No.949923 真・恋姫†無双~黒の御使いと鬼子の少女~ 49風猫さん 2018-04-24 23:47:56 投稿 / 全4ページ 総閲覧数:876 閲覧ユーザー数:843 |
彼女の言葉の意味が一瞬分からず呆然とする俺に関羽は話を続ける。
「玄輝殿は白装束と何かしらの因縁があるのではないかと。それで、その」
「……ああ、そういう事か」
話に行く手間、省けたな。そう思い、言葉を口にしようとして、
「……」
言葉が出てきてくれなかった。
(なんでだ? どうして出てこない?)
“出ていく”その意味の言葉が言えればいい。一言でもいいんだ。でも、それが出てこない。
「……玄輝殿?」
「……すまん、近々出ていく予定だ」
「っ!」
我ながらなんとも歯切れの悪い言い方だ。そもそもなんで何度も話そうと思っていたことがすっと出てこなかったんだ?
「……雪華はどうなさるおつもりですか」
「ここに置いていく。もう俺がいなくても守ってくれる奴がいる。居場所もある。であれば約束は果たした」
「ですが、雪華はあなたの事を家族として慕っているではありませんか!」
「それは……」
ふと、この世界に来た時の雪華の言葉を思い出す。
“ゲンキと一緒ならどこでもいい。ゲンキが死ぬ時は私の死ぬ時だよ?”
(……ああ、そんなこと言ってたな)
だが、ここから先は……
「……これは俺の戦いだ。あいつは、ここで暮らすべきだ」
「戦い? それは、それは雪華をここに置いてまですべきことなのですか!」
その言葉に心が一瞬で沸き立つ。
「……ああ、そうさ。俺にとってそれがすべてだ。それこそが俺が今の今まで生きてきた理由、俺という存在だっ!!!」
「玄輝殿……?」
「知らないのであればお前の基準で測るな!」
だが、今度はその言葉が関羽の心を乱した。
「それは、それは玄輝殿が話してくださらないからでしょう!」
「だから知らないのであればと言った!」
「では、なぜ私たちが知ろうとした時に話してくださらなかったのですか!」
「俺一人の戦いだからだ! 俺一人が終わらさなければ……!」
「どうして我らを頼ってくださらないのです!」
「誰かを巻き込むなんざごめんだからだ!」
その言葉を言った直後に頭の中で“しまった”と呟いていた。だが、言ってしまったものはどうしようもない。
「……っ、それだけだ」
俺は彼女の顔を見れず、すぐに背を向けてしまった。
「……玄輝殿、それは」
その背に彼女はそう言って何かを口にしようとするが、言葉が見つからなかったのかそのまま黙ってしまう。
「……もう、俺にあまり関わるな。いつ出ていくかはまた別途相談する」
「……私は、あなたの力になれないのですか?」
その言葉に、心が痛みを伴う波に揺られる。
「……俺は、誰かを」
そこまで言って気が付いた。どうして俺が劉備に対してあんなに不快感を持っていたのか。
(……ああ、そうか。俺の持ってないものを持っていたからか)
もちろん、甘ったるい考えに対してもだが、自分を信じて支えてくれる仲間。そこに甘えられる自分。そして、その支えをなくしたとしても立っていられる力。どれも俺にはない。いや、持とうなんて考えもしなかったものだ。
(……はっ! とんだ道化だな、俺)
いつぞや偉そうなことを言っておいて根本はこれか。そう思うと口に自嘲の笑みが浮かび上がる。
だが、今はこのことを言葉にしなければ。でないと彼女も納得できないと思う。
「……なぁ、関羽。お前は目の前で全てを失ったことはあるか?」
背を向けたまま、俺は彼女に問いかける。
「玄輝殿? それはどういう……」
「そのまんまの意味さ。自分の世界、自分を形作るもの、自分の大切なもの、その全てだ」
「……ええ、あります。私の住んで居た邑は賊に襲われて、皆」
「……そうか。それでもお前は歩いてきたんだな」
「はい。今でも稀に夢に見ます」
「……墓はあるのか?」
「……あります。ですが、玄輝殿それが何なのですか。あなたは何を聞きたいのですか?」
少し、怪訝そうな色を含んだ声。その答えを返すため、俺は一度だけ深呼吸をして、返答をした。
「俺には、その場所すらないんだ」
「……どう、いうことですか?」
「俺のいた場所は、いや、世界はどこにもないんだよ。邑がないとか、その場所が埋もれたとかじゃない。存在しないんだ、全てが」
「玄輝殿、なにを、言っているのですか? 世界がないとは、どういう……」
「……そりゃ分からねぇよな。いい、忘れてくれ。ただ、俺はもう何かを失うのが嫌なんだ。それにさっき気が付いた」
そう言って、俺は自らを嘲る。
「笑えるよな? 偉そうに俺の戦いだ! なんて言っておきながら、結局のところは臆病だったんだ」
そこまで言って、深く息を吸って、吐いた。
「悪い。今は俺もこれしか言えん」
これで、今言えることは全部言った。俺はそこから立ち去ろうと足を前に、
「……関羽?」
進めることができなかった。なぜなら、関羽が俺の右肩を掴んだからだ。
「……玄輝殿」
掴まれている肩に鈍い痛みが走り始める。
(まぁ、そりゃ怒るよな)
何せ、散々偉そうなことを言っておきながら、その根本にあったのは失うことに対する恐怖。
(……今は、彼女の言葉を聞こう)
そう思って覚悟を決めた俺に投げかけられた言葉は、
「……やっと、あなたの事が少しだけわかりました。あなたは、自分を信じていなかったのですね」
「っ!?」
その言葉は覚悟していたものとは、まったく真逆のものだった。そのせいか、その一言は俺の心を激しく揺さぶった。
「失うのが怖いというのは、自分が守れないと心のどこかで思っているからではないですか?」
「それ、は」
違う、とは言えなかった。俺は、自分が助けたとしても白装束の事になれば、もう一度助けを求められてもその手に目もくれずに突っ走ることは分かっている。
でも、それが守れないという思いの裏返しならば? 守る余裕がないことをそう言い換えているだけではないのか?
