No.942672

紫閃の軌跡

kelvinさん

第115話 白隼の静かな怒り

2018-02-23 20:17:54 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2846   閲覧ユーザー数:2495

~トールズ士官学院~

 

この国の将来の行く末に左右しかねないことを話すこと自体あの連中と変わりないのでは、とも思うが……本来封聖省絡みの義務の殆どを取っ払ったのは目の前にいる第三位と第七位である以上、第四位であるトワにはどうすることもできないので溜息を吐いた。

 

「そういえば、情報網に使ったアーティファクトってもしかして……」

「ああ、オリビエの持っている代物だ。それを一時的に貸してもらう代わりにそのアーティファクトの所有者に認定した。総長もそれを認めて全守護騎士に伝達してある」

「そんなことしていいの?」

 

本来アーティファクトの回収・管理を任務としている以上、そういった使い方をする輩からアーティファクトを取り上げるのが筋なのかもしれない。だが、アスベルはそれを利用した。

 

「確かに悪用するのならば接収したり処罰すべきだろうが、目の届くところで管理できるのなら話は別だ。それに、その程度で目くじらを立ててたら『騎神』はどうなるんだって話だ。あれこそ一番厄介だぞ」

「あー……確かに」

 

ぶっちゃけ壊すぐらいならアスベルやシルフィア、レイアを含めた一部の面子で可能。だが、それで呪いが解けたりする可能性とかを考えたときの対処が“まだ”構築しきれていない。だったら、目の届く場所で管理していたほうが遥かにマシだ。それに……

 

「シオンの所持している騎神、<白銀の騎神>イクスヴェリアに内包されてる力を調べたんだがな……あれ、絶対表に出せないことが判明した」

「ねぇ、騎神の動力源が『鋼』ってことは聞いてるから、まさかとは思うけれど……」

「<幻の至宝:虚ろなる神(デミウルゴス)>―――<七つの至宝(セプトテリオン)>の一つである幻の至宝が内包されてる。ぶっちゃけていえば、あの機体一機で他の騎神七機全部相手でも勝てるだろう」

「え……マジで言ってる?」

「マジも大マジだ。それ知ったシオンも頭抱えたほどだぞ。曰く『確かに強い機体に乗れる資格が欲しい』とか願ったらしいが、上位属性の一角を担う至宝丸々一個一機の騎神に載ってるんだ。それに<理>の先に至ったシオンが乗ったらどうなる?」

「無双ゲーにしかならないね」

 

ただ、この状態のデミウルゴスへのアクセス権を持つのはシュトレオン王子ただ一人であり、無尽蔵に願いを叶える機能は騎神という遮断機構によって制御されている状態だ。とはいえ、彼曰く『頼り切ったら負けだと思う。ただでさえクローゼとかアルフィンが俺の負担をかなり減らそうとしているのに…俺はヒモになりたくない』ということなので、騎神の動力源はアスベルとシュトレオン王子の二人、そして今話した三人以外知らない。

 

実のところ、彼が転生した段階でリベール王国は二つの至宝を抱えていたことになる。知らず知らずのうちにクロイス家の悲願を達成しまっていたことに一時期ショックで寝込んだことがあったらしい。もう少し自重できなかったんですか、幼女神(ときのかみ)クロノス……むしろ、どれだけのストレスを抱えて、自分らのような比較的まともな部類の人間が次々ときて、喜びのあまり常識の箍が外れてチート能力をポンポンと渡した心境は推して測れない。自宅の奥のほうにこっそり祠でも作ってお祈りでもしておこうと決めたうえで、アスベルは脱線した話を修正する。

 

「話を戻すぞ。俺がこの世界に転生される際に受け取った能力の一つに『アイテム無限保持』というのがある。実は内密に色々実験をしたら、とんでもないことが解ってな」

「その名前だけでも恐ろしい気がするんだけれど、どうして今まで言わなかったの?」

「無限保持ということは、消費リソースを考えなくて済む。となると、権力者たちがそれを知ったらどうなる?」

「何かしら強い繋がりで縛るってことだね。現にリベールに縛られているけれど」

「この国はなんだかんだで気に入ってるし、シオンの行く末は見ておきたいからな。あの親父が本気で後継者に推すつもりなら、大衆の前でフルボッコにして母さんに説教させるつもりなので、そこんところはよろしく」

