No.90906

月夜桜花【第五部 汚れなき白き翼】

烏丸さん

今回は、この物語の中でも要の部分となる章です。
ご興味がある方は、どうぞご覧下さい。

2009-08-21 22:09:46 投稿 / 全26ページ    総閲覧数:693   閲覧ユーザー数:661

五、汚れなき白き翼

自分は負傷し、翼で空を舞っていた。

ギィイン!!

「っく!!」

激しい金属の競り合い音が鳴る。

「クッソ!近距離戦に持ち込まれたか」

俺は対峙する、相手の刃を刀で防ぐ。

「ふっ、それでは我が剣にはかなわんぞ!!!」

相手は俺の一瞬の隙を見抜き、剣から砲撃を出す。

「がはぁあ!!!」

俺は砲撃をモロに喰らった。

しかも、片羽に大ダメージを喰らい、俺は砲撃と共に地面に叩きつけられる。

「ぐぅうう!!」

俺は仰向けに空を見る。空には第二の砲撃準備をする少年が見えた。

「はは、ここまでか…」

俺は空から、首を横に向けた。そこには、両翼の少女が倒れていた。

「天月…?」

俺は少女の名を呼ぶ…。

「喰らえ!!」

俺は相手が放った砲撃を間一髪で回避した。

「何っ!?」

空に舞う相手は俺に一瞬の隙を見せた。

「は!」

俺は、空中の少年の隙を見て矢を放つ、それと同時に、俺の矢を放つ一瞬の隙を見て、

目の前の少年が槍を放つ。

しかし、勝負は決まっていた。俺が放った矢は、少年の心臓に命中していた。

「がはぁ…」

少年は天を仰ぐように地面に落ちた。勝負は決まり、守っていた少女に向きかえり、

近寄っていく

しかし!

「ドンッ!!」

周囲の空間だけが違う場所のように凍りつき、凄まじい衝撃が俺の体を貫いた。

「え?」

俺は目の前に自分の飛び散った臓器があるのを見て絶句し、そこに力なく跪く…。

俺は桜の木の上を見た。そこには、嘲笑する一人の少年が居た。

「くっくっく…」

人で言う白目は赤く、そして黒目は銀色をしていた。

そして、背中には大きな黒い翼があった。

その、少年は笑い声と共に闇に溶け込んでいった。

そして、俺は力なく横たえる…。

「なんで?」

気が付くと、俺の横には天月が居た。

俺が張っていたシールドが、俺の霊力の低下によってシールドが敗れたのだろう。

「なんで…」

力なく泣きじゃくる天月は、あたりに、先程の少年が本当にいなくなったのを確認し

「光乃芯様、平気ですか?今、私が助けます」

と言って、俺の体に手をかざした。

「天月やめろ…」

そして天月が呪文を唱える

「我が汝の名において、治癒転生陰陽魔術を施し、―をこの者に、転移させる」

あたりに虹色の光が灯る。

「治癒転換陰陽魔術発動!」

天月の声に合わせ陰陽魔術が発動する。

何かの衝撃と共に、俺の背中には大きく綺麗な片羽が付き、

意識が薄れ行くなか目の前に狂うように咲き乱れる桜と、血の海、

そして、その血の海に片羽の月が倒れていくのが見えて、世界が暗転した…。

ガバッ!・・・

「つぅう・・・」

(また、この夢か…、引っ越してきてから、本当によく見るな・・・これで4回目か・・・)

そう思いながら、俺はゆっくりと目を開けた。

「?」

俺は目の前にパジャマが破け落ちているのに気がついた。

そして、背中がやけに温かい事に気がつく。

「???」

俺は疑問に思い背中に手を伸ばす。

ファサ…

手には柔らかい感触が伝わってきた。

「ん・・・?、何だ・・・?」

俺は立ち上がり、めったに使わない鏡を机に置き、背中を見た。

「なんだこれ、何か白い物が…って、!!!!わぁぁぁ――!!!?」

俺はこの世の終わりを見るかのごとく、大きい声を上げた。

「どうした!!!!」

「幸助君!?」

これを聞きつけた、親父と月が、俺の部屋のドアを開けようとした。

「開けるなー!!」

俺は慌てて、ドアを押さえ、鍵を閉める。

「何かあったんだろ!?開けろ!」

親父の切羽詰った声が聞こえた。

「平気!平気だから、今は開けないでくれ!!」

俺は必死になってドアを押さえた。

「そうか、わかった。だが、何かあったらちゃんと言えよ」

親父はそう言って、ドアから離れていった。

「幸助君、本当に平気?」

「ああ、大丈夫だ、だから、上手い飯を用意して待っていてくれ」

「うん!」

こうしてドアの前からは、人が消えた。

「ふぅ」

俺が、親父と、月を部屋に入れられない理由は背中にあった。

「はぁ…最近、羽根が妙な所に落ちていると思っていたら、これかよ原因は…」

俺の鏡に映っていたのは、自分の背中に生えた両翼の綺麗な翼だった。

「これは困った…」

そう、本来、生身の人間に翼があるのはありえない。

(てか、翼が生えているのにこんなに冷静な俺って何?)

