少し時間を巻き戻して、ナターシャは飛び降りた下の花壇の植え込みがクッションになって、一命を取り留めていました。
「ううっ…、めちゃくちゃ痛い…。でも死んでないみたい…。もう嫌だ…。早く死にたい…」
しばらくは激痛に悶えていましたが、徐々に痛みが消えて行きます。頭がフワフワして幸せな気分になってきました。
「ああ…、痛くなくなって来た…。そろそろ私…死ぬのかな…。早く死んで…おじさんに…会いたいよ…」
ところが思っていたよりずっと、人間の体は丈夫なので、なかなか死ねません。
「だんだん…暗くなってきた…。寒い…。ちゃんと…天国に行けるかな…。私…ずっと良い子にしてたから…行けるよね…。早く…行きたいな…」
目の前が真っ暗になって来ました。冥界の門の前にいる気難しそうな顔をした偏屈屋のメタトロンがナタに話しかけて来ます。
「お主の命の炎はまだ消えておらんよ?さっさと帰りなさい!」
「嫌だ!帰りたくない。勇者のおじさんに会わせてよ」
「勇者だと?最近、死んだ勇者と言えば…十年前の勇者ゲイザーの事かな」
「そうよ!おじさんは天国にいるんでしょ?」
「確かまだ成仏しておらんかったな。勇者は天界で幹部になる権利もあるから、どうするかまだ悩んでおるようだったぞ」
「そうなんだ?て言う事はお爺ちゃんも勇者だったのねー」
「ははは!面白い事を言う子供だな」
「だってお爺ちゃんものすごいオーラ持ってるから勇者の可能性高いしー」
「そうだな、わしも勇者だった。死んだ後にこうして天界で幹部になっておるからな。それを見抜けたお主はただ者ではない」
「やっぱり?勇者はオーラが普通の人と全然違うもん」
「うむ、勇者とは普通の者には出来ぬ思考を持ち、普通の者には出来ぬ事を成し遂げ、生前は変わり者だなんだと蔑まれても、己の為ではなく世界平和の為に尽くせる者の事を言う。その功績を讃え、人間でありながらセラフィムと同等の地位を与えられるのだ」
「それって出来る人がほとんどいないんだよねー。確率は五億人に一人か二人くらいかな?」
「まあそんなものだろう。現在人類は八十億と言われているが、勇者の素質を持った者は十数名しか見つかっておらんからな」
「うん、だからおじさんを見つけた時は超ラッキー!って思ったの。勇者の波動を持つ者なんて滅多にいないから…」
「それがわかるのもお主がただ者ではないからだよ?普通の者には勇者がただの愚か者に見えて笑い者にするからな」
…つづく
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本編のパラレルワールドをシナリオにしてみました。ストーリー第125話。