ゲイザーは冷めかけた紅茶を飲みながら話を続けます。
「手紙にはどんな事が書かれていたんです?」
「私はナターシャ様を愛してなどいない、勘違いするな、と言うような内容でした」
「うーん、思い込みの激しいファンのようですね」
「私はいつも考えが浅はかでした。密偵に浮気を報告されればリリスはアダムと別れることになる。そして私がリリスを妻にすれば良いなどと腹黒いことを考えていたが、まさかリリスが足を切断されて地獄に捨てられるなんて、思いもしなかったのです…」
「しかしアーク殿は足を失った妻の介護をしたのでしょう?献身的だと思いますよ」
「私の留守中に妻が男たちに暴行されたこともあったのです。妻は泣きじゃくって私とはもう別れると言いましたが、私は別れたくないと言って妻を説得しました」
「そ、それは!さぞお辛かったでしょうね…。フラウが同じ目に遭ったら私の帰宅後、舌を噛んで死んでいるかもしれない…」
「私は男たちを見つけ出して叩きのめしましたが、天界からの指示でやったと知らされて、天界を潰そうと思い戦争を仕掛けたのです」
「私がその時のアーク殿だったとしても同じことをしたかもしれません…」
「戦争は最初は上手く行っていました。しかしなぜか私が悪の道に進んだのはリリスが唆したからだと言う噂を流されて、リリスは魅了の術で私を誑かしていると言うことにされました」
「都合の悪いことは全て捻じ曲げてデタラメを吹聴されますからね…」
「私がリリスを愛すれば愛するほど、リリスは酷い仕打ちを受けました。男たちから暴行されたのも私の責任だったと、今は思っています」
「アーク殿もあまりご自分を責めない方がよろしいですよ?悪いのは男たちをけしかけた者たちです」
「今だってそうです。私がナターシャ様を愛するとロクな事が起こりません。私は恋心を凍らせて、ただ見守る事に決めたのです」
「別にアーク殿がナターシャを愛する事で不幸になることはないと思うのですが…」
「私は転生する前にミカエル様にお願いしたんです。今度、生まれ変わったらリリスよりも低い地位にして欲しい。そしてリリスの下で働きたい、と…」
「高い地位に就いている者にも悩みはあるのですね…」
「今の私は転生前に私が望んだ姿なのです。ナターシャ様の使い魔として働いている。それなのに私はまた二千年前と同じ過ちを犯そうとしています…」
「私はアーク殿ならばナターシャを幸せに出来ると信じているのです」
「二千年前にもアダムから同じ事を言われましたが、私はリリスを不幸にしてしまった。私にはもうナターシャ様を愛する資格などないのです」
…つづく
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書き残してしまったことを書きたくて考えた本編の続き第35話です。