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新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第054話

こんばんは。
おそらく今年最後の投稿になります。
のっぺりこの作品を書き始めて結構立ちますが、まだ物語は半分行ったかな?ぐらいです。

やっぱり社会人になると書く時間も無くなりますねww

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2016-12-29 22:56:04 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1577   閲覧ユーザー数:1471

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第054話「長坂の戦い」

 南陽の統治に成功した凛寧と黒美(へいめい)は、軍の立て直しをしていた恋歌と合流。その規模は4万と膨れ上がり、5万の兵を率いていた劉備も、その勢いに押され、諸葛亮らの進言で夏口へと撤退。

それを追うように恋歌達も一部の兵と凛寧を襄陽に残し、進軍を再開したが、その進軍を妨げる者がいた。

「長坂で関羽が兵を展開して待ち構えている?」

物見からの報告を恋歌が再確認し、兵を下がらせ、恋歌は黒美に尋ねる。

「黒美、長坂とはどんな場所ですか?」

「そうですねぇ。多くの兵が展開しやすく、大きな坂もそれほど多いわけではありません。ただ長坂橋に続く道。こちらを抜けるのが長坂を越えるのにもっとも近い道ですねぇ。……しかしこの道を抑えられると、回り道をしなくてはなりませんので、劉備軍本隊に追いつくのは厳しくなります」

「……関羽は本当にここに布陣を引いていると思いますか?」

「ほぼ間違いないでしょう」

恋歌は後ろに手を組んで、天幕をうろつきながら考えを巡らせまとめる。そして......。

「黒美。私たちが長坂に着陣するまでに、関羽軍の兵の数、周りの地形、兵の武装、あらゆることを調べておきなさい。どのような細かなことも、着陣次第全て報告するように――」

黒美はそれを了承すると、数十の共を連れて長坂に向かった。

そして数日後に、恋歌率いる劉備討伐本隊は、長坂に着陣した。

前方数里先には馬防柵を張り、少し傾斜が高い所に陣を張る関羽軍があった。

黒美の報告によれば、敵軍の総数は3万程であり、その殆どが弓兵である。

「恋歌様、時間がありませぬ。この陣を破れば敵は崩れ、長坂を越えられます。ここは一点突破しかありません」

「あんた何言っているの?敵は馬防柵を張って、弓・槍兵が主なのよ。明らかにこちらの出方を伺っているに違いないじゃない。ちょっとは考えなさいよ」

「しかし、このまま戦の膠着状態が続けば、みすみす劉備を取り逃がすことになるのだぞ。ここはある程度の犠牲覚悟で正面突破しかないだろう」

恋歌の前で雅と詠が討論を始めていた。だが恋歌自身も焦りは感じていたのだ。先の戦で、兵力の差を感じさせない戦いにてこちらの勝利を呼び込み、敵に普通の”野戦では勝てない”ということを刷り込ませた筈である。それであるのに、何故相手は襄陽の城での徹底抗戦ではなく、あえて野戦にうってでたのか、それが気がかりであった。

その時、恋歌は重昌が言っていたセリフを思い出していた。

戦で迷ったとき、一体どうやって答えを見つけ出しているのかを......。重昌がその時言ったのはこうだ。「その時は過去の経験や、聞いたことのある武勇伝を思い返してみるね。何か勝利のヒントがあるかもしれないし......」っと。恋歌は同じように今の状況を、日の本での戦に置き換えてみた。

