No.921435

呂北伝~真紅の旗に集う者~ 序章

こんちは。
いや~、真・恋姫無双シリーズ、新作出ましたね。
まったく目出度いことです。魅力的な将やキャラも多く出てきて、発売と同時に買ってしまいました。
諸事情によりまだ全クリはしてませんが、ちょこちょこと楽しくプレイしています。
最低でも今年までには終わらせたいねww

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2017-09-06 23:11:32 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:5651   閲覧ユーザー数:4814

呂北伝~真紅の旗に集う者~ 序章

中国後漢末期の191年。中華大陸の都である洛陽は燃えていた。かの有名な暴君董卓が、己の暴政証拠隠滅の為に火を放ったのだ。都は燃え、そこに住む民は我先にと城外へと逃げ出している。これが後に董卓軍と、それに対抗する反董卓連合の対立。後に『陽人の戦い』と呼ばれる戦のなれの果てである。そもそもこの戦は都にて帝を蔑ろにし、横暴を極める董卓を成敗するために行われたものであるが、果たして本当にそうなのであろうか。

元々董卓は辺境の一将軍に過ぎなかったが、何の因果か洛陽の相国にまで出世した人物である。出自も決して名家などの出などではない。偶々因果が重なりとある事件がきっかけで幼い帝を救出したに過ぎない。それによる褒美で帝に洛陽の一部統治を任せられ、仕事を行っていくうちに、いつしか洛陽の権限その全てを握るようになっていた。

 だがそれが周りの諸勢力に気に障ったのかもしれない。嫉妬の炎はやがて大きくなり、いつしか董卓への小さな戯言がこのような事態に発展してしまったのだ。やがて諸将は立ち上がり、「董卓の横暴許すまじ」と節々に吠えるようになり、そこには自らの出世への足掛かりとしての欲望が多くギラついていた。果たして董卓の悪政が真であるか、それとも嘘であるか。もうそれは誰も知る由がない。全ては灰となり消えてしまったのだから。

 洛陽の宮廷。そこはこの都の中枢であり、ひいては中華大陸を収める漢王朝の中心として、あらゆる知識が集まる場所。しかし今はその影もないほど盛大に燃えている。そしてその燃え盛る宮廷内を闊歩する四人の人物がいた。

 

「はあぁぁぁぁぁっ‼」

黒髪の薙刀使いは自らに迫りくる兵士を一閃の下に切り伏せる。

彼女の名は関羽雲長。大徳の基に立ち上がった、劉備玄徳の義妹であり、良き右腕である。

「うにゃにゃにゃにゃにゃ~~‼」

自らが我先にへと周りの兵士、装飾品をも壊し一人先走る赤毛の少女は張飛翼徳。彼女も劉備の旗の下に立ち上がった一人で、劉備の義妹でもある。自ら体の3倍の長さはあろう蛇矛を振り回し奥へ奥へと進んでいく。

「おい鈴々‼桃香をお守りしないで先に向かってどうする⁉」

「心配ないのだ愛紗。お姉ちゃんには愛紗が近くにいるのだ。鈴々は董卓の首を獲って、この戦の英雄になるのだ」

そう言うと張飛は関羽を後にして更に奥に進んでいく。関羽も先走る義妹を自重するように追いかけて、釣られるように奥に進んでいく。

「やれやれ。自重を呼びかける本人もそちらに進んでしまえば世話ないですな、桃香さま」

「あ、あは、はははははは、、、」

呆れ顔でため息を吐きながら、刃先の割れた直刀槍を背負う青い髪の女性は趙雲子龍。自らの仕える主を探し、放浪の末にたどり着いたのが劉備である。

そんな趙雲の言葉に苦笑いして、先ほどより『桃香』の呼称で呼ばれる桃色の髪の女性は劉備玄徳である。世の乱れを愁い、自らが立ち上がり義勇軍を発足し、やがて冀州の平原相にまで出世を果たし、今回の戦も洛陽に住まう人達を思い、連合の一員としてこの戦に参戦した。ちなみに先ほどから呼ばれているそれぞれの呼称は、真名と呼ばれる神聖なものである。

