―――刃物をもった男がこっちに向かってる。
―――ここから逃げようとしている。
―――そのために、俺を殺そうとしている。
―――何とかしようにも、身体は恐怖で動かない。
―――誰かに殺される、という恐怖ではなく
―――誰かを殺さなければならない、という恐怖で
―――殺せば、どうなるのかわからないから
―――今までの自分の価値観が崩れ去るから
―――それなら、刺されたほうがいい。
―――その方がずっと楽だから
―――刺されても生き残れるかもしれない。
―――俺がやらなくても二人がやってくれる。
―――なら、二人に任せた方がいいじゃないか。
―――今、俺に出来ることはないんだ。
―――・・・でも―――
ドスッ!!
―――ぽたっ・・・ぽたっ・・・―――
―――血が流れ、刃を伝い、地に落ちる。
―――痛みはなく、手には不快な感触。
―――そこにいるのは殺人者。
―――刃を伝い、手が血で染まる。
―――気が付いたとき、俺は・・・
―――人を・・・殺していた―――
「―――なっ・・・」
私は目を疑った。刃が刺さり、血が流れている。ただし、血を流しているのは賊の方だった。
そしてその賊を刺したのは一刀だった。
正直、私は、一刀には賊とはいえ人を殺めることはまだ出来ない、と思っていた。
だから今回、銀が一刀を連れて行くと言った時は疑問に思っていたし、少しでも安心できるように軽く言葉も交わしておいた。突入前に見学だけと銀が言った時は内心ほっとしていた。だからこそ、今の状況に驚き、動けずにいた。
剣が少しずつ引き抜かれていく。そして、賊の身体は仰向けで倒れた。
一刀の身体は震え、手から剣が落ちた。
カランカラン・・・
その音を聞いて、呆然としていた私の意識は戻り、一刀のもとに駆けつける。
「うえぇぇっ!げほっ、げほっ!!」
始めて人を殺したせいか、一刀は吐く。
「大丈夫か!?」
一刀の背中をさする。私に今出来ることはこんな事しかないのが悔しかった。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
吐くだけ吐いたら一刀は気を失った。
「・・・一刀・・・」
・・・そういえば銀はどうしているのだろうか?
「星・・・」
呼ばれたほうを見ると、銀がさっきと同じ位置で立ち尽くしていた。表情は見えないが沈んでいるように見える。
「あとは私がやっておくから、北郷をつれて先に帰っていてくれ・・・。」
「・・・うむ。了解した・・・。」
私は一刀を背負って、洞窟を出た。
「ん・・・」
目が覚めるとそこは宿屋の部屋だった。窓からは月の光が差し込んでいる。
「あれ・・・?俺は確か・・・」
そうだ・・・俺は―――
「うっ!?」
そう自覚したとたん吐き気がしたが、なんとか堪える。少し落ち着いたとき、扉が開いた。
「おっ、やっと気が付いたか?」
「星・・・」
「気分はどうだ?」
「少し落ち着いたかな・・・」
「何か食べるか?」
「いや・・・いらない・・・。」
「そうか・・・」
「・・・」
「・・・」
少しの沈黙の後、俺は意を決して訊いた。
「あのとき、どうなったんだ?」
星は少し考える素振りをした後、話し始めた。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「―――どこまで憶えていたのだ?」
「俺が、人を・・・刺したところまで・・・」
「・・・そうか・・・」
「・・・」
「・・・」
少しの間沈黙が流れる。
「とりあえず皆にもお主が目覚めたことを教えてくる。」
「ん。よろしく頼むよ。」
星は扉の方へ歩いて行き、扉を開けてから何か思い出したのかこちらに振り向いた。
「そうそう。銀から伝言を頼まれていたな。」
徐庶から?なんだろう・・・
「目が覚めたら屋根の上まで来てほしい、だそうだ。なにやら訊きたい事があるらしいのでな。」
屋根の上?・・・勝手に登っていいのか?というか登れるのか、俺?
