凪達と別れ、次の朝を迎えた。
鳥たちの囀りとともに目を覚ます。
「ん〜いい天気だ!」
それを見れば快晴!さぁ今日も楽しい1日が始ま・・・
「・・・店長への言い訳思いつかなかった。」
らなかった。
どうしよう!この前典韋さんが辞めたばかりでやばいって言ってたばかりなのに、俺まだやめたら厨房担当がいなくなる。でもな、
「・・・行くしかないか。」
そう思い俺は支度を始めた。すると、
「お兄さ〜ん、起きてますか?」
程昱さんの声が聞こえた。
「起きてますけど、何か用ですか?」
「いえ〜、お兄さんが3人の女の子を手篭めにしたと聞いたものですから確認しようかと思いまして〜。」
「いやいや!手篭めにしてませんから!ていうか誰から聞いたんですかそんなこと!」
「星ちゃんですよ〜。」
星のやつ〜!後で覚えてろよ!
「まぁこのまま外で話すのもなんですから、中に入らせてくださいね〜。」
程昱さんはそういうと俺の部屋の扉を開こうとした。ってちょっと待て!
「ちょ!ま!程昱さん!俺まだ着替えて!」
俺の叫びも虚しく扉を開き、そこには程昱さんがいた。
「・・・凄い身体してますねお兄さん。」
「感想を言わないで下さい!」
こうして朝からドタバタしながら、この街に滞在する最後の1日が始まった。
「はぁ〜朝から色々ありすぎた。」
あの後、もともと俺のところに来るつもりだったのか郭嘉さんが運悪く部屋に来て血の池地獄になって、急いで医者に連れて行った後部屋の掃除をし、宿主さんに謝罪に行き、その後何とかバイトに間に合い店長に店を辞めることを土下座で謝罪した瞬間に、店長が顔を真っ青にして俺に泣きついてきた。どうしようかと困っていると休んでいた子がその場に到着し、なんとか解決して今に至る。
「はぁ〜、店長には本当に悪いことしたな。」
働かせてもらったのにすぐにやめるだなんて。しかも臨時で働いてくれたからって最後にこんなにくれて。
そう、店長は俺が働いてくれたからと最後に退職金のようなものを渡してくれたのだ。流石に悪いと思って断ったのだが、受け取らないと働いてもらうというと言われたので、ありがたく受け取った。もしまたこの街に来ることがあったら、必ず店長にお礼と恩返しをしなきゃな。
「・・・さてと、暇になってしまった。」
準備と言っても準備するものもほとんど無いしな。残りの時間何をしよう。
「・・・あ!」
そう言えば曹操に俺の才能について言ってたな。
「才能ね・・・なんだろうか?」
とりあえず考えつくところからやってみるか。
そう思い、広場に向かった。
広場についた。着いたのはいいのだが
「何しよう?」
そう思ったので周りを見てみた。吟遊詩人や蛇使いの他に漫才、ダンスなどをする人がいた。・・・後半おかしい気がするがまぁいいか。
「色々あるけど誰も厳しいな〜。」
詩や蛇使いなどは勿論、漫才やダンスも得意というわけではない。
「どうするか・・・ん?」
悩んでいると視界の隅で何やら武器を振り回している人がいる。強盗か!?
急いで近くに行ってみると、
「・・・強盗じゃないな。」
見ると振り回しているように見えたものは演舞だろうか?それを踊っている人が持っていたものだった。
へぇ〜演舞をする人もいるんだ。
しているとがいることに驚いたが、それ以上に
「・・・あれ演舞か?」
なんていうかあれ、演武ってよりは実戦的な動きなんだが・・・というかあれって
「くそ!何故誰も見ないんだ!?」
俺がそう考えていると演舞?をしていた女の子がそう言った。あぁ〜やっぱりそうか。
俺はその人に近づいてこう言った。
「こんなところでなにしてるんですか、夏侯惇さん!」
そう、そう人はあの夏侯惇さんであった。
「貴様は!・・・誰だ!?」
ズコッ!本気で言ってるのか?
「俺ですよ俺!北郷一刀!」
「ほんごう?・・・・・ああ!貴様は!あの時の!ここであったが千年目!今度こそ打ち取ってやる!」
「ああもう!ツッコミどころが多すぎ!」
「つっこみ?貴様、私の知らぬ言葉でたぶらかす気だな!そうはいかんぞ!いざ尋常に勝負!」
ブン!
「危な!」
いきなり剣を振るってきたぞ!しかも胴体に!
「殺す気ですか!?」
「当然だろう!殺さなければ首が取れないではないか!」
ブン!危な!本当に首をねらってきたぞ!・・・これはまずいぞ。
「待った!」
俺は 夏侯惇を止めた。
「何だ!」
「戦うのはいいがせめて俺にも武器をください!」
「なに〜!貴様は無手だろう!」
「俺の主体は武器を使った接近戦なんです!」
「では何故武器を持っていない!」
「それは!・・・色々あったんです!とにかく武器を買わせてください!」
前回は大丈夫だったが、ずっと無傷っていう保証はない。だから出来るだけ安全に戦うために武器が欲しいんだ。
「何故私が討ち取るべき相手のお前が強くなる手助けをしなければならないんだ!」
ぬ!確かに正論だ。だが、
「いいんですか?もしこのまま戦って勝っても困るのは夏侯惇さんの方ですよ!」
「なんだと!?何故私が困るのだ!」
「魏の将軍は、万全の状態じゃない相手を倒して喜ぶ奴だ、なんて噂が流れてしまうかもしれませんよ。そんな噂が流れてしまったら曹操さんの名に傷がついてしまつんじゃないですかね?」
「か、華琳様の名が。ぐ、くぬぬぬ!分かった、なら今すぐ買いに行くぞ!」
ガシッ!
「へ?」
ザザッー!夏侯惇がそんな事を言うと有無を言わせず、引きづり始めた。
「ちょ!自分で歩くから!」
「うるさい!言い訳が出来ないように、私が使っている武具屋に連れて行ってやる!道を説明するのも面倒くさいからこのまま行くぞ!」
「いーやー!」
そのまま引きづられ続け、ようやく武具屋に着いた時にはボロボロになっていた。
「よし着いたぞ!うん?何故お前はそんなに汚れているのだ?」
「それは貴女に引きづられたからでしょう!」
「まぁ、細かい事は気にするな。さぁ、入るぞ!」
・・・なんかもういいや。
夏侯惇に意見する事を諦めて、後に続いて店に入った。中に入ると
「おぉ!これは凄い!」
剣に盾、それに槍など多種多用な武器が所狭しと並んでいた。試しに近くにあった剣を見てみると、
「・・・見事だな。」
露店なんかで売っている武器とは違うことが一目で分かった。
「ふふん、そうだろう!この店は華琳様が認めるほどの店なんだぞ!」
ほぉ〜曹操お墨付きのお店か。
「確かに凄くいいお店だ。ここなら確かに文句のつけようがないね。」
「分かったのなら早く武器を選べ!」
はいはーい。さてと何にしようか。シンプルに剣もいいし、星のような槍もいいな。
そんな事を思いながら店の商品を物色していると、
「ん?これは」
手に持ってみると何故かしっくりとくる感触、そしてその刀身は
「・・・日本刀!?」
しかも一般的に日本刀と言われているものよりも短い刀、小太刀だ。でもなんでこんなところに?
