四、覚醒への兆候
「はぁはぁ」
そこに居た、一人の少年と俺が息を切らしている。
「は!」
俺は空中の少年の隙を見て矢を放つ、それと同時に、俺の矢を放つ一瞬の隙を見て、
目の前の少年が槍を放つ。
しかし、勝負は決まっていた。俺が放った矢は、少年の心臓に命中していた。
「がはぁ…」
少年は天を仰ぐ世に倒れた。勝負は決まり、守っていた少女に向きかえり、近寄っていく、
しかし!
「ドンッ!!」
周囲の空間だけが違う場所のように凍りつき、凄まじい衝撃が俺の体を貫いた。
「え?」
俺は目の前に自分の飛び散った臓器があったのを見て絶句し、そこに力なく跪く…。
俺は桜の木の上を見た。そこには、嘲笑する一人の少年が居た。
「くっくっく…」
人で言う白目は赤く、そして黒目は銀色をしいた。そして、背中には大きな黒い翼があった。
その、少年は笑い声と共に闇に溶け込んでいった。そして、俺は力なく横たえる。
「なんで、なんで?」
気が付くと、俺の横には一人の少女が居た。俺が張っていたシールドが、
俺の霊力の低下によって
シールドが敗れたのだろう。
「なんで…」
力なく泣きじゃくる少女は、あたりに、先程の少年が本当にいなくなったのを確認し
「―、平気?今、私が助けます」
と言って、俺の体に手をかざした。
「―やめろ…」
俺はその行為をやめる様に促すが、少女は涙を流しながら首を横に振る。
そして―が呪文を唱える
「我が汝の名において、治癒転換陰陽魔術を施し、―をこの者に、転移させる」
あたりに虹色の光が灯る。
「治癒転換陰陽魔術発動!」
―の声に合わせ陰陽魔術が発動する。そして、何かの衝撃と共に、俺の背中には大きく
綺麗な片羽が付いた。
そして、意識が薄れ行くなか目の前に狂うように咲き乱れる桜と、血の海、そして、
その血の海に片羽の少女が倒れていくのが見えた。そして、世界が暗転した…。
「う、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~」
ガバッ、俺は悲鳴を上げた
「はぁ、はぁ…うぅ!?」
俺は胃の中にとてつもない違和感を覚え、急いでトイレに入った。
「ゲホッ、ゲホッ」
俺は便器に顔を伏せ、胃の中の物を吐いてしまった。
「はぁ、はぁ」
(また、この夢か・・・、だけど、前回と比べ物にならないぐらいリアルだった・・・)
見覚えのない戦いの光景と、血にまみれた光景が何だったのかが分からなくて、混乱していた。
「しかし、休日で良かった」
そう、今日は土曜だ。これが平日だったら、絶対に学校には行けない…。
(最近、色々ゴタがあったせいかな?)
俺は時計を見る。
「七時か…」
俺は下に行き、水をコップに注ぎ飲み干した。
「ゴクッ、ゴクッ…、ふぅ…、よし、落ち着いた」
とりあえず冷静になろう。俺はそう思って、リビングの椅子に座った。
まず、あの光景だ、あそこに居たのは明らかに俺だ。
しかし、あのときの光景には、自分の背中に片方の翼が見えていた。
自分の体に翼なんてない、だいいち、人に翼が生えるなんて聞いた事ないし…。
次にあの少女だ、あの光景からして俺と同年齢であると思われる。
しかし、何であそこに居た?
