の魅力に見とれちゃっても知らないわよ?」
ポーズを付けながらスティレットは言う。何時もの様にヒカルとの軽いやり取りになるかとスティレットは思ったが、ヒカルの反応が無い事に違和感を覚える。
「?……マスターどうしたの?」
「……綺麗……だな」
そう一言だけ呟いた。言葉の様子からして茶化す様子は一切見られない。その反応にスティレットも意識をしてしまう。
「え……?な、何よ。褒めても何も出ないわよーだ」
「化粧したんだなお前」と黄一。
「手伝ったFAG皆がね。女子生徒の人達がノリノリでやってくれたわ。マスターもノックアウトなんて自信ついちゃうわ」
「で、大輔とアーキテクトは?」
「あそこよ」とスティレットが指をさす。メイド服を着用し、キラービークを装備したアーキテクトが教室内を飛び回る。
「あれ?前に見せたロボットパーツを装備してないぞアイツ」
「宣伝用のロボットパーツは外したよ」
聞き慣れた声、声のした方を向くと……。見慣れない少年がいた。メイド喫茶に合わせてか。ウェイター衣装を着ている。くせ毛だがツリ目でもの凄い美男子だ。
「……どちらさん?」
全員思い当たる顔がない。代表しての黄一の発言。
「がくっ!いや僕だよ僕!」
ずっこける動作をして、少年は取り出した眼鏡をかける。見慣れた顔、大輔がいた。
「っ?!大輔!?お前あれが素顔なのか!?」
ホストかアイドルの様だった。世の中不公平だと思いながら黄一は問いかける。
「アーキテクトがこういう時位コンタクトにしろって言ってさ。二人で話し合って決めたんだ」
「仲直りは出来たみたいだな。と、ロボットよかったのか?宣伝に使うって言ってたのに」とヒカル。
「代わりにいくつかメニューに追加してもらったよ。アイツの得意なメニューをさ」
「ご注文のカモミールティー、お待たせしました」
アーキテクトが運んだのはハーブティーだ。「効能はストレス、貧血、冷え性、キク科アレルギーはありませんね?」と説明を続ける。
「ハーブティーか?」
「あいつ、お茶やハーブティーが好きだからさ。それを伝えようって二人で話し合って、クラスの皆と相談したんだ。さっき言ったように眼鏡を外す指摘もアーキテクトがね」
「お茶を追加したのか」
「それだけじゃない。周りを見てみな」
周りを見ると教室内の各所に花が置かれてる。アーキテクトが育てた物だ。『ロボット部進呈』という札が全ての鉢についていた。
「へぇ。アーキテクトの育てた奴か。でもあれってロボット部の宣伝になるのか?」
「黄一君、ヒカル君が言ったろ。肩ひじ張らずにやるのが部活だってさ。それに見てみなよ。アーキテクトのあの表情」
説明を終えて「ごゆっくりどうぞ」と頭を下げ、アーキテクトは調理場の方に戻る。すぐにまた紅茶の入ったトレイを受け取ると飛んで行った。表情は相変わらずだが、挙動からしてなんだか楽しそうだった。
「新入部員も欲しいけどさ、あいつの笑顔がないとやっぱり寂しいから。あいつもロボット部の正式な仲間なんだから」
「いや笑顔って……やっぱり解んないって……」
とヒカルがツッコミを入れる中、親子連れの客に紅茶を運ぶアーキテクト。幼稚園児らしき子供がアーキテクトに興味を持ったようだ。
「店員さん可愛い、ケッコンして」
子供の客がプロポーズをかけた。最も意味は解ってないのは言った本人の様子からしてだが、
「ごめんなさい出来ません。だって私」
アーキテクトは大輔の真横に移動すると大輔の腕を掴み、体重を預ける様に体を傾けた。
「マスターの物ですから」
その瞬間にクラス内がざわっ……とざわついた。
「ア、アーキテクト?お前……」
「表情を変えるのは苦手だから、ボディランゲージを多用する様に決めた。マスターにしかするつもりはない」
戸惑いながら問いかけるヒカルにアーキテクトは淡々と答える。
「表面的な笑顔がなくても、アーキテクトはアーキテクトさ。二人で決めた事だからね」と照れ笑いをする大輔。
