それは、8月6日のある日のこと。
「ん~、おはよ~」
ベッドから起き上がり、腕を伸ばすミロ。
箪笥の中からいつもの服に着替え、アデルに挨拶しに行こうとした。
しかし、ミロが扉を開けると、そこは――
「……何よ、これ」
いつもの通路ではなく、ダンジョンだった。
時は数時間前に遡る。
「確か、今日はミロさんの誕生日でしたよね」
「それがどうしたんだい?」
ユミルが、楽しそうな様子でアデルに話しかける。
「ちょっと、ミロさんにサプライズプレゼントをしたいと思いまして」
「いいねぇ。魔法で迷宮を作って、そこにミロを誘い込もうか」
「……」
ミロは、ユミルとアデルが話し合っていたのをこっそり見つめていた。
二人にばれないように、特殊能力で姿を消しながら。
「じゃあ、もう少ししたら仕掛けを作りましょうか」
(やっぱり、ユミルとアデルの仕業だったのね……)
ミロはこのダンジョンを脱出するために、辺りを見渡し、通れる場所がないか探していた。
(あら?)
部屋の中央に、ぽつんと宝箱が1つ置かれていた。
「宝箱じゃない。何が入ってるのかしら」
ミロが宝箱を開けようとすると、鍵がかかっていて開かなかった。
「う~ん、やっぱり開かないわね。とりあえず、無理やりこじ開けて……っと」
そう言って、ミロは宝箱を怪力でこじ開けた。
すると、中からマジカルハニーが出てきた。
「なんだ、マジカルハニーか。無いよりはマシよね」
ミロはマジックアンプルを鞄の中に入れた後、左の部屋へと歩いていった。
すると、そこにも宝箱が置いてあり、先ほどよりも危険そうな感じだった。
「さっきのは何とかこじ開けたから大丈夫だったけど、今度は慎重に行かないとダメかもね」
ミロは慎重に、罠がないかを調べてみた。
すると、やはり彼女の予想通り、毒針の罠が仕掛けてあった。
「罠の解除は苦手だけど……」
ミロは、罠の解除は得意ではないらしく、宝箱の罠に手間取っていた。
それでも何とか罠の解除に成功、ミロはヒールハニーを手に入れた。
「一体どんな迷宮なのかしら」
ミロが上に真っ直ぐ進むと、部屋の中央の床に1本の長剣が刺さっている。
「あ、剣! ちょっと抜こうかしら」
ミロがその長剣を抜くと、いきなり長剣が空中に浮いて襲い掛かった。
「きゃあ! 何よ、何すんのよ!」
ミロが空飛ぶ長剣の攻撃をかわしながら爪で攻撃していく。
何度も攻撃を食らったのか、空飛ぶ長剣は地に落ちた。
「……何だったのかしら」
何故長剣が襲ってきたのか分からないまま、ミロは床を見つめる。
すると、ミロがいた場所に階段が現れた。
「ん、エリアクリアみたいね。次に行きましょう」
「おいおい、そこのお嬢ちゃん」
ミロが2階に上がると、彼女の後ろから盗賊が声をかけてきた。
「何よ。あたしはあなたに興味なんかないの」
「そんな固い事言うなよ、ちょっと俺達と良い事をするだ……」
「するわけないでしょ!」
怒ったミロは回し蹴りで盗賊を気絶させた。
「ったく、早いところこの迷宮を出たいわ」
ミロは次の部屋に向かった。
そこは壁が全て鏡となっていて、距離感覚が麻痺してしまう。
ミロは神経を集中し、壁に当たらないように進む。
「ん、ここは壁じゃなくて……鏡? あぁ、もう、分からないじゃない。ぶつからないように……っと」
ミロはぶつかりそうになりながらも、何とか気合で鏡の部屋を乗り切った。
しかし、彼女が次に入った部屋は暗く、しかも水浸しの部屋だった。
その部屋の中で、手足が生えた魚、ケーブサハギンが待ち構えていた。
「先に通してはくれなさそうね。よし、いくわよ!」
ミロは手から気功を放ってケーブサハギンに先制攻撃した。
その後に飛び蹴りでケーブサハギンを倒した後、
次のケーブサハギンにターゲットを移し風を纏ったパンチで攻撃した。
ケーブサハギンは槍を持ってミロに襲い掛かって来たがミロは攻撃をかわして蹴りを叩き込む。
「とりあえず全力は出すわよ! サイクロン!」
ミロが両腕を振り上げると、大きな竜巻が起こる。
竜巻に巻き込まれたケーブサハギンは大きく吹っ飛ばされ、竜巻が消えると全員戦闘不能になった。
「んー、これくらい爽快なのは久しぶりね。
争いの世界じゃ力が制限されてたり、吸血衝動とかあったりで大変だったんだから」
ミロは、アルカディアの中でトップクラスの力を持っている人物の一人である。
しかし、吸血衝動など諸々の理由で、全力を出す事はできなかったのだ。
だが、この迷宮の中では、自分の力が全力で発揮できる――ミロはそう感じていた。
「さあ、次はどんな敵が待ってるのかしら?」
ケーブサハギンが全滅したため、部屋に大きな扉が現れた。
この扉を開ければ、次のエリアに進む事ができる。
ミロが、現れた大きな扉を開けると――
「「お誕生日、おめでとう(ございます)!!」」
「……は」
ユミルとアーデルハイドがミロを出迎えてくれた。
ミロがきょとんとしていると、ユミルが彼女のところにやってくる。
「ミロさん、今日は誕生日ですよね?」
「そ、そうだけど」
「最近はいまいち活躍してなかったから」
「私達で迷宮を作ったんだよ」
今日、8月6日はミロの誕生日である。
彼女を活躍させるために、ユミルとアーデルハイドが迷宮を作ったのが真相であった。
「ユミルー! あなた、あたしのためにこんなのを作ったの!? 嬉しいわー!」
ミロがぎゅっとユミルを抱きしめ、ユミルの顔が真っ赤になる。
「わ、やめてくださいよミロさん」
「だって、こんなに動けたのは久しぶりだもの! 流石はあたしの下僕、ユミルよ!」
「ミ、ミロさん……うっぷ、でも、まぁ、これもいいかも?」
「さ、あたしの誕生日、存分に祝いましょう!」
こうして、ミロの誕生日パーティーは、明日の朝になるまで続いたという。
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ミロの誕生日記念小説です。