気になり奥の方にいる店主のような人に聞いてみた。
「あのすみません、この刀はどこで?」
「ん、・・・おぉその剣か、買いたいのかい?それなら1つ質問に答えてみてくれ。」
「いや、あの。」
「それでは質問だ、その剣が何か分かるかの?」
俺が違うと否定しようとしたら、もう質問が始まっていた。とりあえず答えるか。
「・・・日本刀、ですよね?」
「おお!ついにきたか!待っておったぞ。」
「待っていた?俺をですか?」
「ああ、正確にはこの剣を知っておる者だがの。」
日本刀を知っているもの者、この世界ではまだ日本は存在していない。つまり俺が来る事が分かってたって事だよな。なぜだ?
「なぜその刀が日本刀だと知っているんですか?」
「ふむ、実は数日前天啓があっての。」
「天啓、ですか?」
「ああ、その内容はこの剣をこの剣のことを知っている人間に渡してほしいというとのでの。儂はただの夢じゃと思ってあったんじゃが、その天啓があった後ふと横を見るとこの剣があったというわけなんじゃ。」
「・・・そんな事が。」
不思議どころの話じゃない。普段なら確実に信じないだろうが、過去に来ている事、そしてこの時代に日本刀がある事、この2つからその話が嘘ではないと言える。だが、なぜ天啓でこの刀を渡してくれなんて言ったんだ?一体誰が?
「そういうわけじゃからその刀はお前さんにやろう。」
俺が考え込んでいると店主がそんなことを言ってきた。
「いいんですか?」
「ああ、もともとその為に持っておったんじゃからの。それにこれだけ刀身が短く細いとすぐに折れてしまいそうで誰も欲しがらんからの。まぁ何人かはその刀身の美しさに惹かれて買いたがっていたがの。」
そう言い俺に日本刀、小太刀を渡してきた。俺は受け取ると鞘から小太刀を抜いてみた。
「・・・」
思わず見入った刀身には美しい波紋が広がっており、それでいて白刃の部分はまるで雪のように白く鋭い。こんな刀身、現代でも見た事ない。
「・・・ありがとうございます。この刀は大切にさせてもらいます。」
店主にお礼を言ったすると、
「おい、北郷まだか!?」
夏侯惇が痺れを切らしたようにそう言ってきた。
「もう少し待ってください。もう一つ欲しいものがあるので。」
そう言うと俺はあるものを買った。そしてまた夏侯惇に引きづられて元いた広場に戻ってきた。
「着いた!さぁ始めるぞ!」
もうすでにボロボロなんですが・・・まぁいいか。
「わかりました。それでは始めましょう。」
そう言うと俺は制服のベルトに小太刀をさし、そして
「手甲と、脛当てか?やはり無手の鎧ではないか!」
そう、俺があのお店で買ったものは手甲と脛当てだ。これがあると無いとでは戦い方がかなり変わってくるので買ってきた。やはり質がいいだけに値段も高く、俺の手持ちのお金の7割を払った。小太刀もらわなかったら確実に買えてなかったな。
「まぁ武器が主体の接近戦なので、それは打撃も使いますよ。それにここに武器もあるじゃないですか。」
そう言い俺は小太刀を見せた。
「ふん!そのような簡単に折れそうな剣など武器のうちに入らんわ!」
まぁ確かに、下手に扱えば折れてしまうけどね。
「まぁいい!さっさと始めるぞ!」
そう言うと夏侯惇は自分の愛刀である大剣を出した。
「ここでやるんですか!?」
もうちょっと移動してから戦うと思ってたのに。それにこんな所でやったら周りにいる人達が、
「お〜いみんな!夏侯惇様が決闘するらしいぞ!」
「なに!こうしちゃいられね!みんな急いで店を閉めるんだ!巻き添えに合うぞ!」
そう言い周りの店が全て閉まり始めた。・・・慣れてるな〜、きっと日常茶飯事なんだね。
「はぁ〜、分かりました。・・・始めますか。」
心配していた事も解決したので、俺は小太刀を抜き構えた。この小太刀は初めて持った筈なのに何故か手に馴染んだ。
「やっと構えたな。こちらからいくぞ!」
そう言うと夏侯惇は俺に向かって、片手で大剣を振り下ろしてきた。
「はぁぁぁ!」
ガキンッ!俺はその攻撃を小太刀で受け流す。
やっぱり攻撃が重たい!受け続けるのは得策じゃないな。
一旦距離を取ろうと後ろに飛んだ。すると
「逃すかぁ!」
バンッ!夏侯惇が俺があけた距離を詰めてきた。
罠とか警戒しないのかよ!
ブォン!そんなことを思っていると夏侯惇が大剣で薙ぎ払ってきた。空中なので体勢を変えることはできない。
「チッ!」
俺は咄嗟に小太刀の柄を上から大剣の腹を叩きつけ、大剣の軌道を変える事で避けた。
「くそ!大人しく当たらんか!」
「嫌ですよ!」
そう言い、俺は大剣を振ったばかりで隙だらけの夏侯惇の懐に入り、背負い投げをしようとした。しかし、
「そう何度も同じ手をくらうか!」
そう言うと夏侯惇は身体を捻ることで無理やり大剣を振り回した。
「なっ!」
驚いた俺は咄嗟に小太刀と手甲で受け止めたが、そのまま吹き飛ばされてしまった。
サザッ。そのまま地面を滑り、勢いが弱まったところで立ち上がった。
「・・・無茶な戦い方をしますね。」
まさかあの体勢から弾かれるなんてな。でも、あんな無茶な事を続ければいつか身体が壊れるぞ。
「ふん!あの程度で無茶など笑わせる!貴様は実戦においてもそんな事を言うつもりか?」
「実戦って、これは手合わせですよね?」
「それがどうした!戦いの場において手合わせかどうかなど関係ない!あるのは生きるか死ぬか、それだけであろう!」
ザァ。気がつくと俺は一歩下がっていた。
・・・これが三国時代を生きている英雄の気迫か。・・・これは本気でいかないとやばいな。
「・・・すみません夏侯惇さん。俺は少し手合わせだという事で手を抜いていたかもしれません。」
「ふん、舐められたものだ。ならば、次こそは本気でくるのだな!?」
「はい、次こそは俺の全力をもって・・・貴女を倒します!」
俺はそう言うと腰を低くし、小太刀を後ろに引いて構えた。
「いいだろう。ならば私も、次で貴様を討ち取ってやろう!」
そう言い、夏侯惇も大剣を両手で持ち上段に構えた。あの一撃をまともに受けたら死ぬだろうな。・・・なら、その攻撃が当たる前にこちらの攻撃を当てればいいだけのこと。
そう考えると俺は更に姿勢を低くし、前傾姿勢になった。・・・速く、鋭く、一撃で!
