「ようやく辿りついたのです」
ブブブブブブブブ・・・・
「お久しぶりです。覚えてますか?」
ブンブンブン!!
「後ろの者達は私の仲間です。通らせてもらっていいですか?」
サァーーーーー
「ありがとうです」
ブブブブブブブ・・・・
劉弁が一刀に心を開くようになって翌日。
「おとうさん!おはよ~!!!」
「ととさま~!おはようございます~!!」
・・・
「「ああああああああああああ!!」」
朝から元気よく一刀を起こしに来る璃々と劉協。が、二人は驚きの光景を目の当たりにし、大絶叫を上げるのだった。その大声は村全体まで聞こえ、みんなが飛び起きてしまう程の音量だったとか。約一名程・・・
「ああ~ん♪ご主人様~ん、そこは・・・そこはぁあああ!!」
幸せそうに眠っている筋肉ダル・・・げふんげふん、ゼッセイノビジョ????
訂正、眠っている人物がいたとか。でも、この話には関係ないので省略します。
さて、話しを戻して。朝から大絶叫を上げた二人が見た光景とは?
「べんおねえちゃん!!」
「おねえちゃん!!」
「「なんで、おとうさん(ととさま)といっしょにねてるの!!」」
そう、彼女達の姉(的存在)である劉弁が彼女達の父的存在・・・ってか、父そのものである一刀と仲良く寝ている姿であった。
「なんだなんだ!?」
「なんですか!!」
絶叫の原因である二人も例外ではなく、その大音量に思わず飛び起きてしまっていた。が、一刀はしっかりと劉弁を抱きしめ、外敵からいつでも守れるような態勢をとり、劉弁も無意識なのか、しっかりと一刀にしがみ付いていた。しかし、その姿が余計に劉弁と一刀の仲が良いものに写り、余計に父を起こしにきた二人をヒートアップさせてしまう結果になってしまうのだ。
「「ず~る~い~!!」」
「おねえちゃんずるい!!」
「べんおねえちゃんだけ、ずるい!!」
「「わたしもいっしょにねる~~!!」」
こうなっては、本来の目的を忘れ、二人とも猛然と駆け寄りそのまま布団に飛び込む。朝の起き抜けで、まだ頭が回りきっていなかった二人は状況がよく掴めず、もみくちゃにされてしまう。
「おわっ!!」
「きゃっ!!」
「おとうさ~ん」
「ととさま~」
「パパ~」
「「「「あれ?」」」」
劉弁を羨ましがって飛び込んだ璃々達だったが、何故か一人多かったような気がする。すぐに違和感を覚えた四人は困惑の声が漏れたが、原因はすぐに発覚する。
パカン!
「いった~い!お姉ちゃんになんてことするの?ち~ちゃん!!」
「それはこっちの台詞よ!!姉さんこそ今、何してるのよ!!」
「え?一刀と一緒に寝るんでしょ?」
「ちっが~~~う!!逆よ!逆!!私達は一刀を起こしにきたの!!しかも、パパってなによ!!」
「ええ?ち~ちゃんも知ってるでしょ?パパって一刀のいた国でお父さんって意味だって、前に一緒に教えてもらったじゃな~い」
「だ~!!!そういう意味じゃないっての!!」
「や~ん、朝からち~ちゃん怒りんぼぅ。パパ助けて~」
「こら~~~!!!」
三人目の声、それは歌三姉妹の長女、歌角こと天和が発した声だったらしい。次女である地和に激しいつっこみを受けていた。晴れて疑問はすっきりしたのだが、そこからすぐに姉妹漫才が始まってしまい、止めるに止められなくなる一刀達。そんな彼らに救いの手を差し伸べたのはやはりこの人だった。
「姉さん達は放っておいて。さっ、紫苑さん達が朝餉を作って待っているわ」
三女であり、姉妹の頭脳である人和だ。
「「は~い!!」」
「わかりました」
トテテテテ
彼女の言葉を聞いて元気に駆けていった二人とその二人の後を追うように向かう劉弁。そんな三人を見送った後、一刀は人和に尋ねる。
