ところが侍女は目を閉じてキスされるのを待っているようでした。ゲイザーは焦っています。
「あの…、なぜ目を閉じておられるんでしょうか…?俺の事が怖くないんですか?」
「キスしないんですか?後悔させてくれるんじゃなかったの?」
「妻に怒られるので浮気は出来ません…」
「ダーク様、奥さんの尻に敷かれてるんだ?可愛いー」
「すみません、もう帰ってください。お願いします…」
「なんだ…。結局、何もしないなんてつまんないの!」
侍女は控え室を出て行きました。
「うーん、ちょっと脅せば帰るだろうと思ったのに逆効果でしたか…」
「ゲイザー様、女性と言うのは、少し強引で振り回されるような、悪の香りがする男に魅かれるそうですよ?」
「そう言うものなのか?あんな事をしたら怖がって逃げるかと思っていた」
侍女の控え室に戻ると、みんなにメサイアのゴシップ情報をバラしていました。
「みんな、聞いて!ダーク様には奥さんがいるらしいの。しかも鬼嫁で尻に敷かれてるらしいわ」
「えーっ!ダークって結婚してたのー?」
「しかもダーク様に壁ドンされちゃった!ちょっとカッコいいかも?って思っちゃったわ…」
「やだー!不倫ー?きゃー」
「あなたたち!何度言えばわかるの?口ばかり動かしてないで手を動かしなさい…」
メサイアは謁見の間で演奏をしましたが、国王はつまらなさそうにしています。
「美女の宮廷楽士はおらんのか?男の歌を聞いてもつまらん…」
テオが国王のご機嫌を取ります。
「アーク殿の歌声は男と思えないほど美しいと思いますよ?ダーク殿の低音と調和して絶妙なハーモニーを奏でています」
「確かにアークは美人だと思うが、脱がせて見たら筋肉隆々の男だった…」
「おや?宮廷楽士に筋肉は必要ないと思うのですが…」
「路上ライブは結構ハードなんです。体力は必要ですよ?」
「なるほど…。失礼ですが、ボディーチェックをしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ」
騎士団の控え室に連れて行かれて、アークとゲイザーは服を脱ぐように指示されました。
「アーク殿の背中の翼は本物のようですね…」
「僕が天使だと何か問題がありますか?」
「いえ、特に問題はありません。天使は正義の味方でしょう?」
「はい、悪を裁く事はありますけどね。僕はまだ人を殺めた事はありませんが、悪を討つ為ならば、この手を汚す事も厭わないつもりです」
「ダーク殿は随分と皮膚に傷痕が多いようですな」
「これは紋章です。焼印で三つ葉のマークを付けてみたんです」
「ふむ、そのマークが巷では若者の流行なのでしょうか?」
「流行ってるかどうかは知りません」
「ご存じないのですか?巷ではダークファッションと言うのが最近、流行っているようです」
「そんなものが流行っているなんて知りませんでした」
「ダーク殿の持っているリュートは楽器屋で五十万になっていましたよ?生産中止でプレミアが付いてるそうです」
「このリュートは人気がないと店主が言っていたはずなんですが…」
「私もその赤いリュートが欲しくて楽器屋に行ったのですが、注文が殺到していて品薄状態だとか…」
「青いリュートは人気がないのですか?」
「青いリュートも人気がありますが、生産中止にはなっていなかったので、プレミアは付いていないようです」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第127話です。