「この前リシャール大佐がボロボロになってたのはそれの一端ってことだったんだね…」

 

また話が脱線したので、戻しにかかった。確かに転生特典は強力なものが多いのだが、それに頼り切れば慢心や綻びを生む。なので、どうにもならない時の手段の一つぐらいにしか考えていなかった。アスベルが八葉一刀流を極めようと考えたのも、確かな実力を得れば回復薬などのアイテムに頼り切ることはないと判断した。その方針でずっと来ていたので半ば忘れかけていたのだ。

 

で、『アイテム無限保持』というのはつまるところ『持ち運び可能なストレージボックス』みたいな扱いだ。どこかの青い猫ロボットのように生きた生物を入れるのは不可能だが、魔物の素材やクオーツ、セピスなどをバンバン入れてもかなりの余裕があるほどだ。試しに一度釣って捌いた魚を入れたら、無事に入った。しかも鮮度を保ったままで。ここまでならば小説などでよくあることだろう。

 

だが、幼女神はそれを更に進化させたものを付与したのだ。それも『無限保持』という物理法則などどこ吹く風と言わんばかりの能力を。アスベルはこの世界に転生してすぐにゼムリアストーンの武器や食器などを作製した。この時点で気付くだろう……そう、ゼムリアストーン自体そう簡単に手に入らない代物。ゲーム知識なら『RPGゲームをスタートからクリアを一周やってやっと1~2個』の代物を平気で使ったことすら忘れていたのだ。割れない食器ができたことにありがたみは感じていたものの、ここ最近この技能を使う機会すらなかったので半ば忘れかけていた。やっぱり、お詫びも込めて祠でも作ろうと思いつつ、アスベルは話をつづけた。

 

「元々貰った武器は駄目だったんだが、試しにボックスリストになかった武器を一本放り込んだんだ」

「どうなったの?」

「一瞬で増えた。一本取りだしても数が減らなかった」

「あー、もしかして帝都の宝石店に預けてるセピスって」

「スキルの実験の産物だよ。流石に自重はしたが……しかも、アーティファクトまで放り込んだらそれが無限になるって時点で、迂闊に使えないと判断した」

「それが正しい判断だと思うし、知ったら寧ろ教会の上層部がひっくり返ると思うな…」

 

危険なアーティファクトをポンポン量産された日には、それを管理する側が根を上げるのは明白だ。だから、このことは今話した三人と本人以外知らない。しいて言うならこの能力をくれた神様ぐらいだけだ。ちなみに、<天壌の劫炎>についてはボックスに放り込む前に<聖痕>に取り込まれている。あんなのが無限に生み出されたら世紀末一直線だったので、こればかりは不幸中の幸いであった。

 

「ちなみに<塩の杭>もリストにある」

「あ、これ逆らったらいけないやつだね。うん、アスベル君には逆らいません」

「矯正不可能な外道とかゲス野郎はともかく、いくらなんでも自分の嫁に使う真似は絶対にしないぞ」

 

またまた脱線してしまった。要するに、オリビエの持っている通信アーティファクトを一時的に借りて、アスベルのボックスに放り込み、一個を取り出してオリビエに返した。その方法による力の減衰・分散はなく、問題なく使えることを今までの実験で判明しているが、返したものも無事に使えることを確認している。

 

「ねぇ、ちなみにだけれど……」

「一応最大列車砲クラスまでなら入る。あんなの量産しても溶鉱炉行きにしかならないが。あと、<七つの至宝>と『騎神』は絶対に入れたくない」

「私は未来の夫が物凄く魔王のような存在に思えてきたよ」

「統治とか興味ないんでパス」

 

世界征服に興味はありません。嫁とキャッキャウフフできる程度の生活さえ送れれば文句はありません。ただし嫁(候補)や大切な人たちに危害を加えようものなら、周りに一切迷惑をかけず物理的・社会的に完全抹殺するだけです。どっかのアニメのセリフを借りるなら、『そんなこと(国の統治)はできる(政に明るい)奴がやってくれ』というだけの話だ。