「う~む…」
俺はとりあえずあの夢を『非現実的』として片付けた。
「はぁ…」
(あれ?そういえば今日、何かあったような…)
「やっば!今日部活だった!!」
俺は時計を見た。
「うわ、八時だ!」
俺は急いで、部活の準備をした。俺は大急ぎで家を出た。
「おい!幸助、乗れ!」
俺の行動に気が付いたのか、親父が車を回してくれていた。
「はぁ~、何で俺の人生って、こう、慌しいんだろう…」
俺は車内でため息をついていた。
「まあ、そう言うな」
俺の横で、親父が笑う。
「笑う事ないじゃねーかよ!」
俺が怒った顔で言うと
「分かった、分かった。ま、そう怒るなって」
親父がそう言った。気が付くと学校に到着していた。
「じゃ、ありがとうな」
俺はそう言って、車のドアを閉め部室へと急いだ。
「頑張れよー」
親父の声が聞こえた…。
「ふぅ、良かった。まだ誰も来てない」
俺は誰も居ないことを確認してから、更衣室で袴姿に着替えた。道場に戻り師範用の椅子に座って、部員を待った。
「おはようございまーす」
後輩たちが次から次へと道場に入ってきた。そして、他の部員に遅れて勝が道場に声を入れた。
「おはようございます」
勝が俺に向かって声をかけてきた。
「っぷ、はっはっは…」
俺はあまりにも礼儀正しい勝の態度を見て思わず笑ってしまった。
「勝、お前は俺と同学年なんだから、何もそんな礼儀正しなくっても」
俺は笑いながらそう言った。
「何も笑うことはねぇーだろ」
勝が怒りながら俺にそういった。
「さ~て、部活動を始めるか」
俺はそう言って、部員を集め、これから大会までの予定と前島先生が倒れているので、
その代わりに俺が臨時顧問を務める事について話した。
「…と言う訳だ、前島先生が居ない間宜しく頼む」
俺がそう言うと
「はい!」
と部員達が俺に向かって、礼儀正しく礼をした。
「それと、俺への接し方に関しては、後輩は普通の先輩と同じ対応で良い。
同学年の奴に関しては、普通に接して欲しい」
俺がそう言うと
「はい」
と普通の返事をしてくれた。
「では、一同壇に一列に並んで、座禅!」
俺がそう言うと部員達は座禅を組んだ。
「姿勢を正して、黙祷!」
俺は一時期の沈黙の中で、精神を集中させる。
「やめ、道場に向かって、礼!」
俺の凛とした声が道場に行き渡り、部員達は礼をする。
「やめ!活動開始!」
俺がそう言うと、一斉に全員が立ち上がって列になり、一人一人の射ち込みが始まった。
俺がこの部活でやる事は二つ、まず一つ目は、来年の大会の予選に出る選抜メンバーを選ぶ事、
二つ目は、自分の能力をさらに上げる事だ。
(しかし、来年の大会の予選に出る選抜メンバーを選ぶという重大な仕事を俺がやるんだ?
まぁ、前島先生の事だから何か考えがあるんだろう)
俺はそう思って、師範用の椅子に座り部員の様子を見ながら、
チェックシートに評価を付けていく。
「先輩、最近、どうしても具現化が上手くいかないんです」
とある後輩が俺に具現化について聞いてくる。
「うん、じゃあ、俺の目の前でやってみな」
俺がそう言うと、後輩は目の前でやり始めた。
「わが汝の名において、気体圧縮陰陽魔術を発動し、
空気中に存在する酸素を圧縮し弓と矢に変換する」
男子の声と共に、弓と矢が具現化する。
しかし・・・
「ブンッ」
奇妙な音を立てて、弓と矢は消滅した。なるほど、そういう事か、
俺はその症状が何だかが良く分かっていた。
俺はその後輩を連れて、自販機で飲み物を買った。
「ほら」
俺は後輩に買ってやった飲み物を渡す。
「あ、ありがとうございます」
後輩がそう言うと
「君、最近悩み事とかあるだろう」
俺はそう言った。
「何で分かったんですか?」
後輩は俺の質問に対して驚いたように言う。
「あの陰陽魔術を見れば分かるさ、具現化した物体がとても不安定だった。
その理由は、精神的な問題がある。それに、『発動』という掛け声を忘れている」
「あ、そうだった…」
後輩は思い出したように言う。
「それで、悩み事は何だ?」
「はい、来年の大会予選に出られるかが不安で…」