「ま、まぁ、星ちゃんがいるから安心だよ」

そもそも何故劉備達がこのような場所にいるかというと、未だに宮廷内に逃げ遅れた者がいないか確かめに来たのだが、火の燃え上がり方を見るにそろそろこの場に留まることも限界であろう。そんなことを思っていると、燃え盛る炎の音からも聞こえる剣戟の音。音の方向からその先は関羽と張飛が向かった先であるので、察するに二人が誰かと交戦しているのだろう。劉備と趙雲は急ぎ二人の後を追っていった。

 燃え盛る炎の中、とある執務室の前で、関羽と張飛は董卓軍の女武将の一人と戦っていた。何度も剣戟を重ねているうちに素人目でもわかる程、猛将として謳われる関羽と張飛が二人がかりでも劣勢である。

あの将は董卓軍の呂北隊の者である。

今回の戦で連合側はかなりの辛酸を舐めさせられた隊がある。それが董卓軍の呂北が率いる軍勢である。連合側には数多くの優れた猛将が控えていた。曹家の夏侯惇、孫家の黄蓋、そして劉家の関羽などなど、いずれも一騎当千の猛者たちばかりなのだが、それらの猛者たちをもってしても、この呂北隊の迎撃を破ることは出来なかった。そこで連合は、正面突破は難しいと判断し、数で上回る人海戦術にて董卓軍を圧倒せしめた。

昼夜問わず攻め続け、そうしているうちに如何に精強な董卓軍も、連合の半分もない兵力であるので、徐々に疲弊しやがて壁は破られた。

 そして今に至る。その連合に辛酸を舐め続けさせた呂北隊の将の中でも、一番の猛者が関羽と張飛の相手をしているのだ。その将も疲れているのか、槍を重そうに持ち方も少し下がっている。そんな状態でも関羽、張飛二人の猛者を相手に圧倒せしめているのだから、その力量は計り知れない。趙雲も加勢しようかと悩んでいた。しかし現在自分たちがいるのは宮廷内とはいえ敵勢力の中である。何処に敵の残党がいるかわからないのだから、今自らが劉備の下を離れるは得策ではない。

「もういい。愛華(メイファ)

将が守る扉よりそのような言葉が聞こえてくると、将は矛を収める。無抵抗の者を討つのは武人の道に反するのか、同じく関羽と張飛も矛を収めるが、その表情からは何処かやるせなさを感じずにはいられないようだ。

やがて愛華と呼ばれた将の前の扉が開いていき、独特の鎧を纏った男が出てきた。彼こそが、この戦で連合軍に辛酸を舐め続けさせた呂北隊の大将である、呂戯郷である。

個人の武もさることながら、優れた統率力、隊を率いる知力と指揮力も一流であった。その一歩後ろ隣りには、彼の部下であろう女性が控えていた。その呂北が出てきた瞬間、関羽と張飛はまた一つ構えた。如何に武装解除しているとはいえ、相手は今までこちらを翻弄し続けた者である。男は一度部屋に引き返し、やがて戻ってくると、一人の銀髪の少女をその両腕に抱えて出てきた。呂北は劉備の前に立ち、両目に大粒の涙を流しながら片膝を落とし少女を彼女に差し出しながら言った。

「.........劉備殿、どうかこの者を救ってください――」

劉備が以前見た呂北は、自信に満ち、こちらの何もかもを見透かし、その存在を不気味に思い、恐怖すら感じた。その呂北が頭を下げつつ、懸命に劉備に願った。悲壮を沸きたてるように肩を震わせながらむせび泣く、その背中から出てくる哀愁は、まるで魂の半分を差し出す様かの思いを感じ、あれほど警戒していた関羽と張飛も、彼の姿に武器を下した。

 

