アリサさんの事情
アリサ・バニングスは猛烈に悩んでいた。
発端となっているのは、友人である、高町なのはとフェイト・テスタロッサの事だろう――
「わ、私とフェイトちゃんは、こ……恋人になりました!」
仲良し5人組での昼食。お弁当を食べ終わり、今日は何を話そうかと悩んでいたら、なのはが真剣な顔をして立ち上がった。ちょっと聞いて欲しいといわれ、何かなと思ったところにこの一言。
真っ赤になりながら報告するなのはと、手を握ったままうつむいているフェイト。
――何でこんなことになってるのよ
「おめでと、なのはちゃん、フェイトちゃん」
「いや~、いつ発表するんか楽しみにしとったで」
素直に祝福するすずかに待ちかねていた様子のはやて。知らなかったのはアタシ1人な訳ね。
「ま、良かったじゃない」
そして、アタシだけはおめでとうと言えなかった。
確かに、2人共幸せそうだし、女の子同士という事を差し引いてもお似合いのカップルだと思う。
……お似合いなんだけど、なんか納得いかなかった。
「な、なのは。そんなに大きな声で言ったら恥ずかしいよ……」
「にゃはは、ごめんね。だけど、みんなに知っておいて欲しかったんだもん。フェイトちゃんは私の恋人さんだよって」
「なのは……」
「フェイトちゃん……」
ここは学校で、今は昼休み。当然ながら他にも屋上には生徒がいる。その注目を浴びながら、見詰め合うのは止めなさい。見てるこっちが恥ずかしいわ。
「なのはちゃんもフェイトちゃんも、ここで熱うなったらあかんで。まだお昼やし、お楽しみは夜までとっとき」
「は、はやてちゃん、私達別にそんなつもりじゃ……」
「そ、そうだよ、はやて。それに夜って……私達まだ小学生だよ?」
はやての言葉に真っ赤になる2人。あぁ、もうイライラするわね。はやても突っ込むところ間違えてるし。
「何、言ってるんや。愛し合うのに年齢は関係ないで? せやから2人共、気にせず」
「どっかのエロオヤジか、あんたは!」
さっきので終わりだと思ったアタシが甘かった。とりあえず叩いておいたけど……まだまだ油断ならないわね。まったく、2人のことだけでも大変なのに、ややこしくしないの!
「はやてちゃん、大丈夫?」
「放っときなさい」
「で、でも……」
はやてなんか心配しなくて良いのに。まぁ、すずかだから仕方ないかな。
う~ん、それにしても、この引っかかるような感じは、何かしら?
「そのうち起きてくるでしょ。ほら、そこの2人もイチャついてないで戻るわよ」
床とキスをしているはやてを放置し、アタシは校舎へと戻る。……放置してても大丈夫よね。
ちょっとだけ気になって、後ろを見てみる。そこには、あわてて追いかけてくるすずかと、手をつないで嬉しそうにしているカップルの姿があった。
おいていかれたような――
――先をこされたような
そんな気がして悔しかった。
◇
オマケとして、はやては休憩時間が終わる頃に、ひょっこりと帰ってきた。丈夫な子だ。
「なのはちゃんもフェイトちゃんも、幸せそうだったね~」
でも、現在アタシを悩ませているのは、あの2人ではなく、もちろんはやてでもない。
「はぁ……良いなぁ。もうキスとかしたのかな。ね、どう思うアリサちゃん?」
夢見るお姫様、月村すずかだった。
どうも、あの2人に影響されてしまったらしく、昼休みからずっとこの調子。疲れないのかしら?
「あれだけで赤くなってる2人には、まだ無理でしょ。ほら、すずかぼーっとしてないで行くわよ」
「ま、待ってよアリサちゃん」
塾の前に出来た空き時間。折角、2人で買い物に来ているのに。すずかったら、なのは達のことばっかり。
何だか気に入らないわね。
「急がないと塾の時間になるでしょ。……しょーがないわね。ちょっと、手だしなさいよ」
「え? 手つなぐの……」
「何? すずか、嫌なの?」
「そんなことないけど……ちょっと恥ずかしいかなって」
昼にあんな光景を見せられて、いつもよりイライラしていたかもしれない。
それに、この表情。すずかの恥ずかしそうに微笑む姿が、アタシをダメにする。
アタシをすずかから離れなれなくする。
アタシがすずかの傍にいなきゃいけない。そんな風に思わせる。
でも、なのは達と違って、アタシは告白なんか出来ない。今の関係で満足しているし、満足するしかないのよ。
「アリサちゃん、ちょっと早いよ」
いつまでも、どこまでも、すずかの手を引いてあげる訳には行かない。
2人共、親が経営者だし、お金だってある。女の子同士なんかで結婚は出来ないし、許してもらえるわけない。どんなに努力しても変わらないものもある。
それに、すずかは王子様を待っているお姫様だから。
いつか王子様が現れたら、すずかにとっての王子様が現れたら、笑って祝福してあげる――親友として、友達として、おめでとうって言わなきゃいけない。そんな事、ちゃんと分かっている。分かってるわよ!
その時、アタシが失恋しちゃうって、しっかりと分かっている……。
でも、すずかがアタシを好きでいてくれるなら――いや、止めておこう。そんなの考えるだけ無駄だし、望むだけ無駄だわ。未来を変えることなんて出来ないんだから。
それでも、例えそうなることが決まっていたとしても、今は……せめて今だけは、この手をつないでいたい。
いつか来る別れの時まで、
この夢の中で――
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魔法少女リリカルなのはシリーズより
アリサ×すずか 【アリサさんの事情】です。
それぞれの立場、それぞれの事情
悩みだけは尽きません