現在自ら率いてきた兵の数は1万5千。相手は3万。兵力差、二倍。

地形、野戦。正面での戦い、実際に戦場で戦える兵の総数、自他共に合わせ2万。

相手の兵主、弓・槍。こちらの兵主、騎馬。

そんなことを思っていると、瞳が恋歌に声をかけてくる。

「恋歌様、この風景……何かに似ていると思いませんか?」

“何かに似ている風景”。そんな言葉を聞かされたとき、恋歌の中で一つの回答が出てきた。

「設楽ヶ原……か......」

この時代では、遠い国で、また遠く未来で起こりうる戦いである、織田・徳川連合対武田との一大決戦、長篠・設楽ヶ原の戦いである。

「……三葉を連れてくれば、この戦、必ず勝てたのだけれどもね......」

恋歌は自虐的に笑いながら、天幕を出て、腕を組んで仁王立ちで前方の敵陣を見渡す。

設楽ヶ原では、三葉こと武田信廉が武田方で義姉・武田信玄と共に参戦していた。その戦にて武田は大きく大敗し、三葉はその時の原因をこう語っていた。

織田方は鉄砲を十分に備ていたが、騎馬の数も武田に引けを取っていない。

対して武田方の兵の殆どは騎馬武者であるが、決して鉄砲がなかったわけではない。

なれば何故負けたのか。それは地理の差、鉄砲の使用練度・物の使い方の差が勝敗を分けたのだ。

野戦であれば武田が負けることはありえない。しかし、織田方はそれを地理と物の使い方で大きく補い、武田を圧倒せしめたのだ。

実際にその戦を経験した三葉がいれば鬼に金棒であるが、今より呼び寄せるわけにもいかない。

「仕方ない。今一度軍議の仕切りなおしだ」

恋歌は再び天幕に戻り、軍議に戻った。

 

「愛紗殿、敵の様子はどうだ?」

関羽陣営では、正面に構えている敵陣を見据える関羽に、劉封問いかける。

「氷華か。敵は軍を動かさないでいる。……いや、動かせないといった方が正確か......」

両軍の膠着状態は数日続き、ほんの前まで関羽達を苦しめていた長尾軍も、ピタリと息を止め静粛している。

「皆、以前の戦いの影響からか、緊張感を全く切らしていなく肩身の狭い思いをしています。……例外的に、鈴々殿が率いる隊だけは『いつ戦えるのだ?』と興奮気味でしたが」

それを聞くと、関羽はいつもの妹の雰囲気で少し微笑む。

「鈴々には、再三自重する様に言っておいてくれ。ここで相手の動きを留めることが、桃香様の勝利に繋がるということを」

「わかりました。そういえば愛紗殿、この辺りの地形を調べていれば、一つ気になるモノを見つけたのですが......」

劉封はそう言いながら地図を広げると、ある一点に指を指した。

「現在、我らは襄陽で再編した軍を基に、桃香様の江陵撤退までの時間稼ぎとして、この地を抑えております。軍需物資が豊富な江陵までの撤退に完了すれば、桃香様が軍を整えてこちらに向かう手筈となっております」

「そうだ。その桃香様と合流出来れば、再び影村軍と対峙が出来る。あちらも簡単には手出しは出来ぬはずだからな」

「江陵までの最短の道はここですが、もう一つこの長坂を使わずに江陵まで向かう道がありました」

劉封は紙の地図を半分に折り畳み、より見やすくする。

「長坂より数理離れたこの部分に橋を架け、この山を越えることが出来れば、我らとぶつかることなく、この地を越えられます。だとすると、とても厄介です」

劉封の心配を他所に、関羽はすぐにその不安を笑いで飛ばした。

「大丈夫だ氷華。この山の街道はな、進めば進むほど先が細くなっているのだ。先を進むと、一度に進む数はせいぜい十数程度だ。するとどうなる。後の軍勢は先が進むまで立ち往生することになり、そこを後ろより突かれれば――」

その言葉に劉封はハッとした。つまり、このへの街道は、関羽が撒いた種であるのだ。如何に相手が野戦に強くとも、後ろを突然突かれれば軍を立て直すのに時間がかかる。かといって、正面よりぶつかれば、関羽の作ったこの馬防の陣に苛まれ大損害は必至。また、戦ってこちらを蹴散らさなければ、劉備は悠々と江陵に着いてしまい、軍を再編してその軍がこちらに加わる。そうなると影村軍の怖さを知った劉備軍だ。むやみやたらに突撃を加えることは出来ないために防御に徹する。すると、相手はこちらへの手出しは更に出しにくいだろう。

「あ、、、愛紗殿の考えはおおよそ理解できました。しかし、その後はどうするのです?」

「その後?」

「はい。たとえ影村夫人率いる影村軍を抑えたとして、桃香様と合流しても、’必ず’勝てる保証は何処にもありません。関羽殿の頭ではどれ程のことをお考えなのですか......?」

