No.935251

主従が別れて降りるとき ~戦国恋姫 成長物語~

2017年が終わろうとしていますがなんとも更新のできない1年でした。来年は恋姫含め、進めていきたいし更新を頑張っていかなくてはなあと思っております。今年の投稿はこれで終わりになりますが、どうか来年もよろしくお願いいたします。

2017-12-31 00:10:43 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1573   閲覧ユーザー数:1522

15話 章人(12)

 

 

 

 

 

 

「朝早いならそう言ってよ、まったく……」

 

「こういうときは自分で作るよ。一度帰ってきてから昼の分の弁当はまたもらいに来る」

 

まだ夜明けよりだいぶ早い時間ではあったが“川遊び”の準備のために出かける準備をしようと起きたのだった。勿論信長はまだ眠っているが、帰蝶はたまたまのどが渇いて起きたのである。章人が火を熾し朝食を作ろうとしていたのを見て言った第一声はそれだった。

 

「わかったわ。ところで、いつから刀を二本持つようになったの?」

 

いつもは純白の刀一本を携える章人であるが、今日はそれに加えてもう一本刀を所持していた。

 

「いつから、と言われると久遠から費用を落とさせてから、だよ。よくよく考えるとこの刀で凡百の人を切るのは刀に失礼だと思ってね」

 

「刀に失礼……ってなにを大げさなと思ったけど、その刀ってまさか“鬼切り地蔵”じゃないでしょうね?」

 

帰蝶もいわば特権階級の出であるため、“鬼切り地蔵”の伝説――曰く、さる時代に畏き辺りからある一族へ下賜された刀である。その刀にはある刻印が彫られているが、通常は白い布で封印されているため、傍目には純白の刀にしか見えない――を知っていたのである。

 

「おや、知っている者がいるとは。ここに来てから誰からも言われていないからねえ……。伝説は眉唾なのかと思っていたけれども、そうではないようだ」

 

「本物!?」

 

「恐らくこの時代にもこの時代のこの刀があるはずだけどね。紛れもなく本物だ。ただ、さすがに触らせるわけにはいかない。久遠ですら触ったら腕を切らねばならなくなるかもしれん」

 

「さすがにそんな無礼な真似はできないわよ……。そのかわり、どこにいくのかだけ教えて」

 

「山の中だよ。長良川の上流だ。ただし、他言無用だぞ」

 

「はぁ!? あんなところまで行くつもりなの!?」

 

「とても重要なことだからね。ついでに釣りでもできればいいが難しいだろうな。さて、行ってくる」

 

「行ってらっしゃい。気をつけなさいよね!」

 

そうしてまだ暗闇の中、長良川の上流という今回の作戦の最重要地帯まで馬を走らせるのだった。目的は二つである。自分の目で拠点たり得る場所を見定めることと、簡単な筏を作ること。本来であれば木下秀吉を同行させたかったが、それをしてしまうと筏を作った後にやりたいと思っていることができなくなるため、一人でやるしかないと考えたのだった。

 

「刀で木を切るのも初めてだったが、案外上手くいくものよなあ」

 

そんなことを呟きながらもう一本の刀で木を切り、あっさりと筏を完成させた章人であった。目印をつけて拠点から去り、また信長の家へと戻る章人であった。

 

「おはよう久遠。どうした、そんな不機嫌そうな顔をして。」

 

戻って早々、怒りの表情を浮かべた信長を見た章人

 

「どうした、ではない! 我が寝入っている間に一仕事済ませてきたというではないか!」

 

「それがどうしたと? 普通にありうることだろう?」

 

「それは……そうなのだが……」

 

信長としては、自分の執務がないときならば章人の仕事ぶりを間近で見ることができるため、それができる貴重な機会が潰されてしまったという思いがあった。

 

「今後いくらでも私の仕事を見る機会はあるだろうし、そんなに気にするな。飯を食ったらまた一日が始まるぞ」

 

そうして信長邸を出て木下秀吉と合流し、再び蜂須賀正勝の住居を訪れる二人であった。

 

「早速ですが、二千二十一貫ほど出していただければ、二千人ほど動員は可能です。長くとも作戦には二十日ほど準備期間をいただければと思います」

 

「それならまあ……何とかなるかな。なら、契約は成立だ。よろしく頼むよ」

 