「行きますよ、夏侯惇さん!」
「ああ!」
バンッ! その言葉を合図に俺は走り出し、一瞬で距離を詰めた。
「ッ!ハァァ!!」
俺の接近に気がつくと夏侯惇は大剣を振り下ろした。両手で振り下ろしているので先ほどよりも速い。けどもう遅い!
俺は夏侯惇の懐に飛び込むために更に加速した。そして、
「はぁ!」
ガンッ!後ろに引いていた小太刀の柄をアッパーのように振り上げ、夏侯惇の手に叩きつけた。
「っ!」
大剣の自体は止められなかったが軌道をそらす事は出来た。そして俺はそのまま立ち上がり夏侯惇の喉に小太刀を突きつけた。
「・・・引き分けですね。」
「何!?どういう事だ!」
「確かに俺は貴方に刀を突きつけていますが、俺は貴女を殺すことは出来ません。本当の戦場では俺は貴女に討ち取られるでしょう。だからこの場は引き分けにしてもらえませんか?」
「・・・ふん!」
そう言うと夏侯惇は後ろを向き、
「今はそういう事にしておいてやる。」
「ありがとうございます。」
「だが良く覚えておけ!次相対する時は確実に貴様の首を刎ねてみせるからな!」
そう言ってきた。どうやらこの場は引き分けにしてくれるそうだ。だけどやっぱり物騒なこと言うな。
俺がそんなことを考えていると
「・・・・・・春蘭だ。」
「へ?」
「だから私の真名だ!次会う時まで忘れぬによう、この名を刻みつけておけ!次は必ず私が勝つ!」
そう言い、夏侯惇は走り去って行った。
・・・なぜこのタイミングで真名を?・・・だが預けられたからには受け取るのが礼儀だよな。
「・・・分かったよ春蘭。その名前しっかりと覚えておくよ。」
それにしても春蘭は何でこの広場で演舞をしてたんだ?
秋蘭視点
「全く、姉者はどこに行ったんだ?」
華琳様を喜ばせる方法を見つけたぞ!と言って、何処かへ走り去って行ったが。・・・また桂花にでも騙されたのだろう。
そんな事を考えていると
「・・・姉者?」
姉者が走ってきた。全く、
「一体今までどこに・・・」
「秋蘭!練習場借りるぞ!」
行っていた・・・と言う前に姉者は走り去って行った。
「あ、姉者!?」
驚き一瞬戸惑ったがすぐに後を追いかけた。
追いかけ、練習場に着くと姉者が剣を振っていた。普段と変わらないような素振りに見えたが、よく見ると何かを意識しているように見えた。
普段と違う。・・・何かあったか?
そう思い、姉者に近づき聞いてみた。
「姉者、いつもと剣の振り方が違うように見えるが・・・何かあったか?」
「うぐっ!」
私がそう聞くと、姉者は石のように固まってしまった。・・・何かあったな。
「はぁ〜、何があったんだ?」
「・・・じ、実はな」
そういい、姉者は先ほどあったことを話し始めた。
「なるほど、北郷に勝負を挑んだが負けてしまった、という事か。」
「あ、ああ」
と、指をつんつん突きながら言ってきた。はぁ〜姉者は可愛いな〜!・・・と、今はそれどころではないな。
「それで、次は負けぬように北郷の動きを思い出しながら剣を振っていたと。」
「その通りだ。」
ふむ、確かに相手の動きを思い出しながら剣を振ることはいい稽古になるだろう。・・・だが
「それだけでは足りぬのは分かっているだろう?」
「ああ」
北郷の強さはかなりのものだ。実際に見たからこそわかるがあれを素振りだけでどうにかするのは無理だ。
「だが、諦める訳にはいかん。真名にかけて討ち取る事を誓ったのだからな。」
「・・・ほぅ。」
真名を預けてきたか。ということは必ず勝つと宣言してきたようなものだ。なるほど、そこまでか。
「・・・ならば姉者。微力ながら私も協力しよう。」
「本当か!?」
「ああ、それで北郷のどんな動きを思い出したがら素振りをしていたんだ?」
「一瞬にして近づいてくる速い動きを考えながらだ。」
「どれくらいの距離からだ?」
「そうだな・・・あそこ位だ。」
そう言い、少し先にある城壁を指差した。
「・・・あそこからか。」
確かに遠いという訳ではないが、一歩や二歩で行ける距離ではない。
「・・・流石と言うべきか。」
「ああ、だが奴は更に速くなったんだ。」
「何?」
「奴は本気を出すと言い構えをとった。そして一言ずつ言葉を交わしたその瞬間には私の目の前に迫っていた。私はなんとか剣を振り下ろせたが持ち手を叩かれ、敗北した。・・・くそ!」
バンッ!姉者は地面に拳叩きつけた。
「・・・ならばこうしている時間が勿体無いな。弓を持ってこよう。」
「すまない秋蘭!」
「ふふ、構わんさ。やられっぱなしというのも悔しいからな。」
そう言い私は弓を取りに行くために城に向かった。
「しかし、北郷の強さは異常だ。」
姉者とて弱いわけではない。むしろ大陸でも相当な強さを誇っているはずだ。そんな姉者を姉者の話が正しければ本気を出す前に勝ったということになる。我々とて鍛錬を怠っているわけではない。だというのにこの差はなんだ?・・・一体どれ程の鍛錬を積めばそれほどの実力になるというのだ?
北郷一刀視点
「ふぅ、さてと」
夏侯惇との戦いも終わったので、自分の才能についてまた考えてみることにした。
才能、才能か・・・
"才能ばかりの天才が!"
・・・いや、違う。俺の武術は必死に鍛錬をして身につけたものだ。決して才能で強くなったわけじゃない。・・・となると一体何なんだ?
頭を抱えながら考えていた。すると、
「おや、お兄さん。道の真ん中で頭を抱えながら何をしているんですか?」
聞き覚えのある声がした。その声の方を向くと
「・・・程昱さん、それに郭嘉さんも、どうして此処に?」
程昱さんと郭嘉さんがいた。
「はい、明日出発なので必要なものを揃える為に風と一緒に買い物をしていたところです。。一刀殿もそうではないのですか?」
「いえ、俺はあまり買うものもないので、ちょっと考え事をしながら歩いていたんです。」
「お兄さんが考え事ですか。はやり、女の人をどう口説くか考えていたんですか?」
「違います!」
「またまた、星ちゃんにききましたよ〜。昨日の夜、女の子3人と会ってたみたいですね〜。」
「確かに会ってましたけど、別にやましい事は何もしてませんよ。」
「本当ですか〜?星ちゃんからは、お兄さんが昼間口説いてきた女の子を自分の宿に呼んだと聞きましたけど?」
・・・星、後で覚えてろよ。
「く、口説く!や、宿に呼ぶ!」
なんか郭嘉さんがやばそうだぞ!
