~真・恋姫✝無双 魏after to after~三国に咲く、笑顔の花
――一刀と左慈。
――紗耶と于吉。
それぞれが接触してから数日が経経ち、呉と・・・一刀は結局来るまで知ることのなかった蜀の 面々の来訪に、洛陽は賑やかになっていた。
「え~っと・・・紗耶?そんなにくっつかれたら動きにくいというか、後で他の皆さまの視線が非常に痛いと言いますか・・・」
「・・・・・・」
一刀が左慈に出逢った日から、紗耶はどんな時でも彼の傍にくっつきなかなか離れてくれない。理由を聞いても答えることもなく、その表情も暗く沈んでいる。
「紗耶ってば!」
「!・・・旦那様?どうかしましたか・・・」
「そんな顔しちゃって・・・そっちがどうかしたんじゃないのか?ここ最近、ずっと表情はつらそうだし・・・」
そんなに表情に出ていたのかと少し沙耶は驚いていた。自分ではいつも通りを務めていたと思っていたのにもかかわらず、実のところ全然できていなかったようだ。
「なんでもありません。・・・申し訳ありませんが、少し席を外します・・・・・・すぐに戻りますので御心配なく・・・」
紗耶は頭を下げると、足早に一刀のもとを去り何処かへと行ってしまう。そして、入れ替わるように華琳が一刀の傍にやってきた。
「一刀、紗耶は・・・あの子は一体どうしてしまったの?」
「俺が聞きたいよ。何を聞いてものらりくらりとかわされちゃうし、失礼承知で尾行してみても途中で撒かれちゃったし」
「そう・・・なら今は、そっとしておくしかないでしょうね。あの子が自分から打ち明けるまで待つしか、今は出来ることがないわ」
「ああ、そうだな・・・ゆっくり待つさ」
「そうなさい。それじゃあ色男さん、色々とお呼びがかかっているわ。毎日彼女たちと手合わせなんてご苦労なことね?断ることも出来るでしょうに」
「折角の機会だしね。・・・・体がなんともない限りは色々と手合わせしたいんだ。こんな機会またとないだろうからね・・・とはいえ、流石に今日は休むよ。〝桜華〟を休ませないともたないし」
「そう・・・せいぜい恋に構いすぎてねねに殺されないようにしなさい」
一番の問題が華琳の口からするりと滑り落ち、一刀の頬を汗が一筋滑り落ちる。尤も、現実問題は恋自身よりも彼女にべったりのねねの方にある。
――〝ちんきゅーきっく〟
あの小さな躯体から繰り出されるとは思えない彼女の必殺の蹴りで、威力に関して言えば一刀が三日もの間気絶していた事例がある。
この技、不思議なことに昔の自分ならいざ知らず、今の自分であれば回避することはたやすい筈なのに・・・全くと言っていいほど回避が出来ない。
「お前はこの技の前に倒れる運命なのです」
「ねね・・・めっ」
「恋殿~!?」
一部微笑ましかったが、そこは問題ではない。
問題は何故か回避できないの一点にあった。
「・・・頑張ろう」
華琳が去った後に一刀は小さく拳を握った。
まあ、とにもかくにも・・・慌ただしくも賑やかな日々を過ごしている魏の国だった。
時は少し進んで、洛陽の街――前・呉王の雪蓮と秋蘭に劣らぬ弓の名手の祭。
二人が街を散策していた。
「冥琳の眼鏡にもかなったし、後は華琳を説得するだけね」
「うむ、よもやあの冥琳がたかだか二日三日で真名を預けるとは思わなんだ」
「穏やシャオは置いとくとして・・・蓮華や思春はどんな風になるのかしら?」
「そうじゃの・・・思春の方は手合わせでもすればすぐにでも認めるじゃろうし、一刀のあの無 自覚な優しさがあれば色恋沙汰になるのも時間はかかりますまい。権殿は・・・下手をすれば儂達よりも早くに陥落するじゃろうな。頑なに見えるが、ああ見えて権殿は誰かに優しくされることに弱いからのう」
「ちょっと見てみたいかもね。一刀の虜になった蓮華っていうのも」
「はっはっは。権殿とて女子、可愛らしい一面を見せてくれるでしょうな」
と二人で盛り上がっていたら目の前に一刀と季衣・流琉コンビと明命と亞莎・・・そして、恋・ねねが仲良くゴマ団子を食べながら歩いているのが見える。
一部訂正しよう。
恋に関しては袋一杯に肉まんやらなんやらが詰め込まれており、次々と袋の中身は減っていっている。