後輩は心配そうな顔を向ける。
「今からそんな心配していると本当に出れなくなるよ。
だから、今は自分の実力をさらに伸ばす事、気にしていたら具現化さえ出来ない」
俺は悩みを解決出来るように言った。
「はい、分かりました。もっと頑張ってみます」
そういって俺に向けた後輩の目には、再び強い意志が宿っていた。
俺はその後、道場に戻り自分も練習をした。
しかし・・・
「あのな~、俺は見せ物じゃないんだから俺の周りに集るな」
俺は泣く泣く周りの後輩や同年の部員に言った。
「そうですけど、本当に絵になるような魔弓の腕前なんですもん」
とある後輩が言った。
「そうは言われても、これでは、集中が出来ない」
すると、やっと分かってくれたのか、後輩と同学年の部員達は自分の位置に戻った…。
「うーむ、陰陽魔術の発動スピードをこれ以上上げるのは無理か、なにか良い方法はないかな~」
俺は一通りの練習を終えて、椅子に座っていた。
「どうした?」
勝が俺に対して聞いてきた。
「ああ、それだがな…」
俺は部員達の一通りの練習を見て、技の熟練度が高く、大会出場候補として目をつけていた
全ての生徒が、発動にかなりの時間を要している者が多い事に気が付いた。
そのことを一通り勝に説明した。
「…と言う訳だ」
「う~む、確かに困ったな」
勝と俺は考え込んでいた。
「あれ?そういえば、ルールには『エレメントカード』の使用は認められているのか?」
俺は勝に対して聞いてみた。
「認められているけど、それがどうかしたか?…あ、なるほど、そういうことか!」
俺は勝に対して頷いた。エレメントカードは、陰陽魔術と必要なエレメント(元素)を
圧縮してカード状にした物だ。
エレメントカードを使えば、『発動』と言うだけで技の発動が可能である。
しかし、エレメントカードを作るのは、使用者自身だ。
何故ならば、自身の魔力を注いだ物以外でやると、魔力同士が反発しあい
危険な目ににさらされる。
「問題は誰が使い、誰が出るかだな」
俺は後輩を見てそう思った。
「まあ、その辺は後でも考えれば良いじゃないか」
「そうだな」
俺は勝からの提案を受けることにした。
ようやく、すべての練習メニューが終わり部員達は道場の片付けをしていた。
(うーむ、問題は誰を大会に出すかだよな…)
確かにエレメントカードを生成出来たとしても、魔力が弱くてエレメントカードの
使用が出来ないかもしれない、ましてや、エレメントカードとしての役目を
果たさない可能性もある。
「勝はエレメントカードの生成の仕方は知っているのか?」
「ああ、知っている。生成は出来るけどそれがどうかしたのか?」
勝はそう言った。
「ああ、今、技の熟練度が高い奴にカードの生成方法を教えて欲しいんだ」
「やっぱ、そうきたか…」
勝は一時の沈黙の後
「しょうがねえ、やってみるか」
「本当か!?ありがとう、じゃあ俺が担当するのは、一年の季芳真(きよしま)、川村(かわむら)と、二年の米喜多(よねきた)、笈河(おいかわ)の4人。
そしてお前が担当するのは、一年神乃(じんない)、二年紗軒(さのき)、上郷(かみごう)の
三人を宜しく頼む」
「了解」
その後、俺の声と共に部活が終了し、俺は家路に着いた。
「さてと、個々専用のメニューを作成するか」
俺はパソコンを使って、個々の特別メニューの作成に取り掛かった。
(…あれ?部活動以外で教えるのは良いが、場所はどうするんだろう?)
早速、勝に電話をした。
「もしもし、勝君はいらっしゃいますか?」
「俺だけど、どうした?」
「ああ、道場は何時まで開いているんだ?」
俺は場所を考えた結果、やはり、道場が良いと考えた。
道場が離れとして存在しているし、他の場所では部外者に見られる可能性があるからだ。
「道場は、夜八時までなら開いてる。それがどうかしたか?」
「うん、特別メニューの練習場所を道場にしようと思ったんだ」
俺がそう言うと、勝は間を空けて言った。
「まあ、確かに場所がないならしょうがないよな、しかし、晩飯とかはどうする?」
勝はそう言った。そうだな、どうしようか?