「それも違いますから!それよりも2人は何か買うものがあったんでしょう?荷物持ちとかしますから早く行きましょう!」
「おぉ!ついに風と稟ちゃんにお兄さんの魔の手が!」
「魔の手!!」
「何もしませんから!」
こうして何とか2人を買い物に戻すことができた。
3人で話しながら買い物をしているとあっという間に終わった。
「買う物はこれだけですか?」
「はい。準備と言っても持って行くものは必要最低限の物だけですので。」
「なるほど、なら確かにこれぐらいでいいですね。」
今まで旅をしてきた知恵なのだろう。少しの衣類と食料だけを買っていた。
「お兄さんは武器や鎧を買ったんですね〜。」
そう言われ手甲や小太刀をつけっぱなしだった事を思い出した。
「っと、そうですね。買ったというか買わされたというか。まぁ、買おうかと思っていたのでちょうど良かったですが。」
「ほぅ、お兄さんも色々あるみたいですね〜。」
「あはは、まぁね。・・・ところで2人に質問したい事があるんですけどいいですか?」
「何ですか〜?」
「何でしょうか?」
「はい、実は今自分の才能のことについて悩んでまして・・・。2人から見た俺の才能ってなんだと思います?」
「そうですね〜・・・正直お兄さんと会ってまだ日も浅いですし詳しい事は分かりませんが、風から見たお兄さんの才能はその人柄だと思います。」
「人柄ですか?」
「はい。これでも風は人を見る目はあるつもりです。その風から見てお兄さんは、とても優しく、温かい心の持ち主に見えます。この大陸でお兄さんのような人柄の人はそういないのです。だから風はお兄さんのその人柄を才能だと思うのです。」
「そ、そうですか?ありがとうございます!そう言っていただけると嬉しいです!」
「ただ、」
「ただ?」
「お兄さんはどこか人と距離を置いているように風には感じました。」
「ッ!」
程昱さんの言葉を聞いた瞬間、図星を突かれたように思えてしまった。
「・・・そんなにひどいですか?」
「はい。風や稟ちゃんには敬語ですし、星ちゃんとは敬語を外して話していますが、どこか遠慮を感じられるのですよ〜。」
「そうですね。それは私も感じていました。一刀殿はどこか我々と一線引いて接しているように見えます。」
・・・どうやら俺は自分で思っている以上に、壁を作ってしまっているようだ。
「・・・すみません。どうも人との接し方というのが分からなくて。2人にはよくしてもらってますし、決して嫌いとかそういう訳ではないんです!ただ・・・。」
ただ嫌われるのが怖いだけ、その言葉がどうしても出なかった。思えば俺は元の世界にいた頃から人と接する事が苦手だった。小、中学校は鍛錬に明け暮れていたせいで同級生と遊ぶ事なんて一切なかった。そのせいで友達と言えるような奴は1人もいなかった。高校に入学してからも友達と言えるほど話したのは及川くらいだ。だからどれくらい踏みこんでいいのか、どれくらい親しく接すればいいのかわからない。元の世界の同級生なら嫌われようとあまり気にしなかったが、俺に優しくしてくれた。俺を助けてくれた彼女達に嫌われる事はとんでもなく怖い。彼女達にそう伝えたいが口が動いてくれない。すると
パシ。郭嘉さんが手を握ってきた。
「郭嘉さん?」
「一刀殿。一刀は私が困っている時何度も助けてくれました。ならば次は私が貴方を助ける番です。」
「郭嘉さん・・・」
「・・・稟です。」
「え!?」
「私の真名を一刀殿に受け取って欲しいのです。私が貴方を信用している、そして何より貴方に感謝している証として。・・・駄目でしょうか?」
「いえ!少し驚いてしまっただけです!ありがたく受け取らさせていただきます。り、稟さん。」
「稟と呼んでください。」
「で、でも。」
凪達の時には勢いで呼び捨てになったけど、何もなしにいきなり呼び捨てにするのは少し抵抗が、
「ああ!やはり一刀殿は私のことが嫌いなのですね!」
稟さんが顔を覆いながらそう言ってきた。
「ち、違います!違いますから!」
「では、呼んでいただけますね?」
俺がそう言うと、さっきまでが嘘のような様子でそう言ってきた。
「な!騙しましたね!」
「はてさて、私には何の事か分かりかねますが?」
「ぬぐぅ!」
確かに証拠となるものが一切ないこの状況で認めされる事は不可能か。
「さて、一刀殿も男でしたら一度言った事は実行してもらいましょうか。」
「・・・分かりました。」
この策士め!そんな事言われたらやるしかないじゃないか!
そう考え覚悟を決めた。
「・・・・・・稟。」
「ふふ、はい。」
俺が名前を呼ぶと稟さ・・稟は嬉しそうに笑った。・・・その笑顔は反則だろ。
そんな事を思いながらお互いに黙っていると
「おぉ〜見てください宝譿。お兄さんが稟ちゃんといい雰囲気になってますよ〜。」
「ついにねーちゃんにも春が来たってわけか。」
「な、何を言ってるんですか!・・・まったく。」
程昱さんと宝譿がそんな事を言ってきて、稟が慌てながら否定していた。
「ではでは、お兄さん風もよろしくお願いしますね〜。」
そう言い、俺の前に程昱さんが出てきた。
「えっと、よろしくと言うと?」
「もちろん真名のことですよ〜。」
「え!程昱さんもですか!?」
「はい。稟ちゃんも星ちゃんも預けたので次は風の番かな〜と思いまして。」
「いや、真名ってそういうものじゃないですよね?」
「まあまあ、もちろん風も色々考えての事ですから。遠慮せずに受け取ってもらえると風としても嬉しいですよ〜。」
「・・・そう言う事なら。」
俺はそう言い、一呼吸いれて言った。
「・・・風さん。」
「風ですよ〜お兄さん。」
「いや、でも・・・」
「・・・お兄さんは風の事が」
「分かりました!言いますから!」
稟と同じ事を言われると分かったので急いで止めた。はぁ〜、まったく。
「ではでは、よろしくお願いしますお兄さん。」
「分かりました。・・・風。」
「おお〜、いきなり呼び捨てとはお兄さんもやりますね〜。」
「呼べと言ったのは貴女でしょう!?」
「冗談ですよ〜。お兄さんに真名を呼んでもらった事が嬉しくてついやってしまったんですよ〜。」
「・・・そんな事言われたら怒るに怒れないじゃないですか。」
嬉しいような、怒りたいような、なんか微妙な気分だぞ。
「そう思えるところもお兄さんの人柄ゆえですね〜。」
「そうですか?」
「はい、そうだと思うのですよ。・・・ところでお兄さんは何でそんな事を風達に聞いてきたのですか?」
そう風が聞いてきた。そういえば言ってなかった。
「えっと、実は・・・」
俺は理由について事細かに説明した。
「・・・なるほどそのような事が。しかし一刀殿は様々な事に巻き込まれていますな。」
「はは、そうですかね。」
「しかしあの曹孟徳様が一刀殿を・・・」
「あ、やっぱり知ってるんですね。」
「はい、我々が主にと考えているお方ですから。」
「なるほど。確かに王を体現しているような人ですからね。」
「そうですね。だからこそ、その孟徳様が一刀殿の才を認めているという事はその才とは人柄とはまた別のものなのだと思います。」
「一体何なんでしょう?」
「それは・・・いえ、私が言うべきことでは無いですね。」
「分かるんですか!?教えてください!」
「大丈夫ですよ一刀殿。近いうちに必ずわかりますので。」
「・・・分かりました。」
・・・なんだかはぐらかされた様な気がする。しかしこれ以上聞くのも無理矢理な感じがして嫌だし、何よりこれは自分で見つけるべき事だと思ったので引き下がった。
「それではお兄さん、風達は宿に戻りますね。」
「あ、荷物運びますよ。」
「いえいえ。このぐらいの荷物なら風達だけでも運べますし、それにお兄さんには考えなくちゃいけない事があるじゃないですか。」
「確かに、でも」
「一刀殿、ここは風の言う通りにして下さい。一刀殿に手伝っていただくまでもないですし、一刀殿の悩みが解決した方が我々としても嬉しいです。」
「風、稟・・・・・分かりました。それでは俺も行きますね。」
「はい、それではまた後で会いましょう。」
「はい。」
こうして俺たちは別れた。
しかし、別の才能か。悩んでいたおかげで稟たちとの仲も深まったが振り出しに戻ってしまったぞ。う〜ん一体何なんだ?