「はい! ところで昨日からずっと気になっていたのですが、その白刀は“鬼切り地蔵”なのでしょうか……?」

 

「鬼切り地蔵……?」

 

あまりにいろいろなことがありすぎて聞けずじまいだったある疑念。それは章人が持つ白刀である。それを持つ者には絶対に逆らってはいけないという話もあった。

 

「ご名答。情報を武器としているというのは伊達ではないようだね」

 

「ころちゃん、鬼切り地蔵、って……?」

 

「“封”をされている刀なので傍目には純白の刀にしか見えないけれど、その封印を解くと何かが現れる、って。直系の一族以外は刀に触れることすら許されないって話で、鎌倉や京の将軍でさえその刀を持つ人には逆らえないって噂なの」

 

「仰るとおり。と言っても封を解いたところで“鬼”が出てくるわけでもないんだけどね。ある家紋が出てくるだけだよ。一つは秘密だが、もう一つなら明かしてもいいだろう。“牡丹”だ。まあそう言ってしまえば推測はつくかな」

 

「牡丹……」

 

「牡丹を家紋にしてる家っていうと……? 荒木村重殿??」

 

「そんな傍流じゃないよ、間違いなく。ある家が使ってらっしゃる家紋が牡丹紋なの」

 

家紋にそこまで詳しくない木下秀吉から正答は得られなかったが、蜂須賀正勝は否応なしに理解してしまっていた。牡丹紋は摂関家で一番の家である、別格の名家の家紋である。同時に、それと一緒に彫ってあるという家紋も推測がついてしまっていた。と同時に、それだけの家の出だからこそ変に威張っていうわけでもないのに所作や雰囲気から高貴さがにじみ出ているのだと理解してもいた。

 

「さて、同意がとれたわけだしひとまず現場を見に行くとしようか。なんとか3人乗れるだろう」

 

「そうですね! 場所の視察はとても大事です!」

 

「はいぃ……。」

 

元気よく返事をした蜂須賀正勝と違い、木下秀吉には疑問と恐怖心があった。朝の時点で“ぬれてもいい服で来い”と言われたからである。章人がただ川遊びをしようなどという人物でないことはよく理解できていたのである。

 

「今朝のうちにちょっと見てはおいたんだ。この辺りならどうだろうか?」

 

「全く問題ないと思います。」

 

「筏……?」

 

そこにあったのは明らかにそこにあったであろう木と藁の縄で作られた筏である。木下秀吉が提案したものそのままであった。

 

「あの、まさかとは思いますが、それで川下りなんて言わないですよね……?」

 

「まさかとは? 私たちが無理なら物だけ運ぶなんて絶対無理でしょ? そのために目立たない農民の服を着てきたわけだし、下っちゃいましょう、長良川」

 

「え……。」

 

「でもそうなんだよね……。比較的北の方から川下りだから途中問題なく物を流せるのか、それが一番心配なとこなんだよね。流す上流と受ける下流と一部中流にも配置はできるけど、それだけで問題なく物資が輸送できるかが、この作戦で一番の問題」

 

まさか川下りに賛成なのか、と絶望的な目で蜂須賀正勝を見る木下秀吉であった。

 

「こうなったら行くしかないよ。それに、ひよ一人で馬に乗って帰るのは無理でしょ?」

 

「大丈夫大丈夫。障害物は何かあったら斬ればいいんだから。ただ墨俣から尾張まで帰りは歩きだから、そこの心配だけだな。体力はつけないと生き残れないぞ?」

 

「はいぃ……。」

 

今度から提案は現実的に自分がやってもいいかまでを考えて机上の空論だけで言うのはやめようと密かに誓った木下秀吉であった。

 

「物だけを流したときに大破する急流とか滝はないね、少なくとも」

 

「障害物は早坂殿が全て斬ってくださいましたからね……。石って斬れるんですね……」

 

「当たりさえするなら銃弾よりよほどかたいのが刀だからねえ。石くらい斬れるさ」

 

「怖かったけど楽しかったです……。。ただ、ここから歩いて帰るのですか……。馬って偉大ですね……。」

 

清洲から長良川の上流まで馬で走り、そこから墨俣まで川下り。墨俣から清洲までは40キロないくらいであり、明日清洲に戻るまでの一日でほぼ三角形の3辺を移動するとはなあ……と章人は頭の中で考えていた。

 

「明日の昼間にはつけるかな」

 