「あの二人はいいの?」
「いいんです。その内お腹すかせてきますよ。さ、私達もいきましょう」
「人和ちゃんがそういうなら・・・うん、待たせたら悪いからね」
人和の言葉に少し逡巡したが、素直に頷き彼女を伴って朝餉に向かう一刀。長女と次女はそのまましばらく気付かずに漫才を続けるのであった。
これはそんな平和な家族を持つ、『おせっかい』の物語である。
一刀が劉姉妹から信頼を得てしばらくたった頃、反董卓連合は解散し、諸侯はそれぞれの領土へと戻っていった。今回の遠征の結果、参加した諸侯は名声が上がったり、領地が増えたりと収穫があった。その中で最も成果があったのは桃香の勢力である。連合に参加した時は公孫賛の客将という身分が今回の武勲により、平原を任されることとなったのだ。
董卓を討つことが出来たことで反董卓連合の遠征は大成功に終わったが、諸侯のほとんどはこれが新たな時代への序章であり、これから大陸全土をかけて戦う群雄割拠の時代になることを確信するのであった。
しかし彼らは一つの不安要素を残している。それは、董卓が傀儡としていたとされる皇帝が見つかっていないことである。これには連合軍も困惑したのだが、大将である袁紹はことも何気にこんなことを言い放った。
「どうせ、どっかで死んでいますわ」
というわけで、公式の発表で皇帝は董卓との戦に巻き込まれて死亡したことになったのである。もし、生きていたとしても皇帝であると証明するものはないので、いくらでも誤魔化せるので、問題はないと処理されたのだ。何故なら、彼らは古井戸の中から見つけてしまったのだ。玉璽というものを。
これを見つけたのは孫策であるが、袁術に譲ることで孫策は独立を図る。玉璽を受け取った袁術は皇帝がいない今、自分こそが皇帝を名乗るに相応しいと言い放ち、皇帝を自称するようになった。それに意を唱える者がいる。
「お待ちなさい。此度の連合軍の大将は私ですわ。ということは私こそが皇帝を名乗るのに相応しいのですわ」
そう、反董卓連合で大将を務めていた袁紹である。彼女の言い分では、反董卓連合の盟主を務め、目的を達成したことで、自分こそが皇帝として人々を導くだと言うのだ。そのため、玉璽を譲渡することを袁術に要求したのだが。
「これは妾が見つけたものじゃ!よって、妾のもの。麗羽姉さまにあげないのじゃ!!」
「そうです、そうですよ~。美羽さまのいう通りですよ~」
「なんですの!それは、私にこそ相応しいのですわ。美羽さんにはもったいないのです!」
「いやじゃ~!!これは妾のものなんじゃ~!!」
両手でしっかりと玉璽を横抱きしながら反論する袁術と、それに便乗して文句を言う張勲。
それに怒る袁紹は無理やり奪おうと袁術の腕をひっつかむが袁術も離してなるものかと体で完全に玉璽を抱え込む。状況は完全に小さな子供のケンカとなっていたのであった。
「華琳様・・・」
「・・・何も言わないで。頭痛がひどくなるから」
「・・・はい」
玉璽を奪い合う二人を片手で頭を押さえ顔をしかめている曹操と、同じくため息を吐きたいのを我慢する夏侯淵。その他の諸侯は止めたいが、どちらかに味方をすればいいのかわからず、おろおろするばかり。この騒動は袁家の二人の体力が尽きるまでおさまることがなかった。
「秋蘭」
「はっ」
「すぐに戻るわ。時間はそこまでないのだから」
「御意。すでに姉者と張遼に準備をさせています」
「ありがと。さっ、私達もすぐに戻りましょう」
「はっ!」
結局、玉璽は袁術が持ち帰ったらしい。それを悔しそうに袁紹が睨み付けていた。
「・・・というのが、現在の状況になります」
汝南の執務室での軍議中、符儒は反董卓連合がどうなったのかの調査報告を行っていた。