そんな事を考えながら歩いていると前から見た事のある格好をした人がいた。あれは・・・
「む?一刀ではないですか。旅の準備の途中ですかな?」
星だ。今日は旅仲間とよく会う日だな〜。
「星!奇遇だね。星はここで何を?」
俺がそう聞くと星は手に持っていた壺を掲げて見せてきた。
「それは?」
「ふふ!聞きたいですかな!?聞きたいでしょう!」
「え、あ、うん。」
「ふふ、そうでしょう!そうでしょう!ですが、秘密です!まぁ〜一刀には特別に教えて差し上げてもいいですがその場合は夜に私を訪ねてください!」
「・・・アア、ソウデスカ。ワカリマシタ。」
星が妙にハイテンションなのでとりあえず流しておいた。
「えっと、それより星に聞きたいことがあるだけどいい?」
「・・・それよりも、という所が気になりますが何でしょうか?」
ちょっと不機嫌そうだが答えてくれるようだ。
「ありがとう。実は・・・」
才能について悩んでいる事と今日までにあった事、そして風と稟に聞いてみたところ人柄と言われたが違うのではないかと言われ途方に暮れていたと言う事を言った。
「・・・なるほど。つまり振り出しに戻ってしまったという事ですな?」
「おっしゃる通りです。」
「ふむ・・・一刀、稟と風を真名で呼ぶようになったのですね。」
「そこいく!?」
「いえいえ、重要な事でしょう。勝手に真名を呼んでいたら一刀を討たなければならないではないですか。」
「勝手に呼ばないよ!しっかり2人に許されて呼んでるっていうの!」
「まぁそうだとは思っていました。」
「思っていたなら何故聞く!?」
「それは一刀が慌てる姿が面白いからに決まっているじゃないですか。」
ニヤッと笑いながらそう言ってきた。
「はぁ〜もういいや。それより星から見た俺の才能ってなんだと思う?」
「・・・はぁ〜まったく、わざと言っているわけではないと思いますがこうも気づかないとは・・・分かりました。この趙子龍はっきりと申しましょう。私からみた一刀の才それは、武の才能です。」
「ッ!」
その言葉を聞いた瞬間、昔のことを思い出した。
「・・・星、俺は」
「分かっております。」
俺が言い切る前に星がスッと手で俺を制し、そう言ってきた。
「以前、一刀から過去の話を聞いておりますので一刀が認めたくない気持ちも分かります。ですがそれを承知で言わせてもらいます。貴方の才は間違いなく武の才でしょう。」
「・・・」
俺は2つの事を思った。1つは認めたくないという事。俺のこの武術は日々の鍛錬と必死に努力して得たものだ。それを才能という1つの括りでまとめられたくないという思い。もう1つはやはりかという考え。薄々気づいていた。この三国志の世界で歴史上の英雄達と闘い勝ってきた。そこでも少し考えたが今日の夏侯惇との真剣勝負でその考えがより強くなった。現代において真剣での試合はしない。それなのに俺は真剣での闘いにも勝った。それはつまり潜在的な才能も関係しているのではないかと考えたからだ。今、星に言われるまで認めたくなかったがやはり・・・
「・・・それが俺の才能なのか。はは、じゃあ俺が今まで勝ってこれたのは全部才能のおかげなのか。」
認めたくなかった答えが現実だと突きつけられ、どうしていいか分からなくなり自嘲気味にそう言った。すると、
ドゴッ!
「痛ッ!」
頭に鈍痛が走った。みると星が手に持っていた壺で頭を殴ってきたみたいだ。
「星!一体何を!」
「舐めないでいただきたい。」
星は少し怒ったような顔でそう言ってきた。
「一刀、それはつまり私が一刀の才能に負けたと言いたいのですかな?」
「でも今、星だって俺の才能は武の才だって。」
「ええ、確かに一刀には武の才があるといいましたが、貴方の強さの根源が才能だけとは一言も言っていませんが?」
「え?」
すると星は、ハァ〜っとため息のように息を吐きこう言った。
「一刀、貴方は少し勘違いをしているようですね。才能と己が強さは必ずしも同一というわけではありません。事実一刀とて日々鍛錬を積んできたのでしょう?」
「もちろん!・・・けど、」
「・・・では聞きますがこの世界に来てから戦った者の中で貴方を才能だけと言った者はいましたか?」
「ッ!」
確かに、言われてみれば星の言う通りだ。この世界に来て戦った星、凪、沙和、真桜、そして春蘭。彼女達と戦い、勝ったが誰もそんな事は言わなかった。
「・・・確かに誰もそんな事は言わなかった。だけど!それは星達が俺の世界の人達よりも才能があったからじゃないのか!?」
「仮にそうだとしても、今日戦った夏侯惇殿に少し苦戦したのは何故ですか?前はすんなりと勝てたようですが?」
「それは・・・」
「そうそれは夏侯惇殿が一刀、貴方に勝つために鍛錬したからでしょう。その結果、全く歯が立たなかった相手に一矢報いる事が出来ています。・・・これでも貴方は才能だけで全て決まると言えますか?」
・・・確かにその通りだ。もし才能だけで決めるのなら、今日戦ったとしても前と同じように勝てたはずだ。だけど結果は一撃受けてしまった。つまり春蘭の俺対策の鍛錬をした努力が実を結んだ結果と言える。
「・・・確かに才能だけで決まらないかもしれない。なら、星が言った俺の武の才って何のことなんだ?」
「・・・ふふ。」
星は微笑むと俺に近づき、ポンっと一瞬手を頭の上にを置くと手を離しそのまま俺を通り過ぎて行った。
「せ、星!?」
「それを考える事もまた鍛錬ですぞ一刀。まぁ考えに詰まりましたら相談にのるので、それまで1人で考えてみてくだされ。」
そう言うと壺を持った手で器用に手を振って去って行った。
「・・・行っちゃった。」
・・・まぁ星には色々教えてもらったんだし頑張ってみるか。