「……私とあなたが感じた痛みが、同じとは思いません。でも、もしあなたがその“守れなかった”ことが“自分は守れない”という想いにつながっているのでしたら、それは違うと断言できます」
「かん、う?」
「あなたは、たくさんの人を守ってきたではないですか! 雪華を、私たちを、兵を、民を! あなたは守れます!」
その言葉に、心に痛みの色が形を変える。
「だから、だからどうか自分を信じてください!」
右肩の痛みはさっきよりも強い。でも、その痛みがなぜか安らぎを与えてくれていた。
気づかないうちに俺はその手へ自身の左手を伸ばして、重ねていた。
「玄輝、殿」
「……ありがとう」
俺の心は、軽くなっていた。正直、他人の言葉を聞いてここまで軽くなったことは今まで一度もなかった。
(そういや、師匠も言ってたな)
“言霊ってのは想いの力だ。その想いが心の奥底からのものならば言霊は力を増し、表面だけのものならば塵芥にすら敵わん”
(ああ、こういう事だったんだな)
表面だけの言葉、それは今まで俺が俺自身に投げていた復讐の言葉。それだけで心が埋め尽くされていたから今まで信じることはできなかった。でも、奥底にある想いに気が付いた。
そこへ、本当に想いの乗った言葉が今までの壁を完全にぶち壊した。
(……本当に、ありがとう)
心の中でもう一度聞こえない礼をした後で彼女の手をゆっくりと右肩から離す。
「げん、」
「でも、俺は行く」
「っ!」
「……君に恨まれても、仕方ないとは思う。でも、やっぱり俺は失うのが怖いし、何より白装束についての情報がはっきりしていない以上、戦いに巻き込みたくない」
「それはっ!」
「この前の戦い、覚えてるよな? 董卓との戦い」
その言葉に彼女は息をのむ。
俺はそのタイミングで彼女と向き合い、質問を一つ投げかける。
「あの時、俺が話していたことまだ覚えているか?」
「確か……」
関羽はそこで思い出すそぶりをするが、すぐに驚きの表情を見せる。
「いえ、そんな、そんなはずは……」
「思い出せないだろ?」
そう、俺は一応報告しておくべきだろうと、董卓を救出する際に分かったことなどを皆に話した。
そのことを軍師二人は竹簡に書いていたが、その竹簡は帰るときには消えていて、帰ってから2日目には皆忘れていた。
だが、俺は覚えている。奴らが式神であり、その首魁が“シン”とやらを求めていることを。
「奴らが一体どんな手段で記憶を消しているのか、それがわからない以上はあいつらと安全に戦えるのは、多分俺ぐらいだと思う」
「で、ですが!」
「関羽。お前の言葉、本当にうれしかった。今まで隠してきた気持ち、それに気が付いたし忘れていたことも思い出せた。だからこそ、失いたくない」
「そんなのは! そんなの……」
「……自分勝手なのは重々承知だ」
そういって俺は一度目をつぶってから覚悟を決める。
「でも、戻ってくる。絶対にだ、“愛紗”」
「……え?」
「っ、その自分勝手な奴だと思われているついでというか……」
くそっ、覚悟してたのにやはり気まずいというか、小っ恥ずかしい!
「玄輝殿、今……」
驚いたままの表情の彼女の顔が見ていられなくて、思わず顔をそむけてしまうが。口を止めるわけにはいかないと思った。
「別に、問題は解決したわけじゃないんだが、その、俺の覚悟みたいなものだ」
「……もう、」
「ん?」
彼女が珍しく小さい声で何かを言ったので思わず顔を見てしまった。
(っ!)
その時、俺の顔は真っ赤になっていたに違いない。多分、俺が見てきた彼女の表情の中で初めて見た、恥じらいのような、喜びのような表情だった。正直、美しくもあり、かわいくもあった。
そして、彼女の小さくなっていた言葉をもう一度聞いたとき、心臓は早鐘のように脈打ちだした。
「もう一度だけ、呼んでもらえませんか?」
「あ、う」
「……覚悟の、表れなのでしょう?」
ぐっ、こんなの反則だろう! そう思いつつも俺は深呼吸してもう一度その名を呼ぶ。
「…………愛紗」
「…………はいっ!」
この時の“愛紗”の表情は、この先何があろうと忘れることはないと思う。それほど俺の心奥深くにそれは焼き付いてしまった
はいどうも、おはこんばんにちわ+お久しぶりです。
作者の風猫です。
何とかかけたので久方ぶりに更新しました。
いや、忘れてたわけじゃないんですよ? ただ、書きたいというエネルギーをチャージしていただけで……
そんなわけで久しぶりの更新ですが、読んでいただければ幸いです。
それではまた。何か誤字脱字がありましたらコメントにお願いいたします。
今年もミクさんのライブチケットあたった!
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