関羽と劉封はしばし無言で見つめあい、関羽が口元を少し動かすと、そっと劉封に耳打ちする。それを聞くと、劉封の目は見開き、顔は驚愕の後に徐々に青ざめた。

「……ま、まさか……貴女はそんな先までを考えていたのですか......」

「言っておくが、この事を知っているのはお前の他には朱里と雛里しか知らない。()()な判断が出来るお前だから、私の考えを明かしたのだ。期待しているからな。氷華」

関羽は彼女の肩を叩くとそのまま後を去っていく。劉封は関羽の考えていることを聞かされた諸葛亮と龐統の気持ちを考えた。伏流と鳳雛と謳われる彼女たちにも、その様な考えが思い浮かんであろうか。劉封は改めて関羽の頼もしさと恐ろしさを思い知り、「もし敵に回れば」などと云う、ありもしないことを考えてしまったが、すぐにその考えを飛ばした。彼女の劉備に対する忠誠は、他の者より群を抜いている。かといって盲信しているのではなく、劉備が正道なる王道を歩む為に彼女を持ち上げ、また忠臣として諫言を含むことも増えてきており、文官達との境を無くす為に、内政にも積極的に干渉している。「もし今関羽に居なくなられたら......」っと、ありもしないことを彼女は考えてしまい、そこで思考を停止させた。

 

 それから3日後、未だに両軍のにらみ合いが続いており、影村陣営は連日の軍議で疲れ果てていた。どれだけ皆で策を話し合おうとも、決定的な策を見いだせないで居たからだ。そんな折でも、恋歌は決して、弱腰も見せず、弱音を吐かなかった。今までは重昌の下で彼の指示に従う一将に過ぎなかったが、今回は南を制圧する総大将である。場慣れしていない為やりにくいことはわかっていたが、それでも重昌に教わっていた。「指導者たるもの、指導者は真っ直ぐに立っていなければならない。たとえどんな苦悩を抱えていようが、不安や恐怖に押しつぶされそうになっていようが、仲間や部下に盤石の安堵感を与える。それが指導者のつとめである」と。

「……れ、恋歌様。大丈夫ですか?」

しかしそんなことを思って顔が強張っていたのか、恋歌はいつの間にか瞳に気を使わせてしまっていた。瞳の発言で皆が恋歌に注目する。

【ま、まずったわ。あまり意識をしていなかったけれども、それが逆に無意識に顔に出てしまっていた……どうすれば......】

とりあえず、恋歌は不敵にニヤリと笑って見せた。『ピンチの時ほど笑う』一刀からの受け売りである。それぞれの面々と顔を見合わせると、彼女は言葉を述べた。

「ふふふ、心配させてごめんなさい。ちょっととあることを考えていただけだから」

「……そ、それは一体?」

雅が恐る恐るとそれを聞く。

「いや、最近重昌に抱いてもらっていないなって」

その発言に、皆顔を真っ赤にして、雅は何かわからずに首を捻り、瞳に関しては呆れ気味に頭を抱えた。

「それに、こうも遠征続きだったら、子供達に与える乳も溜まって胸が張ってきちゃうわ」

乳房を両手で掴んで上下に揺らし、豊満な胸をこれみよがしに見せつける恋歌の行動に、皆は更に顔を赤くした。

「それはそれは、若様達に会うためにもこの戦を早く終わらさねばなりませんね。……いっそ戦わずに劉備軍をそのまま追撃出来ればいいのですが......」

雅だけが恋歌の悩みをまともに受け止め、淡々と同意する。普段は好戦的な彼女も、恋歌のことを思ってか、戦の早期終着を思い始めたのだが、そんな雅の言葉に、胸を揺すっていた恋歌の行動が止まる。

「………雅、今なんて言いました?」

突然の問いかけに、雅は首を傾げる。

「……?この戦を早k「違う‼その後‼」」

恋歌は雅の両肩を持ち、自身の顔を近づける。

「りゅ……劉備軍をそのまま追撃出来れb「違う違う‼行き過ぎ行き過ぎ‼だから貴女は猪武者なのよ‼なんでもかんでも突撃すればいいと思っているのよ‼」」

次は彼女の体を前後に揺らす。

「わ、わわわ、若様達に会うためにm「……おうコラ、己は儂をおちょくっとんのか。文章の真ん中じゃ、真ん中‼」」

彼女は雅の襟元を掴んで持ち上げ、口調も普段とは違うおかしなことになっており、完全に情緒不安定である。その光景に周りも慌てて恋歌を止めに入り、雅も恋歌の腕を力なく叩きながら降服を促すタップを行う。