「しょうがない、校長に頼んでみるか」
「校長に頼むのかよ?」
「うむ、この前、とあることで俺に迷惑をかけたみたいな顔をしていたから、
そこを上手く使ってな」
「お前って、結構悪だな」
「まあ、そう言うなって、そういう事だから宜しく」
「おう、それじゃあ」
「おやすみ~」
俺はそう言って電話を切った。それから数時間たち、ようやく全員のメニューが完成した。
「はあ~、出来た」
俺は印刷し終えた紙をクリアファイルにはさみカバンに入れた。
「さて、そろそろ眠くなってきたし、寝るか」
俺はPCの電源を切ってベットに入り、眠りに就いた…。
ゴンッ!!
「痛って―――」
翌朝、俺はけたたましい声を上げて起きた。起きて周りを見ると大きい本が落ちていた。
「何か落ちてきたかと思えば、これか原因は…」
俺はその本を手に取った。
(何だ?この本見たことないぞ・・・)
多分俺の物ではないな、引越しの時に親父の荷物が紛れ込んだんだろう。
それに気が付かず俺が一番上の本棚に入れたのか・・・
「しかし、随分古い本だな」
俺は題を見た。
「あれ?題名がない」
本の表紙には題名が書かれていなかった。俺はその本を開いてみた。
明らかに常人には到底理解が出来ない言葉が、そこにはずらりと書かれていた。
だが、俺には読めた。
『紗云琥鼎(シャンクーティー)』という文字だ。この文字は陰陽魔術によく引用される
言葉でもある。
(ふむ、読んで見るか・・・)
俺はそう思い部活の予定がない事を確認し、その本を呼んで見る事にした…。
ゆうに五時間が経ち俺はその本を読み終えた。
そして、俺は学校の道場に向かう事にした。
「はぁ、よりによって雨かよ」
外に出てみると雨が降っていた。まあ、良いか道場は室内だし、俺はそう思って
「わが汝の名におき、シールド陰陽魔術を発動する」
すると俺の周りには、うっすらと楕円状のシールドが張られた。ちなみに、雨等の天災のときに、
自分に対して使用するのは、暗黙の了解と言う事で、法律には引っ掛からない。
「本当、都合よく出来ているよな~、国の法律なんて・・・」
俺はそんな事を言いながら、道場に向かった…。
道場に到着し荷物を置き、早速試す事にした。
俺は壇に上がり的を見据えた。
そして、手を空中にかざして目を閉じ自分が今必要なものを想像して、
集中力を冴えさせて目を開ける。
すると、何もなかった俺の手には弓、体の表面にはシールド陰陽魔術によって出来た
防具が現れていた。
俺は、具現化された弓を構え、目の前の的を見る。
そして放つ体制になった時に、矢が具現化された。
矢を放つ、矢が離れた瞬間に
「散れ」
俺がそう一言言うと、矢が分散し道場にあった的にすべて当たっていた。
しかし、この手の陰陽魔術を使うのは初めてなので、すべてがど真ん中に入った訳ではなかった…。
俺がここに来た理由は一つ、ある一定の条件を満たすことで、魔術師は『呪文』を唱える事無く、
陰陽魔術が出来るという事を試しに来たのだ。
この事は、あの謎の陰陽魔術の本に書いてあったのだ。
そして、ある一定の条件とは陰陽魔術の力量だ。先程のような陰陽魔術を使えるのは、
『大きな陰陽魔術を使っても、体力・精神共に安定する事ができる』と言うのが条件だ。
そして俺は、すでにその一定の力量を満たしていた。
只、今までこの事を知らなかったので使えなかったのだ。
なりより驚いたのは自分だった。
「唱えなくって、良いんだ・・・」
俺は自分がやった事に関して、自分で感心していた…。
何度か試し射ちをし、気が付くと昼飯の時間になっていた。
そういえば、あの本を読んでこの事を試さずに居られずに、飯も食わずにここに来たんだっけ…。
俺はとりあえず道場の片付けをし、食堂へと向かった…。
ん?月がいる…。食堂できつねうどんを買った俺は、月を見つけた。
「わ!」
「きゃ!…、幸助君何するの!?」
月は物凄い顔で俺の事を見る。
「いや、たまたま見かけたから、驚かしただけ」
「ひどいよ!」
「分かったよ、ごめんね」
「うん」
