No.983928

ムシウタbug バレンタインネタ

ネメシスさん

パソコンあさっていたら、昔書いて某所に投稿していた物を見つけたので、丁度いいと思い少し手直しを加えて投稿し直すことにしました。

2019-02-14 00:30:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:743   閲覧ユーザー数:742

 

 

明日は2月14日。

その日は乙女の誰もが待ちこがれていたバレンタインデー、異性の相手に自分の想いを込めたチョコをプレゼントする特別な日だ。

かくいう一之黒亜梨子も、ある相手に手作りのチョコをプレゼントするために調理場に向かっていた。

 

「まったく、わざわざイベントに合わせてチョコを買うなんて。これじゃあ、お菓子会社の思惑通りじゃないかしら?」

 

そんな愚痴をこぼしているうちに調理場に到着する。

中に入ろうとすると、ドアの隙間から明かりが漏れ出ているのに気付いた。

どうやら先客がいるらしい。

 

「……おかしいわねぇ。給仕の人たちは、もう上がっている時間のはずなんだけど」

 

不信に思いそっと中を確認してみると、そこにいたのはとある任務で一之黒家に居候している男、薬屋大助だった。

 

「大助? こんな時間に調理場で何してんのよ」

 

大助は片付けをしているらしき手を止め、亜梨子のほうを向いた。

 

「亜梨子か。あー……チョコ、作ってたんだよ。明日はバレンタインらしいからな」

 

「……は? ちょ、チョコ? 大助、あんたバレンタインがどんなイベントか知ってる?」

 

呆気にとられながらも尋ねると、大助は重たいため息をもらす。

 

「あのなぁ、いくら俺だってそれくらい知ってるさ。女が男にチョコをプレゼントする、あれだろ?」

 

「知ってるんなら、何で男の大助がチョコなんて作ってんのよ。あっ! もしかして、誰にももらえないと思って、自分で作ってるわけ?」

 

そう言われると、どこかうんざりしたような顔をしてさっきよりもさらに重いため息をする。

 

「なんでそんな悲しいこと、しなきゃならないんだよ。ったく、霞王のやつが『明日はバレンタインでチョコを貰えるんでショウ? 俺様にチョコを作ってプレゼントしやがれデス』って言いやがってな」

 

「霞王も霞王で間違ってる気がするけど……。でも、いくら霞王が言ったからって、あんたなら断ることぐらい難しくないでしょ?」

 

そう言うと大助は再三の重いため息をする。

 

「もし作ってこなかったら、学校で使ってるあの変な口調で俺にベタついてくるって言いやがったんだ」

 

(……あぁ、それはちょっといやかも)

 

霞王の普段学校で使っている変な丁寧口調を思いだし、少なからず大助に同情してしまった。

霞王も大人しくしていれば美人なのだが、本来の性格はかなりアレだ。

本性を知らない他の男子なら喜ぶかもしれないが、それを知っている大助達にしてみれば気味が悪いとしか思えなかった。

 

「え、えぇと、大助……その、ご愁傷様。あ、でも、あんまり気を落とさないで! チョコあげるだけで済むんなら、安いもんじゃない!」

 

そういい台の上を見ると大きなハート型のチョコが三個、それよりも若干小さめのサイズのチョコが三個あった。

大きなチョコ三個にはDearアンネ、普通のチョコにはDear九条、Dear西園寺、Dear千莉とそれぞれ書かれていた。

皆の分を作っているとは、なんというか律儀というか……そんなことを思っていたら、最後の一つに自分の知らない名前が書かれているのに気が付いた。

 

「……ねぇ、大助。この千莉って誰? 私、知らないんだけと」

 

その声のトーンが少し落ちていることに大助は気づいていない。

言った本人でさえ気づいていなかっただろう。

 

「あん? あぁ、千莉は……まぁ、俺の知り合いってところだ」

 

「ふ~ん」

 

亜梨子の目が少し細くなった。

 

「それより、お前はどうしたんだよ。チョコでも作りにきたのか?」

 

「ぅえ? ……う、うん、まぁね!」

 

「そうか。俺は終わったからもう寝るけど、あんまり遅くなると明日起きれなくなるから、お前も早く終わらせろよ」

 

「いつも私より遅れて起きてるあんたには、言われたくないわよ!」

 

「はいはい、すんませんでしたねー」

 

そう軽口を言うと、大助はチョコを冷蔵庫にしまい調理場を出て行った。

 

「まったく……て言うか、恵那や多賀子にはあげるのに、私にはくれないつもりなの?」

 

あのチョコの中に自分の名前がなかったことを思い出し、少々不機嫌になりながらも自分の作業に取りかかった。

結局、完成したのは一時近くだった。

 

 

 

 

次の日の放課後、大助は恵那、多賀子、霞王にチョコを渡していた。

恵那なんか大助にチョコを貰えたのがよほど嬉しかったらしく、大助に抱きついて……

 

「ありがとう! ホワイトデーには、私をプレゼントしてあげるからね!」

 

などと言っていた。

 

「や、やだなぁ、九条さん。日本語、間違えてるよ? 『私を』じゃなくて『私も』でしょう?」

 

そのこと引きつった笑みを浮かべつつ、大助は恵那の体を離してそっと距離を取る。

ちなみに大助も恵那と多賀子から貰っているらしく

 

「俺もホワイトデーにお返しするね」

 

と、作り笑顔で返答していた。

一方、霞王はというと、自分は作って貰いながら大助にはチョコを作ってきていなかったようだ。

 