「・・・わかった。わざわざありがとう、星。」
「うむ、あまり無理はするなよ。」
徐庶は屋根の上に座って月を眺めていた。
「おまたせ。」
「・・・・・・来たか・・・まあ座れ。」
徐庶がそういったので俺は隣に腰掛ける。
「とりあえず・・・すまなかったな、無理をさして。けど・・・」
徐庶は一息ついてから言葉を続けた。
「真名を教えるにあたって、知りたかったんだ。お前の覚悟を。」
「・・・覚悟って?」
「前に聞いた話だと、お前の世界、少なくともお前の周りでは殺し合いはないみたいだ。だけどこっちでは、殺し合いはそこまで珍しいことじゃない。だからこの世界で生きている人は大抵、最低限の覚悟を持っている。例えば、民を守るためにとか、生きるためにとか、己が信念のために、とかな。」
言われてみれば確かにそう思える部分はたくさんあった。一月とはいえ人付き合いは結構してきた。そのなかで一般人の中にも戦う意思を持った人は少なからずいた。
「でも、お前は今までそんな覚悟を持つ必要はなかったし、実際持っていなかった。それは仕方ない。けどそれで、生き残れるはずもない。なら、何らかの覚悟を持つ必要があると思ったんだ。でも、すぐには思いつかないだろうし、口だけの覚悟は聞きたくなかった。だから体験してもらった。本当は人を殺させるつもりはなかったんだけどな。」
最後の方の言葉は、なにやら申し訳なさそうに聞こえた。徐庶も責任を感じているのだろうか。
「私にとって、今まで相手にそういう覚悟があるだろうっていうのが真名を教える前提条件だったからな。明らかにそういう覚悟を持ってないだろうお前に自分の真名を教えるのに少し抵抗があった。それが今回の盗賊退治に連れて行った理由だな。」
俺は徐庶の説明でなんとなく納得した。徐庶には徐庶なりに考える必要があったわけだな。
「それで、何を思った?」
「えっ?」
「今回殺し合いを見て、殺されそうになり、不可抗力とはいえ人を殺し、何を思った?どう思った?何を考えた?どうしたいと思った?・・・どんな答えでもいい。私は、お前の覚悟が聞きたい。」
「・・・・・・」
徐庶の問いに俺は少し考えた後、思うが侭に話していった。
「・・・俺は、殺されそうになったあの時、刺されてもいいと思った。」
俺の言葉に徐庶は少し眉をしかめるが、口を挟むつもりはないみたいだ。
「俺が刺されても、徐庶か星なら相手を逃がさないだろうと思ったし、何より、人を殺したくないと思った。けど―――」
「けど?」
「そうやって嫌な事を仲間や他の人に押し付けるのはおかしいと思った。もしかしたら俺以外の人は嫌なことなんて思ってないかもしれない。けど、それは俺のことを認めてくれた人への裏切りのような気がして嫌だった。そう思ったら、手が動いて、相手を刺していた。」
一呼吸いれる。そして続きを語る。
「人を殺して、嫌な気分だった。実際吐いて気絶したらしいしね。できればもう殺したくはない。」
「けど、そんなに世の中甘くないぞ。」
「わかってる。だから今決めた。さっき言ってた覚悟とは少し違うかもしれないけど、俺は俺の信じる道を行く。まあ、自分の信じる道っていうのがどんな道かはまだわからないけど、誰かを傷つけるんじゃなくて、誰かを助けるような道にしたい。その道を進むためなら、迷うことなく剣を取る。口で言うのは簡単だけど、やってみせる。どうかな?」
徐庶は少し考えた後、こっちをむいて少し微笑んで言った。
「・・・いいと思うぞ。その覚悟。」
・・・徐庶の微笑みが可愛かった。
「よ、よかった。(////)」
「それじゃ、―――北郷一刀、お前に私の真名を預けよう。私のことはこれから銀と呼んでくれ。私はお前のことを一刀と呼ぶことにする。改めてよろしくな、一刀。」
「こちらこそよろしく、銀。」
「さて、ついでに言うことが二つある。一つ目は―――」
銀は一息入れて、言った。
「―――理想には犠牲が必要だ。」
「えっ―――」
俺はなにか言おうと思ったけど、銀の眼があまりにも真剣だったから、口を挟めなかった。
「お前がどんな理想を抱いて自分の道を進むのかは知らないし、否定してもかまわないから、この言葉は憶えていてほしい。」
「・・・わかった。憶えておくよ。」
「二つ目、明日から氣の使い方も教えていく。」
「えっ?氣って・・・こう、ドラゴン○ールとかに出てくる手からこう光線を出すとか出来るやつ!?」
かめ○め波みたいなやつか!?俺に撃てるようになるのか!?
「・・・どらごん○おる、が何かわからないけど、氣弾のことか?まあ、撃てる様になるかもな。」
「じゃあ銀は氣弾打てるのか!?」
当然の疑問だ。今までそんな素振りを見たことはないぞ、俺は。
「私はそういう放出系は苦手だ。」
放出系?放出系以外に何があるんだろう?まあ、そういう小難しいことよりも知りたいのは・・・
「じゃあ、どんなことができるんだ?」
「うーん、今ぱっとできることは・・・そうだな、この外套の秘密を教えてやろう。」
「それ氣と関係あるのか?」
もしかして、マントから何でも出てくるのは氣によるものなのだろうか?・・・いや、何か違う気がする。
「まあ、見ていろ。」
そういうと、銀は立ち上がって目を閉じた。すると黒かったマントが徐々に白銀に輝いていく。そして最終的に銀の黒かったマントは白銀に輝くマントに変わってしまった。その光景はとても幻想的で―――
「この外套は特別製で私の氣を通すと色が変化して硬化するんだ。どうだ?驚いたか?」
「・・・綺麗だ。」
「そ、そうくるか・・・。(////)」
銀の顔が赤くなった気がする。もしかして照れたのか?
「さて、そろそろ部屋に戻るか。野次馬するのも大変だろうしな。」
え?野次馬?