そう思い、その場後にした。
北郷一刀13歳 家の道場
「はぁ、はぁ、はぁ・・・ふぅ、今日はここまでかな。」
剣道大会が終わり3ヶ月がたった。その間にも色々な事があったが・・・まぁそれはいいか。とりあえず片付けをしよう。
そう思い、道場の床に落ちている木片などを片付け始めた。
サッサ。はぁ〜毎回こうして片付けるのも面倒くさいな。木を使うときは今度から外でやろうかな片付け楽だし。そんなことを考えながら俺は今日の鍛錬の反省をし始めた。
・・・あそこの正拳突きはもっと捻りを強くすればよかったかな、あのハイキックはインパクトのタイミングをもう少し遅くするべきだったな。・・・はぁ〜まだまだだな俺。
こんなことを毎日している。始めたのは8年前、じいちゃんが亡くなった日からだ。弱い自分が嫌になった俺はじいちゃんから貰った大量の本の中から強くなる事に使えそうな内容を見つけ出して実践し始めた。腕立てや腹筋などの筋肉トレーニングはもちろん、様々な武術の型や技のトレーニング、更には鉄砂掌や拳を硬くするために木を殴り続けるなどの身体を硬くするトレーニングもし始めた。始めた頃はまだ5歳の子供だったので怪我などが多く血を吐いた時には親に止められたが、今では体も慣れてきて色々な事が出来るようになってきた。でも、まだまだ修行不足だと感じるところが多々あるためこれからもっと鍛錬の内容を増やすつもりだ。
「さて、柔軟でもするか。」
そう思い柔軟を始めようとした時、
「一刀いる?」
声が聞こえた。声の方を見ると入り口に母さんが来ていた。
「何か用?」
「ちょっと話したい事があるの、いい?」
「・・・分かったいいよ。」
俺はまたかという思いとともにそう言った。大体話の内容が分かっている。5歳の頃から怪我続きだったので母さんはよくもう鍛錬をやめて欲しいと言ってくるのだ。母さんが心配してくれるのは嬉しいが俺にも譲れないものがあるのでいつも話は平行線になる。今日もその話をしに来たのだろう。
そう思い、母さんが正座した正面に俺も正座した。
「・・・ねぇ一刀、こういう練習楽しい?」
あれ?いつもと話し始めが違うぞ。少し戸惑いながらも返事をした。
「う、うん。辛い事も多いけどやっぱり楽しいよ。」
「そう。・・・」
そういうと母さんは少し黙った。10秒くらいだろうかそれくらい経つと母さんが話し始めた。
「・・・一刀、お母さんね一刀のこと応援することにしたの。」
「えっ!?、今まで反対してた何なんで?」
「前々から考えてはいたの。でも、やっぱり一刀が怪我をしたりする事を考えるとやっぱり完全に賛成とは言えなかったの。」
「母さん・・・」
「でもね、この前剣道の大会から帰ってきた一刀が優勝したのにあんな暗い顔して帰ってくる姿をみて考えが変わったの。安全で怪我をしない代わりに暗い顔で帰って来くるより、怪我だらけで時には骨折もしちゃうけど達成感のある明るい笑顔で帰ってくる方が母さん嬉しいもの。だから必要なものなんかあったら言ってね!お母さん応援するから!」
「・・・ありがとう母さん。」
ああ、やっぱり母さんには敵わないな。俺のこと俺以上に真剣に考えてくれてる。そうだよな、俺は元々・・・・
北郷一刀視点
パチっ。
目を開けると大きな木が見える。
「・・・そうか俺寝てたんだな。」
さっき星にあって才能のことについて考えていて、考えがまとまらない間ずっと歩いていたら街の外にまで来てしまって、丁度いいから静かに1人で考えようとして木にもたれかかったら、うとうとしてきてそのまま寝たのか。
「はぁ〜・・・はは、珍しく昼寝なんてしちゃったな。」
立ち上がり伸びをした。昔の夢を見る事は最近多いけど、久しぶりにいい夢が見れたな。
色々あった中学校時代だが、いい事もあったのだと思い出すことが出来た。そういえば夢の中の俺は最後になんと言いたかったんだ?・・・そんな事考えるまでもないか。
「俺の武の才能か・・・よし!」
ようやく考えがまとまった。だが
「・・・することが無くなった。」
才能について考えていて忘れていたが今日は特にすることが無いんだった。
「走り込みでもしようかな〜。」
そんな事を考えていると
ドドドッ。
「・・・馬の足音か?」
別にこの時代、馬は特に珍しくない。でもなんだこの胸騒ぎは・・・
妙な胸騒ぎを感じた俺は足音が向かった方向に走った。
ドドドッ。足音はどんどん遠ざかって行く。
「くそ、流石に馬には勝てないか。」
何かいい方法はないか悩んでいると凪に習った気について思い出した。
「・・・一か八かやってみるか!」
ブン。前に拳にやったように足に気を送り込むと、金色の靄のようなものが足にまとわりつき蹴りだすスピードが速くなった。 足に力を込め全力で走るとさっきとは比べものにならない速度で走れている。
「これなら追いつける!」
しばらく走っていると足音が大きくなってきた。足音の方を向くと馬が5頭いるが2頭は追われているようだ。しかもその2頭に乗っているのは
「女の子!?」
そう、俺と同じくらいの歳の女の子が3人の男に追われている。男たちの服装は黄色い布を巻きつけた盗賊のような格好をしている。・・・黄色い布?何か引っかかるぞ。・・・っと、今はそれどころじゃないか。
そんな事を考えていると男の一人が弓を構えた。
「おい!まさか!?」
ヒュン!俺の考えは当たってしまい矢が放たれた。その矢は1人の女の子の腕に当たり血が噴き出すのが見えた。
「ッ!お前ら!何してやがる!」
俺はそう叫んだ。すると5人全員がこっちを向き、全員が驚いた顔をしたがそんな事はどうでもいい!今はあの2人を助ける事が先決だ!