その報告を聞いているのは、街の主要人物である県令である一刀と、蹴、仙花。歌三姉妹と葉雄、それと紫苑である。璃々ちゃん達幼女組は仲良く別室で遊んでいるため、ここにはいない。
「董卓が負けたか・・・」
「はい。これからが大変になりますよ。おそらく参加した諸侯全員が気づいてますよ」
「戦乱の時代の幕開けか・・・」
「しかも、袁術が玉璽を手に入れた」
天和、地和以外の顔は暗い。これから始まる大勢の血が流れる天下を争う戦いが始まろうとしていることに。
「どうしたの~?みんな暗い顔だよ~?」
「董卓ってやつが負けたからなんなのよ?」
「姉さん・・・つまりね」
いまいち理解ができていない姉二人に丁寧に説明していく人和。このあたりは慣れている。
二人は人和の説明でようやく事態を理解できたのだ。そこで、天和はあることに気付いたのだ。
「ねぇ・・・于吉さん。劉弁ちゃん達ってどうなってるの?」
そう、反董卓連合が勝利を収めたこと。傀儡にされていたことから朝廷の力が衰えていること。これから、天下を狙い有力者達が動き出し、戦乱の時になることはわかった。しかし、皇帝はまだ生きているのだ。いくら権力が弱っていようとまだ無視できる存在ではないはずなのだ。それなのに、今の話を聞くと全然皇帝を気にしているようには考えられない。むしろ、皇帝をいないものとみている印象なのだ。天和の問いかけに符儒はため息交じりに答えようとしたが。
「・・・死んだことになっているはずだ」
「え?」
答えは符儒ではなく、一刀から返ってきた。予想外のところから返事が来たため、思わず顔を向けると、歯を食いしばり、拳を固く握りしめた様子の一刀が目に入る。
「連合軍は玉璽を手に入れた。つまり、劉弁ちゃん達が生きていようが本人を証明するものはない」
「その通りです。連合軍の発表では、追い詰められた董卓によって殺されたことになっています。もし、それを証明するものがあっても殺してしまえばいいわけですから」
「そんな・・・」
ギリィ・・・
符儒の言葉に衝撃を受けた天和達、一刀達男性陣と武将の女性は怒りに震えていた。
皇帝といっても、幼い子供である彼女達へのひどい扱い。さらに、符儒の集めた情報から董卓が暴政を行っていたという確たる証拠はなく、董卓が権力を持っているのが気に食わないからみんなで倒してしまおうという子供じみた印象さえ受けるからだ。劉弁達のことを思うといらぬ争いを招いた連合軍に怒るのも仕方ないことであった。
「皆さん、気持ちはわかりますがいったん落ち着きましょう」
「・・・そうだな。怒りを覚えたところで今の俺たちは何もできないしな」
符儒の言葉に蹴は息を吐き、握っていた拳の力を抜くと同時に頭を冷やす。蹴に続いて一刀達も冷静になっていく。そうなのだ。もう、発表されてしまったことを今更覆すことは一県令である一刀にできるはずもないのである。
「思うことはありますが、今は置いておきましょう」
「ああ、俺達もいつ攻められてもおかしくない状況だからな」
「まず、私達の勢力地ですが、豫州の大部分を押さえていますが、完全とは言えません」
「北はまだ曹操の支配が強いし、西は劉表の力が無視できん」
「さらにうちは、今は活気があるが発展途上で人手不足。武官も不足しているから戦ったら危ない」
「そうですね。ですが、それは対応するには相応の時間が必要になりますね」
「ですわね。人口は簡単に増やせるものではありませんし、優秀な人材も得難いものですわ」
「地道に訓練して、育てていくしかない、ですか・・・そんな猶予があるかどうか」