「どうやったらあんなに食べられるのかしらね?」
「策殿、それはわしらに『どうしてそんなに酒を飲み続けられるの』と聞くようなものですぞ」
「ああなるほど」
一先ずあの輪に加わるのはなんとなく野暮な気がしたのだが。
「あれ、雪蓮に祭さん?二人だけでどうしたの?」
二人に気がついた一刀の方から声をかけてきた。
「むぅ・・・今日は骨休めとは・・・一刀殿も酷なことを仰る」
「まぁよいではないか星よ。一刀殿にも休みは必要じゃろうて」
「せや、毎日手合わせしとるんやから、武器も休ませたらなあかんし・・・今日はゆっくり休ませてやらんとな」
中庭の一角で杯をあおっているのは蜀の・・・桃香の付き添いで来た趙雲――星と厳顔――桔梗、それに霞だ。
これに鳳統――雛里と恋にねねが今回の蜀のお忍び(?)訪問のメンバーである。
一方の呉はというと、雪蓮に冥琳、祭、亞莎、明命がそれに当たり、それ以外のメンバーは皆留守番である。
「・・・・」
「・・・・」
と、そこで星と桔梗の視線が一点に集中する。
その一点にあるのは霞の左手・・・さらに言うと左手の薬指だ。
「なんや?」
まじまじと見られれば、いくらほろ酔い状態の霞でも気付くというものだ。
「それが一刀殿が魏の将たちに贈ったという婚約の指輪なのか?」
「へへ~♥ええやろ?装飾もなんにもあらへんけどな」
嬉しそうにはにかむ霞。この表情だけで彼女が如何に幸せなのかが二人には窺えたのだった。そして、そこから霞の・・・この指輪にまつわるエピソード(side華琳 前・後参照)を二人は聞くのだった。
「いい日和なのです。お昼寝にはもってこいの陽気ですね~」
「風さん、お仕事はよかったのですか?」
「大丈夫なのですよ。なので雛里ちゃんもご一緒にお昼寝しましょう」
「残念だが風よ、何度も見逃すほど稟も甘くないぞ」
「おおっ、まさかの秋蘭ちゃんとは・・・稟ちゃんも容赦ないですね~」
稟は同じ轍を踏まぬように、今日の天気の良さから風の行動予測し、行動パターンの知られている自分では煙に撒かれる可能性を考慮し、風の追尾を秋蘭に依頼していたのだった。
ちなみに、春蘭に頼まなかったのは・・・・まあ自然の流れである。
「なに、こういう陽気の日に風は一体どこで昼寝をしているのか、私も些か興味があったのでな・・・・・・ここを知っているのは他には一刀だけか?」
「はい~。ですが、それもこれまでのようですね」
蚊帳の外にされてしまっている雛里はあわわわとオロオロしていたりしてなんか微笑ましい状況になっていた。
「その心配は無用だ。お前の捜索を引き受ける代わりに場所などに関することは一切触れぬことを交換条件にしておいたからな」
「・・・・・・一緒にお昼寝しますか?」
「よいのか?」
「道連れというやつです」
「よかろう、それぐらいであれば私も喜んで道連れになろう」
――秋蘭、陥落。
その日、稟の叫び声が城内に木霊したという。
――御愁傷様、稟。
洛陽、華琳御用達の呉服店。
「あ、これ可愛いな~。こっちは愛紗ちゃんでこっちのは鈴々ちゃんかな?こういうのは焔耶ちゃんが似合うかも・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
店に入って少し経つが、桃香のはしゃぎっぷりは衰えを知らない。付き添いの華琳と冥琳は少しお疲れの御様子だ。
(・・・・・・一刀がいれば、下着選びをさせて楽しめたんでしょうけど・・・)
未だに恥じらいを見せる一刀に自分の下着を選ばせるのは、華琳にとって至福のひと時だった。
(小蓮様には服の方が喜ばれるだろう。穏には・・・些か危険な気もするが何か面白そうな本でも・・・思春は・・・何が良いか・・・)
口元に手を当て思案する冥琳。
と、そこで先程まで服選びに夢中になっていた桃香が振りむいた。
「華琳さん、華琳さんの服も選びましょうよ♪」
「結構よ桃香、それよりも早く選んでしまいなさい。というより貴女、留守を任せた者たちへのお土産を全部服にするつもりなの?」
「え?」
「・・・・・・」
心底呆れてしまった。どうやら服以外のお土産ということが頭の片隅にもなかったらしい。
