ローラは枕営業の意味を聞かされて急に顔が青ざめました。
「それは…ルークに知られたら怒られそうだなぁ」
「今からでも遅くないから断るんだ」
「私、一度ちゃんとした仕事をしてみたくて」
「パン屋の方がちゃんとした仕事だと思うぞ」
「ルークもそう言うんだろなぁ」
「家に帰ったらこの件についてルークに必ず相談しなさい」
「ルークに相談したら絶対ダメって言うに決まってるもん」
「ダメだと言われるのがわかっていてなぜ断らなかった?」
「パン屋さんだと、どんなに頑張っても月八万とかなんだよ?」
「それで十分だろう?金にこだわるのは良くない」
「死んだお父さんもそう言ってたけど、お金がなかったら誰も救えないじゃない?」
「マルヴェールに行けば金がなくても最低限の生活が出来るはずだ。生活が苦しいならアラヴェスタにこだわらなくても良いだろう?」
「それも補助金のおかげでしょ?お義父さんがアラヴェスタで稼いでるからマルヴェールの財政難は救われたけど、お義父さんもマルヴェールに来てしまったら、どこからお金が出てくるの」
「マルヴェールは元々、アラヴェスタとは隔離されていて自給自足が成り立っていたのに、最低限の暮らしで満足出来ずに文句を言う者が多いんだ」
「お父さんも言ってた。一度でも贅沢な暮らしをすると、貧しい暮らしに耐えられなくなるから、貧しい者は僅かなパンで感謝するのに、それが毎日当たり前になると、もっと良い暮らしがしたいって思うって」
「ああマルヴェールにはスラム街の出身の者も多いが、スラム街にいた頃は満足に食事も摂れなかったはずなのに、満足に食事が摂れるようになれば、不満をこぼすようになるんだ」
「どっちが幸せなんだろう?アラヴェスタのスラム街で暮らすのと、マルヴェールで暮らすのは」
「マルヴェールに決まっている。スラム街では女は外を一人で歩いてるだけで危険だからな」
…つづく
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一応、新シリーズだけど本編の第3部・第329話。