俺は更に足に力を込めスピードを上げた。ぐんぐん距離が近づいてきた。すると相手は女の子に向けていた弓を俺に向けて打ってきた。
「この距離で当たるわけないだろ!」
俺はその事に気がつくと小太刀を抜き、矢を弾き落とした。相手はひどく驚いた後慌てて次の矢を放ってきた。
カンッ!鏃を弾くと甲高い音が響く。
矢を弾く間にも距離は縮まっていたのでかなり近づく事が出来た。すると残りの2人も剣を抜き俺に斬りかかってきた。
「うぉぉ!」
1人の男が声を上げながら切りかかってきた。馬上から振り下ろした剣の威力は思った以上に強いためまともに受ければ体勢を崩されるかもしれないので受け流す。
シャァァ。剣が小太刀によって受け流された事で相手の体勢が崩れた。
今だ!ガシッと相手の剣を持っている方の手首を掴み、上半身の力で馬の上から引きづり落とした。
ドカン!すると主を落としたためか馬も一緒に止まった。
「まず1人目!」
俺はそう叫ぶともう1人の剣を持った相手に突っ込んだ。すると相手はさっきの様子を見ていたからか上からではなく横になぎ払うように剣を振ってきた。
「ッ!」
一旦距離を取りタイミングを見計らってもう一度突っ込んだ。
「もらったぁ!」
男がそう叫び同じように薙ぎ払ってきた。
ガキンッ!俺はその攻撃を姿勢を低くしながら手甲で上方向に受け流し、下から潜り込んだ。
「なに!?」
男は驚いた事によって一瞬身体が硬直した。その瞬間に足首を持ち引きずり落とした。
「がぁぁぁ!」
後ろからさっきの男の叫び声が聞こえたが気にしてられない。
「2人目!お前で最後だ!!」
そう言い俺は弓を持った男に突っ込んだ。男は苦虫を噛み潰したような顔をしながら弓を俺に向けて構えた。それでも俺は気にせず男に向かって突っ込んだ。
ヒュン!男が矢を放ってきた。最初にこの距離で射られてなら当たっていたかもしれない。でも、
「ふっ!」
パシッ!もう矢の速度には慣れた。どの距離から射られても防げる!
男を見ると信じられないものでも見たかのように口と目を開いている。
「終わりだ!」
グサッと男の太腿に掴んだ矢を突き刺すと男は悲鳴をあげ馬から転げ落ちた。
3人目の男を倒すと前にいた女の子2人は馬を止めた。
「はぁ!はぁ!はぁ!」
久しぶりにこんなに息が上がったな。普通に走ればこんなに息は上がらないんだが慣れない気を使ったせいでいつも以上に体力を使ったようだ。気は便利だけどまだまだ実用段階じゃないな。
そんな事を考えていると女の子達が近づいてきた。遠くからだったのでよく見えなかったが、1人は眼鏡をかけた利発そうな女の子で、もう1人の子は銀髪で小動物を感じさせる瞳をした女の子だった。そしてどうやら
銀髪の子が矢を受けてしまっているようだ。
「大丈夫ですか!?今すぐ怪我の治療を!」
そう言い近づくと
「そこで止まりなさい!」
眼鏡の女の子がそう言ってきた。どうやら俺を警戒しているようだ。
「落ち着いてください。俺は貴女達の敵じゃありません。」
俺は落ち着かせる為に両手を挙げそう言った。
「信じられないわね!さっきあの男たちを倒したのも、私達を捕らえるためじゃないの!?」
・・・どうやら興奮して錯乱状態にあるみたいだな。こうなるとこっちの話を聞かせるのに一苦労だ。さて、どうしたものか。
話を聞かせる方法を考えていると
「詠ちゃん。助けてくれた人にそんなこと言っちゃ駄目だよ。」
「月!すぐに人のことを信用しちゃ駄目!さっきだって道を教えてくれるって言ってついて行ったらあんな事になったんじゃない!」
「でもあの人は命懸けで私達を助けてくれたよ?そんな人を疑っちゃ駄目だよ。」
「で、でも月」
銀髪の子は俺のことを庇ってくれるが、眼鏡の子が疑っているようだ。・・・いや、疑っているというより銀髪の子を守りたいから誰も近づけたくないのか。・・・なら俺も俺なりに誠意を見せなきゃな。
「なら、これならどうですか?」
そう言うと俺は小太刀を2人の方に投げた。
「・・・な、何のつもり?」
「俺がその子を治療している間俺の首筋にその小太刀を押し付けてもらっていて構いません。」
「な!?あ、あんた自分の言ってる事分かってるの!?ボクに殺生与奪の権利を渡すって事だよ!?何でそこまでするのさ!」
眼鏡の子はそう言ってきた。
「う〜ん、何でかと言われるとうまく言えないけどさ。女の子が怪我してたら普通助けるものでしょう?」
考えた事なかったが、女の子が怪我をしていたら普通助かるものだよな?
「・・・詠ちゃん。」
「はぁ〜分かってる。こいつはただの馬鹿だ。」
「・・・えーと、普通事言ってるつもりなんですけど?」
「はいはい、分かったわよ馬鹿。」
ひどい言われようだ。
「いいわ。治療はさせてあげる。ボクも医学について詳しい事は分からないから。でもこの剣は使わせてもらう。万が一のことがあるかもしれないからね。」
「詠ちゃん。」
「分かりました。元々そのつもりだったので構いません。」
そう言い2人に近づき銀髪の子の怪我の様子をみる。
「・・・ふむ。」
「ど、どうなの!?月は大丈夫なの!?」
心配そうにそう聞いてきた。やっぱりこの子の事が心配なんだな。
「はい、診た感じ大した怪我ではありません。血が多く出てるますが深い傷じゃなさそうです。」
「だ、大丈夫なのね!」
「はい、ただこのまま放置しておくと破傷風にかかってしまうかも知れません。」
「は、はしょうふう?」
「一言で言うと命に関わるものです。」
「っ!?大丈夫じゃないじゃない!」
「落ち着いてください。ちゃんと処置すれば大丈夫ですから。」
そう言い、俺はガーゼの代わりになるものがないか制服の中を調べた。
う〜ん、何か入れてたっけな?・・・ん?
内ポケットを調べると、何かが手に当たった。それを出してみると
「・・・ハンカチ?」
ビニール袋に入ったハンカチが出てきた。まぁ使えそうだからいいが何でビニール袋に入っているんだ?