 

「軽々と物理法則無視する代物使って勝ったところで意味ないだろ? どうにもならない不条理でない限りは下手に乱用するほうが危険だろう」

「言わんとしていることは解るけれどね。でも、<身喰らう蛇>というか連中対策はどうするの?」

「クロスベルについては、支援課の連中が復活次第取り掛かることになるだろうな。本来の計算だと一か月後と見込んでいたんだが…」

「何かあったの?」

「ロイドのことだよ」

 

原作では教団に捕まることなく、平穏に暮らしていた少年だった。だが、この世界では教団に捕まり実験の影響を受けている。同じ支援課メンバーの彼女ほどではないにせよ、とある薬物の影響で未知の力に覚醒していた。そして、支援課が助けた少女の影響によってその力が彼に馴染み始めたみたい、と知り合いから定期的に連絡を受けていた。

 

「既にあと一押しの段階まで来ているそうだ。“彼女”のことで決断したら、後は突っ走るだけだろう」

 

実はシュトレオン王子伝手でロイド・バニングス、エリィ・マクダエル、ティオ・プラトー、そしてランディ・オルランドの四人にブレスレットを送った。あれは特殊な代物で、身に着けている本人以外には認識されない特殊な法術を施している。彼らが強い意志をもって立ち向かうと決めたときに起動する仕組みとなっている。

 

「はい、質問」

「なんでしょうか、トワさんや」

「こういう時ぐらいさん付けはやめてほしいんだけれど……でも、そこまでするメリットってあるの? そんなことしたらカルバードから非難が飛んできそうだし」

 

疑問も尤もだろう。リベールからすれば、勝手に因縁吹っかけられて争いに巻き込まれるようなものだ。それに、もらった領土が将来クロスベルの土地になったとなればエレボニアはもとよりカルバードから恨まれる可能性があるのではないかという懸念だろう。だが、それについてアスベルが答えた。

 

「ああ、そのことか。ここだから言うけれど、カルバード共和国という国は西ゼムリアから消えてもらう予定だから」

「ええっ!?」

「アスベル、どういうこと?」

「これは俺の決定というよりシオンの決定というべきだろうな。奴ら、何やったと思う?」

「うーん、<黒月>の件だと押しに弱いとなると…やっぱクローゼの両親を暗殺した嫌疑?」

「それもある。だが、決定的なのは<百日戦役>の件だ」

 

このことを耳にしたのは六年前。D∴G教団の後始末絡みでカルバード共和国の調査を行っていたとき、極秘裏に潜入した大統領府からいくつかの国家機密を盗み出した。これは元々アルテリア法王からの勅令でもあったので、カルバードは表沙汰にできなかったのだ。仮に公表した瞬間、教会の庇護を受けられなくなるからだ。

 

原作では宗教的権威しかなかったが、アスベルらの工作やシルフィアの姉であるアイン・セルナート総長による“大改革”によりその力を復活させたアルテリアの発言力はもはや無視できないものになった。その際荒廃している東ゼムリアの土地を根こそぎ買いあさり、復興のための手筈も既に差配しているので問題はない。その件で法王自ら頭を抱えることになって、胃薬片手に執務をする羽目になったのはここだけの話だ。

 

話がそれた。

 

その中に、当時の共和国政府と帝国政府が密約を交わしていた文書が見つかった。内容は帝国がリベールを治める代わりにノルド高原東半分の領有承認、および将来的にカルバードがレミフェリア公国への侵攻を黙認するということであった。流石に片方だけだと偽文書の可能性もあったが、帝国からも同様の文書が見つかったことと文書のサインした人物が本人であるという証言が帝国と共和国両方から得ることができた。その方法は裏技じみたものだが気にしていない。

 

「偶発的に暗殺を止められず、援軍も間に合わなかっただけなら情状酌量の余地はあった。だが、そんなのが出てきたなら誰だって偶然で済むか、って言いたくなる。<百日事変>での一件も筋が通ってしまうという有様だ」