扶風西郡。荒野が広がる地にて、黄色の頭巾を被った者達と鎧に身を包んだ者たちが激しく剣戟を打ち鳴らしていた。

「はあぁぁぁぁぁっ!!」

金色の長髪を靡かせ、白い軍服に内側には緑のネック無しのシャツを着て、背には縁取りが金色で白のマントを羽織り、赤色の手甲と鉄のブーツを着けた女拳闘士が、最前戦にて多くの敵をその拳で殴殺していく。時には蹴り技を駆使しながら、自らが率いる者達を鼓舞する。

「おどれら。(ヤッコ)さんは儂らの壺割りにキリキリまいじゃき。親分の縄張りあらす奴に、おどれらの侠気見せたらんかい」

女が鼓舞すると、鎧に身を包んだ者達は武器を高々と挙げて、挙げた武器以上の雄叫びを挙げると、その勢いで黄色の頭巾の者達を蹂躙していく。

(ロウ)ちゃん、ちょっと突出しすぎアルね。少し勢いを落とさないと、うちらがついていけないヨ。そこんとこヨロシ」

女剣闘士の隣にいた脹脛まで出たスリットの入った黒のチャイナ服の女性が、長い棒を回しながら隴と呼ばれた拳闘士に対し自重を促す。

「黙らんかい夜桜(ヤオウ)。おどれが獲物選びに戸惑っとるから、恋のお嬢に残されたんじゃろ。お嬢にもしもがあったら、親分にどう落とし前つけるんじゃ」

「大丈夫ネ。恋様には留梨がついているヨ。それに恋様はアタシ達より強いアルヨ。三人もついていけば逆に邪魔になるネ」

「っぐ、そいつぁそないかもしれんが、そいじゃ儂の義理が......」

夜桜と名乗る女性に正論を言われたのか、隴と名乗る拳闘士は下唇を噛む。

「……隴ちゃん、いくら主様に褒めて貰いたいからって、あまり張り切り過ぎると空回りスルアルヨ」

夜桜はニヤニヤと笑いながら言うと、隴は顔が見る見るうちに赤くなっていく。

「あ…あああ、何アホなこと抜かしよるん。おどれ、儂の顔に光灯すのが目的とちゃうのけ‼」

「あ、わかったアルか?」

「……夜桜、貴様(きさん)後で覚えちょれ。その大層な(タマ)取っちゃるけいの」

「へっへん。羞恥心に塗れた隴ちゃんなんて、怖くもなんともの無いアルね」

そんな会話をしながらも、二人は頭巾の者達を片っ端から蹴散らしていく。

 

 所変わり違う戦場にて......。

「恋殿ぉーー。隴殿らの方はあらかた片付けた様です。こちらも終わらせてしまいましょう」

「......ん」

白いカンフー服にショートのデニム、脚に黄色と白の縞ニーソックスの少女が、白と左右に色分けられたヘソ出しキャミソールと白いマイクロミニのプリーツスカートの触角の様に二本髪の毛が飛び出した赤髪の少女に告げる。

すると赤髪の少女は、自身が携える武器である、自らの身の丈の倍はあろう戟を振るい、頭巾の者達を吹き飛ばす。

「音々さん。あまり突出し過ぎると痛い目にあいますよ」

右手に刃先が70cm鉈を片手に持ち、銀髪の長髪を後ろでまとめ、黒のショートデニム、白のタンクトップに胸を強調させる革のブラウンのコルセット。その上から同色の革ジャンを着て、黒の皮手袋をはめ、頭には革のワークキャップを被りゴーグルを備え付け、腰に幾つか工具の入ったカバンを持つ女性が窘める。

「いやいや留梨殿。恋殿にかかれば賊の百や二百――」

「その慢心が前に主に窘められたのではないのですか?」

その言葉を聞くと、音々と名乗る少女は急に顔を青ざめさせる。留梨と呼ばれる女性は一つため息を吐き、鉈を腰の鞘にしまうと、留梨は一つ合掌をした後に、その手のひらを地面に付けた。

