ユリアーノとミネルヴァは三十年前の事を思い出していました。三十年のブランクなど、あっという間に埋まります。
「あの頃と変わらず美しいままで驚いたぞ?」
「そんなお世辞はやめてください。年老いてあの頃とは見る影もないのはわかっております」
「いやいや、とてもわしと同じ五十には見えんよ?まだ三十五ほどに見える…」
「ユリアーノ様のお顔もよく見せてください」
ユリアーノはフードを取りました。獣人の尖った耳が現れます。バーのマスターは気にも留めず、ワイングラスを布巾で拭いています。
「驚いたか?わしは獣人と血の契約を交わして寝返っておったのじゃ」
「驚きました。昔と変わらず、いえ、昔よりも素敵なお姿になっておられて…」
「お世辞はやめてくだされ。わしも年老いて見る影もないのはわかっておるんじゃ」
「いいえ、私はお世辞など言いません。私が嘘をついたのは…、生涯で一度きりですから…」
「ミネルヴァは嘘のつけん娘だと思っておったんじゃがな」
「はい、私は嘘をつくのが嫌いでした。ただ一度だけ、嘘をついてしまったのです」
「それはどんな嘘をついたんじゃ?」
「国王陛下を愛していると…。そう言わなければ首をはねられると思ったからです」
「あれは本心ではないのはわかっておったよ」
「ユリアーノ様の首をはねられたら、私は生きる気力を失って、身を投げていたかもしれません」
「わしを救う為に国王陛下を説得してくれたのは気付いていたよ。優しい娘じゃと思っておった」
「獣人討伐隊で行方不明になられた時も、必ずどこかで生きておられると信じておりました。五年前に現れた時は嬉しくて胸が熱くなりました」
「優勝賞金が銀行に振り込まれていたから不思議じゃった」
「私が振り込んでおきました。銀行口座の書類は破棄しておきましたので、誰も気付いておりません」
「まさかミネルヴァが横領の罪を働いておったとは…」
「横領をしたのはあれが最初で最後でございます」
「ともあれ助かった。子育てには金がかかるのでな…」
「お子様がおられたのですね…。奥様はお綺麗な方でしょうね」
「いやいや、わしは未婚じゃよ?」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第130話です。