イノンドがテントを丸めて大きな荷物を背負うと、セルフィーユの街を跡にしました。メリッサが死んだ事がバレると、追われるかもしれないからです。
「ああ、またあの長い長い道のりを帰らなきゃならないのか…」
「馬があれば速いのですけど、十万を超える買い物をする際には身分証の提示が義務付けられていますし、盗んだ馬では足が付きますから、我々には難しいですね」
「俺がメリッサを殺したって国王が気付けば、俺の名前も手配書に載っちまうよな」
「セルフィーユ王子は私が見た感じではテンプテーションにかかっていないようでしたが…」
「俺には国王がメリッサと仲良くしていたように見えたけど?」
「国王ではなく王子の方ですよ。国王はテンプテーションにかかっていましたが、それ以前は名君と呼ばれておりました。ですからテンプテーションが解ければ、ジンジャー殿を指名手配にする事はないかと推測します」
「なるほど…。イノンドがそう言うなら安心だな」
「それに王子は私が見る限り、名君になれる予感がするのです」
「お前の恋人を奪った恋敵だろう?」
「ええ、でも姫さまには指一本触れていないようでした。自分に惚れるまでは手は出さないと申しておられましたので…」
「ふーん、なんで恋敵を庇うのか俺にはよくわからんが…。ぶっちゃけ俺はクレスが大嫌いだったし、悪口ばかり言っちまってたなぁ」
「あのお方なら姫さまは幸せになれるだろうと思い、姫さまへの想いは断ち切ると決めたのです」
「俺が見る限り、ユーカリ姫はお前にしか興味はなさそうだったぞ?」
「ええ、だから私は解雇にされて良かったと思いました。もし姫さまに…私が手を出すような真似をしてしまったら、取り返しのつかない事になります」
「お互いに好き同士なのに付き合えねぇってのも辛いもんだな」
「私は姫さまが幸せになられたら、それで本望なのです。私のものにしたいなどと考えてはおりません。むしろ私のものになるわけがないと思っていたので、結婚前夜に姫さまに好きだと言われた時は…」
「お前は一番惚れた女を他の男に渡す為に護衛をしてたのか?俺なら連れ去って掛け落ちするがな…」
「私もそうしようとしましたが、姫さまには先見の明があるので、予知夢を見たそうです。私と逃げれば私が殺されると言う悪夢を…」
…つづく
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処女作の復刻版、第45話です。オオカミ姫とは無関係のオリジナル小説ですが、これを掲載する前に書いていた、オオカミ姫の二次創作とかなり設定が酷似しています。