他勢力の状況と自勢力の確認から、自分達がいかに危ない状況なのかを認識することができた。しかし、問題点ばかりが上がるばかりで落ち込みそうになる。が、諦めるわけにはいかない。自分達だけではなく、街のみんなの命がかかっているのだから。今は、焦らずに、自分達の力を蓄えようということで会議を終えるのであった。
「おとうさん。どうしたの~?」
「げんきないですか?ととさま~?」
「ん?なんでもないよ。心配してくれてありがとう。璃々ちゃん、劉協ちゃん」
会議後、執務に戻った一刀だが不安が消えず何かできることがないかと悩んでいた。が、そんな簡単に案がでるはずもなく、モヤモヤしたまま時間が過ぎていく。これではいけないと畑仕事をして気を紛らわそうと出てきたはよかったのだが、ここでもうんうん考えていたため、璃々達が様子に気付いて心配していたのである。璃々達を不安にさせてしまったことを反省する一刀。不安は消えてくれないが、璃々達が安心して暮らせるようにするはずなのに自分が璃々達を不安させてどうすると自分に活をいれようとしたとき。
ウオン!ウオン!ウオン!ウオオオオオオオオオン!!
突然、恋の家族である動物達が一斉に空に吠え出したのである。その何十匹の動物達の声は遠くまで響き渡ったことだろう。近くで聞いている一刀達の内臓まで衝撃が届くほどだったのだから。
「ど、どうしたの?」
「なに?なんですか?」
「璃々ちゃん、協ちゃん落ち着いて。大丈夫だから」
動物達が吠え出してしまい怯える璃々達を抱きしめて落ち着かせる一刀は、目線は動物達に向けたまま言う。動物達は咆哮上げた後、同じ方向に走り始めた。
クイクイ・・・
「ん?セキト、どうしたんだ?」
クイクイ・・・
裾を引っ張られた感覚がすると、いつの間にか足元に恋の愛犬、セキトが一刀の裾を引っ張っていた。
「ついてこいってか?わかった。先導してくれ」
「ワン!!」
一刀の言葉に一鳴きするとセキトは一刀達を先導するように走り出す。それに続くように走り出そうとしたが、ふと脳裏に浮かぶことがあり一旦璃々達に振り返る。
「璃々ちゃん達は紫苑達にこのこと伝えてきてくれる?俺はセキトを追うから」
「うん。わかった!きをつけてね。おとうさん」
「ああ」
生まれてから将軍である母親と一緒にいた璃々は、一刀の言葉をすぐに理解し言うことを聞いてくれるので、緊急事態であるこういう場合は非常に助かる。劉協達は一緒に行きたがったが、そこは璃々が行く気がない為に自分達だけが我儘を言うわけにはいかず、何も言い出せなかった。
一刀は一つ頷くとセキトを追いかける為に走り出すのであった。
「一刀!この騒ぎはなんなんだ?」
「動物達が騒ぎ出しているのですが」
セキトを追いかけている途中、騒ぎを聞きつけた蹴と符儒も合流する。何十匹という動物が吠えながら行列を作っていたら普通気付くというものではあるが。しかし、問いかけられた一刀も何が起こっているのか理解していない為、自身もセキトに導かれていることを二人に説明するのであった。
「なんにしてもただ事じゃない。用心しておくに越したことはない」
「「ああ(ええ)」」
蹴の言葉に一刀と符儒は頷くと周囲を警戒しながら、セキト達を追いかけるのであった。
一刀達がセキトを追いかけているのと同時刻。
一刀が初めて降り立ち、発展させてきた村のある森の入口に複数人の影が見えた。それに最初に気付いたのは村の入口付近で畑仕事をしていた村人であった。
「なんじゃ?あいつらは?」
彼は不思議に思ったが、光が差し込みその人影の全体像が見えてくると顔色が驚愕に変わっていく。何故なら、その人達は全身泥や血に汚れており、その肉体はひどくやつれ細っていたからだ。武器や防具を纏っていることからどこかの戦場で敗走してきた敗走兵だと推測されるが、もはや、歩くのがやっとに見える姿に恐怖を覚えることはなく、目的次第では追い返してやろうと気概を見せる村人であった。