彼女のこういった面は見慣れたつもりではあったが、やはり呆れてしまう。
――本来なら、滞在期間はまだあるので早すぎる土産選びとえるのだが、当人たちが「ギリギリになって慌てるより余裕を持って選べるうちに選んでおきたい」と言っているのでこうして選んでいるのだ。
まあ、いつ買うかというのは個人の裁量に任せてあるので、華琳と共に来ているこの二人の様に品定めし購入している者もいれば、まだまだ後でいいという者たちもいる。
「食料は些か無理があるでしょうけど、身につける貴金属だったり・・・お土産にするなら色々あるでしょうに」
「ああ!私、全然考えてませんでした。華琳さん、ありがとうございます」
「ふむ、思春と蓮華様にはそちらの方がよいかもしれないな」
いきなり冥琳が口を挟んできた。桃香の方は些か驚いた様子だったが、華琳の方はというと、先程までの冥琳の仕草に納得がいったようで「それがいいかもしれないわね」と軽く相槌を打った。
「そういえば、雪蓮さんや祭さんはお土産選び・・・しないんですか?」
「〝私や祭がお土産を選ぶとお酒にしかならないから冥琳に任せるわ♪〟だそうだ」
「明命や亞莎は?」
「あの二人は食べ歩きでしょうね。北郷や他に何名か声をかけていたようですから今頃賑やかな一団になっているでしょう」
「・・・・・・」
微かに華琳のこめかみが反応を示した。目つきは鋭さを増し、軽く殺意が滲み出ている。
(いいわ・・・別に一刀はもう、いなくなったりしないのだから・・・これくらいで気を荒立てていたら覇王の器が知れるというもの)
深呼吸をし、高ぶる感情を沈める。
(華琳殿も苦労されているようだ・・・雪蓮の〝例の件〟・・・蜀は恐らく味方につけることが出来るだろうが・・・魏は・・・・・・)
落ち着きを取り戻しつつある華琳を見ながら冥琳は眉間に人差し指を当てる。
軽く頭痛がしたからだ。
ここ数日、北郷一刀という男をこの目で見てきた。
何故戦に出てこなかったのか疑問を持ったほど武に長け、智に至ってはこの国の警羅の仕組みを考案した点や赤壁の時のことを踏まえても、充分に評価できる。
それ故に、雪蓮が提案してきた〝例の件〟は特に反対はしなかったのだが。
(華琳殿たちの説得・・・・・・私ともあろう者が、随分と甘く考えていたな)
――今は土産選びに専念しよう。
思考を切り替えて、冥琳は呉で待つ者たちへのお土産選びに精を出すことにしたのだが、不意に一抹の不安が頭をよぎった。
場所は変わって。
先程声をかけた雪蓮と祭をパーティに加え、天の御遣い様一行は街を散策していた。
改めてパ-ティ紹介をしよう。
一刀を中心に、右側に季衣・流琉、左側に亞莎・明命、前方に恋・ねね、後方に雪蓮・祭。
以上がパーティの面子と並びである。
「悪の魔王を倒しに行く勇者一行でもこんなに豪華じゃないだろうな」
「兄ちゃん、何か言った?」
「何でもない何でもない。さ、次はどこ行こうか?人数増えたし・・・どこか店に入るのもきついだろうし・・・」
そこで流琉がにっこりと笑ってとある提案を持ちかけた。
「でしたら、お城に戻って私が何か作りましょうか?時間のかかるものは無理ですけど、簡単なものでしたらすぐに作れますし、孫策様や黄蓋さまもゆっくりお酒を飲めますよ?」
「さんせー♪祭もいいわよね?」
「応、典韋殿の料理ならば酒も美味いしの。そうじゃ、折角の機会じゃから、わしも一品何か振舞うとするかのう」
「私は、ゴマ団子を作ろうと思います」
「亞莎、お手伝いします」
「・・・・・・」
「恋殿?」
「俺、季衣、雪蓮、恋、ねねは食べる組だな、せめて材料持ちぐらいしようか」
「そうね、というわけで祭、荷物持ちは私たちに任せなさい」
「承知した」
「流琉も、ボクや兄ちゃんに任せていいからね」
「うん♪」
「明命、亞莎・・・恋が持つ」
「恋殿が荷物を持たれるというのなら、ねねも持ちますぞ」
「はい!お願いしますね恋さん、ねねさん」
「たのもしいです」
トントン拍子で予定が決まり配役も済み、さっそく一行は行動を開始した。
いつもより少し賑やかな日常は、活気に満ち満ちていた。
