麗羽の本陣に、一騎の伝令が駆けてくる。
掲げている旗を見るに、緊急の伝令のようだ。
「え、袁紹さまーー!!」
「なんですの騒々しい…敵が降伏でもしてきたんですの?」
移動式の玉座にどっかりと腰を下ろし、うんざりといった感じで麗羽が対応する。
そんな麗羽の前に、息を切らしながら跪く伝令。
「いえ…お味方、壊滅。文醜さま顔良さま、両名共に敵方へ囚われた模様です…」
「んなっ……!?」
想定外の報に、絶句する麗羽。
「あの~ちょっといいですか伝令さん」
「はっ!」
麗羽に代わり、側に控えていた七乃が話を進める。
「猪々子さんと斗詩さんは別々の道を攻めあがってたんでしたよね?確か、麓に連絡隊も残してなかったはずですし…
二つの部隊の情報を持ってるって、一体あなたはどちらの隊の方なんです?」
「そ、それは…」
「そんなことより!お二人は無事なのでしょうね!?」
七乃と伝令の間に麗羽が割って入る。
「それは分かりかねますが、まだ時はそこまで経っておりません。願わくば、袁紹さま率いる本隊に救出に動いて頂きたいのですが…」
「分かりましたわっ!皆さん!聞いておりましたわね。今すぐ、文醜さんと顔良さんを取り戻すために、雄々しく前進ですっ!!此度は何があっても退きませんわよっ!!」
「「「うおぉぉ~~~~!!!」」」
いつもは不動の総大将の不退転の檄に呼応して、厭戦気味だった兵の士気も上がる。
「伝令さん。あなたは道案内として私の側についてきなさい。お名前は?」
「はっ。正成とお呼び下さい」
「珍しい名前ですのね」
「よく言われます」
「ま、いいですわ。進軍っ!進軍ですわ!雄々しく駆けなさい!!」
麗羽の檄に応じて、いよいよ袁紹軍本隊が動き出した。
――――――
――――
――
「お~お~、敵さんぎょーさん来よったで」
袁紹軍の動きを俯瞰出来る崖の上には、真桜と烏・雀が陣取っていた。
真桜は片眼式の遠眼鏡で、雀は裸眼で袁紹軍の行軍を眺めている。
烏はといえば、火の入った火縄銃を構え、袁紹軍に標準をあわせていた。
袁紹軍は山の麓、道が分かれる手前辺りまで来ていた。
「小波ちゃんの報告どおり、おっぱいのおっきい人は中軍にいるみたいだよー」
「せやな。趣味のわっるい金ピカの鎧がよう目立ってるわ。烏、作戦通りに頼むで」
「(こくっ!)」
真桜の言葉に頷くと、烏は銃口を目標に定めた。
――――――
――――
――
「――――ででしてね、全く不甲斐ないんですのよ、文醜さんと顔良さんたら…」
「は、はぁ…」
行軍の最中、延々と麗羽の話を聞かされる正成。
掴まった猪々子と斗詩のことを、自分のことは棚に上げて、散々にこき下ろしている。
それでいてそわそわと、節々に二人の安否を気にする麗羽に、正成は少し惹かれていた。
そしてこれから起こる事を思うと、少し申し訳なく感じていた。
「ちょっと!聞いておりますの正成さん!?」
「は、はい!申し訳ございません!」
「まったく、シャンとして下さいな。道案内はあなたが頼りですのよ!」
「はっ……その、少々この後の道が……」
パーーンッ!!パーーンッ!!
