No.907917

真祖といちゃいちゃ 2-1

oltainさん

2017-05-30 16:28:02 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:478   閲覧ユーザー数:477

マドカさんは、甘くて大きなトマトを作ろうと畑に種を蒔いて育てました。

そうすると、一つの大きなトマトができました。

「うんとこしょ、どっこいしょ」

マドカさんはトマトを収穫しようとしましたが、大きすぎて一人では獲れません。

 

「……何ですか、そのおとぎ話」

俺の隣で語り続ける、胸のおおきなかぶ――きりひめさん。

いつもの縁側で、真祖と俺と三人揃ってまったりと過ごしている。

「うふふ」

彼女は何も言わずに笑っている。

 

なお、半分くらいはおとぎ話ではなく実際に俺が種を蒔いて収穫したものだ。

そのトマトは傍らの水桶に浸っており、雑談の間に口へと放り込まれている。味、大きさともに申し分ない出来具合だ。

「食べないんですか?」

かぶきりひめに勧めたが、彼女は黙って首を振った。種を持ってきたのも彼女である。

「私は、お茶があればいいからね。そのコにあげて」

 

そう言って、俺の膝に視線をやると、そこには小さくなった真祖が鎮座している。

「ほれ、たんとおあがり」

トマトを一つ渡してやると、そのままむしゃむしゃと齧り付いていく。

自分の体並のそれを器用に食べていく様は、見ていてどこか微笑ましくて、こっちまでつい頬が緩んでしまう。

「可愛いわねぇ」

「俺もそう思います」

「そうじゃなくて、マドカさんがよー」

「え、えっ?」

そういいながら、かぶきりひめは屈託なく笑った。

俺は妙な気恥ずかしさを覚えて、視線を膝の上の小動物へと戻した。

 

かぶきりひめは、師匠の式姫である。

無邪気、という言葉がふさわしく、よく表情がコロコロ変わる。とはいえ、大抵は笑っているが。

変化の術が得意で、師匠が騙されているのを何度か見かけた事がある。あと、お茶が好き。

彼女について言えるのは、それ位だ。まともに会話した事など一、二回しかない。

 

傍目に見ていても可愛いし、トマトのように大きな胸には俺でなくとも年頃の男ならば誰でも惹きつけられるだろう。

が、彼女は幽霊かと思える程に気配が掴めない。

角を曲がったところを追いかけると忽然と消えていたり、すれ違ったかと思ったら何故か目的地に先回りしていたり。例を挙げるとキリがない。

一度だけ、かぶきりひめについて師匠に尋ねた事があったが

「あの胸はいいよなぁ、お前もそう思うだろ?だからって下手に追いかけまわすんじゃないぞ」

の一言で終わってしまった。胸の事については、俺も同意見である。

 

俺は、彼女の寝所へ夜這いを仕掛ける師匠を思い浮かべてみた。

あながち、師匠ならそういう事をしでかしてもおかしくないだろう。

しかし成功した試しはない。それが後半の忠告へと繋がっているのだ。

 

代わりに他の式姫へと夜這いを仕掛ける師匠――いや、止めておこう。

穏やかな陽の差すこの風景に、そんな下衆な妄想は似合わない。ちなみに実物の師匠は、遠征中である。

「んー?どうかしたの?」

かぶきりひめが、こちらを覗き込んできた。

「い、いや別に」

俺はなんでもない風を装って、水桶の中のトマトへと手を伸ばした。

そのまま口へと持っていこうとしたが、ふと思いなおして既に食い終えた膝の上の真祖へと持っていった。

 

簡単にまとめると、お茶が好きで胸が大きくて変化が得意な式姫。

それがかぶきりひめだ。

 

話題をトマトに戻そう。

かぶきりひめがたまたま修行の帰りに持ってきてくれたものが、今真祖の食べているとまとの種だ。

植えてみたらと言われたので、試しにそうしてみたら一日も経たぬうちに実が成ってしまった。

俺の知っている常識に照らし合わせると、これは普通の野菜ではない。

では毒味を兼ねて一つ口へ放り込んでみると、これがなかなか悪くない味だという事で、こうして

おやつ代わりに頬ばっている所から今回の物語は始まっている。

 

ぺちぺちと膝の上の真祖が催促したので、俺はまた水桶へと手を伸ばした。

どうやら彼女は気に入ったようだ。師匠から真祖の食い扶持はお前がもてと言われていたが、これでしばらくはなんとかなりそうだ。

 

「かぶきりひめさんって、変化上手ですよね」

彼女と話す機会は滅多にないので、とりあえず差し障りのない方向から切りだしてみた。

「ふふ、ありがとう。でもね、変化の術なんて誰でも出来るのよ」

予想外の返答に俺は一瞬詰まったが、それでもなんとか切り返す。

「いやいや、俺には変化なんて出来ませんから」

生身の人間には、特別な術でも使わない限り変化など不可能だ。

俺がそういった技量や知識を備えていない事を、かぶきりひめが知らぬはずはない。

 

「何言ってるのよ。今のマドカさんがそうじゃない」

そう言って、かぶきりひめは膝の上のお茶を口元へと運んだ。

意味が分からない。俺が一体何をしたというのだろう。

 

当惑して言葉を失った俺をよそに、かぶきりひめの言葉は続く。

「人はね、誰かとお話する時は無意識のうちに変化しちゃうのよ。人だけじゃなく、私達もね」

少しの間、その意味を考えてみたが、やはり分からない。

「んー、もう少し分かりやすくお願いします」

「そうねぇ、例えば今こうやって私と話しているマドカさん。そこの膝の上のすずちゃんと話している時のマドカさん。口調や態度は違うでしょ?」

すずちゃんとは、俺が真祖に付けてあげたスズシロの渾名である。

相手によって態度を変えるのはごく自然な事だろう。例え同じ相手であれど、話し手の機嫌などによっても接し方は変わる。

「まぁ、そうですけど」

それを変化と呼ぶのはいささか奇妙な感じがしたが、俺はとりあえず納得した。

 

「ところで、マドカさん」

「何でしょうか?」

今度は彼女の方から切りだしてきたので、俺はなるべく愛想よく、彼女の方へ振り向いた。

「私の胸、気になる?」

 

少し困ったような表情で問いかけられ、俺は愛想の良い表情のままピシリと固まった。

 

「えー、あー……」

俺が会話の合間にチラチラ見ていた事を見抜いていたらしい。

返答に詰まっていると、ずいっとかぶきりひめが身を乗り出してきた。

 

「ね、どうなの?んー?」


 
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