一人でボケ突っ込みをした後、仕方がないので親父を呼んだ。

「親父~」

「ちょっと困った事があるから来てくれー」

「おーう、今行くよ、」

2、3分たつと親父が来た。

「開けるぞー」

「おう」

親父がドアを開ける。

そうすると、親父の目の前には、上半身が裸で、翼が生えた自分の息子の姿があった。

「はぁ…、やはり、俺の血をしっかりと、受け継いでいたんだ…」

親父はそういうと

「ウィングプロテクト解除」

一つの解除陰陽魔術を自分の体にかけた。

すると…

バサァ…

親父の背中には俺より大きい、綺麗な翼が生えていた。

「な、何で、俺と同じ翼が生えているんだ!?」

俺は驚きの表情で、親父に質問をする。

「ああ、これはな、特殊な血を受け継ぐことによって、生えるんだ」

「特殊な血?」

俺は首をかしげ質問をする。

「未だに解明されて意なのだが、俺たちの家系は少し染色体に以上があるらしい・・・」

「それで?」

「それでって言われても、今の先進医療でも、それ以上の事が解ってないからな・・・」

俺は親父から衝撃の言葉を聴いた。

『翼が生える血族』そんな、驚きの事実を聞いて一つ疑問になった。

「只、今仮説として考えられているのは、陰陽魔術と言うのは、本来とても純粋な力あって、

この純粋な力を使えた一族の末裔が、俺たちの血族だった。

ちなみに記録によると、この力を善のために尽くす者の翼は、

その白さがさらに美しい白へとなる。

でも、力を悪用すれば、次第に翼は黒ずんでいくと記録されている」

「成る程ね」

「まあ、仮説の範囲であって、記録も相当古いものだから、信憑性が無くてな、

なので、俺の病院では、俺を試験体として様々な検査がされているんだ・・・」

「試験体って、親父の体は大丈夫なのか?」

「まあ平気さ、人体に影響があるような検査はしてないよ?さて、話も終わったことだし、

しまいますか・・・ウィングプロテクト」

親父がそういう、翼は徐々に消えていった。

「で、この生えた翼を、親父のように消すにはどうすれば良い?」

「ああ、ちょっと待ってろ」

親父はそう言うと、一階に戻り何かを持ってきた。

「何それ?」

親父の手には、一粒のカプセル状の薬が乗っいた。

「これはな、その翼を消すために必要な、陰陽魔術を発動させるための成分が入っている薬だ。

特に体に害はない、これを飲まなければ、ずっとそのままで居る事になるぞ」

親父はそう言って俺に薬を渡してきた。

「分かった飲むよ」

俺はそう言い

「ごくっ」

薬を飲み込んだ。

「ん?」

すると一瞬眩暈がしたが、すぐに治まった。

「それで?」

「ああ、さっきの俺と同じように、陰陽魔術を自分に掛ければ分かる」

「お、おう分かった」

俺は言われた通りに陰陽魔術を掛ける。

「ウィングプロテクト」

俺がそう言うと、翼が徐々に消えた。

「き、消えた!?」

「いや、正しくは陰陽魔術により、翼が粒子分解して体に密着し、皮膚に擬似化しているだけだ」

ん?しかし消えたのは良いが、陰陽魔術なんだから持続効果って言うものがあるだろう。

「薬の持続効果はどのくらい?」

「永久的に効果は消えない」

「へー、そうなんだ」

「まあ、他人にその翼は見られないようにするんだな」

「そりゃ、そうだ・・・」

俺と親父が真剣な話をしていると

「幸助君、おじさん~ごはんだよ」

月の声が下から聞こえてきた。

「おーう、今行くよ」

俺がそういうと親父は

「まぁ、俺から言える事はそれぐらいだ」

「了解」

俺の返事を聞くと、親父は下に降りて行った。

「さて、服を着るか」

俺は制服に着替え、下へと向かった。

「おはよう」

月が可愛い笑顔で挨拶をしてくれた。

「お、おはよう」

「?、どうしたの幸助君顔が赤いよ、熱でもあるの?」

月が俺の顔を覗き込んでくる。

「い、いや、何んでもない!顔を洗ってくる」

俺はそう言って、洗面所に行った。

「はぁ」

俺はため息を付いてた。

今まで、月を可愛いとは思ったことはあるけど、『好き』って感情にはならなかったんだがな・・・

いつからだろう…。

「はぁ…、腹すいた」

俺は心が落ち着いたので、ダイニングに戻った。

「いただきまーす」

2人の顔を見ながらようやく食べ始めることが出来た。

「ふぅ、さてと行くか、月」

俺がそういうと

「うん、今行く!」

月は元気よく返事をして、数秒もたたないうちに戻ってきた。

「ん?月、口の横にご飯粒がついているぞ」

俺はそう言いながらご飯粒を取ろうと顔と手を寄せる。

「あ…」

月がそう言ったのも関わらず俺はそれを手で取った。

すると、たまたま目線が合ってしまった。俺と月は目をあわすなり、両者そろって顔が赤くなった。俺と月はそこでお互いに固まってしまった。

すると・・・

「ゴッホン…」

すぐ後ろから親父の咳払いが聞こえてきた。

「お二人さん、仲が良い事は非常によろしいのですが、

そういうのは、人の目に付かぬところでおやりください」

親父がいかにも、嫌みったらしく言ってきた。

「ほ、ほら行くぞ月!!」

「え?あ、うん」

俺と月は急いで家を出た。

「いってらっしゃーい」

後方から親父の声が聞こえた…。

「…はぁ、なんなんだ家の親父は~」

俺は月と歩きながら、文句を言っていた。

「そういえば今日からは保健委員だった。

月、学校に行くまでの間委員会の規則教えてくれないか?」

俺がそう言ったのだが、隣を歩いている月の反応がない

「…」

「ん?月、どうした?おーい」

「あ、ゴメン!聞こえてなかったみたい…」

「どうした、体の調子しでも悪いのか?」

「ううん、別に平気だよ、ただ考え事をしていただけなの」

「本当か?止まって」

「え?」

月が止まったのを確認し月の前に出ておでこを触った。

「え?」

「うーん、熱は無いみたいだな」

俺はそう言って、月のおでこから手を離した。

「さて、行くか」

俺はそう言って、歩き出した。

何歩か歩き月が付いて来てない事に気が付く、しかも、凄く遠い所を見ている感じがする…。

(・・・本当に平気かな?)