「……土招呼還(どしょうここん)

留梨がそう呟くと、地面の土がせり上がり、数十の土人形が召還された。彼女は掌で何かを操る様に指をウネウネと動かすと、土人形は赤髪の恋と名乗る少女に向かっていき、彼女を取り囲もうとする頭巾の者達を蹴散らしていく。土人形の素材は土である。故に人形を槍で刺そうが、剣で切ろうが生半可な攻撃ではビクともしない。よって人形は自身へのダメージなどお構いなしに敵を吹き飛ばしていく。

「音々さん。暫く私の周りを頼みます」

それを聞くと音々と呼ばれる少女は留梨の周りに精鋭を数人配置した。そしてこれは追記であるが、音々の呼称は略称であり、本当の正式名称は音々音。正式名称で呼ぶと、「ね」の単語が4つであったり5つであったりと皆間違いやすくなるので、音々とわかりやすく読んでいる。

やがて戦が終わり、5人の少女と兵たちは高々と勝鬨を宣言する。彼らは扶風西群の兵士である。中華大陸の扶風という領地は丁原と呼ばれる太守が支配する場所であり、その西群を守るのが、丁原の息子である呂北と名乗る青年である。彼は丁原の養子であり、今は亡き丁原夫人の呂氏に、呂一族の証である姓を名乗らされた。

呂北は幼い頃より文武両道に才があり、特に武の才は天性の物で、周りより神童とも謳われていた。やがて青年になるにつれて別の才も開花していく。扶風は中華大陸第二の都長安に近い地域であり、それ故成り上がる為に大陸の頭脳や武に自信を持つ猛者が集まってくる。ここで呂北の真の才能が開花される。彼は足繫く長安に通いその目で有能な人材を引き抜いては、優れた自らの軍を築いていった。それが中央の役人の目に留まり、彼の力を欲するが為に彼の父親である丁原と呂北に漢の役職も与えた。丁原は騎都尉として都に召還され、その丁原の代理として、現在呂北は扶風太守として、西側を中心に収めている。

「いや~、やっと戻ってきたアルよ。早く美味しいものでも食べに行きたいネ」

街に戻ると、夜桜は体を伸ばしもって言った。

「まだですよ。まずは主に報告してからです」

「そないじゃ。物事の筋を通す。仁義を歩む武士(もののふ)の定めじゃき」

二人に諭されながら夜桜は唇を尖らせるが、街を歩いていると突然目を光らせて何かに吸い寄せられるようにフラフラと何処かに向かう。向かった先は店先にあらゆる小物が置いている雑貨屋である。

「あ、あれは、阿蘇阿蘇に載っていた湯呑アルね」

光に吸い寄せられる蛾の様に店に入ろうとする夜桜の首根っこを隴が掴む。

「おどれは先にするべきことをやれというに」

夜桜は離せ離せと体をバタつかせるが、隴の腕力に成すすべなく引きずられる。

「留梨、おのれも手伝わんかい‼......留梨――?」

隴が視線を離した隙に、留梨も別の場所に引き寄せられていた。その先は人形屋である。

「はぁはぁ。あ、あれは製造中止となった『史記彩り集』の一つ、樊噲人形」

息は荒く、目をランランとギラつかせ人形に引き寄せられていく留梨。そんな彼女に向かって、隴は掴んでいた夜桜を投げつける。夜桜と留梨の頭が互いにぶつかると、二人ともそのまま伸びてしまった。

「......全く。留梨も人形さいからまにゃ、一本気のある(つわもの)やのに」

一つため息を吐きながら二人を引きずっていくと、とある店先で先に先行していた恋と音々を見つける。どうやら先に着いて買い食いを行っているようであり、店先の長椅子に座っている恋の隣には大量の皿が積まれていた。