月が許してくれたので、前に座った。
「あれ?そう言えば、他の部員さんは?」
「ん?いや、一人で部活の練習に来ていたんだ」
「どうして?」
「色々試したい事もあってね」
俺はそう言って
「月こそ、ここに何しに来てたんだ?」
今度は俺が同じ質問をした。
「ん?私も部活に来ていて、今は休み時間。後で来てくれない?」
「ああ、良いよ」
俺は予定を変更する事にした…。
「お待たせ!」
昼食を終えた俺と月は練習場にいた。
「似合っているなー」
俺の目の前には防具を身に付け、髪を後ろで結って、立っている月が居た。
「そんな事ないよ。じゃあ、やってくるね」
「おう」
そう言い、月は頭に頭巾をし、面をつけ試合場へと足を入れる。
それと、同時に同級生ぐらいの男の子が入ってくる。
お互いに礼を交わして、月が開始線まで3歩で進み、三歩目に入ると止まった。
同時に竹刀を抜き、蹲踞の体勢に入る。
そして!
「始め!」
審判の声と共に、月と男子は同時に立ち上がった…。
「め―――ん」
月の声が凛と道場にわたる。
その後、月と男子の攻防は続き、月は見事に男子に勝った。
「ふぅー、終わった」
月はそう言いながら、面を外し俺の所に来た。
「お疲れー、凄いな月は」
俺はそう言って月を迎えた。
「そんな事ないよ、私より強い人もいるんだから」
すると、月は道場の端の試合場を見て
「ほら、あそこの先輩!」
そう言われてそこに目をやる。そこには、黒髪の艶やかさが印象的な綺麗な女性が居た。
「あの先輩は黒木 薫(くろき かおる)先輩、私の尊敬する先輩であって、
一回でいいから勝ちたい人」
「ほー」
すると、先輩は試合場で試合を開始した。
「始め!」
その声がかかった瞬間!先輩の竹刀は相手の竹刀を受け流し
「突き!」
見事、相手を倒した。
「早っ!!」
俺が感心していると
「先輩―」
月がその先輩を呼んだ。
「あら、月ちゃんじゃない、どう調子は?」
「先輩のおかげで、良い感じになってきました!」
「なら、よかったわ。あら、そちらの方は?月ちゃんの彼氏?」
「ち、違いますよ!私の幼馴染で、桜木 幸助君です」
俺は紹介に合わせて、頭を下げた。
「ああ、あなたが、弓道部に突如現れたエースと言われている男子だよね」
先輩がそういう
(俺はそんな風に周りから見られていたのか?・・・まあ、良いか)
「はぁ、まあ、そうだと思いますが」
俺がそう言うと
「一回で良いから、あなたの矢を射る姿が見たかったの、お願いできるかしら?」
黒木先輩は綺麗な笑顔で、俺の事を見てきた。
「・・・・」
「?どうしたの幸助君?」
月の声にッハとする。
「い、良いですけど・・・」
(イカン、イカン・・・、あまりの綺麗さに少々見入ってしまった・・・)
動揺した俺を不思議そうに月が見る。
「じゃあ、行きましょう」
月と先輩と共に道場に向かった。
弓道や、剣道部などの運動部は、大きい建設物の中に、それぞれの道場や、部室を所有している。
その中で、弓道部と剣道部は更衣室をはさんで設置されている。
そんな訳で、すぐに行けるのだ。
「では、やります」
俺はそう言って壇に上がり的を見据えた。
そして、手を空中にかざして目を閉じ、自分が今必要なものを想像して、
集中力を冴えさせて目を開ける。
「ポゥ…」
辺りに綺麗な青い光が漂う。
すると、何もなかった俺の手には弓、体の表面にはシールド陰陽魔術によって出来た
防具が現れていた。
「凄い…」
黒木先輩と月は驚きながら目を輝かし、俺の事を見ている。
俺は具現化された弓を構え、目の前の的を見る。
そして放つ体制になった時に矢が具現化された。
俺は矢を放つ、矢が離れた瞬間に
「散れ」
俺がそう一言言うのを合図に矢が分散した。
「ズドンッ!!!」
辺りに砂埃が立ちこめ、砂埃が消えると、すべての矢が、ど真ん中に当たっていた。
「こんな感じですけど、良いでしょうか?」
「ええ、本当に噂どおりの凄い魔弓だわ」
「そうですか?」
「もっと、自分に自信を持ちなさい、それだけ、凄い才能があるんだから」
「はぁ…」