「おかしいな・・・普通なら蜂達が反応してくれるんだが。なんにせよ、みんなに報せないとな」
村の守護虫として知られる蜂があの集団に反応しないことに疑問を抱くが、考えるのは後にして村人は懐から小さな笛を取り出すと息を吸い込み、思いっきり笛を吹きならす。その瞬間、笛独特の甲高い音が森全体に響き渡る。その音は村全体にも響き渡り、異変を伝えるメッセージとなり、村の武装した男達が数人、村の入口へと向かい始める。それ以外の者は自分の家に避難し、しっかりと施錠をすると静かに外を伺うのであった。
「せっかく、長が頑張って治安が良くなってきたと思ってたが。まだまだ安心出来ないってか」
「ああ。見ろ。敗走兵がここに向かってきてる。弱ってるみたいだが、相手は兵だ。一般人が油断出来る相手じゃねぇからな」
「なるほど。よし、防御態勢に入ろう」
「「「「「「おう!」」」」」」
笛の音で集まった村人は大きな盾を並べて構える。その後ろでは手の平に乗るほどの大きさの石を持った人達が投げる態勢を取る。これが、この村で対野盗として考案された防御態勢である。大盾で相手の攻撃や進行を止めた後、投石で撃退するという単純な策であるが、戦の為に訓練された兵士ではない村人達でもすぐに出来て、戦略など持たない力任せな突撃しかしない輩には絶大な効果を発揮する策であった。
「いつでもきやがれ!」
と士気高く息巻いていた村人だったが、その内の一人があることに気付いた。
それは、敗走兵の中から一人だけ前に出てきたことだ。しかも、その人物は周りの人に比べて一回り以上も小さく、遠目から見てもわかるほど小柄な少女であった。それは、苦難の道を乗り越えこの地に辿りついた呂布軍の面々であり、彼女らを導いてきた陳宮であった。訝しむ村人に向かって陳宮は叫ぶ。
「私達に戦意はありません。ただ、食料を分けてもらえませんか?私達はしばらく何も口にしておりません。図々しいとは思いますがお願いします」
精一杯大声を出しているつもりなのだろう。だが、陳宮の力を振り絞った言葉は、空腹による体力の低下により掠れた声となり、村人達の耳には声はかろうじて聞こえる程度で内容は届いていなかった。それでも、別のことに気付いた村人がいる。復興した村の初期から住んでいる者達だ。
「おい。あの声・・・陳宮ちゃんじゃないか?」
「え?そういや、聞き覚えがある声だったな。言われてみると確かにそんな気が・・・」
「あの帽子と、あの髪は確かに陳宮の嬢ちゃんだが・・・」
「ああ、よく見たらそうじゃねぇか。よし、迎えてやらないと」
「まってくれ!!」
初期から村に住んでいる男達が防御態勢を解いて陳宮達のところに駆け寄ろうとするのを止める声が。それは、陳宮達のことを知らない村人達である。
「あんた達の知り合いかもしれないが、あの恰好はどうみても敗走兵だろ?あいつらを匿ったことで俺達に何が起こるか・・・」
「だからって、知り合いを見て見ぬ振りはできんだろ!!」
「俺らを騙そうとしているかもしれないだろ!あの人数なら俺らのことを制圧することなんて簡単だろうしな!」
村在住歴が長い人と短い人での言い争いが発生。方や知り合いが困っているので助けたい。方や村や家族の安全の為、助けるのは反対。どちらも引かない、引けない。言い争いは徐々にヒートアップしていき、長く続くかと思われたが。
「ちょい、待った」
「「なんだ!!」」
一人の男が仲裁に入った。この男も在住歴が長い男であったが、この中の誰よりも冷静な男でもある。
