「互いの鎮守府の発展と活躍を願って乾杯しよう」
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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)
EX回:第15話(改2.1)<今(NOW)に乾杯>
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Bar Admiralでは少し、しんみりした空気が流れていた。
「あ、ちょっと拙かったかな?」
思わず呟くように私は言った。
(普通Barで酒断(さけだ)ちの話なんかしないよな)
それを打ち消すように提督は、こちらを振り返った。
「よし、わかった! 俺が今から最高の飯をご馳走するよ! さぁ、何でも好きな物を頼んでくれ」
その台詞が終わらないうちに奥の方に鎮座していたブルネイ鎮守府の艦娘たちから矢継ぎ早に注文が飛んできた。
私が酒断ちの話をしたばかりだと言うのにカクテルだのボトルだの、その内訳はアルコールばかりだった。
ブルネイの艦娘たちはBar Admiralに慣れているのだ。これには、さすがの提督も少しバツが悪くなったのか苦笑していた。
そして美保の艦娘たちは、その勢いに圧倒されたのか思わず小さくなっていた。
怒涛の注文が落ち着いたところで提督が言う。
「さて、新米君のトコのお嬢様方は何を?」
すると、それまで黙っていた美保の金剛が言った。
「NOW、テイトクが飲まないのに私たちが飲むワケには参りまセーン」
「え?」
この発言には、さすがに私も度肝を抜かれた。隣の比叡も、あたふたしている。
だがよく見ると金剛が、こっちを見てウインクをしていた。
(あ、なるほど)
『NOW』ということは『今だけ』なのだな。こう言うことには知恵が回るんだな。
だが勘違いした美保の艦娘たちは軒並み驚くと同時に頷いていた。
(おいおい)
私はチョット焦ったが……まぁ、この場に居る子たちには後で種明かしすればイイか。
ところが、その雰囲気に押されたのか日向が突然その場で立ち上がった。
「この日向も、たった今から酒断ちします!」
『……』
絶句というのはこういうときに出るものだ。
この発言に、その場の全員が驚いた。金剛宣言も衝撃的だったが、それを上回る爆弾発言だ。
日向といえば、このお盆に私の実家で酔い潰れて人格崩壊していたよな。
あの時は利根や山城さんに飲まされていたから仕方無いとはいえ、そんな彼女の姿を知る私に日向の決意は直ぐには信じられない。
彼女自身も勢いで言ったのだろう。少し下を向いて赤くなって居る。
(お前も一途なところがあるけど……まぁ一時的な熱病みたいなものだろう)
わたしは彼女の決意を軽く考えていた。
そもそも軍人は常に生死と隣り合わせの緊張感を強いられる。日常生活でも情報の秘匿義務など様々な規制も多い。娯楽や旅行にだって制限がある。
そんな中、お酒は数少ないストレス解消の手段だ。
だから美保鎮守府でも任務のない艦娘たちの個人的な時間にまで、それを嗜(たしな)む事への規制は無い。
(どこの軍隊でも、それは同じだろう)
それでも黙っている日向を見ていると少し心配になった。
「おい、お前は本当に、それで大丈夫なのか?」
彼女は私をチラッと見て恥ずかしそうに応える。
「はい」
「そうか」
もしこれが『今(NOW)』を懸命に生きる日向の本心からの決意ならば、それは尊重しよう。私は考え直した。
このやり取りに、また提督は後ろを向いて感動しているようだ。
ちなみにブルネイ所属の、もう一人の日向は奥のテーブルでガンガンやっていた。既にビール髭も出来て、それを軽く拭っている。
そんな豪快な彼女に比べたら、うちの日向は、お酒に弱いのかも知れない。もっとも、こっちの日向みたいになっても正直、困るが。
提督は、そんな日向や、お酒を飲まない雰囲気の美保の艦娘たちにノンアルコールのカクテルを作ってくれた。
続けて彼は隠し扉のような所から秘蔵品っぽいボトルを開けてグラスに注いでいる。
そして全員にグラスが行き渡ったのを確認すると自分もグラス片手によく通る声で言った。
「何はともあれ妙な出会いだったが、こんな貴重な経験も無いだろう。さぁ、互いの鎮守府の発展と活躍を願って乾杯しよう」
そこで一呼吸。
「乾杯!」
『乾杯』
……こんな素敵な「飲み会」ならお酒を飲まない私でも良いものだ。
「へぇ、ノンアルコールでも美味しいデスね!」
「ホントですね」
「……」
美保の艦娘たちもキャッキャとはしゃいでいる。
そもそも美保鎮守府のある境港市には歓楽街が無い。チョッと人口が多い米子に出るとしても彼女たちには自由な足(自動車の類)が無いのだ。
必然的に美保の艦娘たちたちは、ほぼ飲みに出る機会がない。強いて言えば晩酌程度だろう。
(艦娘の軍隊という特殊な状況とはいえ美保鎮守府の艦娘たちは果たして、これで良いのだろうか?)