「そう、マスターも眼鏡が無くても変わらない。そして外すとこんなに格好いい」
抑揚は無いが、自慢するような口調で言うアーキテクト。
「……いいなぁ」
それを若干羨ましそうに見てるスティレット。と、テーブルの上に立っている彼女に誰かがぶつかる。
「わっ!?」
後ろから誰かが肩をぶつけてきた。自分と同じサイズという事はFAGかと相手を見る。そのまま相手はお構いなしに歩いていく。スティレットが見た背中は、白いボディと膨らんだ肩アーマー、そして赤いツインテール。FAG『白虎』型だ。
「ちょっと!!ぶつかっておいてノーコメント?!」
「……」
武装を付けてない素体の白虎は振り向いた。スティレットを睨み、そして値踏みする様に見る。と、白虎は再び振り向くとテーブルから降りて行った。
「ちょっと!待ちなさい!」
スティレットが追いかけようとするが、轟雷達がスティレットの所に飛んでくる。全員がキラービークを装備していた。
「スティレット。まだ休憩時間ではありませんよ。サボらないでください」
「あ、皆、なんかさっき白虎型に絡まれたのよ」
さっきのテーブルの下を覗きこむが、もう白虎はいなかった。
「白虎型ですか?誰かのFAGでしょうか?」
「あー皆ー!こんな所にいたんだー!」
と、そんな時にエアバイクに跨ったスク水のFAGが一人、そしてマスターも一人、フレズヴェルクとそのマスター、華山健(タケル)だ。
「フレズ!健さんも!」
「呼んでくれてありがとうございます」
「文化祭って楽しいね。こんなお祭り初めてだよー」
「健君の身体の方は大丈夫かい?」と黄一。健は病弱なので入院生活になりがちだった。
「最近は調子いいから暫くは実家の方で暮らせますよ。また皆で直接遊べますね」と儚げな少女のような雰囲気の少年は嬉しそうに答えた。
「そいつはめでたいな。と、俺達の出し物はお化け屋敷だけどもう入ってみたかい?」と黄一。
「えぇもう。驚きましたよ。子供だましかと思ったら最後にあんな仕掛けがあったなんて」
感心する様に言う健、しかし黄一とヒカルには心当たりがない。
「ん?出口付近?」
「あったっけ?そんなところに仕掛け」
「とぼけないで下さいよー。誰かが足を掴んで『行かないでぇ……』って言うんですもん。で、見たら誰もいない。どうやったんですか?あの仕掛け」
と、それを聞いた瞬間。黄一とヒカルの二人は固まる。
「……足を掴む?……知らないぞそんな仕掛け」
「確か……いや、なかった筈、あ、もしかしてまたFAGの仕込みじゃないのか?!去年の肩を掴む仕掛けと似た手口じゃないか!な!大輔!」
焦りながら大輔に問い詰める黄一。ビビってるのは丸解りだった。しかし大輔の方はキョトンとしながら答えた。
「?肩を掴む?なんだいそれ?」
アーキテクトも大輔に続く。
「大体去年はロボット部はお化け屋敷に参加していない。そもそも、お化け屋敷において、体に触れる仕掛けはタブー」
「……じゃあ、今のって……」
青ざめる黄一。その後ろで子供達の悲鳴が響いて教室を飛び出す子供が数人。さっきヒカルのスネを蹴った子供達だった。
「なんだよ!あの仕掛け!冷やかしでまた入ったら足掴んできやがって!!」
「舐めてたよ俺!超怖かった!」
「……」と様子を眺めてる黄一の顔は青ざめて冷や汗でダラダラだった。……その後黄一が休憩時間が終わってもお化け屋敷に復帰せずにゴネまくったのは言うまでもない。
「ヤダヤダヤダヤダヤダ!!!!俺出るのヤダァァッッッッ!!!!!!!」
同時に、この年以降お化け屋敷は禁止されたのも言うまでもない……。
もっと短く済むと思って書いてたら大間違いでした。今回はバトル、回想、エロ禁止として書いてみました。長ったらしくなってしまったので今度はもっと短めで済むように頑張ります。
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ep10『大輔と量産型アーキテクト』(後編)