そんな事を考えながらハンカチを出すとポロっとメモ用紙のようなものが出てきた。メモ用紙には何か書いてあるようなので読んでみると
かずピーへ、この間借りたハンカチ返しておくで。お礼は購買のパン1個でええで。
「・・・はぁ〜全くあいつは。」
借した覚えはないのだが、まぁまぁこの際いいか。ハンカチ自体はビニール袋に包まれていたため綺麗なようだ。
「じゃあとりあえずこれで止血をしましょう。」
そう言い怪我をしている腕に巻こうとすると
「そ、そんな綺麗な布を汚すわけにはいきません。私は大丈夫ですからどうかそれはしまってください。」
「ああ、気にしないでくださいこれくらい。それよりもそちらの怪我を悪化させない事が大切ですから。」
そう言い傷口の上で軽く縛り固定した。
「これでよし。あとは水で傷口を洗って綺麗な布か何かで覆ってください。」
そう言うと俺は両手を挙げ、2人と距離をとった。
「えっと、もういいですか?」
「ま、まだよ。あんたの足の速さじゃその距離からならすぐにボク達をころせるでしょう。だからボク達が立ち去るまでそのまま動かないで。」
「分かりました。あ、でもその剣は置いていってください。」
「分かってるわよ。」
そう言うと眼鏡の女の子は小太刀を自分の足元に置き、自分達が元乗っていた馬に乗った。
「じゃあボク達は行くよ。全くはお節介にもほどがあるよ。」
「はは、すみません。」
「でも・・・」
眼鏡の女の子はそこまで言うと後ろに向きを変え
「・・・・くれて・・・とう。」
ぼそっと何か言った。何を言ったか良く聞こえなかったが俺は彼女が言ったであろう言葉に対して返答をした。
「・・・どういたしまして。」
「・・・ふん!月行こう!」
そう言うと眼鏡の子はゆっくりと馬を進め始めた。
「あ、待って詠ちゃん!・・・あの、本当にありがとうございました。このご恩は忘れません。」
そう言うと銀髪の子がペコっと頭を下げてきた。
「気にしないでください、こっちが勝手にした事ですので。」
ニコッと笑いながらそう言った。
「・・・へぅ〜。そ、それでは私も行きます。また何処かで会えたらいいですね。」」
そう言い眼鏡の子を追いかけて少し速いペースで馬を進めて行った、
「・・・ふぅ、何とかなったな。」
そう言い俺は落ちている小太刀を拾い鞘に収めた。
「・・・ 帰るか。」
それにしてもあの子たちは何者だったんだろうか?服装の装飾がかなり凝っていたから何処かのお金持ちの娘とかかな?まぁ今となっては何も分からないか。
そう思い、街まで走って帰った。
北郷一刀視点
街に着くと辺りは薄暗くなっていた。とりあえず急いで帰るために宿まで走って行った。そして宿に着くと
「おや、一刀お帰りなさい。今まで何処にいたのですかな?」
星が酒を飲んでいた。
「ふぅ星、また酒飲んでるのか?あんまり飲みすぎると身体壊すぞ。」
「おや心配してくださってるのですか?」
「当たり前だろ。」
「・・・ふふ、そうですか。まぁ少なくする努力はしましょう。ところで一刀、朝の悩みについての答えは出ましたかな?」
「・・・ああ出たよ。」
「ほぅ、答えを聞いても。」
「ああ、いいよ。俺の答えは」
スゥーと息を吸い俺の答えを言った。
「わからん!」
「・・・ん?」
「分からなかった!」
「・・・はぁ〜全く一刀は自分の事となると洞察力がひどく乏しくなりますね。」
「え?そんなにひどい?」
「ええ、これ以上ないくらいには。」
すごい酷評された。軽く泣きそうになるぞ。
「・・・ですが、朝会った時よりいい顔しておられる。何か他にありましたな。」
「・・・ああ、自分が何で武術を始めたのかを思い出したんだ。」
「武術を始めたきっかけですか?」
「うん。俺はね・・・大切な人達を守りたくて武術を始めたんだ。才能とかはよく分からないけど、まずは自分の目標に向けて頑張ろうと思ったんだ。」
「・・・そうですか。ふふ、まぁそれもいいかもしれませんね。」
そう言うと星はぐいっと酒を飲んだ。
「ふぅ、一刀もどうですかな?今後の方針が決まった記念に一杯。」
「いや俺は、」
カーン。俺がやんわり拒否しようとした時、金属同士を叩いたような音が聞こえた。
「ん?なんの音だ星何か知って・・」
星が何か知っているかと思い、星を見てみるとひどく驚いた顔をしていた、
「ま、さか、あの伝説の商人がこの街に!?」
「伝説の商人?」
「く、今どれくらい残っている!」
そう言うと星は自分のお金が入った袋を取り出し残金を確認し始めた。
「・・・くそ!これでは足りない!一体どうすれば!」
星がうな垂れていた。どうやらお金が足りないようだ。・・・なら
俺は星に自分のお金が入っている袋を渡した。
「一刀?」
「星にはいつもお世話になってるから、これぐらいのお返しはさせてよ。好きに使っていいから早く行ってきな。」
「いいのですか!?」
「いいから、いいから早く行ってきな。」
「・・・かたじけない!趙子龍、この恩は忘れませぬぞ!」
そう言い、星は街中に走って行った。
「良かったあんなに喜んでくれて。・・・それにしても星があんなに欲しがるなんて一体何なんだ?」
その日星は帰ってこなかった。
北郷一刀視点
ぱちっと目が覚めた。
「ん〜〜よく寝たな。」
さて、今日は出発の日だから早めに支度をするか。
そう思い立ち上がると着替え、近くの川で顔でも洗おうと扉を開けると
「・・・何してるの星?」
星が俺の部屋の前で頭を下げていた。
「・・・一刀、私は貴方に謝らればならぬ事があります。」
「?何?」
「実は・・・」
スッと俺のお金が入っていた袋を持ち上げ逆さにした。
パサッパサッ。乾いた音が聞こえる。
「・・・まさか。」
「はい、一刀のお金を全て使い切ってしまいました。本当に申し訳ない!」
そう言い星は深く頭を下げた。
「いや、別に使い切ったのはいいんだけど一体何があったの?」
「それが私も一刀にお金をもらい街まで走って行ったのは覚えているのですがそこからの記憶が曖昧でして。気がついたらこれを持って一刀の部屋の前に来ていました。」
そう言い地面に何個もあった壺を指差した。
「それは何なの?」
「これは至高の食べ物メンマでございます!」
そう言い、壺の中を見せてくれた。なるほど確かにメンマのようだ。
「星はメンマが好きなんだね。」
「はい、私はメンマさえあれば生きていけるほどにメンマを愛しております。」
「そこまでの愛か。」
星がそこまでメンマが好きとは知らなかった。
「で、俺のお金が全部メンマになってしまったと。」
「も、申し訳ない。このメンマは伝説と言われている職人が作ったもので、しかもその職人が気まぐれにしか作らないものなので大変珍しいのです。」
「へぇ〜そんな人がいるんだ。」
「はい、何でもこの街に住んでいるようで最近まで近くの食堂で働いていたようなのですが。」
近くの食堂、俺の働いていた食堂か?・・・まさかな。
「まぁそれもお金についてもいいとして。これからどうするの?文無しじゃ宿にも泊まれないし、食料も買えないよ?」
「それについては1つ妙案があります。」
星は手をビシッと挙げるとそう言った。
「どんな案?」
「はい、軍に入るのが良いかと。」
「軍?この街の?」
「いえ、この街の軍は今兵を取っていませんので入る事はできませぬ。ですので近くの軍に入ろうかと思っています。」
「誰の軍?」
俺がそう聞くと星はこう言った。
公孫瓚だと。
こんにちはコンバンワアリアです!
やっっっとここまで来たー!というわけで幽州ルートです!投稿遅れてしまい申し訳ありません。ここまで繋がるシナリオ作成に時間がかかってしまいました。冒頭の部分は急いで書いたこともあり駄文かもしれませんがお許しください。さて今回は一刀が小太刀を手に入れる事と自分の才能について向き合う事をしました。どちらもこの作品の一刀には大切な事なので入れておきました。次回はいよいよ軍に入り物語が進んで行きます。面白い話が書けるように頑張るので応援よろしくお願いします!
それでは今回はここまでまた次回お会いしましょう!それでは再見!
ちなみに息抜き作品も出来上がっています!
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