多くの材料を買い、城に戻った一行は流琉、祭、亞莎、明命はそれぞれ調理にかかり、食べる組はのんびりと雑談をしながらそれを待っていた。
「・・・・・・駄目、あの二人の気配が感じられない。于吉の仕業でしょうね」
街を見渡せる城壁に、紗耶は一人立っていた。
「もっとも、私は〝神仙〟としての異能をほぼ失くしているのだから、仕方がないのだけれど・・・・」
自分の両の手を見る。この世界にいる人たちと変わらない肉体、自分の望んだ躯体。
一刀たちと過ごす上で、必要以上の能力など無くていいと思っていた彼女は、今の自分の無力さが憎かった。
「やっぱり、旦那様の傍にいようかしら・・・」
――うん、そうしよう。
そう結論付けた紗耶は足早に城内に戻っていった。
その後、他の面子も匂いにつられやって来て、調理側に華琳も加わり、結果として広い玉座の間を使った立食パーティになってしまった。途中、張三姉妹を加え更に賑やかさを増す。
「小さな宴会の筈が、随分と賑やかになったなぁ・・・」
「そうね。でも・・・悪くないわ」
「だな、華琳たちの料理もおいしかったし、皆笑ってるし・・・文句のない宴だよ」
壁に寄りかかり、一刀と華琳は二人で談笑していた。が、華琳がふと何か思い出したように一刀に尋ねる。
「そういえば、雪蓮が重大な話があると言っていたのだけど・・・一刀、貴方は何か聞いてない?」
「ああ、俺もその事を聞こうとしてたんだ。なんか俺が関係してるみたいな口ぶりだったから、華琳なら何か知ってるかなって」
「私も聞いてないのよ・・・・・何故かしら、嫌な予感がするわ」
華琳が表情をやや険しくした時、雪蓮が二人の傍にやってきた。
にっこにっこと笑う彼女の口からは何かとんでもない発言が飛び出しそうな気がしてならない。
「ね、華琳にお願いがあるの」
「・・・・・・言ってみなさい。どうせロクでもない事でしょうけど」
「失礼しちゃうわねー!」
子供の様に頬を膨らませた雪蓮は、まあいいわと言って一呼吸置き。
――「一刀との子供がほしいの♪」
「「「「「・・・・・・・・・」」」」」
たっぷりと静かな時間が流れる。
わいわい談笑していた皆も歌っていた天和達も全員が固まっていた。もちろん冥琳、祭を除く呉も、桃香たち蜀も完全にオブジェと化している。
「「「「「「えええええええええええええっ!!!!!!」」」」」」
全員の絶叫がこだました。
中でも声が大きかったのは恐らく春蘭、凪、霞、紗耶だろうなと一刀は呑気な事を考えていた。まぁ、他の面子の声も相当大きかったのだが。
華琳はというと、〝やっぱりロクでもないことだったか〟と言わんばかりの顔をするのだった。
――それから、この論議はさらに熱を帯び、朝まで続くのだが、それでもやはり、魏は賑やかだった。
――深い夜、人の通りが少ない街の裏。
「些か苦労しましたが、〝仕込み〟が済みました」
「そうか・・・気付かれてはいないだろうな?」
「そんなミスはしませんよ。左慈、貴方は刻限までに例の場所で待ち構えていてください」
「・・・・・・いいだろう」
返事を返し、左慈はその場から姿を消した。
その場に残った于吉は。
「さて、ここからが肝心ですね。徐晃、貂蝉、卑弥呼・・・彼らの目を欺きながらの仕事は骨が折れますが・・・左慈が望んでいる以上、やり遂げてみせましょう」
そして、于吉も姿を消した。
星空が輝く空を雲が覆い隠していく。
程なくして、雨が降り始める。
それは・・・陰鬱としてどこか嫌な雨だった。
~あとがき~
第三弾です。
ほとんどが日常の情景ですがいかがだったでしょう?普段が賑やかなので一刀にはこんな日常もありです。まあ、私個人の感想ですが・・・
次回は、いよいよ左慈と一刀が接触します。
どういう展開になるかは次回の楽しみということで
今回はこの辺で失礼を・・・
Kanadeでした
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『三国に咲く、笑顔の花』、序章を含め第三弾。
今回は賑やかさを中心にしたお話です。
それではどうぞ。
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