「ですね。夜中も歩くなら明け方にはつけるでしょうが、今日はそこまですることもないでしょうから、それで大丈夫でしょう」

 

「章人殿は結菜様の料理を食べていらっしゃると思うのですが、今晩はこの乾飯で大丈夫ですか?」

 

「そりゃもちろん。魚もとれたし贅沢なんじゃないの? 乾飯と水と塩しかないと思ってたんだから。しかし川の水も美味しいねえ」

 

木下秀吉にしてみれば、自分がよく行く店を“大して美味しくない”とあっさり告げる人物が明らかにそれより美味しくない携帯用の飯で満足するはずがないと思っていたので恐る恐る聞いたが、章人は全く問題ないと告げるだけであった。むしろ川釣りのえさに一番いい餌は現地調達であり、その中でも細長い虫より平べったい虫のほうが上物であるなどということも知っていて驚いてもいた。

 

「“相手”に見つからないように一人ずつ交代で番をしようか。」

 

「はい!」

 

そうして無事に一夜を過ごし、翌日無事清洲と蜂須賀正勝の家までそれぞれ戻った章人一行であった。

 

「でねえ、ひよ。基本私はころのほうの監督はできないから、たまにひよが見てあげてくれるかな?」

 

「と、いいますと・・・?」

 

「ありがたくないことに私は少々目立つ。雛を借りて一緒に調練でもしてから陽動をすることにするから、基本ころの監督というか助力はひよに任せる。それと……」

 

「確かにそうですね……。他にも何かありますか?」

 

「老君、姿を現してくれるかな?」

 

「心得た」

 

章人が一瞬言いよどみ、何があるのだろうかと思った木下秀吉であった。その答えは太上老君である。常に姿を消す力を持った仙人である。章人を常に観察しつつ一応“護衛”の任も果たしてはいた。病気から護る結界を使う以外は一切必要ないだろうとは思いながら。

 

「え? え? え?」

 

「これからは“鬼”との戦いも重要になってくるんだけど、その為に力を借りている人物だ。といっても戦ったりすることは特にないし、基本的に姿を消しているのだけどね」

 

「その方をどうして私に見せたのです……?」

 

「これまで得られたのは少ない情報ではあるけれど、私は今後この世界がどう動くか、その予想がだいたいついているし、見えている。自分がどう動くかもね。そうだな……。始めたときから終局の見えている将棋のようなものだ。しかし、自分を上回る敵がいる可能性も考えると、どうしたって自分一人ではどうにもならない面があるだろう、そうなると、誰かの力を借りる必要がでてくる。そこで私が考えたのはひよ、君だ。君の発想は極めておもしろい。示唆に富んでいる。

 

だからこそ、彼の姿を見せることが意味のあることに思えたんだよ」

 

「と、いうことは久遠様や結菜様もこの方のことはご存じないわけですね?」

 

「そうだね、それが何か?」

 

この、自分がお仕えしている人物でさえも、微細な心の動きが読めないこともあるのだろうか、と思いながらその事実を聞いた木下秀吉であった。

 

「一般的な方法でこの方が姿を現すことは恐らく無いのでしょう。それでも、絶対にないとは言い切れない以上、最低限久遠様、結菜様、壬月様、麦穂様の4人にだけはこの方の存在を伝えておくべきだと私は思います。そうすれば、中枢にあたる5人の絆が揺らぐ可能性をさらに減らすことができると」

 

「ふむ……。それもそうだな。老君、奴にはそれができるのか? 君の姿を無理矢理現すようにする術を使うことが」

 

「恐らく可能だろう。奴の力の底は私にもわからないし、逆もまた然りではあるけれども……」

 

「なぜそれを言わないのか……。ただ、これでひよに言った意味は大いにあったと言えるだろう。とはいえ今更どう言ったものかねえ……」

 

奴、とはむろん妲己のことである。同格の仙人であり、同じ目的である異分子排除のために千砂の意のままに動いているであろう人物。間違いなく遠くない将来に武田とは会うことになるだろうと思っていたが、そのとき出会い頭に老君を引きずり出すくらいのことはやりかねない人物であるのだった。

 

 

 

 

 

 

具体的な数字に関しては原作のをそのままお借りしているところもあります。家紋に関してはたぶんこれ以上綿密な描写はしないので問題ないでしょう。


 
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