(霞王、やっぱり食べるの専門なんだ)

 

きっと、ホワイトデーにお返しをする気もないのだろうなと、亜梨子は密かに思った。

大助は配り終えると亜梨子の監視を霞王に任せてどこかへ行ってしまった。

どこへ行ったのか霞王に聞くと

 

「さぁな、俺様の知った事じゃねぇよ。っていうか、私が食べているところを邪魔しないでくだサイ。ぶっ殺しますデスヨ」

 

と、不気味な笑顔で返され、仕方なく亜梨子は一人で家に帰ることにした。

ちなみに亜梨子はまだチョコを相手に渡せていない。

流石に人前でチョコを渡すのは少し恥ずかしかったから、一人になった隙を見て渡そうと考えていたのだ。

……結局、大助は一人になることがなかったわけだが。

そんなこんなで放課後になって、やっと大助が一人になり帰るそぶりを見せて(今だ!)と近づいても

 

「悪いけど、今日はこれから用事があるから」

 

と言って早足で去ってしまった。

 

「まったく、何なのよあいつは!? 人がせっかく徹夜までして作ってやったっていうのに!

早く帰ってきなさいよね!」

 

夕食を食べて自室でくつろぎつつ、亜梨子はまだ帰ってこない大助に向かって愚痴をこぼしていた。

大助がこの家に来てから一年ほどたった。

亜梨子達は三年になり、クラスのメンバーがほとんど変わらず四人ともまた同じクラスになった。

いつの間にか四人でいるのが当たり前になっていて、毎日が当たり前のように過ぎていき、それでも一日一日がとても充実していた。

普通に笑って、普通に話して、普通に一日が終わっていく。

そんな日々がこれからもずっと続けばいいと心から思っている。

 

(……でも、大助は私の監視としてこの町に来たんだっけ。その任務が終わったら、やっぱりどっかに行っちゃうんだろうなぁ)

 

そんなことを考えていると肩にポンと手が乗せられた。

振り返ってみると、そこには大助が訝し気にこちらを見ながら立っていた。

 

「どうしたんだよ? さっきから何度も呼んでるって言うのに、返事もしないで」

 

「あ、だ、大助!? ご、ごめん! ちょっとボーっとしてたみたい」

 

考え事をしていて、大助に呼ばれていたことに気づけなかったらしい。

 

「そ、それより、どうしたのよこんな時間まで」

 

「いや、今日は用事があるって放課後に言っただろ?」

 

「そりゃ言ったけど、流石に遅すぎじゃないの? ……って、フーン、そっか。用事って、昨日作ったチョコをプレゼントしてきたのかしら? たしか千莉ちゃんだっけ?」

 

「……まぁ、そんなところだ」

 

大助のそっけない言葉にちょっとだけムッとした。

 

「それだけで、こんなに時間がかかるとは思えないんだけど? 今、何時か分かってる?

もうすぐ12時よ? まったく、本当は何してたんだか」

 

「……はぁ。ほらよ」

 

亜梨子の小言に付き合っていたら疲れると思ったのか、そこまで言ったところで大助が頭の上に何かを乗せてきた。

 

「え? あっ、とと!」

 

滑り落ちそうになるのを慌てて手に取ってみると、それはラッピングされた箱だった。

 

「な、何よこれ」

 

「何って、チョコだけど。昨日は霞王のチョコを作るのに、材料を使い切っちまったからな。千莉のところに行った時に材料買って、あっちで作ってきたんだよ」

 

(……え? じゃ、じゃあ、私のチョコ作るためにこんなに遅くなったの?)

 

「ん? どうしたんだよ、固まって。いらないなら返せよ、自分で食うから」

 

「い、いらないなんて言ってないじゃない! そ、その……アリガト」

 

最後の方が小さくなってしまい大助に聞こえたかどうか分からなかったが、どうやら聞こえていたらしい。

大助は薄く微笑み、部屋を出ようとした。

 

「あ、大助! ちょっと待ちなさい!」

 

「……はぁ、なんだよ。流石に俺も疲れし、もう休みたいんだけど」

 

そう言って振り返った大助に、亜梨子は机に置いていた箱を取って押し付けた。

 

「ん? 何だよこれ」

 

「チョコよ。バレンタインの。べ、別にいらないんなら貰わなくても、いい、けど……」

 

少し緊張してしまい、また最後の方が小さく聞こえ難くなってしまった。

しかし大助はそんなこと気にした様子はなく、手に持つチョコの箱をしげしげと見ている。

どんな反応をするのか、亜梨子は少し気になり遠慮がちに大助を見つめていた。

 

「フーン……まぁ、貰っとくよ。……味は期待してないけどな」

 

「な!? それどういう意味よ!!」

 

「おぉ、怖い怖い。そんじゃ、俺は退散するよっと」

 

拳を振り上げると、大助はサッと素早い動きで部屋を出て行ってしまった。

「あ! ……まったく、素直に喜べばいいのに。可愛くない奴!」

 

だけどそれも大助らしい、そう思った亜梨子はフッと微笑む。

ふと時計を見てみると、丁度12時をまわったところだった。

バレンタインという普段とはちょっと違った日だけど、今日もまた普通に一日が過ぎていった。

相も変わらないそんな普通な日々だけど、これから先もそんな日がずっと続いていけばいいと、亜梨子は心からそう思った。

 

 

 

 


 
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