「おい、月!ボケッとしてないで早く来いよ」

「え、あ!?待ってよ、幸助君!」

月がそう言って、俺の歩に駆け寄って来た。

「行くぞ」

「うん!」

俺と月は、そうして、また学校に向かって歩いていく…。

「おはよー」

「うーっす」

俺と月は勝に挨拶を交わす。

「おう、おはよう」

「ねえ、あなた達付き合っているの?」

リーダーがいきなり話を吹っかけてきた。

「え!?」

「はあ?何でそうなるの?」

「幸助、ネタが古いぞ」

勝がそう突っ込みを入れる。

「いや、別にそういう意味で言ったんではないが、それで、月と俺が付き合ってるって?」

「ええ、学校ではその話で持ちきりよ、取り合えず、孝治には待ったをかけといたから安心して」

そういえば、朝から俺と月を見る周りの目が痛ったかったり、妙に温かい目で見られてたような…。

「何で、そんな話が持ち上がっているんだ?」

「ちょっと、二人とも来て」

「ん?ああ・・・」

俺と月はリーダーに連れられ、教室の端に行く

「昨日ね、月が幸助の家に月が入って行く姿を、私の後輩が見たの・・・

しかも、その後輩、今日の朝から友人にその話をしちゃったらしいの、

そしたら、すぐに広まってこうなった訳よ・・・」

成る程そういうことか

「月、昨日の話し言っとくか?」

「う、うん、分かった」

「俺から言うと、誤解が生じるから、月が説明してくれ」

「うん」

・・・・・…。

それから、数分間リーダーにしっかりと説明をした。

「…と、言う訳なんです」

「成る程、そう言う事ね、後で後輩にはしっかりと叱っとくわ

それと、孝治に言って、その誤解を解けるちゃんとした記事を書かせるから」

「すまんな、リーダー恩に着る」

「じゃあ、私は孝治のところに言って来るわ」

リーダーはそう言って、孝治の元に行った。

「幸助君、平気かな?」

「大丈夫だよ、リーダーなら、何とかしてくれるさ」

キーンコーンカーンコーン

一時間目が始まったが、結局リーダーはそのまま帰って来なかった…。

気が付くと、昼休みになっていた。

「結局リーダー戻って来なかったな」

「そうだね~」

すると、廊下から何やら声が聞こえて来た。

「号外だよー」

聞こえて来たのは、孝治とリーダーの声だった。

「俺にもくれー」

「私にもー」

外では、どんどん号外が配られて行く。

「ほら、桜木」

リーダーが俺に号外を渡してきた。

「お、おう」

ん~何、何?今朝、学校で噂となっていた2年の桜木と河原さんのカップル騒動は、

独自の調査により、河原さんが桜木君の家に勉強を教えに行っている事が分かった。

また、その事については証言者も居て…。

「成る程、そう来たか」

「ええ、これなら被害を最小限に出来るでしょ」

俺は月を呼び一緒に

「ありがとう」

とリーダーに言った。

「はぁー、しかし、月にもやっと春が来たと思ったのになー」

リーダーがそう言うと、月が湯煙でも、出るかと思うぐらい、顔を真っ赤にして

「リ、リーダさん」

「分かったわよ月、冗談だからそんなに怒らないで、じゃあ、私は号外の残り配ってくるわね」

そう言って、リーダーは教室から出て行った。

「さて、騒動も一段落したか」

俺はそう言って月を呼ぶ

「月、保健室に行くぞ」

俺はそう言って、教室を出た。

「ま、待ってよ、幸助君」

後ろから慌てて月が走って来て、隣に並んだ…。

「本当に、あの二人付き合ってないのかな?」

「あ、噂の先輩だ」

「付き合えば、相当お似合いなのになぁ~」

周りからは色々な声が聞こえてきた。

「気にしないで行くぞ」

「う、うん…」

俺らはそうして保健室に着いた。

「失礼しまーす」

「どうぞ」

俺は保健室を開けて

「失礼するよ」

観里姉に挨拶をする。

「こんにちは」

「いらっしゃい、しかし、大変ね」

「別に気にしてないから平気だよ」

「あら、そう」

観里姉はつまらなそうに返事をした…。

俺らはそうして、飯を食べながら、たわいもない事を話していた。

「…でな、それを見た時は手遅れだったわけ」

「へぇ~、その人、後が大変だったでしょうね」

ガラ!!