「ふむ、ばれていたか。」
「お兄さんは気づいてなかったようですねー。」
屋根の下から星の顔と風の目+宝慧が現れた。・・・風は身長が足りない様だ。
「い、いつの間に!?」
「ふむ、愚問だな。」
笑みを浮かべる星。
「最初からに決まってるじゃないですかー。」
さも当然のようにいう風。・・・しかし顔は上半分しか見えない。
あれ?一人足りない。さすがに稟はこんなことはしないのだろう。
「稟ちゃんなら、ここに来る前に、『一刀殿と銀が二人きりで夜の逢引き・・・・・・しかも野外で・・・・・・ブゥーーッ』・・・っという感じで大量の鼻血を出して倒れちゃいましたー。」
稟・・・君までそんなことを・・・。・・・そして風、俺の思考を読まないでほしい。
「大量の鼻血って・・・大丈夫なの?それ?」
「大丈夫だと思いますよー。結構日常的なことなので。とりあえず包帯を詰めてますけどー。」
日常的にって・・・そんなの知らなかったな・・・。
「あ、そういえば鼻血が出たときは首の後ろを軽く叩くと止まるよ。」
「そうなんですかー?じゃあ早速やってみてください、お兄さんが。」
「・・・こういう時って『早速やってみます』とか言って自分でやるものじゃないの?」
「一刀よ、こういう事は実際やったことのある者がやるものではないか。」
・・・確かに一理ある。
「まあいいじゃないか。私たちもそろそろ戻ろうかと思っていた所だしな。」
「そうだな。じゃあ稟の所まで行こうか。」
明日からさらに楽しい生活が送れそう。そんな気がした。
・・・ちなみに、稟の所に行った時、宿屋の前が殺人現場のようになっていたのは、また別の話・・・。
あとがき・・・・・・という名の言い訳
どうも、シンジです。更新が遅いのは申し訳ないのですが、それでも楽しみに待っていただけると幸いです。
今回の話は、一刀の覚悟についてでした。この一刀の殺人シーンを取り上げる必要はないんじゃないかと思われた方もいるかも知れませんが、私にとっては必要なところだと思っています。なぜなら、この世界に来る前、一刀は単なる善良な学生であって、殺し合いなんてものとは無縁だったはず。そんな人が殺人を犯した時は、おそらくすごいショックを受けるはずです。実際呉√で一刀吐いてますし、直接手にかけたらこうなるものかと。で、名もなき盗賊さんには踏み台になってもらって一刀に成長してもらいました。
さて、とりあえず仲間の真名はすべて手に入れた一刀。四人との仲を深めつつ、次のステージへ。今までを一章とすると、次回からは二章という風に思っています。どうなるのかは次回のお楽しみということで・・・
それと、今頃気づいたのですが、オリキャラである銀の詳しい情報を載せていなかったので、ここで載せたいと思います。
徐庶元直
姓:徐 名:庶 字:元直 真名:銀(イン)
性格:気まぐれ、奔放。とりあえず人生面白いことがあればそれでいいと思っている。自分が認めていない人の名前は覚えない。多趣味でいろいろ出来る。結構S気がある。嘘はあまりつかない、というより自分の欲望に忠実で正直なだけ。でも抑えるところは抑える。
外見:日光が当たる時はフード付きのマントを羽織って顔を布で覆っていて、素肌は目元しか見えない状態。普段はマントも前で軽く止めているから中の服も見えない。日光が当たらないときはフードをとる。髪は銀髪のロングで腰の辺りまで伸びていて、目はつり目で真紅。マントの中は、上が濃い青の袖なしチャイナ服、下が灰色の短パン。肘から手にかけて包帯でぐるぐる巻きにされている。足には具足。身長は愛紗と同じぐらい、胸は愛紗と星の間ぐらい。スタイルよし。
武器:状況と気分によって変える。例えば・・・
・ 大鎌(華琳のより大きい):死刻影
・ 棍棒:螺穿棍
・ 双剣:煌翼
・ その他、投擲用武具多数・・・など他にも増えたり、名前が変わったりする予定。
武力:強い。単純な武力では夏侯惇、関羽に近いレベル。ただ自分に出来ることを把握し、臨機応変に行動するため、一騎打ちなどのタイマンでも飛将軍・呂布相手でも負けないほどの実力を出せる。
智力:賢い。本職が軍師だからまあ当然といえば当然。
今のところはこんな感じで。ここに書いていないことはまた本編で出てくるはずです、たぶん。・・・なんかこれ書いてて銀強すぎね?と思ってしまった・・・。
では、次回を楽しみにして待っていただけたら幸いです。
おまけ
「そういえば銀、俺の名前いつ覚えたんだ?」
「ん?半月ぐらい前には覚えてたぞ。」
「えっ?じゃあ、なんで毎回名前間違えてたんだよ?」
「だって、その方が面白いだろ、主に私が。」
「・・・・・・・」
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どうも、やっと四話です。
なかなか話が進みません。頑張らせてもらいます。