所変わって、マルクト王国の王女、ユーリカ・セフィ・ラ・マルクトの自室。煌びやかな装飾の施された、見事な家具が並んでいます。
「姫様の為に最高級の食材を取り寄せて、わたくしの専属パティシエに作らせました。ささ、どうぞお召し上がりになってください!」
胸に青いバラのコサージュを付けた、ブロンドの身なりの良い青年が、宝石箱のようなスイーツの盛り合わせを、差し出しました。
「いらないわ…。わたしにはロジェの持って来たスイーツは口に合わないの!」
「そんな!世界一の食材を集め、世界一のパティシエを雇って作らせたのに…」
「どこが世界一なのよ…。団長!世界で一番おいしい『アレ』を買って来てちょうだい」
「はっ!『アレ』でございますか?承知しました」
冴えない顔をした中年の騎士が、城門から出て行きました。ロジェは城門の脇から覗いています。
「姫様の言う世界で一番おいしい『アレ』とは一体何だろう?団長殿の跡をつけてみよう…」
再びネツァクの山奥にあるシープル宅。台所でシープルがエプロン姿に着替えています。
「メリル、夕飯の支度をするから街までお買い物に行ってきてちょうだい」
「はーい、おねぇちゃん。ビーグルン、街まで行ってくるねー」
「メリルちゃん、ボクも一緒に行くよぉ」
街に着くと人混みでメリルとビーグルンは、引き離されてしまいました。知らないおじさんがビーグルンに話しかけてきます。
「そこの可愛い子、いい物買ってあげるからついておいで」
「ボク、急いでるから…ごめんなさい!」
慌ててビーグルンは人混みを掻き分けて、メリルのそばに駆け寄ります。
「さっきの人、すごくイヤな匂いがしたよぉ」
「悪いこと考えてるピプル族は、匂いですぐわかるよねー」
メリルはシープルに頼まれた物を買いました。ビーグルンも荷物を半分、持ちます。
「姫となかよしのだんちょーさんは、いい匂いがするのー」
「ボクも団長さんの匂いは大好きだよぉ」
甘い匂いの漂う店の前に、鎧を着込んだ冴えない顔の騎士が立っていました。
「あれー?だんちょーさんがいるー」
「本当だぁ!団長さん、こんにちは」
「はは!両手に花とはこのことですなぁ」
団長の右手にメリル、左手にビーグルンがぶら下がっています。
「ビーグルン殿、そんなに鼻を近づけては…汗臭いでしょう?」
「ううん!団長さんは大地みたいな、いい匂いがするよぉ」
ビーグルンは団長の鎧をクンクンしています。
「だんちょーさんは、こんなところで、なにしてるのー?」
「姫様におつかいを頼まれましてな。例の『アレ』を買いに行くところですよ」
「あー、姫の大好物の『アレ』だねー?」
「メリルちゃん、例の『アレ』ってなぁに?」
「ふっくらしてて、お口の中いっぱい、甘くておいしいのー!」
少し離れた物陰からロジェがこっそり覗いていました。
「なるほど、ユーリカ姫の大好物の『アレ』はふっくらしていて、甘いのですね…」
…つづく
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オオカミ姫の羊の姉妹の二次創作ストーリーです。更新が遅れて申し訳ありません。