「川上先生!!」

一人の生徒が慌てて保健室に入ってくる。

「俺の友達が階段から転がり落ちて、ガラスに当たって、頭から大量出血しているんです!!」

「今、その子は!?」

「その階段の踊り場で止血しています」

「わかったわ、案内して幸助君!!」

「了解!!」

俺はそう言って、白衣を着る。

「これで、必要な物はそろったわ!行くわよ!」

「おう!」

「私も行く!」

こうして俺たちは、階段に急いで向かった。

そこには人だかりが出来ていた。

「そこを、どいて!!」

人だかりを抜けるとすでに血の海だった。一人の生徒が、今にも息を引き取りそうな状態だった。

「一刻を争うな!」

俺はそう言って、生徒の上に手をかざす。

「解!」

俺がそう言うと、生徒の身体が青色に光る。放った光は俺の手に吸い込まれ消えた。

「ここか!」

俺は生徒の首の辺りに手をかざす。

俺は精神統一を一瞬にして終える。

「発動!」

俺が一言言うと、生徒の患部がオレンジ色の光を放ち、少しずつ速度を速め治り始める。

そして、直す過程で首を切った原因のガラス片を取るのも同時にやった。

数秒が経ち、生徒の傷はすべて完治していた。

「ふぅ、とりあえずこれで傷は完治した」

俺が一段落を終えた。すると、周りからは拍手が上がっていた。

「いや、まだ終わってない、早く輸血をしないとショック死してしまう、救急車はまだか!?」

俺がそう言っていた所にちょうど救急隊が来た。

「患者は!?」

慌ててきた救急隊に

「すでに、ケガの方は治療が終わっています。あとは、輸血を早くやってあげて下さい」

「治療が終わっているって、どういう事ですか?」

救助隊の運転手が俺に疑問をぶつける。

「ええ、治療系の陰陽魔術を施しておきました。到着するのがここまで遅いと

患者さんが助からないですよ!?」

俺が怒りながら言う

「も、申し訳ありません!」

謝った運転士の後ろで

「本当だ、患部に何の痕跡も見当たらない…」

救急隊の人は驚いた顔で患部を見る。

…本来、陰陽魔術系の治療は魔力の制御が難しいので、下手な奴ほど幹部が盛り上がる。

患部の治し方は、その者に流れている生の流れをフルに患部に流し、

そこに、自分の意識を流して患部を正常な形に治す。

まあ、教えるのが難しいからどうとも言えないが…。

こうして、生徒は救急車で運ばれていった…。

後で、その生徒の後ろを歩いていた友達に聞くと、昼の時に、階段の踊り場でガラスの

張替え作業をやるので、気をつけるようにと放送が入った。

しかし、その生徒が面白そうだからと急いで階段の踊り場へと向かった。

友人は歩きながら、その生徒が階段を曲がる直前で

『危ないから、気を付けろよ』

と一声掛けたそうだ、すると・・・

『大丈夫だよ』

と言った瞬間、生徒が視界から消えて、下に置いてあったガラスめがけて落ちていった。

・・・と言うわけだ。俺は保健室の帰りの途中で、バカだなーと思って帰って行った…。

「しかし、本当に幸助君がいて助かったわー」

そう観里姉が言う

「そうですよねー、手をかざしたかと思えば、倒れていた子の身体が綺麗な光を放ち始めて

光が消えたとたん傷が治っていましたしねー」

月と観里姉が俺の事をベタ褒めする。

「はぁ、あんな大衆の前で陰陽魔術なんて使わなければよかった。