俺は唖然としていた。
「でも、なんで桜木君は呪文を唱えなくっても、陰陽魔術を発動できるの?」
黒木先輩が俺の事を見てそういった。
「ああ、ある本で読んで…」
「桜木君、あまりその陰陽魔術を使ってはダメよ」
黒木先輩が真剣な顔でそう言った。
「何故ですか?」
「見たところ、その陰陽魔術は体力を相当消耗するし、寿命も縮める可能性があるからよ」
「なるべく気をつけます」
俺はそう言った。
その後、月と先輩を送り道場へと戻った。そして椅子に座る。
「おかしいなあ」
そう、先程言った先輩の忠告と正反対に体はピンシャンしている。
これといって、体にも異常は見られないし…。
「ん?」
壇の上に何か落ちている…。近づいて行くとそれは、とても綺麗な羽根だった。
「暖かい…」
まだ落ちて間もない証拠だ。
「室内だというのに何故?」
そう、ここはただでさえ室内だ、鳥が入って来る訳がない。
だと言うのに、この羽根は落ちて間もない…。
「まあ、いいか」
俺はそう思ってポケットに羽根を入れた…。
さてと、やる事はやったし、これからどうしよう。
色々考えていると、ある事を忘れていることに気付いた。
俺は部室を閉め、再び剣道部へと向かった。その時!
「きゃあぁぁぁぁ~~」
悲鳴のようなものが聞こえた。
慌てて、剣道部の部室に急ぐ、すると校門側に逃げる何者かの影が見えた。
ドアから入ると、人だかりが出来ていた。
「どうした!?」
俺が質問をすると、生徒達が振り向く、そこにはぐったりと倒れている黒木先輩が居た。
「先輩!」
俺が先輩に近寄って行く
「あ、幸助君!」
「何があった?」
「その、黒木先輩が上から突き落とされたの…」
「何だって!?」
俺は先輩を仰向けにする。先輩の体に手をかざし陰陽魔術を発動させる。
「ポゥ…」
俺の手は淡い青色の光を放つ、そして俺は、先輩の体を隅から隅まで診察した。
「…ふむ、気を失ってるだけみたいだ」
俺は陰陽魔術を止め、そう言った。
「良かった…」
月と、周りの生徒は安堵のため息を付く。
「ま、とりあえず保健室に連れて行くんだな」
俺は後輩に担架を持ってくるよう指示をした。
「黒木さん!!」
観里姉は、担架を持った生徒達と一緒に来た。
「幸助君、黒木さんは大丈夫なの?」
「ああ、平気だよ」
そう言って、生徒達と共に黒木先輩を運んだ…。
「ふぅ…」
俺と運ぶのを手伝ってくれた後輩と、観里姉がため息をつく
「ちょっと、ここで待ってろ」
俺は後輩にそう言った。俺は自販で飲み物を4本買った。
保健室に戻り飲み物を後輩に差し出す
「ほれ」
「あ、ありがとうございます」
後輩はそれを取った。
「観里姉」
俺はそう言って、観里姉にジュースを渡す。
「ありがとう」
「ここに、冷蔵庫ってあるか?」
「ええ、あるわよ」
「じゃあ、飲み物冷やさせてもらうぞ」
俺はそういって、スポーツドリンクを冷蔵庫に入れた。
「さて、何があったか、詳しく教えてくれ」
「はい、俺達が練習していた時に先輩方は上の観客席から、自分達の打ち合い方の
修正点を見ていました。その時、黒木先輩の悲鳴が聞こえて、先輩が上の階から落ちたんです」
「自分で落ちたのか?」
「いいえ、俺は誰かが、黒木先輩の事を押したのを見ました」
「顔は?」
「いいえ、影に入っていたんで分かりませんでした。すみません」
「なに、誤ることはない」
俺はそう言って、先輩の方を見る。いったい誰がそんな事を…。
「後は、私に任せて良いから、上田君も桜木君も帰りなさい」
観里姉はそう言った。
「いや、俺はここに残ります。一回落した人間が、黒木先輩が無事だと知ったら、
間違いなく襲いに来るでしょうし」
「…分かったわ、上田君ありがとうね」
「はい、それでは失礼します」
上田はそう言って、保健室を出て行った。
「…あ、そうだ観里姉、保健委員やるから宜しく」
「え、何よ急に?」
「いや、俺のこの能力があれば、ほぼ医者要らずだろ、校則違反じゃあないし」
「まあ、考えておくわ、私一人で決めるわけにも行かないし」
ガラ!