と、大きな破裂音が二つ轟き、同時に隊列の前後から悲鳴が響いた。
「なんじゃあっ!?」
麗羽の御輿の後ろをトボトボついていた美羽が泡を食う。
「袁紹さま!」
一人の兵が麗羽に近付く。
「報告なさい!」
「はっ!我々の前後の地面に突如大穴が現れました!穴に落下したもの多数。穴は深く、救出・脱出は難しい模様!我々は前後を分断されました!」
「ぬぅわんですってぇ~~!!?」
驚愕の麗羽。
「わぁー、やっぱり罠だったんですねー」
大した緊張感もない七乃。
しかし袁紹軍のほとんどの者が混乱の渦中にあった。
そんな中、一人冷静に麗羽を導く者がいた。
「袁紹さま、こちらです」
正成…袁家の兵に扮した小波である。
混乱状態のものほど御しやすい者はない。
小波は麗羽の手を引き、部隊から離れていった。
――――――
――――
――
作戦はこうだ。
袁紹軍の進軍路に真桜が大穴を掘り、その上に真桜謹製の絡繰で蓋をする。
この絡繰は、支えている紐さえ切れなければ象が乗っても大丈夫!という代物だ。
距離を置いて穴を二つ設置し、麗羽が真ん中にいる時機を狙い、遠方から烏が紐を狙撃する。
麗羽たちには、音と同時に突然大穴が開いたように見える、という寸法だ。
そして、この作戦のトリを飾るのは…
「袁紹さま、こちらです。こちらが安全です」
麗羽の手を引き、脇の林へと小波が誘導する。
「本当にこちらが安全ですのね。信じていますわよ、正成さん」
チクリと胸が痛む小波。
「申し訳ございません、袁紹さま」
小波は小さく口の中で謝る。
「え?なんです……」
その瞬間、麗羽の視界から正成が消えた。
いや違う。麗羽の視界が急に動いたのだ。
「きゃあぁぁーーー!!!」
麗羽の全身を網が包み込み、上へと引き上げる罠だ。
「袁本初は、蜀に咲く一輪の華、馬岱が召し取ったりーー!!」
茂みからポーンと飛び出した小さな影。
蒲公英だった。
その大音声は、近くの袁紹軍本陣へも届いた。
「ちょっ……これは何の真似ですの小娘!!」
網に絡め取られながらも、喚きつつ蒲公英を睨みつける麗羽。
「へへーん♪そんな格好で凄んでも怖くないよーオバサン!それに、これはご主人様の命令なんだからね」
「一刀さんの?」
一刀の名前に動きを止める。
「そ。猪々子も斗詩もちゃんと保護してるから、ちょっと我慢しててねー」
そう笑いながら槍を取り出すと、
「袁家のみんなー!聞こえるかなー!?武器を捨てて投降してねー?じゃないと、袁紹が串刺しになっちゃうよ~?」
ペチペチと穂先の背で麗羽を叩く。
「ちょおっ!お、おやめなさい!わたくしの玉の肌に傷が付いたらどうするんですのっ!?」
「ならほら!さっさと投降の命令を出す!」
「み、みなさんっ!!今わたくしが猪々子さんと斗詩さんの無事を確認しました!もう戦う理由はありません。だから今は矛を収めなさい!」
スラスラと立石に水の如く言葉が口をついて出てくる。
混乱の最中ではあったが麗羽の言葉は不思議と兵の耳に届いた。
元々厭戦気分があったこともあり、兵は次々と武装を解いていく。
そんな中、
(七乃や、今なら逃げ出す好機なのじゃ!)
(はぁ…でも美羽さま、逃げてどうするんです?)
(妾は虜囚の憂き目を見るのは嫌なのじゃ!これ以上麗羽姉さまに振り回されるのもゴメンなのじゃ!!)
美羽が小さく癇癪を起こしていた。
こうなると美羽はもう止められない。
(なら……逃げちゃいます?)
(うむっ!それでは…)
パーーンッ!!
美羽が輝かしい一歩を踏み出そうとした所へ、小さいが綺麗な穴が空いていた。
そこからは少し煙が立っている。
「あ、あわわわわ……」
「ひぃ~~~~…!」
二人は一気に顔が青くなる。
「お二方」
「「ぴぃっ!!」」
いきなり真後ろから掛けられた声に、大きく肩を跳ね上げる。
声の主は正成だ。
「凄腕の射手がこちらを狙っております。大人しくして頂ければ危害は加えません。何卒、おかしな気は起こしませぬようお願い致します」」
「「は、はいぃ~……」」
抱き合いながら、揃って腰を抜かす二人。
こうして小波たちは、僅か数人で袁紹軍本隊の無力化に成功したのだった。
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どうも、DTKです。
お目に留めて頂き、またご愛読頂き、ありがとうございますm(_ _)m
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、97本目です。
こつこつ投稿しております。
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