ゲイザーはミネルヴァが一人で掃除をしているところに背後から近づいて、口を手で押さえて物陰に引きずり込みました。
「手荒な真似をして申し訳ありません。話がしたいので、騒がないでいただけますか?」
ミネルヴァが震えながらコクリと頷いたので、ゲイザーは手をミネルヴァの口から退けます。
「実はある人からあなたの話を聞いて、あなたとその人を会わせたいのです。その事を伝えたくて、このような非礼を働いた事はお詫びします」
「ある人とは誰ですか?私は成人してから王宮を出た事がありませんので、王宮の外の人とは知り合えません」
「この店に行ってください。俺の行きつけのバー『ソレイユ・ルナ』と言う店まで行く地図です。そこに今夜、その人が現れると思います」
ゲイザーはアラヴェスタ城からバーまでの地図を書いたメモを、ミネルヴァに手渡しました。
「一体、誰なんです?こんな私にわざわざ逢いたいだなんて…」
「逢えばわかりますよ?ミネルヴァさんもきっと覚えておられるはずです」
ミネルヴァは何食わぬ顔で仕事に戻りました。ゲイザーは控え室に戻るとピーターの首に手紙を括り付けます。
「ピーター、大至急この手紙をナターシャに届けてくれ?」
ピーターはコクリと頷くと、猛スピードで走り出しました。城の前には寝袋を並べてファンたちがキャンプをしています。
「あっ、ピーターだ!」
ナタはピーターの首に括り付けてある手紙を読みました。物陰に移動してユリアーノを召喚します。ユリアーノはまだ人間の姿をしていました。
「お師匠様、これ読んでー」
「ん?何々、この『ソレイユ・ルナ』と言うバーに行けば良いんじゃな?」
「よくわかんないけど、おじさんから来た手紙なのー」
「ゲイザー殿には何か策があるんじゃろか?わしだけで行けと書いてあるのぉ」
「ナタは行っちゃダメー?」
「お酒は二十歳になってからじゃよ?大人になったら連れてってやるわい」
ユリアーノは尖った耳を隠す為に、ローブを深くかぶって夜の街へ向かいました。夕暮れ時に『ソレイユ・ルナ』は開店のプレートを入口に掛けます。ユリアーノは中に入るとカウンター席に着きました。
「マスターのおまかせをお願いする」
「かしこまりました」
バーテンダーのマスターはシェイカーをシャカシャカ振っています。そこへミネルヴァが入って来ました。とりあえずカウンター席に着きます。
「こんな店に来るのは初めてだわ…」
「お客様、マルガリータです…」
「えっ、私はまだ何も注文していませんよ?」
「あちらのお客様からです」
ユリアーノがミネルヴァの方を見て手を振っています。
「あなたは一体、誰なんです?」
「わしは一目でわかったが、ミネルヴァにはわしの事がわからんか…」
「もしかして…ユリアーノ様?」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第129話です。