ちょっと考えてしまった。
「司令、済みません。私のひと言であまり深刻にならないで下さい」
突然隣に日向が来た。もちろん素面(シラフ)である。
私も眉間にしわを寄せていたのだろうか? 逆に心配されてしまった。
「あ、いやこちらこそ済まん」
私たちがゴタゴタしている間にも提督は冷蔵庫を開けて中を見ていた。そして軽く頷きながら長芋と明太子を取り出した。
「手早く一品作っちゃうから、それつまんで待っててな」
ブルネイの艦娘たちが「はーい」と返事をする。
そのやり取りをきっかけに再び場の雰囲気が緩んで来る。指揮官のひと言というのは大きいものだ。
互いの鎮守府だけで、固まって座っていた艦娘たちも徐々に金剛や比叡を中心に積極的に席替えをし始めた。
こうなってくると、なおさら見分けが付かないが……それでも交流する彼女たちを見ていると感慨深いものがあった。
オリジナルと量産型という、まったく同じ種類の艦娘でも鎮守府が異なれば微妙に「雰囲気」も違ってくるようだ。
普段、こちらが願っても軍令部や海軍省の命令がなければ艦娘たちが他所の鎮守府と交流する場は、ほとんどない。恐らく艦娘が量産化されたとしても、こういった機会は、なかなか無いだろう。
それが、どういう偶然か海外の鎮守府との交流だ。しかも恐らく違う時代の艦娘と交流している。
これぞ千歳一隅のチャンス。二度と再現できない貴重な一瞬を過ごしているのだ。だが果たして、この何人がそれを悟るだろうか?
提督の一品は直ぐに出来上がった。カウンター越しに彼は呼びかけた。
「はい完成『長芋の明太子和え』だ。おいお前ら、誰でも良いから運んでくれ」
彼が言うとブルネイの龍田さんと美保の寛代が立ち上がって配膳をしてくれた。
速攻で手を伸ばしたのは、やはり双方の金剛だった。脚だけでなく手も速いのか。
「んー♪deliciousデース!」
「確かに、美味しいわぁ♪」
「ホント、美味しそうね」
金剛に続いたのは静かな龍田さん。彼女たちは、おいしそうに食べていた。
だが意外にも赤城さんが、その料理に直ぐ手を出さずニコニコしている。逆に怖いな。
「あ?」
つい声が出た。
赤城さんの傍で秘書艦の祥高さんが先方の青葉さんに料理の写真撮らせていたのだ。赤城さんは、それが終わるのを待っていたらしい。
しかし祥高さんは、このレシピを覚えるつもりだろうか?
直ぐに厨房の提督からの視線を感じたらしい彼女は言い訳のように応えた。
「あぁ、済みません。あまりに美味しそうだったので……うちの鳳翔さんに再現して貰おうかと思いまして」
「ほぉ、そうしてもらえると助かるな」
私も思わず反応した。
美保鎮守府の食堂も十分、美味しいメニューが多い。それは海軍の伝統だろう。鳳翔さんも頑張ってくれているが他所の鎮守府の「新しい風」が入れば、また艦娘たちも喜ぶに違いない。
軽く頷いた提督は言った。
「もし良かったらコッチ来る? 材料とか分量とか入ってきてメモした方が楽でしょうに」
「えぇ!? でもレシピを盗まれては困るのでは」
祥高さんは申し訳無さそうに言う。
「ハハハ、そんな大した料理は作ってねぇから。ただ呑兵衛が気ままに作ってる家庭料理? ……とも違うか。まぁそんな大層なモンじゃないから良ければおいでよ」
提督はニコニコして手招きする。
それを見た祥高さんも「それでは遠慮なく」と言いながら厨房へ入るとメモ帳を取り出した。その準備の良さに提督も、ちょっと驚いていた。
彼女は艦娘ながら提督代理を務めたこともある。基本スペックの高さに加えて食堂のメニューも気にかけてくれる気遣いが嬉しい。
そういえば本当に能力の高い艦娘は限りなく人間に近づくといわれている。彼女は、まさにその典型なのかも知れない。
ただ不思議に思うことは、そもそも山陰の片田舎にある辺鄙(へんぴ)な鎮守府に、なぜ彼女のように優秀な艦娘が居るか? ということだ。
そういえば別の心配を思い出した。
(うちの青葉さんと夕張さん……それに技術参謀は、どこで何やっている?)
状況が状況だけに、新しい情報は全く入ってこない。さて、どうしたものか。
「はぁ」
私は小さくため息をついてドリンクを口にした。責任者と言うのは気が休まらないものだ。
あまり深刻な顔をすると日向が何か言ってくるかな? ……と思ったが、ちょうど彼女は寛代の陰になっていた。
(あ! そうか)
私は、その時、寛代の存在に気付いた。
この子なら口も堅そうだし、特殊な通信をして探してもらえば良い……。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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PS:「みほ3ん」とは
「美保鎮守府:第三部」の略称です。
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せっかくのBar Admiralだったが美保司令は、お酒を飲まなかった。するとある艦娘も突然、決意するのだった。