そこに月が入ってきた。
「幸助君、先輩は?」
「ベットで寝ているよ」
俺がそう言うと月がそこに崩れた。
「お、おい!月平気か!?」
「うん、平気、ただ安心しただけ」
「ここで少し待ってろ」
俺はそう言うと、月に椅子に座るように言った。
「ありがとう」
俺は月が椅子に座るのを見てから、保健室を出て自販でジュースを買ってきた。
「ほら、飲めよ」
「あ、ありがとう」
月に飲み物を渡し、俺は座り飲み物を飲み始めた…。一時間が過ぎた頃だった。
「ぅうん?」
黒木先輩の声が聞こえた。
「気分はどう?」
観里姉が黒木先輩に聞く
「私、一体?」
「道場の上の階から落ちてここに運ばれてきたの」
「そうですか…」
俺は、黒木先輩と観里姉の会話を聞きながら、冷蔵庫に入っていた飲み物を取り
「ほら、先輩に持って行ってやれよ、俺よか、お前から貰ったほうが喜ぶだろう」
そう言って、月に飲み物を渡した。
「あ、ありがとう」
月は俺から飲み物を受け取ると、先輩の方へ行った…。
しかし、何故先輩が落されたんだ?
人に恨まれるような先輩じゃあないし、それどころかとても良い先輩だ。
外部の人間の可能性が高いかもしれない
「もしかして…」
俺はある事を思い出し、校長室へと向かった。
「失礼します」
俺はそう言い、ドアを開けた。
「どうしたのかね、桜木君」
俺に問いただしたのは、校長だった。
「うちの学校には、監視カメラが設置されていましたよね?」
「ああ、設置はされているぞ」
「失礼ですが、部活動集合設備棟の正門の映像を見せていただけませんか?」
「まあ、君なら良かろう」
校長はそう言って、俺を監視室に連れて行った…。
「これです」
そう言って、警備の方が俺にテープを渡して来た。
ガシャ…
「さて、正体を現してもらおうか」
俺はそう言って、目撃情報や、俺が見かけた時間帯の直後にテープを送る。
そして・・・
「あった!」
俺の目の前の映像には、正門から駆けて出てくる一人の男がいた。
見る限りだと年齢は俺らと同じくらいか、少し年上って感じかな?