午後になったら、どんな噂が流れているやら…」

俺がそうへこむ

「いいじゃない、人の命を救ったんだから」

「まあ、確かに…」

「そうだよ、幸助君、噂ぐらいたいした事…マスコミ?」

「ちょっと待て!今の聞き捨ててはならん単語はなんだ!?」

「え、気にしなくて平気だよ~」

「おい、流すなー」

・・・結局、そんなことをしている間に、昼休みが終わってしまった。

午後の授業に入り、先生が来るたび、俺の話になってしまった…。

「ふぁああー、疲れたー」

授業が終わり俺が机に突っ伏していると、クラスメイトから

「本当に凄いね」

やら・・・

「身体は平気?」

とか・・・、質問攻めにされてしまった。

「ふぅ、やっと終わった」

ホームルームが終わり、俺は部活棟へと向かった…。

俺は胴着を着て道場に入る。

「気をつけ!礼!」

俺の後輩達が道場に入ると俺に礼をする。

「おう、よろしく」

そうして、道場での練習が始まる…。

「ありゃ、気を付けた方が良いな」

勝が何か言っていたので、横からいきなり声をかけた。

「何が?」

「うおぉ!?・・・なんだよ、幸助かよ」

「で?何が気を付けた方が良いんだ?」

「あれだよ、あれ」

勝はその女子の方に目を向ける。

「ほう、綺麗だな、勝の趣味か?」

「ち、違うわ!!、誰が女の趣味なんぞ話している!?」

「まあまあ、落ち着けって」

俺はそう言って、もう一度、その女子を見た。

そして、その女子が放つ魔力が不安定なことに俺も気が付く・・・

「しょうがない、ちょっと注意してくる」

そう言って、勝が女子の方に行こうとする。

しかし・・・

「いや、やめとけ」

俺がそれを静止する。

「何で!?」

「失敗させた方が、人という者は伸びる」

「んーむ、分かった」

俺と勝はしばらくその女子を見守る事にした。

しばらく経つと、女子の方から、さらに不安定して無い感じの魔力が流れてくる。

「そろそろだな」

「ああ」

俺はその女子の方に手をかざす、女子が呪文を唱え矢が放たれる。

しかし、前回の男子と同様に、矢が赤い光を放ち始める。

「見えない、シールド陰陽魔術を掛けろよ」

「分かっているって」

次の瞬間、赤く光を放っていた矢が女子の方に方向を向け、

何本かの矢になり女子を襲う!!

「キャ――」

「全方位シールド発動!」

俺はその女子の周りに、全方位型の見えないシールドを張る。

矢は俺が張ったシールドによって全部はじかれた。

「え・・・?」

女子はキョトンとした顔で周りを見る。

しかし、そこには、自分が放った矢が見当たらなかった。

「おーい皆、しばらく休憩としよう。それと、若林はちょっとこっちに来て・・・」

俺はその女子の名を呼ぶ

「え、あ、はい!」

女子は俺の方に飛んできた。

「何でしょうか?」

「何かあったのか?」

俺がそう言うと、女子が口を開けた。

「先輩と、月先輩って付き合っているんですか?」

俺はその質問を聞いて、少しびっくりした。

「いや、付き合ってはいないよ」

俺がそう言うと、さっきまで暗かった顔が、パアァーッと明るくなる。

「そうですか、良かった」

「良かったって、何が?」

「いえ、何でもありません、もう、向こうで休んでいて良いでしょうか?」

「まぁ、別に良いけど」

俺がそう言うと、友達がいる方に向かって行った。

(一体何なんだ?)

