もう一歩、もう一歩と足を延ばし宙へと浮かぶたびに体の推進力が増加し、次第にかがんだ体勢から姿勢を伸ばし始める。
大きく腕を振って、もっと加速する。大気の割れ目が僕の腕から起きているような錯覚に陥る。
もっと、もっと。地面をけって宙へと浮かび、加速、加速、加速……
すると、水を差す黒い影がじわりじわりと迫ってきた。その影は、初めこそ見えなかったがそれは手を抜いているかのように思われてしまうほどの加速。この推進力にこの体は追いつけない。
―あと少し…―
後ろに感じた影は真横へと、僕を追い詰める。ゴール目前になり、持久力のせいではなく、彼に追われているという感覚に焦燥感を覚え、上がるはずもない100mという短距離走に心拍が上がる。
風の抵抗をあまり受けないフォームから、次第に姿勢を伸ばし加速を受ける体勢を持続する。このフォームからのより速い加速は見込めず、化け物のように加速してくる彼はもう一歩前へと進んでいた。
―あともう少し、もう少しなのに……!―
「最後まで、最後まで……よーし、タイム言ってくぞ―。駿、11秒90。大輝、0.2遅れて12秒10」
大きな風もないのに、僕の足元で砂埃が舞い上がった。
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少し続きます