まあ、本校指定の制服と体操服ではない事から考えると、うちの生徒ではないな。
「…どうも、一応確認したいところが終わったので、ありがとうございました」
「ふむ、なら良い」
俺は校長先生と警備の方に挨拶をし、そこを後にした…。
「ただいま、どうですか黒木先輩?」
「あ、桜木君。おかげで、だいぶ平気になったわ」
黒木先輩はそう言って微笑む
「なら、良かったです」
「あ、そうだった、月!委員会への入会届けあるか?」
俺は月に聞いた。
「え?あ、あるよ」
月はそう言って、自分のカバンから入会届けを出した。
「よし、ありがとう月」
「どういたしまして」
俺は月から受け取った、入会届けをカバンに入れた。
「それじゃ、俺はこれで帰る」
「うん、じゃあね幸助君」
「さよなら、桜木君」
「じゃあね、幸助君」
俺はこうして学校を後にした。
家に着いた俺は、制服から私服に着替え、コーヒーを入れ部屋に戻った。
「さてと、入会届けを書くか」
俺はそう言って、入会届けを書いた…。
(よし、これでОK)
出来た会員届けをカバンに入れる。
これで忘れ物は…おお、そうだった。
俺は机の本棚から特別訓練メニューが入ったクリアファイルを出し、それをカバンに入れた。
「さて、明日の準備も出来たし、飯にするか」
俺はそう言って、部屋を出て階段を下りようとした…。
「わっ!」
「うぁ!」
俺は、何者かに後ろからいきなり驚かさせられ
「うぁぁぁぁぁぁ…」
見事に足を滑らせ階段を一直線に落ちた。
「あ痛てて・・」
「ご、ごめん幸助君!そんなに驚くとは思っていなかったから…」
驚かした本人事、月が俺に駆け寄る。
「い、いきなり、驚かせるなよ…、痛てて・・・」
「ご、ごめん」
月が心から謝っている事が分かったので、これ以上、攻めるのはやめた。
「で、何でこんな時間に俺の家にいるんだ?」
俺が月にそう質問をすると、親父から返事があった。
「月の母親が実家の急用で、俺の家で預かる事になったんだ」
「なんだって!?」
俺は相当な驚きの声を上げた。
「まあ、そういう事だからよろしくね、幸助君」
「よろしくねって、お前が一日中ここの家にいるのか!?」
「いいじゃないか、幸助。俺としては、あそこの母親との利害一致で、こうなったんだからよ」
いや、なんだよ、その利害の一致って!?
「はぁ…、というより月の部屋はどうするんだよ」
俺は親父に恐る恐る聞いた。
「お前の部屋の隣」
「はぁ?」
何だよ!?この急な展開は…。
「幸助君、ご飯出来たよー」
月の声が下から聞こえた。
…あの後、俺は一回冷静になり、親父から詳しい話しを聞いた。
親父によると、月の母親の親父さんが急な病気で倒れたのだ。それも、長期的な治療が出来ない
病気らしい、少しずつの治療が必要なため、一日中誰かが付いて看病を必要とするのだ。
そのため、実家の人手が足りなくなると困るので、月の母親を呼んだらしい。その話の中で
『なら、月も行けば、人手が増えるのでは?』
と俺が質問をすると、月は祖父に会ったことがないらしく、いきなりあわせたら両者に
負担を掛けるのでやめたらしい。
それに、月には高校もあるからと、実家には連れて行かなかったという訳だ。
そして、俺の家に下宿する事になったのは、まず、月の家がお向かいだと言う事と、
俺の家に料理をまともに出来る者がいない事だった。
それが、月の母親と、俺の親父の利害一致だったのだ…。
「いただきまーす」
俺と親父、そして、月は夕飯を食べ始めた。
「うん、上手い!料理上手になったんだな、月ちゃんは~」
親父がモグモグと料理を美味そうに食う。
「そんな事ないですよ~」
「幸助がこういう嫁を貰ってくると良いんだがな~」
「ぶぅぅぅ―――――」
俺は味噌汁を噴出してしまった。
「じょ、冗談言うなよ親父!」
俺はテーブルと服を拭きながら言った。
「ハッハッハ、この位の冗談で怯むなんて、幸助もまだまだ子供だなー」
俺は親父にそう笑われた…。
「で、荷物とか、どうするんだ?」
俺は月に当たり前のような質問をする。
「うーん、布団とか、色々あるけど私一人じゃ運べないし…」
月は困ったような顔をしている。
「仕方ない、俺が運んでやるよ」
「え、本当に良いの?」
「ああ、だけどやるのは明日な」
「うん、分かった」
月は嬉しそうに返事をしてくれた。
ガチャ…
こうして、飯を食い終わり風呂から出てきた俺は、ようやく眠りにつけた…。
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ども~、小説の続きです~
ご興味ある方は是非読んでください~