俺はそう思いながら、休憩を続けた。

・・・30分が経ち、キリが良くなったので練習を再開する事にした。

しばらく時間が経ち、勝に

「そろそろ、個々に呼び出すぞ」

「おう、了解」

勝がそう言い、一年の季芳真(きよしま)、川村(かわむら) 、神乃(じんない)、

若林(わかばやし)、二年の米喜多(よねきた)、笈河(おいかわ)、紗軒(さのき)、

上郷(かみごう)の計7人の側を通り、小さい声でバラバラに更衣室に来るよう指示した。

俺はそのまま、更衣室へと向かった…。

しばらく経つと、勝も来た。

「さて、そろそろだな」

「ああ」

俺達がそう言うと、後輩達が間をおいて更衣室に入ってきた。

「さて、お前達を此処に呼んだのは、他でもない、来年の大会に出てもらう為だ」

後輩達は驚きの表情を見せる。

「それでだ、お前達の練習を見て一つ問題が出てきた。ん~、言うのもつまらないから

そうだ、紗軒答えられるか?」

俺が紗軒に質問をすると・・・

「え~、陰陽魔術の発動に時間がかかり過ぎる所ですか?」

「…お前、勘良さ過ぎ…」

俺はある意味でショックだった…。

「・・・まあ、そういう訳だ、お前達共通で言える事なんだ」

俺がそう言うと・・・

「そうすると、このメンバーではダメじゃないんでしょうか?」

2年の学年別リーダーがそう言う

「いや、そんな事はない、ひとつ良い手があってな、それが、エレメントカードだ」

「何ですかそれ?」

後輩達がそう言う

「な、お前達、エレメントカードを知らないのか!?」

「マジかよ…」

俺と、幸助は口を開けて驚いた。

「んーそうだな、簡単に言うとだな、発動に必要な素材と術式を詰め込んで、圧縮したカードだ」

俺がそう言うと後輩からこういう質問が出た。

「しかし、俺達には、それは無理なのではないでしょうか?

そこまでの技量はありませんし、先輩方が作って頂くとありがたいのですが…」

(・・・ん~、やはりこういう質問をする奴が出てきたか…)

俺はそう思いながら

「それは無理だ、何故かと言うと、エレメントカードを生成するのは、自分の魔力での

生成でなければいけない、そうじゃないと、魔力が逆流するか、

もしくは暴走するなど非常に危険だ。それと、エレメントカードの生成はそんなに難しくはない」

俺がそういうと後輩達は安心した顔をした。

「ならば、やりかたは教えてくれるのですよね」

「ああ、もちろんだ、だから、此処に呼んだんだ」

俺はそういって、一人一人に個人用のメニューを渡す。

「これは…?」

「ああ、今日から上手く周りに気付かれないように学校に残って欲しい。

まあ、それが無理なら保健室に行ってくれ、川上先生に言えば絶対にばれないよう

にしてくれるから」

「はい、分かりました」

俺は後輩にそう言った。

「今日はどうします?」

一人の後輩がそう言った。

「そうだなー、お!良い手があった」

勝はそう言うと、その良い提案を聞いてから、俺は部活に皆を戻した…。

そして、部活が終わる頃に大会に出るメンバーが時間を置いて、バラバラに失敗をする。

その度に勝は

「おい!!危ないぞ!…はぁー、なぁ幸助どうにかしてくれ!!」

と言う

「まあ、そう怒るなって」

そして最後のメンバーを勝が注意し終わったとき、俺は椅子から立った。

「はぁあー、仕方ないあんまこういうのは好まないんだが…

おーい、今、主将から注意された奴は、今日は居残って、練習!!