「通商会議での一件だって、下手すればその延長だって言われるだろうし……というか、燃やせばよかったのに」

「燃やせなかったんだと思うわ。多分お互いにその条件が達成された時点で焼却するつもりだったと思うけど」

「領土的野心があったから残したってことだよね……」

 

既にこのことはリベールのアリシア女王とシオンもといシュトレオン王子、レミフェリアのアルバート・フォン・バルトロメウス大公とルーシー・セイランド駐リベール大使、アルテリア法王に報告・連絡済みだ。元本についてはその被害を大きく受けているリベールにて厳重保管の処理がなされている。それを伝えた時のシオンの怒りがARCUSのスピーカー越しに伝わってきたときは、流石に冷や汗を流すほどだったとつけ加えておく。

 

「十中八九、エルザ大使やダヴィル大使はこのことを知ったらぶっ倒れると思うぞ。何せ、二大国が共謀して我が国やレミフェリアを脅かそうとした事実が明るみに出たら、二国の内戦や混乱は確実に年を越えることになる」

 

しかも、この調印をした勢力も問題なのだ。カルバードは当時の主導を握っていた最大勢力の与党がそのままロックスミス大統領の支持基盤になっている。エレボニアに関してはその調印を主導した派閥が現在の革新派トップであるギリアス・オズボーン宰相の支持基盤となっている点だ。つまり、クロスベルの一件についてもこの文書をベースにキリカ・ロウランとレクター・アランドールが話を進め、正規軍による分割統治をセッティングされた可能性が浮上したのだ。

 

その辺の裏取りも既に済んでいる、というかそのあたりの調査をぜんぶやったのがマリク・スヴェンド率いる<翡翠の刃>であった。加えて細かい裏取りの部分をルドガーが行っていて、ルドガーにはその見返りとしてリベールの住民権とか国籍諸々を準備している。まぁ、トールズ士官学院への留学の際はルドガー自身アルバート大公との面識があり、レミフェリア公国からの留学生ということになっているのだが。

 

「こちらの想定している内容で万が一両国が攻めてきた場合、警告はしてやるが情けをかけるつもりはないとシオンは言っていた。たとえ『ハイアームズ家やアルバレア家伝来の地の奪還』とかいう国際条約を無視した大義名分でもな」

「で、その事実は公表するの?」

「早くても再来月中旬だな。遅くても年内にこの事実を公表すると聞いている。心臓撃ち抜かれても死なないような輩に義理立てする余地はないし」

「それもう人間じゃないよね」

 

内戦の混乱を収めるためにオリヴァルト皇子が動くのは想定済みだし、知り合いもそのために動くことになるだろう。だが、それはあくまでも『エレボニアの都合』である。辛辣な言い方にはなるが、エレボニアとカルバードにはクロスベルの分も含めて過去の清算をしっかりやってもらわねばならない。できないようなら所詮その程度の器であっただけ……それなら潰れてもらったほうがありがたいというものだ。

 

「でも、カルバードは滅ぼすのにエレボニアは残すの?」

「そのあたりはシオンの裁量だな。将来の側室が気に病むような禍根は残したくないんだろう」

「あとはトールズ士官学院の常任理事という配慮なのかもね」

 

仮にノコノコ自国の領土に土足で入ってくるようなら遠慮はしない。そのための手筈も既に整えた。残る要素としては、『鉄血の子供達筆頭』との知恵比べだけだろう。これについては、すでに調べがついた。正直に言って、バリアハートでの実習の時点で何かしら疑問に思わなかったのかと後悔はしたが、そのおかげで早とちりすることなく裏取りができたのである意味感謝はしている。

 

「さて、そろそろお昼だし、この辺にしとこうか。…視線をこっちに向けてる人もいるし」

「ああ、あの人ね」

 

ここにいる四人は窓を覗かなくても気配で視線を探れるレベルにいる。とはいえ、何を見たとしても外側からは楽しそうに雑談するぐらいにしか見えないのだ。その視線の主はアスベルにしてみれば同業者なので、特に咎めるつもりもなく生徒会室を後にした。

 


 
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