「お嬢。お食事のところ申し訳ありませんが、親分に今日のことを報告に行きやせんと......」

表情に出さないまでも、恋は少し不服そうに口を閉ざすが、隴はいつも使う切り札を恋に投げかける。

「今日も愛華(メイファ)の姐さんがたくさんの料理を作って待っています」

その言葉に恋の頭の触角がピンと張ると、彼女は先急ぐ形で城に向かって走り出し、それに音々も続く。

「店主、これは代金じゃき」

隴は懐より金の詰まった袋を取り出すと、店の店主に手渡す。

「.....!?い、いえいえ、将軍。こんなにも貰えません」

「いや、ええんじゃき。前は儂も夜桜と留梨のことで顔に電気付いて、あんさんの店先無茶苦茶にしよったからに。その分もじゃ」

「し、しかし......」

「堅気に迷惑かけた詫びの印じゃき。頼むけぇ受け取ってくれや」

隴は大股を開き、手は膝に置いて頭を下げると店主も押し黙ってしまう。

「......わかりました。ですが将軍、代金を受け取る代わりに今度は将軍が食べに来てください。それでチャラです」

「......おまいさん。儂にたらふく食わして、また代金をせしめる気やな」

隴は頭を上げてニヤリと笑うと、店主はキョトンと顔をさせながら「バレましたか?」と返し、二人の間に笑いが生まれる。

「わかったわかった。儂の負けじゃ。今度寄らせてもらうき」

隴は降参とばかりに両手を挙げ、店主は「はい。お待ちしております」と言い頭を下げる。

隴はそのまま二人を引きずって城に向かい、店主は隴の背中が見えなくなるまで彼女に頭を下げ続けた。

 

 「郷里(サトリ)、この地区の治安はどうなっている?」

「そちらには先月、愛華(メイファ)様に行っていただきました。税を横領している役人達を取り締まって、彼らを処罰し、代わりの者を送って以降はだいぶ落ち着いています」

「民の血税を懐に仕舞うなとは言わないが、それで民の不満が爆発すれば元の子もない。取れる物はしっかり取り、そして程々に民の声に応えてやる。最低限そこまでのことを行って貰わなくてはな......。広魏方面の荒れ地の開墾はどうなっている?」

「現在、人足を集めている最中ですが、如何せん国の事業拡大に伴いまだまだ足りません」

「……ふむ――」

室内にいる中に白のカッターシャツにその上から首元と中心に緑のラインにセピア調の半袖ニットを着て、黒のケープ・ローブ・マントを着こなし、下は膝元まで見える短めの紺色スクールスカート。膝元まで伸びる黒のロングソックスに、白いブーツの眼鏡をかけた郷里と呼ばれた女性は、目の前の机に座る青年に話しかけている。彼女が話しかけている青年こそ、扶風を収める、姓は呂、名は北、字は戯郷(ぎごう)という統治者である。彼の身の丈は6尺(約180cm)。この時代の人間にしては大きすぎるぐらいの身長であり、何故か日本の伝統衣装である着物を着こなし、上は黒地に近い紺の振袖に、下もこれまた黒字に近い灰色の袴である。

「だったら、横領に関わった者達全て、広魏方面に向かわせろ。男は開墾、女は娼館で働かせろ。その者らの夫・妻も同じように扱え。子は12を越えていれば家督を継がせて働かせ、それ未満の者は12になるまで東群の商学舎に入れて学ばせ、卒業と同時に働かせろ。一人でも断ればその者らの一族の者達を一人ずつ送り込み、従わなければ送った者を見せしめに殺せ。そうすれば従うだろう」

「よ、良いのですか?」

「構わん。少しでも余計なことを考えれば、家族の命が無いと脅しておけ」

冷ややかな表情で淡々と話す呂北に対し、郷里は額に一つ汗を垂らし、命を聞くと、郷里は静かに頭を下げるとそのまま部屋を出ていく。やがてすれ違うようにして、暫くした後に彼の部屋の扉が開かれる。