そうじゃないと、今年の大会には出れないからな!!分かったか!?」

俺がそう厳しく言うと、大会メンバーはため息をして返事をした…。

「よーし、終わるぞー」

俺はそう言って・・・

「さっき言われた奴等は、ここに集合!その他は帰って良いぞー」

俺がそう言うと、部員達が帰り始める。

出口のほうでは・・・

「あいつら、完全に大会に出れないな…」

と心配する奴や・・・

「バカだなー、大会前なのに失敗なんてして、ブッ、ハッハッハ…」

などと、面白そうに笑う奴などの声がした。

そして、他の奴らが帰ったのを見はらかって、大きな笑い声で笑った。

「はぁー、面白かった、それにしても勝るのあんな顔久しぶりに見たよー」

「そりゃ、最近怒鳴った事もないしなー」

「先輩達、演劇部でもやっていけるんじゃないですかー」

後輩がそう言う・・・

「そうか?」

「本当に普通でしたもん怒り方と、指導の仕方」

もう一人の後輩が言う・・・

「いやいや、お前達のかったるそーな顔こそ、普通だったよー」

俺たちは、その後数分の間、その事について笑っていた。

「それじゃあ、まず見本から見てもらおう、いきなり座学から入っても、面白くないしな」

俺はそう言うと、名詞程の大きさの厚紙を出した。

俺はその紙に魔術式を書く・・・

「先輩、これは何の魔術式ですか」

「秘密」

俺はそう言うと、片手をそのカードにかざす。

「我が汝の力にして汝の主、今此処に必要でない力を封印し、その封印を解く時、

その力が発動する事を誓う、封印!」

俺がそう言うと、カードが黄色の光を放ち始め、一瞬俺に触れ離れた。

そして必要な元素を取り込んだ光は、カードに吸い込まれていった。

「と、まあ、これが一連の工程だ。そして、これが俺が作ったカードだ。

カードにはこうして印が記される。

しかし、これは自分が指定するのでなく、術者に似合ったマークが付く

俺は昔からカードを生成すると、陰陽のマークに白い翼が生えたマークになっている」

俺はそれを後輩に渡す。

「綺麗なマークですねー、それでこれは何のカードですか?」

後輩が聞く

「ああ、カードのマークの下に書いている言葉が、そのカードの正体だ。

まあ、発動すれば分かる」

俺はそう言って、後輩からカードを返して貰い、床へと置く

「解除」

俺がそう言うと、そこには、その場全員分のお茶が出来ていた。

「これが、このカードの正体だ。まあ、飲みながら続きを説明するとしよう、ほら?」

俺はそう言って、後輩や勝に飲み物を渡す。

「お、サンキュ、こうなったら俺は…」

そう言って、俺と同じようにして、カードを出し手をかざす。

「我が汝の力にして汝の主、今此処に必要でない力を封印し、封印を解く時

その力が発動する事を誓う、封印!」

そう勝が言うと、同じようにエレメントカードが出来た。

「と、まあ俺も幸助と同じ感じのやり方だが、ほら、マークが違うだろ」

「ん?どれどれ」

俺はそう言って、勝からカードを見させて貰う、その瞬間、背筋が凍りついた・・・。

「こ、これは…」

俺は、勝に聞こえないよう小さい声で言った。

勝が作ったカードには、前島先生を瀕死に追いやった黒い翼が生えた赤い玉のマーク

そう、あの時の魔方陣のマークと同種のものが印されていた。

しかし、そのカードからは優しい魔力が出ていた。

(いや、まさか勝があんな事をするはずがない

自分の恩人の命を奪うような事をするような奴じゃない…)

