No.949139

うつろぶね

野良さん

式姫プロジェクトの二次創作小説になります。


カクちゃんの口上考えるの楽しかったけど、こんな喋りだっけかな……

2018-04-17 22:06:30 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:684   閲覧ユーザー数:675

前口上

 

 さぁさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい、これよりは始まりますは、世にも珍しき千変万化の変面術を駆使した一篇の物語。

 面白い事は、軒を借りてる神様に賭けて保証するよ、それが証拠に、前払いなんて吝嗇(けち)は言わない、お代は見てのお帰りだい。

 神社仏閣詣では遊山にあらず、されど境内で奉納されてる芸を眺めて笑っていくのは功徳の内。

 信者が楽しそうなら神様仏様も楽しいってもんだい。

 一時足を止めて、浮世を離れて魂を遊ばせて行かないかい、御客人。

 ……うん?なんだい?嬢ちゃんの一人芝居じゃ、景気の良い奴は無理じゃないかって?

 見くびって貰っちゃ困るよ御客人、このカクの手に掛かれば、梁山泊の英傑の会合も、趙子龍の一騎駆けでも思いの儘さ……ほーれ、変面術でござい!

 あっはっは、吃驚したかい、これぞ虎髭で有名な張飛の豪傑顔だよ。

 何だって、顔は凄いが体がちっこいままだ?

 当たり前だよ、これはあくまで変化じゃなくて変面術だからね、体の方は、演技で魅せる。

 それが俳優の心意気って奴だい。

 さてお立合いだ、手前が手にしたるは、何の変哲も無い天秤棒だが、これが今より蛇矛と相成りまして、むんと臍下丹田に気力を込めて、隙なく構えをとりますれば、さて、御覧じろ、長坂橋にすっくと立ちたる張翼徳の威容あり。

 ああああ、銭は芝居の後で良いよ、いや拒まないけどさ、ありがとね、どーもね、それにしても日ノ本のお人は三国志好きだねぇ、良く張飛の見せ場をご存じだ。

 ん、でっかく見えたけど、何か術でも使ったかって?

 どうなんだろうねぇ、術と言えば術みたいな物だけど、これは人でも使える俳優の術って奴さ、人を良く見て、その人に成りきる……時に豪傑となり、時になよやかな美姫となるも自由自在。

 大事なのは実際の姿より、その傾きとか間合いとか手の表情とか声の抑揚とか、そういう微妙な所なんだよ。

 具体的にどうなんだって……そうだねぇ、次は色っぽいお姉ちゃんやってみようか。

 ……色っぽいお姉ちゃんは流石に無理だって、どこ見て言ってんのさ、そういう大小の問題じゃないんだい。

 

 ああ陛下……お別れの今、私が舞いますは、霓裳羽衣の曲。

 雲を踏みて、手を星に伸ばし、天の川にこの身を委ね……。

 

 いやだから、口上におひねりは良いってば、芝居の方でおくれよ……って、もう帽子が一杯になっちまったい、斉天大聖姉ちゃんならトンボを切って喜ぶところだろうけど、こりゃ困ったねどうも。

 あ、お茶屋のおじさん、丁度良かった、この銭で皆さんにお茶振舞ってよ、私も一杯貰うから。

 ん、何だい旦那?

 今夜お店の宴席に出ないかって? 金なら出すから、さっきの楊貴妃全部見たい……あぁ、我が芸を求めるお誘いは、真に有り難き事なれど、実はこのカク主持ちの身。

 寺社への芸の奉納ならば兎も角、主の許可なき遊芸の披露は禁じられております故、その儀は平にご容赦を。

 え、主に直接掛け合う?

 ……いやぁ、そいつは止めといた方が良いよ御客人。

 え、何でって?

 いやいや、ちょいと考えて御覧じろ、なんせ、ウチの主と来たら、このカク以下、一人で城一つ位なら鼻歌交じりに落として、片手間に雲霞の如き軍勢を翻弄しようって式姫を数十人抱えて、大妖相手に大戦やらかす豪気な御方だよ、身の丈九尺の筋骨隆々たる傷だらけの体に武芸十八般全部修めて、その辺の妖なんてのは素手で捻って、叩いて搗いて餅にして、髭面の大口開けて、濁酒さら、纏めて三匹くらいは呑んじまうって豪傑様さぁ。

 で、こんな顔してね。

 

 うぬは、我が式姫をその辺の酌女とでも心得るか!そこに直れ、刀にかけては刃の穢れ、その細首なぞ、我が腕力(うでぢから)にて捻り切ってくれるわ!

 

 ああ、悲鳴あげて逃げっちまったい。

 というのは真っ赤な嘘で、優しいけれど芯は強い、カクご自慢のご主人様だい……と言う前に居なくなるとは、気が短い御仁だねぇ。

 あはは、みんな笑ってら、え、あの旦那、あまりシモの評判が良くない、お嬢ちゃん断って正解だった。

 ……ああ、そうなんだ、いやそうじゃ無いかと思って断ったんだけどさ、世の中怖いね。

 

 さてさて、忙しい皆さまのお時間を、これ以上頂戴するのも心苦しい、そろそろ開幕と洒落込みましょう。

 これより披露いたしますは、手前がこの日ノ本のお国に来てからこっち、仲間と共に繰り広げました、愉快痛快な旅の中で出会った、ちょっと不思議なお話でございます。


 
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