それは人里離れた森の奥深く、獣の耳と尻尾を持った亜人族の住む、ネツァクという国がありました。そこに羊の耳と尻尾を持つ、シープルとメリルという、仲の良い姉妹が住んでいたそうです。
「おねえちゃん、メリルがおてつだいすること、なにかあるー?」
すると、トントンとドアをノックする音がします。シープルは編み物をしている手を少しだけ止めて言いました。
「あら?お客さんが来たみたいね。メリル、ちょっと見て来てちょうだい」
メリルがドアを開けると、犬の耳と尻尾を持つ、ビーグルンが遊びに来ていました。
「メリルちゃん、聞いてぇ。ピプル族の男の人から、また女の子に間違われちゃったよぉ。ボクってそんなに男らしくないのかなぁ」
「んー、ピプル族は鼻が良くないから、匂いでわからないんだと思うよー」
「ボク、もっと男らしくなりたいなぁ」
「男らしくしなきゃって言うの、おかしくないかなー?ビーグルンはそのままで良いと思うよー」
「でもボク、可愛いって言われるのも、女の子に間違われるのもイヤだよぉ…」
「メリルは女の子らしくしなさいって言われるのがイヤー。だってメリルはメリルらしくしてるのー。だからビーグルンもビーグルンらしくしてれば良いよー」
そこへ、奥の部屋からシープルの声が聞こえて来ました。
「メリルー、お客さんに紅茶を淹れて差し上げて?」
「はーい!ビーグルン、中に入ってー」
メリルが台所に行ってしまうと、ビーグルンはシープルの座っている、安楽椅子のそばへ行きました。
「あらあら、ビーグルン君。いらっしゃい」
「メリルちゃんはボクのこと、男として見てくれてるのかなぁ…」
「ビーグルン君はメリルのことが好きなのね?」
「ち、ち、ち、違うよぉ!メリルちゃんはただの幼馴染だから…」
「ウフフ…。隠したってお姉さんにはなんでもお見通しよ?」
シープルは話しながら手を止めず、目にも留まらぬ速さで二本の編み棒を動かして、正確に編んでいます。ビーグルンはまるで魔法でも見ているような気分でした。
「ボク、メリルちゃんから頼りにされたいよぉ」
「複雑な男心ね…。お姉さんにはわかるわ」
「メリルちゃんはボクのこと弱いって思ってるらしくて、頼りにしてくれないんだ」
「別に弱いとは思ってないけど、メリルは自分のことは自分でする子だから誰かに頼ったりはしないかもしれないわね」
「ボク、どうしたらいいのかわからなくてぇ…」
「ねぇ、ビーグルン君の得意なことって、何かしら?」
「得意と言うか考古学には詳しいよぉ」
「じゃあ、考古学を頑張っていれば、きっといつかメリルに見直してもらえるはずよ?」
そこへメリルが紅茶を淹れて運んで来ました。かぎ編みレースのテーブルクロスの上にティーカップやシュガーポットを綺麗に並べます。
「ありがとう、メリル。さあ、紅茶が冷めないうちにどうぞ?」
「おねえちゃんの手作りクッキーもあるよ」
「いただきますぅ。…熱ッ!」
「大丈夫?フーフーしてから飲んでね」
「ベロがヒリヒリするよぉ…」
ビーグルンは泣きそうな顔で舌を出しながら言いました。
「クッキーを紅茶にひたして食べるとおいしいよー」
「本当だぁ。すごくおいしい」
「でも姫はこの食べ方はダメって言うのー」
「メリルはマルクト王国のユーリカ姫と仲良しだものね」
シープルはニコニコしながら、二人がクッキーを頬張るのを見ていました。
…つづく
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オオカミ姫の羊の獣人の姉妹の二次創作ストーリーです。