「お前らの言いたいことはわかるけどな。ここはどういう村だったか。知ってるよな?」
「「知ってるわ!!それがどうした!!」」
「お~お~、揃いすぎだろ。まぁ、つまり・・・だ。俺が言いたいのは・・・」
男がちらりと陳宮達の方に目線をやる。それに釣られて男達の目線もそれを追うと・・・。
ドドドドドドドドドド・・・・
陳宮達の後方から砂煙を上げながら駆け寄ってくる動物達の群れの姿が。その先頭を走っているのは。
「ワンワン・・・ワオォオオオオオン!!」
首にスカーフを巻いている犬である。その犬こそが。
「セキト?セキト!!」
「呂布将軍!!!?」
今まで部下に肩を借り、立っているのがやっとだった呂布こと、恋が犬―――セキトに向かって駆け出したのだ。驚く部下達。そして、その騒ぎに気付き振り向いた陳宮の目に飛び込んできたのは。
「恋!音々!!」
音々が一縷の望みを抱いて、会いたかった人物。
「あ、ぁぁああああ・・・兄上ぇえええええ!!」
北郷一刀、豫洲を制圧するまで後一歩と迫った白士その人である。
さらに一刀が現れたことで。
「まぁ、こういうこった」
いつの間に男達の言い合いも収まっていたのである。
「符儒。この子らの食べ物を用意してくれ」
「御意」
「蹴。村人達に協力してもらって、この子らの着替えと寝床を頼む」
「承知した」
一刀の指示を受けた二人はすぐに行動に移る。近くにいた村人に声をかけ、さらにまだ建物に籠っている人達にも協力を呼びかけ、迅速な行動を起こすのであった。一刀はそれを見送ることなく、呂布軍の容態を確認し始める。幸い、極度の疲労と空腹以外の症状を訴える人はいなかった。最後に音々の容態を確認する為に近寄ると、彼女の方から話しかけてきた。
「あ、兄上・・・」
「こんなになるまでよく頑張ったね」
「助けてくれるのですか?」
「当たり前だろ?妹を助けるのは兄として当然だ」
音々は兄の変わらない優しさに涙を堪えることが出来なかった。そんな彼女を一刀は優しく抱きしめ撫でてあげていた。その後、呂布軍には消化の良い物を食べさせ、体を清め、村に用意した寝床で体力を回復させるのであった。
数日後・・・・
体調を回復させた呂布軍は一刀の拠点の軍議の間に集まっていた。彼女達の眼前には一刀を始め、一刀陣営の主だったメンバーが揃っている。ただし、お子様組である璃々達はいない。まず、最初に口を開いたのは呂布軍の軍師、音々である。
「此度は我々を助けて頂いたこと、真に有難うございました。助けて頂かなければ、我々はあのまま近いうちに朽ちていたでしょう」
そういうと、彼女らは深々と頭を下げて一刀達に感謝の意を示した。そして、音々の言葉を引き継いで恋が続けて口を開いた。
「恋達はご主人様に従う」
「・・・元董卓軍と知りながら、我々を躊躇なく助ける精神とその行動に我々は感服しました。願わくばあなた様に忠誠を誓い、家臣になることをお許し願いたい」
恋の端的な言葉に慌てて補足する高順。一刀は恋の変わらない様子に笑いを堪えることが出来なかった。
「変わってないようで安心したよ。恋。さて、返答だが。君たちが我が勢力に加わってくれるというのは願ってもないことだ。是非、その力を貸して欲しい。これからもよろしく」
こうして、呂布軍というこの大陸でもトップクラスの武力を加えた一刀は豫洲を完全に支配することに成功した。そして、この時をもってようやく一刀も群雄割拠の時代の表舞台に立つことが出来たのであった。
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久しぶりの投稿。
雰囲気を変えてないつもりですが、変わってたらごめんなさい。
本日、もう一話投稿予定。