俺は、信じたくない証拠を見て考え込んでいた。

「ん?どうした幸助?」

勝が不思議そうに見る。

「い、いやなんでもない、それよりこのカードは一体何だ?」

俺がそう言うと、勝がそれを取って

「まあ、見てろって」

勝はそういうと同じ様にして、カードを床に置く

「封印解除」

勝がそう言うと、床の上に器が出来ていて、その中には、せんべえが出来ていた…。

「でだ、このカードの生成は、意外と簡単なんだ。だが、発動するのが難しい」

俺はせんべいを食べ終えてからそう言うと

「おい、勝もう一回よろしく」

「ああ、分かった」

勝はそう言って、もう一枚のエレメントカードをポケットから出した。

「それじゃあ、やる前に俺が、お前の周りにシールドを張っとくから」

「おう、了解」

そう言って、勝は手をかざす、俺は勝の周りに、全方位型シールドを張る。

そして、勝が・・・

「封印…」

勝がそう言った瞬間、勝の携帯を鳴らした。勝は携帯によって集中力が一瞬切れてしまった。

その瞬間、エレメントカードが暴走し勝を襲う、しかし、その暴走は俺のシールドで防がれた。

「と、まあこんな感じだ。さっきみたいに集中力がきれるとこの有様だ。

つまり、作る事態はそんなに難しくはないが、カードを開放する際に相当な集中力が必要になる。

だから、今回の特別訓練メニューは、カードの生成方法を教えると共に、

集中力を鍛える訓練をする」

俺はそう言って、個々の特別訓練メニューを渡す。

「これが、個々のデーターから考えて出来た訓練メニューだ。

これを基本としてやるのでよろしく。じゃあ、始める」

俺はそう言って、まずカードの生成方法を教える。

「カードを生成できるようになるには、まず、自分の心が落ち着いてないと無理だ。

特に気が荒っぽい奴は要注意だ。まあ、一日もあれば出来る」

こうして俺達は、夜8時まで、訓練メニューをこなしていった…。

「よーし、終わるぞー」

「はい、分かりました」

後輩達は帰る準備をし始める。

「先輩!」

「のわぁあ!!??」

俺は驚きのあまり、飛び上がってしまった。後ろを向くと若林が立っていた。

「はぁあ、びっくりした」

俺は胸を押さえて若林を見る。

「す、すみません」

「で、何か用か?」

俺がそう言うと・・・

「どうして今回の大会に私が選ばれたのかが、不思議でしょうがないんです。

あれだけ大きい失敗をしたのに…」

若林は自信なさそうに下を向く

「良いだろう、何故若林を選んだか教えよう、それはな、俺から見て、

とても良い素質を持っていたからだ。それに、他の奴より数倍の努力をしている」

俺がそういうと若林が

「だけど、まだ力が発揮出来ていないんですよ、それなのに何故?」

若林が不安そうに言う・・・

「確かに今は、その力が開花していない、だから、今回この訓練で、その開花しない

花に水を上げようと思ってな、開花すれば、必ず綺麗な花が咲くと思ったのも、その理由の一つだ。現に、誰よりも早くエレメントカードの生成のこつをつかんだのは若林だよ」

「そういう事だったんですか、本当にありがとうございました」

若林の顔には再び力が漲っていた。

「おう、頑張れよ」

「はい!」

若林はそう言って、更衣室に行った。

「さて、俺も帰るか」

俺は帰る準備をして、部室を掃除してから帰った。

「ただいまー」

「お帰り」

月が顔を出してくれた。

「今日は、随分遅いね、何かあったの?」

月が興味心身で俺に聞く・・・

「秘密~」

俺がそう言うと

「教えてよー」

とねだってくる。

「無理だ、教えると身に関わる」

「んー、まぁ、しょうがないか、ご飯の支度出来ているよ」

月に連れられリビングに向かう・・・

「おー、美味そう」

俺がそう言うと、月が椅子に座る。

「それじゃあ、食べよう」

「おう、それじゃあ」

「いただきまーす」

俺と月は声を合わせて食べ始めた…。

「ふぅう、ご馳走様でした」

「ご馳走様でした」

俺と月は飯を食い終わり、リビングでゆっくりしていた。

「あれ?そういえば親父遅いな」

「叔父さん、電車が止まって、足止めになっているんだって」

「で、親父は今何処?」

「横浜だって」

「はあ、当分帰って来ないな」

俺はそう言って、自分の部屋に戻る。

「さてと、宿題を済まさないとな…」

俺はそう言って、数時間宿題をやった…。

「幸助君、おやすみー」

隣の部屋から月の声が聞こえた。

「おう、おやすみー」

(んー、俺も寝るか・・・)

俺はそう思ってベッドに入り眠りに就いた…。

「ふぁー」

俺は大きなあくびをして起きた。

「はあ、よく寝た」

俺はそう良い、ベッドを出る。

「さて、今日の支度をするか」

俺は必要な教科書をカバンに入れ、椅子に座った。

数分が経つと・・・

「おはよう、幸助君、ご飯だよ」

月が起こしに来てくれた。

「おう、今行く」

俺はそう言って、下へ降りる。

「おはよう、幸助」

親父が挨拶をする。

「おはよう」

俺はそう言って、椅子に座る。

「じゃあ、食べよう」

「いただきまーす」

三人の声が重なって、朝食を始めた…。

「ご馳走様でした」

朝食を終えた俺は、歯を磨き終え玄関へと行く・・・

「それじゃあ、行こう」

「おう」

俺は月の横に座る

「いってきまーす」

俺と月はそう言って、家を出た。

「いってらしゃーい」

後ろでは、親父の声がしていた…。

「…それでね、あと一歩で黒木先輩に勝てそうだったんだよ?」

「ほー、凄いじゃん」

「えへへ、そう言われると照れるなー」

そう言って、月は少し駆ける。

「おいおい、危ないぞ」

「うん!」

月が返事をし、交差点に差し掛かった瞬間!!

「パア―――――」

クラクションの音がして、横から、大きいトラックが飛び出てくる。

「え?」

月はそこから動けなくなってしまう

「馬鹿やろっ!!」

俺は月をかばうようにして、トラックの前に飛び出す。

「グギャアァァァァァ――――――――」

トラックのフルブレーキの音がした。

そして俺の手の中には、横たわる月の姿があった。

俺の意識は音が出てもおかしくないような勢いで、そこでブッツリと切れた。

まるで、今までの人生が消えてしまうように・・・・・・・・・・。


 
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