「……い、いっ、ぞ、(だだ)わず、に、劉備(どゅうび)、軍、......を......」

雅のタップ虚しく、彼女の意識は途絶え、恋歌が両手を離すと、雅は勢いよく地面に崩れ落ちた。ワナワナと体を震わす恋歌をしばし周りが見つめると、彼女は勢いよく、テーブルに広げられてる地図に食いついた。

黒美(ヘイメイ)‼ここの街道はどういう道の作りだ‼」

突然呼ばれた黒美は、慌てて恋歌の隣に着く。

「そ、そちらでございますか?そちらの街道も長坂を抜ける一つでありますが、しかし先に進めば進むほど、街道が細くなってしまいますので、一度に通れるのは精々数十の兵。騎馬を中心とした我らの軍勢では大変厳しいです」

その言葉を聞いて恋歌はニヤリとした。

 

ところ変わり関羽軍。

「愛紗様。敵軍に動きがあったのね」

王甫が関羽の幕舎に静かに現れると、机の上で筆を走らせていた関羽の腕が止まる。事前の許しもなく彼女が自分の前に現れるほどのこと、余程重要なことに違いない。

「それで、敵はどのように?」

「くっふ、動きを見る限り、相手様は長坂街道を抜ける予定なのね」

「何!?」

その知らせに関羽は勢いよく立ち上がる。

「こんな夜中に敵は抜けると言うのか!?伝令からの知らせがないということは、こちら側に気付かれず灯りも明かりもなく動いているということだろう?」

「くっふ、お言葉なのですが愛紗様。夜中だからこそいいのではのね?」

「どういうことだ?」

「確かに夜中の行軍、明かりなしでは困難なのね。でもこちらも蝉が気づくまでわからなかったのね。それに相手は騎馬軍。馬の蹄鉄の音で前後左右の間隔も掴める。まさに騎馬を中心とした他の勢力ではマネ出来ないことなのね」

「ふむ......しかしこのまま我らを素通りさせるわけにもいかない。向こうは騎馬隊で、もし先に長坂を抜けられれば追撃することは難しく、桃香様にも追いついてしまう。......蝉、皆を起こせ。追撃する‼」

それから関羽陣営は慌ただしく敵軍追撃の準備を始め、そんな最中劉封が関羽に問いかける。

「愛紗殿、これは敵の罠です。追撃をせずにまず我らは隊を分けて長坂を先に抜けて、街道の先で待ち構えるべきです」

「……氷華、心配はいらない。長坂街道は先を進めば進むほど先が狭くなっている。それは前も話しただろう」

「しかし、この様にあからさまに我らの眼前を悠々と進むなど、何かあるとしか思えません」

その問いに、関羽は頬をあげる。

「……そうだ。そうやって罠があるように見せるのが、敵の策だ」

「どういう意味です?」

「我らは負け戦に負け戦を重ねて慎重になっていることは敵も承知しているはず。実際に我らも敵の謀略を警戒して撃って出なかったしな。それを見越して、敵は大胆にもあのように悠々と街道を通るのだ」

「し、しかし、もし我らが撃って出たとして、敵が反転してくれば!?」

「その心配もない......確かに普通の行軍であれば反転して攻撃に転じることも容易い。しかし相手は騎馬だ。ただでさえ街道を通るために一列になっている騎馬隊が途中で反転すればどうなる?仮に反転できたとしても、明かりもない中どのようにして陣形を整える?」

関羽にそう諭されると、劉封は「なるほど」っといった表情で納得する。

「それに例え真夜中に陣形を整えるにしても、平野であればそのうち目が慣れてき、周りとの間隔も掴みやすくなるために出来るとは思うが、街道の先は森林が広がっている山だ。その山が影となりより陣形も取りにくくなるだろう?」

それを聞くと劉封は完全に納得した表情で手を叩いた。

「ふふふ、師よ、先日の借りは返させていただきますよ。先陣は鈴々に勤めさせろ。一気に敵を踏み潰す。皆、今までの鬱憤を晴らす時ぞ‼」

関羽の掛け声に関羽陣営の雄叫びで大地が震える。しかし関羽は直にこの後思い知ることになる。

死鳥姫(しちょうき)と謳われる自らの師の恐ろしさを.........。

 


 
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