「お兄ちゃん。ただいま......」

「恋か」

先程の冷ややかな表情とはうって変わり、恋が入ってきた途端に、呂北の表情は晴れやかなものとなった。

そんな呂北の膝元まで恋は駆け寄り、彼女は彼の足元に座る。呂北は「参った」と漏らしながらも、笑顔で恋を抱きしめながら彼女の頭を撫で、恋も少し頬を赤く染めながら、気持ちよさげに呂北に体を預ける。

「主。ただいま帰参致しました」

後から入ってきた隴以下四人の者達が、片膝を付き、握った右手を包むように左手で合掌する抱拳礼を行い、頭を垂れる。

「うん。お前たち、ご苦労だったな。恋、愛華が昼飯を作って待っている。先に行っていなさい」

「……お兄ちゃんは?」

「お兄ちゃんはまだ仕事が残っているからな」

「………だったら、待ってる」

「それは嬉しいんだが、まだまだかかりそうだからな。お兄ちゃんに構わず先に食べているといいよ」

恋が「でも」っと言いかけた際に、彼女のお腹より小さく虫の鳴き声が聞こえて、恋は先程より一段と顔を赤くして俯く。

「ははは。わかったこうしよう。お兄ちゃんの仕事がひと段落ついた時に、街におやつを買いに行こう。それまではセキト達と一緒に遊んでいなさい」

「......本当?」

「ああ本当だとも。お兄ちゃんが嘘をついたことなんてあるかい?」

恋は俯きながら首を振ると、呂北の膝から降りる。

「音々、恋と一緒にお昼に行って来なさい。腹7分ぐらいまで抑えさせて食べさせろ」

「わかりましたですよ。さぁ恋殿、向かいましょう」

音々は恋の裾を引っ張りながら部屋を出ていこうとし、恋は呂北の姿が見えなくなるまで手を振り、同様に呂北もそれに応える様に笑顔で手を振り返した。やがて部屋の扉が静かに閉まると、彼の笑顔はピタリと止み、部屋に張り詰めた空気が流れる。

 「報告を聞こう」

呂北は深く椅子に座り直し背もたれに背中を預け三人に問う。

「はっ。今回出現した黄色い頭巾の者達、武都や魏興でも見かけた者達と同じ集団です」

呂北の問いに最初答えたのは隴であり、何故か先程のような独特の訛り言葉ではない。だが何処となく頬を少しばかり赤く染めているようである。

「『蒼天已死 黃天當立 歲在甲子 天下大吉』と書いた旗を掲げているから間違いないアルヨ。主様」

それに対し、夜桜は変わらずラフに話していた。

「そうか......。留梨、恋の調子はどうだ?」

「それはもう素晴らしいものでしたよ。恋様は天性の武の才能があります。今日も殆どの賊徒をその腕で蹴散らし、敵も恋様の腕に恐れをなして逃げていくばかりでしたよ」

留梨は両手を広げて恋の戦場での活躍ぶりを壮大に話し、彼女が興奮して動くたびに、彼女の持つ豊満な乳房が揺れるが、その途中、呂北が人差し指を立てて軽く腕を挙げると、留梨は「失礼しました」と背中を丸めて手を膝元に組んでそそくさと後ろに下がる。

「隴、夜桜、留梨。お前たちは何の為に存在している」

この呂北の問いに、三人は口を揃えて答える。

我らは恋様に仕える為に

 

「お前たちの命は?」

 

全て恋様の物

 

「恋が死ねと言えば?」

 

何も考えずに自害を選ぶ

 

「恋に危機が及べば?」

 

どのようなことが起ころうとも、恋様の下に駆け付ける

 

「そうだ。恋に古今無双の力が備わっていようとも関係ない。貴様たちは恋の矛であり盾であり、そして木偶なのだ。それを穿き違えるな。わかったな」

三人は再び片膝を付き、抱拳礼で頭を垂れる。

 

承知しております。我が主、一刀(カズト)

 


 
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